しめた!と思ったわけではないが、碇シンジの決断は早かった。
行動ポイントが切れたかのようにいきなり活動停止状態になった綾波レイをさっさと綾波党本部に連絡して病院送りにしてしまった。こうなると百年級の犬猿の仲のように聞こえるが、生命維持的には問題がない。むしろ、ハードワークを継続しつづけて適切な休養を摂取するタイミング感覚がマヒしていたのが、ようやく戻ってきたというか、これまで心身を張りつめて持たせていた精神力のワイヤーが、「わたしたちの子供」問題という未知のテンション、測定負荷の荷重によってとうとう切れてしまい根性という名の精神支柱も倒れこんでしまった。戦士には休息が必要。碇シンジがその問題を棚上げにした代わりのように綾波レイが棚卸をしてドスン、と潰された、というのが事の成り行きであるが、ふたりきりのためそれを証言する第三者もいなかった。ちなみに3輪バイクも綾波党の者に回収してもらった。さすがに党の上層には話が通っていたので、接待を受けた碇シンジがなんぞ無理を要求してお疲れの後継者を疲弊ダウンさせた、などという噂にはならずにすんだ。というかなっていたらタダではすまない。後継者働きすぎ問題を解決改善解消してもらいたいのは党員全体の悲願でもあった。なら、あなたたちがなんとかしなさいよ・・と思わなくもない碇シンジではあったが黙っている。相手がただのわがままお姫さまなら遠慮なくかましてやるが、なにせ綾波レイである。モノ申すより心臓捧げた方が楽。
思考停止から活動停止になるのは、どれだけ疲労が溜まりにたまっていたか、ということだが、命に別状はない。命に別条があるようなら、さすがに実家が大きな病院で党員にも医療の専門家が山ほどいる。自分たちの命にかえても直言はしただろうが、これが優れた特異能力もちであると、体を動かすだけならそれで代行させて生命力の回復をはかるとうい離れ業をやってのけるのだから話は複雑に専門的になる。碇シンジも理解できない。
組織上位者の適切な休息タイミングは人類の永遠のテーマになるだろうし論じる時間も惜しい。とりあえず綾波レイを休息がとれるベッドの上に運び込めたのだからこれ以上言うことはない。
なんか棚ぼた的にミッションが果たせてしまったが、これも日頃の行いだろうか。
もちろん口には出さない。出しません。うふふ・・・
あとは病院の回復専門家の皆さんにお任せして、レンジたちを探しに行こう。碇と綾波、両方のレンジ、シンセ、その謎もある。まあ、ただの伝聞間違いとかだろうけど。
綾波レンジ、シンセ、となると、自分が婿養子に入ったのか、それとも順当に綾波一族のエリートをお婿さんに迎えた未来からやってきた、とか・・・・おっと考えてはいけない。
棚上げ棚上げ。判断しない。そういう事象が起きているらしい、とそれでいい。
なんらかの罠・・・詐術の類であるなら・・・・綾波さん目を覚ます前にコナゴナにしとくしかない・・・・あ、いやいや冷静に、クールに。感情的になっちゃダメダメだ。
未来の事はわからないんだし?・・・・あー・・・ドラえもんでのび太くんのパパとママが結婚しなくなったらのび太君の体が透けていく、とかいう恐怖エピソードがあったような・・・それとか、バック・トゥ・ザ・フューチャーとか?あちらはある意味未来改変になるのか・・・あんまり変なことをするとタイムパトロールに逮捕されたりするのかな・・・・いや、TPぼんだと、歴史の流れが変わらない人の命を助ける、とかだから・・・
いけないいけない、考えるな考えるな・・・まずは情報を集めないと・・・女子寮の聖堂、とか完全に灯台下暗し、いやさ待てば海路の日和あり、かな?向こうからまたアクセスがあるなら動かない選択肢もあったなー・・・反省反省。まあ、綾波さんの指のことを考えるとあれはあれで正解だったかな・・・・僕、GJ。
「それじゃ、あとはお願いします」
綾波能病院の最上級個室。機能的にもスタッフさんの精神的にもいたれりつくせりなのは言うまでもない。ナダさんの回復で内情が落ち着いたなら、しんこうべで最も安全な場所のひとつなのは間違いない。いうなれば綾波総本家の城であるから、お姫様がそこでお休みになるのは当たり前のこと。それをクラッシュしようと考えるバカはいないし、いたら僕が許さない。まあ、たぶん大丈夫。綾波緑豹に匹敵するくらいに戦闘が得意で強い外綾波、「吹雪」さんたちがガッチリガードしてくれているし。氷雪のオーラをまとった鉄壁有能感が物凄い。氷の異能ホルダーは仕事をしくじらない、これ世界の常識。聞くところによると、党首のナダさんが「合コン」を主催してくれたのでニコニコで懐柔されたとか。深く聞く時間も気力もないけど、一番欲しいモノをドカンと用意されたらそれはケンカするより味方するよね。とにかく、綾波さんはここでリタイヤ。
「ゆっくり休んで、綾波さん。あとは僕に任せて」
疲弊しきった体力精神力を回復させるために完全に深層睡眠に入っている彼女には聞こえないけれど、挨拶だけしていく碇シンジ。専門のお医者さんによると一週間、完全回復までは二週間を想定しているとかで、接待スケジュールもそれで相殺できる。ナダさんの見立て通りということか。こうなるのが分かってたのか・・・いやまあレンジたちの件はさすがにイレギュラーだし、接待中に体調崩してそれを運ぶ役くらいは喜んで任されますよ。
僕、ウンパンマン!と、愛と勇気だけが友達さ!レイとアスカは元同僚さ!・・・さ、バカなこと考えてないで調査にいきますかね・・
ぐわし!!
