「それってデートじゃん」
天京にてソドラ管理業務全般における監督役たる惣流アスカも綾波レイに負けず劣らず忙しいが、組織構築と運用があらかた済んでいるので予定が破綻することも本人が壊れることもない。情報収集にも隙が無い。
ただ、余人をもって代えがたいポジションであるので身動きがとりにくい。しんこうべで綾波党関連のレッドアラームが鳴っているのは当然知ってはいたが、ネルフでの「同期」として、助力を惜しむつもりはないが、できることできぬこと、手をだしてはよりまずいことになるだろうこと、集団を管理する身になって分かることもある。
弐号機の戦闘力も解決手段として万能ではない。個人の延命など、ATフィールドでもどうにもなるまいよ・・・親族系の組織を長年支えてきた大黒柱が亡くなれば・・・そのあとにキナ臭いことになるなら、「アタシらの出番だろうねえ・・・」そんな局面が本能的に大好きなラングレーは楽し気に情勢分析などしていたが、碇シンジが投入されると知って即座にやめた。「アイツが出張るならどうにかするに決まってるし」
ドライなどは「なんで捨て台詞風味なの?」と首をかしげていたが、惣流アスカにしても期待はしていたし、信じていた。「だってシンジだから」ダブりではあるが、同期最強なのだ。代表でも筆頭にもしたくはないが、モメごとにはむっちゃ強い。そんなやつだから。
まあ、なんとかしてくれる、でしょう。というか、しろ。しとけ。しなさい。どうやってすればいいのか、わかんないけど。なんとかするでしょう。ファースト、綾波レイがなるべく悲しまない方向でおさめてくれる、はず。無茶ぶりもいいところだな・・・自分の管理下の者にはぜったいにふれない案件ですやん。試しにラングレーが試算していた情勢分析では9割戦争勃発とある。自分が検認しても少し低くなっても7割は越えるヤバさ。
起きるのが自然の流れ。歴史の鉄則。それをなんとかしようとしたら、党首の復調しかない。適正なタイミングで引継ぎできる組織は歴史上、これまで何割あったのやら?何を適正とするのか、それこそが新陳代謝なのかもしれない。古いものは死に滅び消え去っていく。伝えるべきを正確に完璧に伝えきれる人類ツールの開発はまだなされていないけど。
可能な限り正確な現地情報を収集する。懊悩するのは分かっていても。あの二人が真っ赤に燃える鉄板の上でフィギュアスケートをやらされるような羽目になった日には。
そのへん、ネルフもしっかりやってくれてるんだろうけど、葛城ミサトの歯ぎしりや地団駄や胃がキリキリする音も聞こえてきそうだけど。エヴァでもどうにもならぬこと。さすがのエヴァでも死神をパンチやキックで追い払うわけにはいかない。できたら落語だ。
だが・・・・綾波レイと零号機はやってのけた。その能力で、自分の祖母を救ってみせた。
さすがに詳細なデータをもらったわけではないが、分かる。自分と弐号機にはできない。
碇シンジの初号機でもできないし、ほかのエヴァたちにも適格者にもこんなことできまい。
できる、と示されたのに不可能だと理解できる。上でも下でもなく、扉をあけたのだ。
彼女にしか開けられぬし、開けてはならぬ扉。そういう未来を彼女は選んだ。なんとも大きなわがままを零号機は彼女のために叶えた。愛のままに。
そんな形を真似ることなぞできるわけがない。
しかし、そうなると碇シンジはなにをしていたのか?何の役に立っていたのか?しんこうべ入りしなくても同じ結果になっていたのでは?・・・そのあたりはよく分からない。
もちろん、手出しせず静観しつつ、後継者綾波レイに潜在的に?がる強力な同盟戦力の存在を意識させて交渉その他、戦闘回避に効果を発揮する・・・・そういう役割ではあったのだから。ただ、あの碇シンジが大人しくそんな役割に徹するかといえば。
零号機に特製の臓器を新造させることを吹き込んだのはあのバカではないかと思う。
まともな発想ではないし、それをやれるかも、と思わせる常軌を逸したパワーマウスは
それに乗せられて会社まで立ち上げて・・・零号機を自分とこの社員にしてしまう、というのはちとやりすぎなのではないかと思うが・・・まあ、もう扉を開けてしまった者が足踏みなどするわけがないし、エヴァとともに生きる方法はそれぞれが考えるしかない。
