いつかは必ず別れるのだとしても
それは今ではなかったし、頭に「どうせ」をつけることもない.
しんこうべに帰還し、どこかに短時間寄った後の綾波レイの行動はまさに疾風迅雷。
答えなどあるはずない、古臭い騎士物語のような探索行で疲弊しきって現実を思い知ったはずの、後継者の目は。その姿、後姿、語る言葉の気合と熱が、我儘な欲望を叶えさせた。
綾波党、党首ナダが危篤状態から持ち直し、党首業務を執るまでに回復した。
それはただ命をヨボヨボと長らえたことを意味しない。綾波党の党首はしんこうべを統制し仕切る者。それだけの威厳と格と、力がなければ。内と外とをまとめなければ。
12時間を超える党首復活術式(名目の責任者は綾波レイだが、執刀は綾波キチローが行った)直後に、しんこうべを吹き荒れた嵐が、蠢動だの策謀だのを全て吹き飛ばした。
その瞳が赤いうちは、異能の猛者どもをまとめて導く綾波の赤瞳は未だ健在、戦争を仕掛けるには帳尻が合わない。その「嵐」の中で何が起こったのか、詳しくは地元民しか知らないが、「綾波党主に刃向かえば、(リアルに)吹っ飛ばされ(大事なものが)吹き消される」・・・その事実を内外に知らしめた。ダークサイド系手際は孫娘の遠く及ぶところではない。威圧恫喝事後処理、「裏綾波」暗部人材の手綱の引き方など、党首就任はまだまだ早すぎる。孫娘もこれから忙しくなるのだろうし・・・
「もう少しこの因業ババアが面倒みないとならないだろうね」
ひととおりのカタをつけた後、綾波ナダは院長室でふたつのモニターに話しかける。
「そうだな・・・同意するよ。我々の診察もしてもらわねばならぬしな・・・」
「まーね、もう少し付き合うわよ。どっかの桃園の誓いじゃあるまいし、三人同時にくたばらなきゃならないわけじゃないけど、今さら他の医者に診てもらいたくないしねー」
二ェ・ナザレと赤木ナオミ。寝台の上ではあるが、それぞれ半身を起こしていた。
一番先に脱落すると思っていたのが、奈落ギリギリで回復して以前のように仕事までしている様を見せられると、大人しく寝ていられない。双方ともに精神力は人類歴史上でもトップ・オブ・トップクラスに強いのもあるが。負けず嫌いや見栄も重要ファクターかもしれないが、綾波ナダのカルテに記載されることはない。ナダ自身、奇妙な縁でもこの会話時間を楽しみにすらしていた。長くは続くまいとは思うが、なるたけ続けたい。というか、観察を怠っていいタマではない。表舞台から退こうと、どちらも影響力が巨大すぎる。
所詮は一国、地方レベルの自分と比べると、巨星墜つ、ではすむまいし。趣味半分、業務半分、というところだが、これもどいつに引き継がせたものか・・・まさしく3人同時刻にいなくなれば簡単なんだが・・・どういうわけだが回復してるのが不気味だしねえ
「お主に言われたくはない」
「アンタに言われたかない」
内心も正確無比に読んでくる。これじゃ娑婆にいた頃は苦労ばかりだっただろうにね。
「それにしても・・・その中に、人造人間が作った心臓が入ってる・・・とかねえ・・そっちの技術は専門外なんだけど・・・”どうやって作ったかさっぱりわからないんだけど”・・・ちゃんと動いてるみたいね」
「少なくとも制式型にそんな機能はない・・・使い手の優秀さか・・・実験機からのデータ転用があったのか・・・興味はあるが・・・」
「ふん。うちの孫がこれ以上なく気合を込めて作ったんだ。合わないはずがあるまいよ」
胸を張るが、綾波ナダにしてもこの心臓がどうやって作られたのか、一応説明は受けたのだが分からない。作った張本人、孫娘のレイにしてもエヴァ零号機なる一つ目の巨人に”これこれこういう機能をもったモノを作ってくれ”と頼んでできた、というのだから。
むろん。もう少し恰好のついた説明ではあったが、根っこの結論としてはそれだ。
ブラックボックス、というか、この世にひとつだけしかないものしかつくれない、自然物はどれもそうだが、大量生産物へのアンチテーゼとか高尚なテーマを掲げたゆえではなく、巨人が愛する乗り手の願いに応じて、「生み出した」、というあたりか。ファンタジーだねえ。アダムの妻はエヴァ、その名を考えると神話というべきか。舶来ものはいいけれど