いきなりわき腹を後ろから掴まれた!シャレにならん握力でのアンアンクロー!
「ヒイイイイ!!」
おぞましさと恐怖と痛さで楳図画風な顔で悲鳴をあげる碇シンジ。
どこのモルグ街の怪人!?いやさここ安全安心な最高レベルの病室だけど!?
かろうじてクローをかましてくる犯人を振り向いてみると・・・・赤い目の女が!怖い!
その眼光が過去イチ凶(ヤバ)い。
「覚醒された!?」「いや!?数値は変化ないわよ!?意識はない・・・・はず?」
「いだだだだだだ!!早くなんとかして!!」「これは貴重な症例ですね・・・もう少し経過観察させてもらっても?」「いやだよ!?アイアンクローに貴重もなにもないでしょ!ゴールドクローなら分かるけど!とにかく、離させて!クロー解除!お願いします!このままじゃアヤナミック・バイオレンスになる可能性が!いだだだだだだ!!」
周囲の医師も看護師も驚きはしてもけが人が増えるのを喜ぶわけにもいかぬので、おそらく無意識下でやっているのだろうが綾波レイによる碇シンジへのアイアンクロー攻撃をとりあえず外そうとしばらく奮闘していたが、かなわず。後継者への遠慮がないでもなかったが、医療従事者のプライドもある。器具も薬剤も使用したが、外れない。
「これは・・・本家秘伝の術の可能性が・・・・貴重な症例ですね。興味深い・・・」
「腕力だけではこうはいかないでしょう・・・異能によるブーストでもなし・・・うーん」
「”逃がさないオーラ”がすごいですね・・・・これは追跡の為の呪術アンカーを体内に埋め込んでるじゃないですか?それが終われば自然に外れるかもしれませんね」
好き勝手なことを言いながら医師たちの数も3倍に増えたが、結局誰にもどうにもできなかった。現代医学の敗北であった。ただ、あまり悔しそうでもない。
「ごめんなさい!綾波さんをおいていこうとした僕が100%、いや1000%悪かったです!ごめんなさいごめんなさい、謝ります!ゆるしてください!もうしません!」
碇シンジが泣き叫びながら謝罪したことで、ようやく勘弁してもらえた。
もちろん、綾波レイは数値上では深層睡眠状態、目もうっすら開けているだけの半寝ぼけで何をどう許したのか誰にも分らない。ただ、碇シンジがこの病室から出られなくなったことだけは分かった。めそめそ泣きながら、とりあえず顔を洗おうと歩き出そうとした瞬間、ジャキン!!とアイアンクローの発射体制になったのだから。イヤでもわかる。
判断力が休んでるのに、攻撃力がそのまま維持されるというのは・・・・「さすがナダ様の孫」「本家の血筋は違う・・・!」「この隙の無さ・・・後継者にふさわしいっ」医療者でありながら綾波者でもある人々は当然のことながら綾波レイへの賞賛が強めで碇シンジへの同情は弱めであった。ラブコメ漫画の看病イベントのように、風邪をひいた美少女ヒロインを主人公の少年が看病したあと、帰宅しようとすると弱弱しく呼び止められたり細い手でシャツのすそを引き留められたりしたとしても、さっさと消えただろうから。
病室であるから健康体のよそ者は面会が終われば早いとこ引き上げてもらった方が管理業務面からも望ましいのではあるが・・・・無意識であるからこそ、本人の望みがダイレクトに表層に現出しているのだとしたら・・・この少年はもしかして・・・・もしかして
未来の王配、ならぬ党配になるとか・・・?この本性剥き出しっぽい引き留め方・・・天城越えならぬ六甲越えしているのでは?いま、ここに未来が確定してしまったのでは?
