「なにか隠してません?シンジはん?」
と、夕食の席で鈴原ナツミに問われても、まさか正直に話すわけにはいかない。
接待を受ける、と見せかけて綾波レイを休息させるとかいう僕以外はみんな得をするのは分かるけど超絶難易度ミッションがイヤになって、ナツミちゃんを置き去りにして逃げ出したあげく、駅前まで来たんだけど、自分の息子・娘と名乗る子供たちに呼び止められたと思ったら牛仮面の聖事派・綾波クダンが現れて、そのうえ、外綾波の危険度SSRの綾波緑豹さんたちがバトルを申しこんできた〜・・・・とか、話せるはずがない。
兄の鈴原トウジが(碇シンジの頼み通りに)妹をバイクで迎えにきたのだが、鈴原ナツミはそれを断った。「いやまだ、一件落着しとらんし。綾波先輩の健康維持とかめちゃ大事なことやし、それをきっちり見届けるまでとても帰る気になれん」という漢気あふれる口上で、兄も感動しながら受け入れた。
「ナツミ・・・お前ってやつは・・・心の妹よ!!」
「いや、ふつーに兄やんの妹やから。役所の書類的にも妹やから」そんな漫才はともかく、兄妹そろって碇シンジのお目付け役を自認しその任を貫こうとするのは前世の因縁でもあったのか。
これでますます逃げられなくなった。同輩ではなく、目下の後輩であるからこそ鈴原ナツミは碇シンジの中途半端な日和を許さないし、ある意味では惣流アスカや綾波レイより厳しい。信頼より期待値の方が高くて重い。
「ま、今日は残念だったざますね。けど、そういうことはこれから先、いっくらでもあるざますから、いい勉強をした、と思っておくざます」
老舗グリルの味わいのビーフシチューにオムライス。いろいろ野菜のマリネ。デザートはアプソリュとコンシスタンス。オムライスにはもちろん旗もついていた。
自称師匠のさりげない優しさメニューもぬけぬけと胃に流し込む碇シンジ。別に僕はふられたわけじゃありませんよ?ほんとにスケジュールが合わなかっただけなんですから的な顔をしながら、周囲の人間にほとんど悟らせないのだからその演技力たるや。
あまりにショッキングすぎて脳の咀嚼理解に時間がかかっているだけかもしれないが。
しかしながら、この事実を記憶の闇に葬ったまま、綾波レイの相手などできるはずがない。
「言うべきか・・・・言わざるべきか・・・・」「話すべきか・・・秘密にすべきか」
風呂に入りながらもひとり、さんざん悩んだ。けれど、話すことを選択した。
とはいえ男一匹、それは悶絶恥ずか死にしかねない、ハードラック告白であった。
嘘つきであるとか、発狂した、とか思われるのはまだマシ、許容範囲。
こんなドリーム・オブ・ドリームスな話を、綺麗な月の化身のような女子にせねばならぬというのは・・・ちょっとでも知能がある男子ならば沈黙を貫き通すはず、だが。
夜中に電話した。相手の顔を見ず、この距離で声のみを届けるならまだ正気を保てた。
番号を選択する直前、綾波クダンのことを思い出し、信じられない超常現象ではあるが、とりあえず嘘ではないことを証言してもらう手筈などを考えたが、やめておいた。代償に何をさせられるか分かったものではない。嘘つきだとののしられても、トチ狂ったのかと入院の手続きを始められても、この目でみた事実を告げた。ただ、まあ、さすがにしんこうべから離脱するつもりだっただとかいうと話が複雑化するので、あくまで散歩、ということにはしておいた。それくらいは許されるであろう。この地獄の責め苦に耐えるのだ。
そういえば、誰が母親なのか、聞くのを忘れていた・・・・あの子たちの顔を見れば分かりすぎたとはいえ。うっかり、うっかり・・・・恐ろしすぎて無自覚に忌避していたのか。だから、その点に関しては明言はできない。いや、そもそも自分が父親呼ばわりされたことも説明とかできないんだけどね?