とても普通の患者に使えるもんじゃないし、孫が作ったんじゃなければ自分だってごめんだ。人間改造だの人体実験だの言われることは慣れているからいいものの・・・ただ
土台になっているものは、夢どころか泥臭く汗まみれ血塗れ涙鼻水だらけの努力の集積。
心臓の形を組み上げる程度ならば機械のプリンターがやってくれるご時世だが、異能の圧に耐えるもの、なんて規格外はAIにも理解できまい。時の風にさらされて初めて成立する素材やら技術やらも多い。遠き地で半分埋もれ眠っているそれらを掘り出してきたのは
あの子。
いやまあ、段取り的には部下にやらす仕事であるけど、若者だしね、そこは。
機能指定の緻密度正確性は言うまでもない。素材再現のための参照素材、実物を大量に収集せねばならぬのもある。その上で、人の希望を正しく汲み取る、というのは神にも悪魔にもできぬ(やらぬ)仕業であろうし、あの巨人は超高性能な化学工場を腹の中に宿しており、でかい頭に相応な膨大かつ深遠なデータを記憶し適用応用する・・・・・宇宙旅行でもしだす時代にでもなっていればごく当たり前のテクノロジーなのかもしれないが、現時点では奇跡のシロモノだ。ただ、いくら高性能でも一個人にしか適合しない臓器など、h非効率不合理の極み。商売というか、そのために稼働させてよいものかどうか、ということも考えはしたのだが。
そもそもあの巨人、怪物だか怪獣とかと戦うのが仕事だろ?こんな副業いいのかね?
ネルフから高額請求がくるのではないか?超法外なやつ。と思っていたら
「良くなって早々に悪いけど・・・・これを」
なんと孫から請求書がきた。しかもその額は、ひさびさに目の玉が飛び出るかと。
顔には出さなかったけど、心臓にもだいぶショックきたよ・・・
自分の孫がブラックジャックだったとは知らなかった。いやまあ、祖母の自分の命にそれだけの値をつけてくれたことは嬉しいやらなんとやらだが。隠し金庫を全てカラにすれば払えなくもないが、誰の入れ知恵だ?本家の間黒男先生でももう少し常識をわきまえてるぞ・・・ふんだくりすぎだろ・・・見つけ次第沈めてやる・・・嵐の第2陣が唸る前に請求書の社名に気づいた。
「”(株)綾波レンシン化学工業”・・・・・?なんだいこれは」
義肢だの義歯だのを造る部署は党の差配するところがある。そもそも地元で党の名前を出せばCTでもMRIでも戦車でも戦闘機でもその気になれば造れないものはない。なにも綾波の異能はケンカのためだけのものじゃないし、そんな職業訓練も長年させてきた。
わざわざ新規に立ち上げる、ということは・・・まさかこの孫・・・・
「エヴァ零号機を専属従業員にして、他社も他人も絶対にマネできない世界にひとつだけの商品を作って大儲けできる会社をつくった」
のだと、はっきりそう言ってのけた。
小学生の将来の夢を聞かされた気分ではあるが・・・その目は煌煌欄欄と輝いて。
誰もこれは制止できない・・・党の前身組織を立ち上げた頃の自分も似た様な目をしていた。他人にとっては狂気でも、本人にとっては実現すべき目標で。そもそも見ているもの、視点の位置が違うなら、判断も異なってくるだろう。しかし、世界を平和にしたい、とかならまだしも、大儲けしたい、とか・・・・ええのかな?いや、地に足がついているが、そのままロケット点火して大爆発しそうな・・・うーむ・・・・しかも「つくりたい」ではなく、「つくった」と過去形になっとるし。すでにやってしまっているときている。
取締役社長が孫で、エヴァ巨人以外の社員は、ツムリはともかく、鍵奈、チン、ピラ、それからコナミをはじめとした党の若手が何人か、それと保護を頼まれた赤木の小賢者たちも加わっている。むろん、それだけであの巨人の維持管理ができるはずもない。というか、あの巨人の立場というか権利というか、・・・・さすがに借りパクできるようなシロモノでもなし。・・・・いやまあ、回復したからには一度、ネルフ本部の方へ出向いていろいろ話し合いをせにゃならんだろうけど・・・くたばってたらそれでもできなかったわけだし・・・・まあ、それくらいは。しかし、社名の「レンシン」とやらは何なのかね?