命じられないことを、あのファーストチルドレン、綾波レイがやりだした、というのはそれはそれでなんとも痛快ではあったし?ネルフを始めとした関係各所はしばらくはデスマーチというかバトルロイヤルな日々が続くだろうけど。周囲をブンブン振り回している自覚は・・・新米社長にはないんだろうけどね。それにしても無茶をする・・・・漏れ聞く様子でも「ああ、いまにもぶっ倒れるし、下手をするとそのまま心臓が止まっちゃうぞ」的な常時エンジンレッドゾーンで、処理速度が高速維持されるものだから本人は気づいていないけど、周囲はヒヤヒヤ、かといって歳は若くても組織トップだから誰も制止できない、というデンジャラス循環。実の祖母であり党首であるナダが碇シンジの接待、などという奇妙な手を打たなければ停止できない、というのは・・・
「ポンコツロボットなの?」
ドライなどは遠慮なく評価してしまうが、同期として鮮烈な日々をともに送ってきた身としては否定したい。「いや・・・・」なるべく。
「抜き身の真剣、というか、鞘に収まるまでは血をみようが槍を弾こうが命が消えようが止まれないっていうかね・・・」
「蒼い炎をまとったゲシュペンストイェーガーって奴だね。わかるわかる」ラングレーは理解していたが。その理解も否定したかったが、もうめんどいのでやめておいた。
それに肝心なのは、その接待とやら、実質「不可能ミッション」じゃないか、ということだった。上っ面だけみれば、お膳立てデートに見えないこともないが・・・・
しかも、ただの好きあった者同士が行うラブラブなやつではなく、おそらく碇シンジの方には「仕事熱に浮かされて走り回ってるうちの孫をなんとかクールダウンしろ」的な指令がきている。というか、きていなくても、そうならざるをえまい。綾波レイ当人にデートする時間なんぞあったら仕事したい、という殺気にも近い空気を出されて楽しいデートができる人類男生物はおるまい。真剣モード入った綾波レイのゾッとする怖さは知っている。
背中を預ける味方であればこれ以上なく頼もしいが、それと対面してシャレオツな対話、とか。どんな凍結地獄かと。「碇君とのデート楽しみっ」とか服をチョイスする絵面とかまったく想像できない。ああ、「接待」だからそれらしい恰好をするのかもしれないが。
接待を受ける、と見せかけて、グダグダにして綾波レイの気を抜いて息をつかせる・・・
しばしの休息をさせる・・・のが目的。なのだろう。だが、うまくいくまい。仕事とわたし、どっちを取るの問題ですら超難題であるのに、これはさらにその上をいく仕事と休息、休息をなんとか取らせにゃならん問題であるのだ。これはおそらく適正解を得るのにはあと200年ほどかかるのではないか。神様が決めた安息日にも平気で働く鉄のハートが壊れもしていないのに止まるわけがない。過ぎた熱すら快い。力づくでノックアウトしてオフィスから遠く離れたところに監禁すればいいのか?薬剤注射して10日間ほど眠り姫させておけばいいのか?・・・なんというか、悪の組織ムーブすぎるな・・・・とにかく
悪夢ミッションにもほどがある。ジェームズ・ボンドだってこんなの断るだろ。
「けどまあ・・・・シンジなら、やってのけるの・・・・かな」
休む気のない相手を休ませる冴えた方法・・・・冴えてなくてもいいけれど。
そんなものはあるのか?・・・・悪魔的アイデアを実行する精神力、パワーも必要か。
それとも、案ずるよりお互い直接顔を合わせてみれば、それでもう気合とか肩の力が抜けて、「綾波さんもお疲れ気味だから、一週間ほどのんびりすごさない?接待のお金とかもったいないし」とかシンジに言われたら「それもそう・・・お金がもったいないかも」とか、あっさり受け入れてひきこもりのおうちデートですましてしまう可能性もある。
いったん緊張の糸が切れるというか精神の稼働回転数が落ちてしまえば、そのまま肉体の休息欲しモードに切り替わって、いわゆるいたわり充電的なのんびりさでゴロゴロして過ごす、三食もシンジに作らせて、というのも・・・・地元のトップ名家となればへたに高級ホテルのスイートよりも隠れ家みたいな狭いトコで過ごした方が気が抜けるかね・・・