我々は歴史の目撃者になってしまったのでは?真摯な医療者でありながらもどうしようもなく綾波者であるからこそ、衝撃の興奮の度合いがすごい。最強の血筋がここまでして求める遺伝子とは。冷静公平を定規を使って描いたような後継者がここまで・・・ケダモノめいた独占欲を現出させてくるとは・・・そのギャップに鼻血を出す看護師が何人か。
若かりし頃のナダ様もこんなだったとか・・・レジェンド再現か・・・いい歳こいたベテラン勢ですら戦慄して震える。こんなん見せられたら、後継者というより「姫」として推すしかねえわ!!と決意してしまうもの多数というか、ここにいるほぼ全員。
「あの・・・とりあえず、傷を治療してもらってもいいですかね・・・・血も出てて・・ひぐっ」
こんなの男の勲章よ、と見栄をはってもしょうがない。ここは病院。これ、一生残るんじゃなかろうか・・・泣きべそで訴える碇シンジ。「=外面似菩薩・右手が命紅夜叉=」なにかよくわからない真言を心の中で唱えながら。
「・・・・当初の目的は達成しとるのが、シンジはんらしいですけど・・・・はあ・・・」
感心していいやら呆れていいやら怒っていいやら・・・複雑な感情で鈴原ナツミが碇シンジからこれまでの事情と今、その身に起きている事態を伝えられていた。
病室に備え付きらしいテレビ電話に映っているのは、これまた複雑な感情を宿しまくった碇シンジの顔。
奥の方に数人の看護師さんが見守るベッドで眠っている綾波先輩の姿が見えた。ケガや病気の治療ではなく、ぐっすりと休んで、これまでに根深く溜まっていた疲労を溶かして体調を回復させているのだ、というのは雰囲気で分かる。
大きな怪しい色したツボから不思議な色した煙がたちのぼっていたりするが、まあアロマセラピー的ななにかなんだろう。綾波先輩の周りがキラキラ・・・なんか妖精みたいなのが舞ってたりもするが、それも特別な回復療法なんだろう。碇シンジがそばにいるなら、害するようなもんんではないのは確か。ゆーか、そんなん見過ごすよーなボケ太郎が、かなり広いとはいえ病室でいっしょに過ごす、とか意味わからんし。よう許可下りたな・・・いや、シンジはんの言葉を信じるんなら、綾波先輩が帰さなかった、ちゅーことやけど。
ほんまかいな?
まあ、ウソやったら病院の人たちが追い出すわな・・・・でも、あの綾波先輩が引き留める、とか・・・・実際、ああしてベッドで眠っとるだけやから、シンジはんの行動を足止めしてもなんにもならん。わけやけど・・・どんな寝顔しとるんやろ・・・・あ、いや、同じ女子としてそれは興味あっても確認したらあかんやつ。とにかく。ともかく。
「碇と、綾波、と、それぞれの姓を名乗る、レンジとシンセ・・シンジはんの子供の件なんですけど」
「いやあの・・・声をもう少し下げてもらえると・・・・」
「電話ですから、うちとシンジはんしか聞こえてませんし。さすがにナオラーコたちは後ろで聞いてもらってますけど」
「ひでぶ!!」
「なに北斗神拳くらったような声だしとんですか。もうかなり広まっとりますわ」
「それぞれの目撃情報がけっこう集まってるのら!」「外見ビジュアルが一定してないでつけどね・・・でも赤い目は綾波系のそれで間違いないでつ。目撃者も綾波でつから」「・・電話に割り込んじゃうのはよくないんじゃないかな・・・ナツミちゃんも困るよね?」
ナオラーコ、ツリーツ、コナコ、小賢者が勢ぞろいしていた。すでに知られていた。
寮の部屋だからしょうがないけど、しょうがないけどー!