まさか・・・
「漢字で書くと、錬心、錬金術を思わせる業で心臓を造った、という今回のことを忘れないようにと」
尋ねると、そのような答えだった。起業理念を社名に刻み伝えていくのはいいことだ。
カタカナなのは錬金術の錬、というのがあやしげで、心臓の心、というのが生生しすぎるイメージだから、変換してやわらげたのだと。それならいいだろう・・・まさか碇シンジの、「シン」を入れ込んだわけじゃなければ。あと、綾波ホールディングスとかいうのも誤解を生じさせるだろうから使ってなくてよかった。とはいえ、なんかレンチンっぽくて軽い感じもするが・・・・孫が決めたのなら文句もいうまい。たとえ新たな騒動の種になろうと。・・・党以外の組織を率いるのもいい勉強になるだろうし、孫の名義で影響をもっておくことも重要だ。金も人脈も。外の組織と多様な接続方式をもっておくのはこの先生きてくる。・・・とはいえ、支配者級の催眠能力でネルフの連中にあの巨人を差し出させたというなら、ちょいと説教する必要があるが・・・・社名にそんな名をつけるクソ真面目な孫が、そんな人の心を己の利得で踏みにじるマネはしないだろう・・・
それにしても、女子高生社長か・・・党の後継者の前に、そんな名刺をかざしているのを想像するのは愉快ではある。己のはじまりの道も「一年ももつまい」と長老連中から諦められていたわけだし。金はそれなりに出してくれたから、今度は己の番か。うまくいくことに越したことはないが・・・そんな巨人商売、どうなることやら・・・予想もつかん。
うまくいってもせっかくの稼ぎからネルフの連中が高笑いしながら大半をかっぱいでいく光景が思い浮かぶ・・・うまくいったらいったでのめりこんで社長業が忙しく、婚期どころでなくなって、ひ孫の顔が見られない、とか・・・・うーむ・・・・
「”ひいおばあさま”」
鈴が鳴るような女児の声が、自分を呼んだ・・・・・・気がしたが、即座にトリックを見破る綾波ナダ。伊達に異能軍団の党首ではない。
「おいおい・・・・よくできた人工音声だけど、驚きのあまり心臓止まったらどうしてくれんだい」
嵐の反動で何度かここに襲撃がかけられたらしいが報告でしかそれを知らぬ。番付表の1番と2番が日替わりで見舞いにきているのだから、やってきた者こそ不幸だ。それを越えて自分の背中に立てる者がいるなら、まあ、今日が命日になるのだろうが。
「え?声?知らないわよ。仕掛けるにしてももう少し落ち着いてからにするでしょ・・・さすがに。それに気をとられて後ろからズドンとか、かんべんんしてよね!」
「何かの流れを感じたが、すぐに、消えた・・・が、敵意ではない・・・日本の言葉では・・・幽玄といったか・・?経路がつながったのかもしれない・・・」
赤木ナオミは犯人ではなく、重々しく助言してくるあたり二ェ・ナザレでもない。
良くも悪くも言いたいことはなんの忖度もなく100%純粋で言い合える関係である。
親友でもなんでもないが、本音を語るだけで弱者があてられて衰弱死するような存在ともなると相手を選ぶしかないだけ。
「そっちの勉強は時間がなくてあまりしてこなかったからねえ・・・現世利益優先で・・・・・ん?」
うっすらと、人影を見る。学生服を着た男の子で、制帽を目深にかぶっているが、瞳は強い赤。宿る輝きは、異能の強さは、おそらくは自分をも超える。死神がするにはずいぶん皮肉なコスプレだけど。その気配は・・・思わず手を伸ばして帽子をなでてしまうほど・・・親和性があった。こうしなければならない、こうするしかない。胸からこぼれるほどの身内の情。本能。目が赤いのだから綾波の血族に間違いないだろうが、・・・・先に死んだ息子たちでもない。知らないが、知っている。知っているはずなのに、知らない存在。
すぐに消えたが、心の内、はっきりと心臓には刻まれた。綾波の血統の先に顕現するはずの「守護者」、この先もこの目立つ血筋はいろいろろくでもないことに出くわすだろうけど、あれが、あの子が出てきてくれるなら、大丈夫、安心してあの世にいける。