「レンジと・・・シンセ・・・そう、名乗ったのね」
綾波レイの声色はいつも通りすぎて、安心よりも心配になってくる碇シンジ。碇姓についてはとくに言及ナシ。その名をずっと昔から知っていたかのように。もしかして、しんこうべに昔から伝わる霊的現象の符丁とか?ざしきわらし的子供妖怪の名前だったとか?
エヴァルギー衝撃波・・・そのワードの破壊力が、地元神秘の可能性を打ち砕くけど。
いや・・・あの移動力なら、両親の思い出の地巡りよりも、母親に会いにいくのもそう難しいことではなさそうだし、すでに出会って名乗りを受けていた・・・とか?駅前に痕跡が残ってなかったとはいえ・・・綾波党に報告がない、というのは・・・綾波緑豹がケンカ売ってきた件とレンジに返り討ちにされての黒焦げ半殺し、とか・・・警察が調べてないとおかしいがここはしんこうべだしスルーされるかもなあ・・・まるごと夢だったとか・・・そうだとしたらこんな話を夜中にしている自分は、自分の評価はドン下りだろうな・・・とか怯えていると
「それから碇姓を・・・名乗っていたの?」
再確認がきた。妙な順序だとは思ったが、違和感を感じるほどの心の余裕はない碇シンジ。
「そ、そうです!そう名乗っておりました!」
なぜか直立不動調で。
「だから、碇君の子供に間違いない・・・碇君もそれを、信じた」
ずしっ。声質としてはいつも通りに静かに淡々としており、複雑な感情をおもわすところはないのだが、実際耳にする碇シンジにしてみるとこれ以上なく重いボイス。地球から追放されて強重力の星に監禁されたかのような・・・・なんともいえぬ孤独感。
碇姓の人間は日本にはほかにも何人かいるはずだよ!とか言い訳できる空気ではない。
告白もしていないのに百万回振られたかのようなやるせなさ。さあ雨よ激しくこの身を濡らしておくれ状態。ううう・・・・話すべきじゃなかった・・・いや、こんな奇妙な話を最後まで聞いてくれただけでも感謝すべきか・・・夢か現実かSFか怪異話か、調査依頼をするわけにもいかない・・・とてもじゃないが、こんな精神状態で綾波レイに顔向けできない・・・接待を受けるとみせかけて休息させるミッションはギブアップするしかない。それを告げようとした時、
「これは・・・話すかどうか、迷っていたのだけど・・・」
綾波レイからも奇妙な打ち明け話があった。メンタルがカエルの轢死体状態であった碇シンジにしてみれば、もはや何を聞かされようが驚きはしない・・・はずだったが
「え!?どういうこと!?」
驚いた。ぺしゃんこに潰れていた精神を問答無用で覚醒させるピンポイントミステリー。
「”綾波”レンジと”綾波”シンセが・・・綾波さんを訪ねてきた!?」
「そう。会社の方に。すれ違いで会えなかったのだけど。そう名乗っていたと」
碇シンジを接待するため、スケジュールをひとたび遅らせた以上、さらなる再変更はありえない。必死のラストスパートでなんとか片づけて退社して自宅に戻る途中で入院中のツムリの見舞いに寄ったところで会社から連絡。これが社長業の十字架なの・・なんらかの緊急トラブルかと出てみると
未来からやってきた綾波レイと碇シンジの子供の「綾波レンジ・シンセ」の兄妹が両親の顔を見にやってきた、と・・・・第2秘書である綾波コナミが迷いに迷った挙句に伝えてきた。
対処に困る話だが、学生ノリの悪戯ですむ話ではない。身分的にも立場的にも状況的にも。しんこうべの住民がやることではないし、外綾波の仕掛けにしても趣味が悪い。党首回復で現状維持にて話はついたはずだし。時間的にも中学小学の子供がうろついていいものではなかった。ただ、普通に不在を伝えて追い払うにしては・・・あまりにも、それらしかった。インターホン越しでも分かる異能の強さ。綾波直系の格は、ナダの小間使いであったコナミにしてみれば誤魔化されようもない。