「うちの手と足だけじゃとてもとても足りませんし、事情説明する時間も惜しいでしょ・・・・まあ、もう少しはよ連絡くれたら助かったんですけど?ちゅーか、未来からきたお子さんの件も知っとったら教えてくれたら良かったやないですか!!ホンマたまげましたし!!なんかのサプライズかと思いましたけど、連絡してもなかなか戻ってきてくれんし!!ふたりして夜になっても連絡ないし、未来に合わせるべくいきなり朝帰りするん!?とかビビりながらもお赤飯炊くかどうか悩んどりましたわ」
「すいませんすいません!その節は報連相が遅くなり真に申しわけなく!それからいたたまれないので未来とか子供とかの強ワードを控えていただけますと!僕のハートに効きすぎますので!」
「・・・いやまあ・・・・逆の立場でしたらうちもおそらく、いや絶対躊躇するでしょうから・・そこは仕方ないですけど・・・けどうちもトンデモ事態はそれなりに経験した身ですし、そこをフォローするためついてきとんですから言うてほしかったですわ・・・」
「ごめんなさいごめんなさい!いま切腹しますからそれでどうかご容赦を!!」
「病院のひとが困るだけですからやめてくださいよ・・・腹パンチ6発くらいでかんべんしときますわ」
「連絡が遅くなりましたのもまことに申し訳なく!病院の手続きなどでいろいろと忙殺されておりまして!決して恥ずかしさのあまり連絡するかしないか、そもそもこんな話誰に助けを求めていいやら迷いに迷いまくったということはありませんがわたくし碇シンジの不徳の致すところであり・・」
「・・・すいません、追い詰める気はなかったんです。けど、迷うくらいならうちには言うてください。無力な後輩やけど、ただの学生の一般人でなんも背負っとらん気楽な立場やから話もしやすいでしょ?兄やんにも・・基本は秘密にしときますから」
「ナツミちゃん・・・・ありがとう・・・・ありがとう・・・ううう・・・」
「え?これフラグが立ったんじゃないのら?」「これは立たざるをえないでつね・・・」「だね、これは立つよ。ビンビンに立つよ・・・男は最後には弱い自分を受け入れてくれる母性に沈められるんだよ」
「あんたら何ゆうとん!?フラグってなんなん!?そんなのビンビンとか立つわけないやろ!・・・・ノリつっ込みも済んだトコで、お仕事の話をしましょうか」
「助かります・・・もつべきものはどんな時でもがんばって仕事してくれる後輩ですよね・・・・同じ中学ですけど後輩でありがとう、ありがとうナツミちゃん・・・・」
「いや、ダブリネタはもうええですから。シンジはんが困ってるならたいがいのヒトは助けてくれますから」
「僕はダブリじゃない・・・ダブリじゃないのに・・・」
「はいはい。とにかく、シンジはんがそこから動けない、となると、うちらが調査して”どうゆことなんか”、分かったらお伝えするちゅうことでええですか?この、ウソかマコトかマボロシか、それともミライなんか、誰かのダマシなんか」
「うん。この件が片付かないと、第三新東京市には戻れない」
断言された。誰かが傷つけられた、とか、何かが破壊された、というわけではない。
もしかしたら、このまま戻ってしまっても何も起こらず何も変わらず、風の噂にもならぬような、ただの都市伝説、というか街怪談、あんな奇妙なことがあったような気もするね、程度ですむのかもしれない。過去が変われば未来が変わる、もしくは世界が枝分かれするのかどうか、ともあれ未来から見物されたからどうなるというのか・・・冷凍されたマンモスを見たからその者の運命が変わったりするかどうか。ヒトゴトであるのなら。
シンジはんと綾波先輩にとってはそうではなく、夢幻のようでも自分事、ときている。
逃げられるはずもなく、聞き逃せず無視もできない。罠だとしたら、よくできている。
真正面からの攻撃力でもってあのふたりを駆逐するのは難しい。ゆえの搦手だとしたら。
だが、碇レンジの方はリアルな実力をもって綾波緑豹を撃退さえしているという・・・そないな話、よう黙ってやがったなこの野郎は、と思うが、自分に声をかけなかった理由もそれがあるなら納得するしかない。荒事にならない保証はどこにもない。力のない自分は真相までは辿り着けないだろう。・・・・いや、それでも朝食まで一緒したんやからそうと知っとったらもう少し目的とか行動日程とか聞きだりたりとか・・・・まあ、実のところ名乗られたんは去り際で、神鉄はんらといっしょにシンセちゃんの可愛らしさをぼけーっと堪能しとっただけやったけどな。ヒトの心の壁ちゅうか警戒心を全キャンセルしてまうよーな、まっすぐ育てばええけど、どこかで歪んでもうたらそのまま国やら世界から傾けそうなー・・・逆にレンジ君は帽子を目深にかぶったままでえらいおとなしくて、いけずうずうしいどこかの父親に似ずずいぶんシャイな印象を受けたけど、超武闘派とか。
うちの目もアテにならんけども。放置はできん2人組・・・・もしくはもう一組、ツーペアなのか。碇・綾波姓を使い分けとるだけの可能性もある。高速飛行するとかで目撃の時系列があんまり参考にならないらしい。いったん訪れた場所はワープできる、とかいうオープンワールドRPGみたいな機能もあるなら追跡はお手上げ。目撃者に話を聞いてなんらかの手がかりが得られるなら上等、というあたりか。迷子とも家出とも違いそうだが子供探しミッション。元来なら綾波先輩とシンジはんが仲良くふたりきりでするはずやったんやろけど・・・むしろそれが目的、自分たちの未来の子供を探す旅をすることで絆というか親密度がアップしていき、ラストはめでたく契りを結ぶ、とか・・・・うーむ、ゲーム脳すぎるかな・・・・そうなると、一応、代理でも、探す努力はしとかんとまずいかな?