「・・・どうしたの?ほんとに大丈夫?・・・あ、今日はこのへんにしとこっか、危篤から蘇ったばっかりだもんね、そりゃ疲れるか・・・、じゃね。なんだったらしばらくは時短にしてもらってOKだから」
「それは失念していた・・・・不死身の者などおらぬのだから・・・我も下ろう。無理をおしての診察、感謝する。時短の件は我も賛同する、では」
明らかに「見てはいけないものを見てしまった」と顔に書いてあった。まあ、幻覚が見えるような医者と話はしたくあるまい。しばらく仕事はするな、とは周囲全員に言われているわけだが。そんなわけにはいくものか。やるべきことを、この赤い瞳がきっちりと映している間は。とりあえず、やり残した仕事は片づけていく。
「碇シンジを呼んでおくれ」
今さらではあるが、話すべき内容もずいぶん変わってしまったが、面と向かって話をする必要はある。心臓に悪かろうと良かろうと。
「全く、ユーは女心というものが全くわかってないざます!あんなブラックヒストリー、ジモティーに公開とかして、タダですむわけがないざます!・・・本来ならば放置案件ざますが、弟子同士が刃傷沙汰とか吸刀術師範としては見逃せないざます」
「いや、それは伝達がうまくいかなかっただけで・・それにしてもハチミツとかほんとうにいれていいんですか・・・?」
ちなみに、その頃碇シンジは、女子寮の厨房にて居闇カネタと並んで、あさりの味噌汁作りに勤しんでいた。「この秘伝のあさりの味噌汁ならば、ギリギリ、なんとか・・・指一本くらいで勘弁してもらえるはずざます」
「いやいや、綾波さんはそんな任侠系ホラー女子じゃないですよ!弟子っていうなら人格を信用したらどーなんですか・・・それに、あさりの味噌汁っていうチョイスが・・長期間外国に単身赴任してたおとうさんじゃないんですから・・・まあ、バカにしたりはしないだろうけど・・・綾波さんなら」
味噌汁ごときで女子の怒りが解けると考えているのはどうなのか?・・・・ただまあ、香りはたしかに美味そうで・・・完全に納得はさせられないまでも、怒りはしないだろう出来のようで・・・厨房をこっそりのぞき見する鈴原ナツミと赤木印のちい賢者たち。
あれを献上し終えたら我が家というか、第三新東京市に戻ることになるのか・・・
この地に降り立った時からいきなりのド不穏の緊張マックス状態やったけど、党首はんが回復されてからは現状通りというか、何事もないように女学生生活が送れとるけど、買い物の約束も果たせたし地元グルメも堪能できたし、名所見物もさせてもろうたし。
さすがにもう帰らせてもらってええやろ?これ以上、なんもないやろうし。
流れで女学院女子寮におるけど、安全になったんやったらふつーにホテルとか、銀橋さんの旅館は出禁にされたようやけど、党首はんの招いた客人に手え出せる空気やなくなっとるから、ええ加減、男子が女子寮におる、とかいう変た・・いやゲーム的シチュエーションはよかろうと思う。おりたいんならおればいいけど。そんな感じでもないしな・・・
一抹の寂しさはあるが、肩の荷が下りた気楽さ、自分の家、自分の部屋で人目を気にせずくつろぎたい解放感を取り戻したい欲求はどうしようもない。旅もええけど、やっぱり自分ちが最高。なんのかんのいうても四六時中、気をつかうしなあ・・・姉ポジションとか勇者ポジションとか、やっぱり疲れるわあ・・・けど、まあそろそろや。まさかあの味噌汁で激怒されて顔面洗わされて泣いて帰ってくるとか、ないやろ。
![](kekon1.png)
![](kekon2.png)
![](kekon3.png)
![](kekon7.png)
![](kekon4.png)
![](kekon5.png)
![](kekon6.png)
「えーと・・・・・これは・・・・いったい・・・・?」