碇シンジの血はどうか知らないが、綾波レイ、その血筋の者であるのは間違いない、と思われた。本物であるはずがないが、ニセモノだと断言することは、どうしてもできない・・・できなかった。これは自分の手に余る、と即座に判断して、かといって党に連絡するのも話が大げさになって社長が死に物狂いで再構築したスケジュールがパーになるのも居たたまれない・・・そこで、たとえ正気を失ったかと疑われても、第2秘書の座を剥奪されても、社長に連絡することにした。
激務のせいで見た幻覚ならばどんなに良かったか・・・けれど、監視カメラに映像が残っている。録音も残っている。確かにそう名乗った。「綾波レンジ・シンセ」だと。
タイミングの悪さを呪うしかない。本物であるはずがないのに、そう判断しきれず上役に伝えるしかできないとは・・・冷静を装ってもコナミの気持ちは伝わった。
ただ、包み隠さず伝えられたのはいいとしても、綾波レイにしても判断できる話ではない。
保留にして、なにがしか次の動きがあればそれに合わせて対処、というあたりか。
様子見で何もしない、という言い方もできるが、それしかできない。できるはずもない。
ヒト型巨大ロボ、ならぬ、人類最後の決戦兵器たる人造人間を駆り、天使の名をもつ超常存在とガチンコでやりあってきた日々を考えると、そんなことあるはずない、と切り捨ててしまうこともできない。人間の常識など軽々超越したことが起きることはあるのだから。
リスク管理の一環として、聞いたこともない親類縁者が会社に踏み込んでその財を食い荒らす、という局面はまあ、昔からある。創業者死亡後の血で血を洗う遺産争奪戦とか。
会社を大きく育てたはいいものの、自分の子供の2代目社長がどうにもダメダメであっけなく潰してしまうとか。それが・・・・
自分の子供・・・一男一女・・・・レンジとシンセ・・・その名は・・・・
まんまレイとシンジを足して割ったような感じでもあり、電子レンジからとったようでも、どこぞのマンガのキャラクターからとった、という可能性も考えられる。
シンセ、の方は、シンジからとったようでも、新世紀を暗示しているようでもあり。
考え出すとキリがない。シンセサイザーから命名したのかもしれないし。
時系列的にいえば、そのふたりは、なんらかのトリックというか、コナミが強い異能を感じた、というのは、変化系の異能が極まったものだから、という推察もできなくはない。
そこまでの力を用いて、こうもわかりやすい騙しをかけてきた、というのはある種の宣戦布告のつもりなのか・・・・本人たちをこの目で見ていればもう少し悟るものがあったかもしれないけれど・・・コナミが節穴だというわけではなく、こんな浮世離れた話でもきちっと伝えてくれたことには感謝しかない。とはいえ、迷う。なんとも、迷う。
相談できそうなのは・・・・ツムリは、入院中で負担や心配をかけたくないし・・・
祖母は、自分の会社の立ち上げの件でネルフ本部に出向いている。完全にこちらの後始末であるから、これも・・・・こんな話はやりにくい。ユイおかあさんには連絡自体が。
いや、できたとしても、こんなドリーム・オブ・チルドレンみたいな話題はなんとも。
どうしたものか、どうしたものか・・・
迷っていると、碇シンジから電話がかかってきた。サウンドオンリーなのはこの場合助かる。明日の接待の件であろうし、もしかしたら学業を優先するから遠慮し辞退する、という話かもしれない。唐突な予定変更に碇シンジが脳の血管をぷちんとやってしまい逃げ出したなどと夢にも思っていないし、抗議の電話かもしれないな、とはまるで心配してないあたりJK社長もいい神経であった。そして出てみると、彼も自分と似た様な奇妙体験をしたという。細部が少し異なってるが、未来の子供が訪問して、碇シンジの方は実物と会ってさえいるのだから、真偽のほどを見破る具合はそちらの方が上だろうし信じられる。
碇シンジらしくもない、なんだかはっきりしないものの言いようではあったが、ありえないけどニセモノだと断言しなかった、というのは、瞠目に値する。綾波緑豹が襲撃、返り討ち、という異常事態がセットであり、綾波クダンという目撃者もいたとなれば。
党から報告が入っていないのはまだ把握していないのか、独自にカタをつけようとしているのか・・・党首の祖母が留守にしている間、大事にしたくはないのも理解できる。