いや誰に対してか、というのは難しい問題やけど。どっかで見てるとか、未来のアイテムで愛情の進展具合を測定とかプラスとかマイナスとかチェック判定しとるとか。
アイシアンか?
いらんお世話というか、無駄な努力になる可能性が非常に高い。なにしたらどうしたらミッションコンプリートなのかもわからんし。いっそ、何もせんのがベスト正解、自然の流れ大宇宙の運行に任せてなんとかレコードに記録されとるとおりにしか事態は推移せんのかもしれない。ただまあ・・・・シンジはんが、碇シンジが「ケリがつかんと帰れへん」というのなら、片づける苦労は惜しまない。それくらいには尊敬しているし、好意もある。
兄の親友であり、自分の(ダブり)先輩であるのだから。
「それじゃ、何か分かっても分からなくても定時連絡はしますんで」
「お願いっ!ナツミちゃん!頼りにしてる!特に僕の気持ちを慮ってくれるところとか!」
目をウルウルキラキラさせながら頼み込んでくるが、要は、配慮してくれ、と。ネタばれされなければ知らぬ顔で通せたのに、妄想がかたちをとったかのようなこっぱずかしさがそれはあるのだろうし、うまく片付いて第三新東京市に帰ったあとの口止めもあるか。
・・・自分がおんなじ目にあったとしたら、どうだろうか・・・
碇ナンジと碇サクラ、とか・・・・・・・・・・・・・・・危険すぎるな、このネタ。
禁忌として封印するしかない。人が想像することはいつか実現したりするとか?こわあ・・・
「あ、でも定時連絡でよかったですか?綾波先輩の寝顔を見ながら甘酸っぱい空気になったところで後輩からの業務連絡とか、しらけません?大丈夫ですか?」
「万時オッケーです!というか、完全ふたりきりじゃないから!お医者さんとか看護師さんとか病院スタッフの方々とか綾波党の偉いひとたちとか、大部分の時間はいるから!」
じゃあ小部分の時間帯はおらん、ということか、というのも野暮なのでつっこまない。
あのネルフが誇る電撃韋駄天小僧、碇シンジが足止めくらっている、というのはよくよくの異常時なのだ。そっちのほうがよほど怪奇現象だ。綾波先輩の寝顔に絆されて病室をどうしても出られなかったんだ、なんてタマではない。なんかあったのだ。黙ってるが。
黙っているといえば、まだ秘密にしてることがあるこの野郎、本当は接待がイヤで逃げたのではあるまいか・・・その途中に碇レンジたちに出くわした、とか・・・
罰があたったのだ、というのはこの場合適当かどうか。とにかく、第三新東京市には一緒に帰る。まー、ここで婿養子になって綾波党員にもなる、とかいうなら好きにせい。
そのための気長な下拵え宣伝、サブリミナル噂の流布とかいうオチやないやろな・・・
父親は少々アレな兇状もちでも、未来の子供がああもかわいく立派でしゃんとしているなら、まあ受けいれてやらんでもない・・・?的な?やっぱ血統信仰は強いしなあ・・・
それにしても、どこから手をつけたものか・・・陰謀は陰謀と分かった時点で意味をなさなくなるけど。この時点で未来にもう帰ってるなら徒労ですけど。マトがあの二人なのは間違いないので、一緒にいて待ち構えている態勢、というのはそれはそれで振り回されるよか正解かもしれない。気持ち的には兄に頼りたいところだが、さすがにこんな雲か風を捕まえるような話に加担させるわけにもいかないし。世の為人の為のお仕事もある。
兄と妹・・・・ターゲットとなる碇・綾波のレンジ・シンセ兄妹たちは離れず一緒に行動しているようだ。常時おんぶにだっこしているわけではなかろうけど。それでは赤ちゃんだし。兄が妹をしっかり守っているんだろうな、というのは想像に難くない。
どうもうちの兄やんもひそかに現地入りして自分たちをガードしていたのではないか。
そんなことを思うと・・・・まあ、このお役目も自分に適役と言えなくもない、かな。
