使徒、来襲
 
 
 
となれば、それはもうエヴァ、それからそれを駆るパイロットたちの出番であり、自分の出る幕ではない。鈴原ナツミはそう考えるし、疑問の余地ない絶対事実であろうから逃げるほかない。
 
 
「鈴原ナツミちゃん、だよね?」
 
しかし、それが・・・使徒は使徒でも、そっち関連でも・・・「使徒使い」となれば?
 
 
「はい・・・そう、ですけど」
・・なんでうちの名前なんか知っとるんですか・・・
 
 
黒を基調として紫をところどころに挿してある男装スーツ姿。単体、というかひとり。
 
 
こっちの目に見えないだけで、護衛の使徒を何体か侍らしている、はず。いやまあ、正確にデータを知っているわけではないけど、そうであるはず。正確には知らない。第三新東京市の神話、伝説に近い。人の身で人類の天敵、使徒をコントロールする管理資格者。
 
 
使徒の来襲がなぜおさまったのか。公式の説明も解説もない。ただ、東の鎧都、武装要塞都市・第三新東京市の住民という名の人柱であった者たちはそれとなく聞き及んでいる。
 
 
使徒、天の使いを向滅、殺しつくす以外の手打ちの方策を成した誰かがいるのだと。
 
 
天使語が流暢にいけたのか、神ディールをうまいこと炸裂させたのか、詳しくは知らない。
難しくは分からないが、停戦、終戦の空気は分かる。もちろん、この先も何事かいろいろと厄介な禍事は起こるであろう。約束された聖地ではない、極楽することはできない。ひいひい言いながら対処しつづける羽目になるのだろう。少しづつ、代替わりしながら。
 
 
命を繋げながら。
 
 
人が地に這いながら身を寄せ合いながらたまには小突きあったり揉み合ったり喜怒哀楽の季節を見守っている・・・その瞳はかたちとしては人と同じであるけれど、その奥は。
その色は。止まない雨が混じり続ける海の色。捜査のためのアシ、綾波ヤスの車(パトカーではない)がおいてある駐車場へ向かう途中のことだった。
 
「ボスのエスですか?」
 
ついてきている綾波ヤスが問うてくる。相変わらずファミコンキャラのように表情が読めないので何らかのシャレのつもりなのか本当に知らぬのか判断がつきにくい。単に世間が狭い・・・のか、「その名」を口にしたくないだけか。SITOのSなら分かるけど。情報提供者、スパイの意味ならいつから潜り込ませとったっちゅーんや!そんなわけあるか!
 
 
 
霧島マナ
 
 
 
「いえ、知らないわけではないですが・・・・」
 
やばい存在の友人ともなれば、自分もやばいということになる。うちは普通の中学生。
あちらも見た目は中学女子。聞くところによるとほとんど歳をとらない体なのだとか。
見た目を変えることなど容易にできるのだろうけど。人の姿であっても、それ以上。
目撃するのは仕方ないにしても、長々と話したりして関わるのはアウトな御方。たぶん。
 
 
「まあ・・・後輩、ですかね」
 
碇シンジは先輩でありつつ同級生になってしまったが、あちらは見習えるところもヒューマン的になさそうだが、先輩、ということにしておくのが吉とみた。むろんパイセン呼びなど大凶に決まっている。たまたまエンカウントしたわけではない。碇シンジの居場所やこの街の状況全て承知の上で、自分の前に現れている。目的も、なんとなく、察せる。
 
 
「やっぱり鈴原君の妹だけあって、すごくカンが、察しがいいんだね」
 
こっちが分かっていることを向こうも分かっている、というのは楽ではあったもあんまり楽しいものではない。なんともいえぬプレッシャーを感じる。その気もないのに迷宮深部に誘いこまれている感覚。ショートカットもレベル差があると良し悪しで。何事も強制はよろしくない。自分がそういう性分なだけかもしらんけど。人間相手ならヤスさんがなんとかしてくれそうやけど、まあ相手が悪い。ケガさせられたりとかはなさそうにしても面倒なことになる予感。ほめられてもなあ・・・アホのふりするのも兄の名を出されるとなかなかやりにくい。
 
 
「シンジはんのトコへ直で行かんトコロからすると、レンジ君たちのことですか?」
 
行っておったら面白いことに・・・と思うほど鈴原ナツミも悪趣味ではないし、大地雷原のニオイもするので踏み込んだりはしない。ひとでなしの恋愛感情など凡人の無資格者が取り扱っていいもんではない。
 
 
「まあ、ね。アンテナにひっかかったから、ついつい興味が湧いちゃって、ね」
 
活動拠点のことなど聞いてはいけないし、教えられてもロクなことにならない。
どうやってここに現れたのか、移動手段のことなども。情報収集方法も。知らぬ方がよい。好きなように世界のどこへでも踏み越えられるのだろう。人の法だの則だのに縛られることもない。欲するものには容赦も遠慮もないとか聞くから仙人ともまた違う・・のか?。アルティメット限界突破した魔法少女・・・?・・・・そういうのにターゲットされる先輩・・・碇シンジと綾波レイ。現在、看病イベントの消化中でいらっしゃるのに。
 
 
正しい後輩としては、どう対応するのが正解なのやら。「どうしますか、ボス」
ボスはええから。勇者とか、最近いらん属性つけられすぎなんやけど!
 