ただ、外綾波、とはいえ、綾波の者が、碇シンジを襲った、というのは大事件である。
たまたま碇レンジが無傷で返り討ちにしたからいいが、ケガでもしていたら外交問題になる。大げさな表現では決してない。まずは何より誰より初号機が黙っていないだろうし、組織間抗争どころか最終殲滅戦争、ラストハルマゲドンが勃発してもおかしくない。
綾波党党首の孫、次期後継者としては謝罪するしかないが、・・・それを防いだのが、碇シンジの子供だというのが・・・・あまりにも作り話、メイクドラマすぎる。聞かせた相手に信じさせる気がまったくないストーリー。それを伝えた碇シンジの苦衷たるや。
それも、碇レンジ、綾波レンジ、と微妙に名前が違うあたり、ミスリード見え見えすぎる。
かといって、誰かの意図で行われたにしては・・・子供たちの行動が・・・ほんとに子供のそれというか・・・脚本家の知性がまったく感じられない・・・悪い意味で。
「あの・・・そういうわけで、接待の方はちょっと・・・遠慮させてもらえないかな」
碇シンジが申し出てきた。苦悩に満ち満ちた声で。そんなに接待を受けたかったのか・・・と、さすがに綾波レイも誤解しようがない。そんな場合ではない、というのは共有理解。
この異常事態、放置はありえない。誰ぞに頼んでの解決もありえない。
「もう未来に帰りました、っていうならスルーもありえたけど・・・なんかしばらく、こっちをぶらぶらする、みたいなことを言ってたから・・・・そのフォローというか、もう少し話を聞かないわけにはいかないかなって・・・・あ、綾波さんは忙しいだろうから」
こんなもの、思いきり雑に作られた罠に決まっているけど。踏み込むしかない。
頭のネジが飛んだのか、バカめが、と言われようが、そうだ、としか言いようがない。
ただ、こんな愚行につきあう必要はなく、自分ひとりでいく。学生は時間もあるし。
「わたしも探します」
即決断言。決断力がなければ組織の長は務まらないが、冷静になることもまた必須。
いちいち詐欺にひっかかっていては組織は守れない。ひまな野郎に任せておけばいいのに。
「いや、それはさすがに・・・・ダメだよ。僕に任せて、綾波さんは連絡を待っていて」
そうなると、期せずして綾波レイに休息をとらせられるのではないか?と、それもアリか・・・うん、これこそ天の配剤かも!そっち方面でなんとかいいくるめてやろう・・・
禍転じて福、とまでは言わないが、好機が見つかれば転用するくらいの知恵がなければ父さんに叱られちゃうよとか思ったかどうか、碇シンジは綾波レイを説得にかかった。
割合、すぐに説得できるかと思っていたのだが、失敗した。
泣き落としから偽装ヒートアップやら弁舌術のすべてを用いても綾波レイは小動もしない。「わたしも探します」の一念を貫きとおす。
あやうく本気でキレかかったが、よく考えたらこんな局面で人任せにする綾波レイではないことを思い返して反省する碇シンジ。
JK社長になろうと芯の部分は全く変わっていない。子供を地元の公立学校にいかせるか有名私立に通わせるか、という話ではないのだ。大事件に、あの子たちが危険な目にあうかもしれないのだ。戦闘力が高ければすべての災難から逃れられる、というものでもない。力が強いからこそ招き寄せられるタチの悪いものもある・・・それから、ありえない仮定の話だけれども、もし、碇・綾波・レンジ、シンセが、モノを破壊したり、誰かを傷つけたりしたら、その責任は誰がとるのか・・・・法律もそんなSF想定はしてないだろうけど、道義的となれば・・・
有名人の子供を名乗ってどこやらで悪の限りを尽くしてしまえば、評判や地位に影響がでないとは考えにくい。今回は年齢設定がおかしすぎるけど。
「そうと決まったら、早く休んで。明日は7時に迎えにいくから」