あちこちでトラブルやら事件を起こしているなら、綾波党も積極的に動くのだろうけど今のところ把握できている目撃例は、穏当に両親馴染の施設を訪れて見学したり、商業施設内で買い物をしたり、というただの旅行者のそれで、騒ぎを全く起こしてない。名乗るから聞いた者が動揺するだけで、それをしなければ仲良し兄妹がのんびりしんこうべを見物しているようにしか見えないわけで。ただ、しんこうべ内外の赤い瞳の全綾波者を把握している綾波党の名簿にもその名、個人データはない。本腰を入れて調査すべき事態なのか、それを最終判断するナダが第三新東京市に行っており不在というのもある。党組織が本気で捕獲や保護に乗り出すのも・・・争乱一歩手前の状況からなんとか回復、一段落したところであるから大げさに動きにくい、というのもある。次次代の後継問題など誰も掘り下げられたくもない。後継者・綾波レイが頭をひねるところだろうが、今は休息中。
そのあたりを狙いすました、いやらしい切り口、攻め手であるのか、ただの偶然か。
ナオラーコらがいろいろ事情を教えてはくれるが、彼女らにしても綾波オフィシャルというわけでもない。ジュブナイル部門における趣味的な怪奇現象調査というだけで。
あんまり現地事情に切り込むようなことはできないし、すべきでもない。
シンジはんはやるやろうし、そこに綾波先輩がついとるならもう無双状態やったやろうけど、自分は違う。あくまでよそ者の一学生にすぎない。まあ、シンジはんも身分的には同じなんですけど。内蔵しとるもんが違いすぎますしね。暗黙の了解というか契約というか。
後継者、次期党首の入り婿ほぼ確、とかいうご予定ならば、そらもう地元対応は違うし?
「父母を探してはるばる時を越えて〜・・・父には会ったからあとは母、ってことならもう会いに行っとるやろしな・・・・まあ、疲れて寝とるところに押しかけるのもアレやから回復するのも待って、とか?危機が迫っとるのを知らせにちゅうわけでもない・・・」
世界の破滅が3日後にあからさまに迫ってる、というのでなければ、身の丈にあったことをさせてもらうしかない。ゆーて、実は期限は2日しかありませんでした、いちいち終末のラッパなど鳴り響いて告知されませんよー、ざーんねーん!なんてことに・・・
なっとるんなら、さすがにうちの手なんかにはおえんし。とにかく方針の確認。
碇シンジが満足して帰る気になるようになってくれればそれでいいわけだけど・・・・
人の手を借りようというのなら無闇に動き回りの、犬も歩けば方式、というわけにもいかない。素人なりに行動指針は決めないと・・・と、鈴原ナツミが考え始めたところで部屋にノックが。「ちょっといいざますか?」神鉄ではなく寮の女性職員でもなく、インターホンですむところをわざわざ居闇カネタがその足で呼びに来たあたり、気をつかってもらっていることは分かるが・・・どういう方面のそれなのかまでは分からなかったが
言われた通り、そこまではつきそってもらった応接室に一人で入るとその理由が分かった。
「県警の綾波ヤスといいます」
スーツ姿の若い男がいて丁寧に頭を下げてきた。警察手帳よりその赤い瞳が身分証明している。まあ、神鉄がこの寮に入ることを許した、ということは詐欺でも芝居でもないだろう。ここから自分が素人学生なりに忙しくなることは分かってるだろうし。とはいえ
用件が分からない。まさか逮捕とか、しんこうべから追放、とかじゃないやろな・・・
シンジはんはともかく、うちはやらかした覚えがない・・・いや、ウルトラマンモノの著作権がどうとかいう話!?それで事情を聞きにきたとか・・・今さら感あるけど・・・
「現時刻をもってあなたの部下となります。ぼくのことはヤス、と呼んでください。ボス」
「はあ!?」