いっそ、第三新東京市の幽霊マンモス団地に一時帰宅(記念館にするつもりじゃないだろうけど、未だにキープしてあるらしい・・・単純に手が出せない、結界のままにしてあるらしいけど)するとか・・・・そっちの方が気分は変わるかな・・・って。なんでそこまでこっちがプランニングせにゃならんのか。勝手にすればいいのだ。
あー・・・・でも、なんか、朝になっても起きてこないなーと思ってたら、こてん、と逝ってましたとかマジありそうだしなー・・・・放置ダメ、絶対、なヤツだわ。
人の言うこと素直に聞けよ、と思うが、自分がメールとかしても従わないだろうし、直電しても説得できる自信がない。自分が逆の立場ならまず聞かないからだ。
聞き入れる可能性があるとしたらやはりシンジしか、ということになるのか。人格思想その他人間力に優れているという意味ではなく、小賢しい小細工にこれでもかこれでもか、という超過電圧をかけられる極太神経をしている、という意味でだ。並外れたバカにしか達成できないミッションというもんはある。
それから、単純にストレス解消のサンドバッグ役にはちょうどいい。
あの綾波レイが碇シンジ相手に愚痴をぼろぼろ零すとか、想像もできないんですけどね。
あなたのいないきれいな虹が大きらい 空よ いますぐ雨をふらせて♪
平松愛理の「虹がきらい」をおひとりさま休憩中のBGMにしながらそんなことを考える。
誰にみせるでもないので、可憐すぎる横顔でそっと歌詞をくちずさみながら。
この後、立て続けに重要会議が3連荘で入っている。順調にいって終わるのはド深夜。うまくやることを祈るしかない。が、今回はどーもうまくいく気がしない。医者の不養生強制入院エンドしか見えない。碇シンジの力量とか器の問題ではなく、体調管理はそれだけ深淵ということだ。なめてるとすぐさま地獄が口をあけるぞ、とか警告してやるのもお節介ババアみたいでなんだかなー。
「姫様!!」
「姉者ー!!」
「アスカ嬢!」
扉の前で秒針を確認しながら待ってやがったのか、休憩時間終了と完璧同時刻に秘書と護衛頭と助監督がそろって大声で扉を叩いてきた。仕事をさぼったことなど一度もないのに連中はすぐさまこっちを囲い込みにくる。もう声の調子で用件も分かるようになってきた。
秘書は会議前の事前情報の大幅に変更があったからその伝達、護衛頭はユイザがまたしてもばっくれて捕獲はしたものの全く反省がないので説教をしてくだされー、という懇願で人材マニアの助監督はまたどこからか有用人材を招いてきたから急ぎで面接してほしい、そのあたりか。ーあー・・・・深夜までかかるの確定の会議3連荘が始まる前に片づけてしまわねばならんわけで・・・・いやこれ、マジでラングレーとドライがいなかったら潰れるというか破綻しとるからね。気合を入れて出陣する。窓の外には天京でしか見られない螺旋の虹が。それを見ながらのんびり・・・とか、ダメだダメだ、仕事だ会議だ、集中せねば!このわたしがここまで頑張ってるんだから、シンジ、アンタもなんとかしなさい!
接待を受ける、と見せつつそれを骨抜いて、グダグダにしてまったりさせて時間のムダというか脳を空白状態にして、休息させる状況にもっていく・・・・マジ正気じゃないな
くそ・・・なんかやっぱり腹立ってきた・・・・!それってデートじゃん!のんきにデートなんかしやがるのになんで心配とかしてやらにゃならんのよ!勝手にさらせ!!バカ!
どうせシンジのことだ、なんか強引に力づくで口先三寸でだまくらかしてデート三昧に持ち込むに決まってる。
ふーんだ、
ふーんだ!
ふーんだ!!
深夜までかかると思われたその日の会議3連荘はなぜか非常に高速で進行して19時には終わった。まあ、普段は理路整然と仕切る惣流アスカ総監督が据わった目で沈黙を守り続けて、大噴火5秒前のオーラを立ち上らせていたのだから危機回避的に当然といえるか。
このことは「太陽のストライキ」事件として後世、惣流アスカの伝記に記録されることになるのだった。