そのまま通話を切ろうとしたので、もう少しルート分断やら段取りなど相談しておきたかった碇シンジは慌てて「ちょ、ちょっと待って!僕はもう少し早い時間から動きたいんだけど!」と異論を差し込んだ。迎えにきてくれるのもいいけど、一緒に行動するのも相手の行動が読めない以上、無駄になるのではなかろうか?と思ったのもある。が、まさか一緒に移動とかしたくない、ように受け取られるのも避けたいお年頃の碇シンジであったのだ。熱意のあまりの早期行動に関してなら交渉の余地はあるだろう・・・・
が、意外なことに綾波レイから
「なぜ?」
と反問された。さきほど盛り上がってしまった温度高めのそれではなく、単純に不思議に思っているような。共有理解領域であるはずのことを問われたように。
「あ、あれ・・?僕、変なこと言ったかな・・・・?」
この問いにヘタな答えを返そうものなら、おいてけぼりにされる・・・瞬時に悟った。
これはよくよく考えないとまずいやつだ・・・・バッドエンドの気配が濃厚。
「わたしたちの子供なら、安全面を配慮して、夜や早朝には移動しない。幼い妹を連れていいるのならなおさら。だから、あまり早く行動しても見つけることはできない」
「そ、そうだね。それは、そうだ。うん、僕が間違ってました」
言われてみれば、確かに碇レンジはそんな感じだった。急ぐ目的でないなら確かによっぴて移動などしないだろう。どこかの宿やホテルで布団に入って眠れていればいいのだが。
素直に謝ったものの、綾波レイのあまりに確信的な物言いに、恐れを感じてもいた。
なんの照れもなく、「わたしたちの子供」、というワードを言ってのける度量に感嘆する。
「だから、向かうべき先はひとつ」
短くとも綾波レイの言いたいことを読むスキルは磨いてきたはずなのだが・・・まずい。
分からない。これしかない、とはっきり言い切ったのだから単純明快な話なのだろうが。
というか、あれだけの情報量でなんでそこまで分かるの!?マザーの先読み力なの?
「分かるでしょう。碇君なら」
げっ!?なにゆえここで、居眠りこいてた生徒に向けるよーな鋭すぎるクエスチョンが!
まずい・・・なんともまずし・・・・これ、答えられないと、ガチギレされるやつ?
マザーブレインの解析力でこちらの脳をのぞいているというのか・・・
試されている・・・なんでここで威圧面接みたいになってるんだよ・・・けど、論理的に考えればわかる問題のはず・・・・自分の子供だと、子供がいる、という前提で真剣に考えればたぶん・・・・だめだ、テレがありすぎて頭が働かない・・・・即答せねばやばいと分かっているのに口から正解が出てこない・・・なんかヒント出してたかな・・・?
「もちろん!あそこだよね、あそこ!まずはあそこにいかなきゃね!・・・あれ!?ナツミちゃんが呼んでる?あー、そういえばトウジから急ぎの連絡があるとか、それかも?ごめん綾波さん!じゃあ、そういうことで朝7時スタンバイしてるから!」
時間稼ぎする碇シンジ。今分からないものも時間が過ぎれば分かるかもしれない。時の力は偉大である。逆に忘却させることもあっても。
「そう。じゃあ」
追撃はかんべんしてもらえて、とりあえず命拾い。しかし、綾波レイの考える、これしかない向かう先ですんなり捕まる保証もないわけで・・・別方面からの可能性を考えるのが僕の役割だ、と割り切れないものもある碇シンジである。ただ、彼女が当然の理としているものが解せないのは悔しい。しばらく、考えていたが睡魔にこられきれなくなったので、目覚ましをセットして寝た。夢も見ない。さすがに脳がキャパオーバーな一日であった。
寝袋にて死んだように眠る碇シンジを黒いルビーアイの聖像が柔らかく見下ろしていた。
夢さえ見てくれれば、その中でヒントを出すとかできたんだけどねえ・・・その表情は。
聖堂にあるからてっきり聖母像だと思い込んでいるのもあったが、気づかない。その名。
綾波ノイ。綾波ナダの娘にして、かつてしんこうべの男全てが憧れ愛した絶対アイドル・綾波レイの母であった。多くの綾波野郎の人生を狂わせてきたある意味、魔性の女にして惨劇生産機。碇シンジが、ここでひと晩眠ったらバラバラ死体になってそうだ、と恐れたのもまあ、まんざら外れてはいない。
正解など結局分からなかったが、朝はきて、時間通りに綾波レイは迎えに来た。