「感想を聞かせてもらおうと思ってね。どうなんだい、碇シンジ」
味噌汁完成、さあ綾波レイに届けよう、というタイミングを見計らったように綾波党、つまり党首の綾波ナダから呼び出しがかかった。
まあ、おそらく祖母と孫は同席しているだろうからと保温鍋と一緒に出頭した碇シンジを待っていたのは、綾波レイ不在状態での党首オンリー面接。保温鍋は当然、持ち込みを許可されなかった。「中は味噌汁?社の方に詰めてるから届けとくよ、ご苦労さん」と言われて奪われた。そういうことは先に言え、と言いたかったが、言えなかった。相手は悪すぎる。というか、病み上がりの祖母の近くにおらず仕事してるらしい綾波レイが意外というからしいというか。仕方ない、と諦めるしかない。味噌汁の出来じたいは会心の出来であり、勝利は約束されていたし。うん。
切り替えていきましょう、と思っていたら、見せられた写真。というか、おそらくは絵。
本人に着せたわけではない、合成で作った映像、イメージ画像というべきか。
前説明もなく、いきなり広げられて見てくれ、というのだから見たけれどこれは。
何人か、明らかに綾波レイ以外の者のが含まれていたが、これはフェイクか罠なのか。
とはいえ、相手が相手であり、しょうもない返答をしようもなら生きて帰れる保証はない。
綾波レイが同席しているなら、どんな失言をしようと最低でも、生命の保証はしてくれただろうが、碇シンジは少し考える。もちろん、長考もアウト。この場を穏当に切り抜ける選択、返答をせねばならない・・・・シャレもとんちも通用するはずもない。小癪な小細工も許されない。実父碇ゲンドウやかつての保護者葛城ミサトなど、当代随一クラスに覚悟ガンギマリの傑物の眼光に慣れている碇シンジでさえ、いますぐトイレに逃げ込みたい金の玉キューキューになる紅の眼光・・・・常人なら大人でも即、人事不省になる威圧・・・かろうじて、綾波レイ(たち)の絶対可憐な花嫁衣裳を目にすることでなんとか正気を保てている、というべきか。それがなかったらバブル吹いて気絶していたかもしれぬ。
このプレッシャーは、いい大人でもガクブル震えが止まらない人生3大恐怖イベントにはいるであろう「結婚相手の実家ご挨拶」イベント、しかも「実はいままで黙ってたけど親がヤクザの組長だったもしくは大企業の社長だった」ブーストがかかっていたやつの、3倍ほどの「”強圧”」だった。ズゴゴゴ・・・、とか擬音効果でさえ追いつかず、解説キャラも無言になり、もはや画面全体が白くなっていくアレだった。
それでも、使徒戦の修羅場を潜り抜けた経験が、なんとか脳を稼働させ続ける。
「綾波レイの綺麗さを褒める」→「嫁として欲しいという気か」→「生意気な死ね」
「綾波レイ以外の娘に言及」→「この場で孫の存在を無視したな」→「生意気な死ね」
「あえて綾波レイの欠点を挙げる」→「孫のダメだしだと生意気な」→「処刑する死ね」
綾波党というより「死ね死ね団」かな?・・・ノコノコここに来た時点でバッドエンドだったのか・・・よく考えたらこの人がラスボスだしなあ・・・え?これラスボス戦?
なんとか、なんとか、この突如ふってわいた試練を乗り越える、命をつなぐワードを!
アブドルダムラル、エロイムエッサイム、さあバランガバランガ、我は求めうったえたり!
オムニス逃げちゃダメだ、ノムニス逃げちゃダメだ、ベルエスホリマク逃げちゃダメだ!
言語野より超高速で熟考に熟考を重ね選び抜かれたナイスレスキュー言霊よ、きたれ!
「あ、綾波さんがっ」
「うん?」
お孫さん呼びも「レイさん」呼びもどちらも鬼門にしか思えないため、あえて無修正。
か・ら・の
「結婚するって本当です、かなっ☆」
小癪小細工ここに極まったが、現時点での碇シンジ魂の叫び。綾波女学院に敬意を示して☆もつけておいたあたりが、どうしようもない。ただのテンパった挙句のパリピ奇声とどう違うのか説明するのは・・・かなり難しい。