 
「碇レンジ君たちを探してるんだよね?わたしも混ぜてもらっていい?」
 
そうくるか、とも思ったし、そうきたか、とも思う。碇レンジ、と口にした。綾波レンジたちのことを知らない可能性もあるし、碇シンジの手前、なにであろうとそう呼んだだけかもしれないけど。めっちゃお断りしたい・・・女子中学生のなんちゃって捜査に天下無双の使徒使いがパーティイン!とか、どんな罰ゲームか。太陽に吠えたい。
 
とはいえ。
 
断れるはずもない。パワー的にも、断った後の行動予想的にも。病院に缶詰になっている(させられている)シンジはんを救い出すのも使徒使いなら容易いだろうし、やりかねない。「じゃあ、シンジ君といっしょに捜査しよっと〜♪(口笛はファミコン探偵倶楽部)」なんてことになったら、未来変わるのでは?改変してしまうやつでは?世界線が切り替わるのでは?・・・ここで、この使徒使いを足止めしなかったばかりにエンディングが・・・・なんてことになってもかなわない。いや、なんの責任もないただのいち後輩だけど!
 
 
「まあ、ええですけど・・・ヤスさんもそれでええですか?」
「ボスのご命令どおりに」
ここで警察のメンツがどうとか、小娘が捜査に加わるなんて!とか言い出さないのは助かる。まあ、うちをボス呼びしとる時点で全ての感情を封印しとるんかもしれんけど。
明らかな矛盾をここで「異議あり!」とか指摘しないのも有難い。
 
「素人の人探しなんで、いろいろまどろっこしいとは思いますけど・・・土地カンもないですし、ヘタな鉄砲撃ちまくって結局ぜんぜん当たらん、ちゅう可能性が高いですけど」
 
「でも、シンジ君の後輩さんが一生懸命自分たちを探している、となったら、向こうの方がコンタクトしてくるかも?いっしょに朝食を食べたりもしたんでしょ?」
 
そんなことまでいつ把握したのか、と驚くのも疲れるからスルーするとする鈴原ナツミ。
 
逆に言えば、そこまで知れるような超越存在が、なぜ碇レンジたちを捕捉できないのか。
自分たちの前に現れたように、碇レンジたちの前に現れて話しかけたりしないのか。
できないのか、やれないのか・・・ドン引きされるからやりたくないのはあるかも。
 
 
謎、というほどのものではないが、なぜ自分に、と考えてみれば、察しはつく。100%正解である自信はないけど。使徒使いは使徒使いであっても、同じ女子であるからには。
 
自分の器には余る、余り過ぎるオーバースペック捜査員の加入はある意味、吉報でもあった。かの使徒使いが自分相手にのんきにこんなこと言うとる、”その余裕がある”、というのはシンジはんや綾波先輩に害が及ぶような状況には”ならんだろう”、ということ。
 
そう見せかけての悪女ムーブかますには、自分は小さすぎる。というか、意味もない。
 
碇シンジが欲しければ、実力行使すればいいのだし。未来の子供をサーチする意味とか。
碇レンジが未来で邪魔になるから、その父親の碇シンジを排除しにきたーみねーたー的オペレーションでもなかろうし。右往左往するのが今のうちのミッションらしい。どうも。
 
王様の耳の真実は木のうろに。使徒使いの心情は、どこに収めればちょうどいい?
 
 
ちょうどいい相手、なのだろう。うちは。ぎりぎりの内輪というか。
 
 
かなりの思い上がりというか、外れておった方が気分いいくらいやけど。相談役、というのはハイレベル賢者の役割っぽいけど、本人自身でも「しょうもな・・・」と感じつつ誰ぞに語らずにおれない心情。碇レンジ君を見定めにきました、とか鼻息荒くイケメン未来予想図とか語られるのも少しは覚悟していた。使徒使いが時の流れをものともせず、同じように長命強靭な生命を求めたからといって責める頃には人類滅亡してたりとか。
 
碇シンジと綾波レイ、の血が交わって作られたからといってなんの弱点もないスーパーマンになる保証はない。互いの血が力が強すぎて相殺、という可能性だってある。
エヴァをどうこうする才能証明や血統保証・・・そのへん、自分の兄やんが台無しにしてしまった感もあるから基本ノーコメントとしたい。それならまだ恋愛至上主義を謳う方がマシなんですけど。そのへんを実証研究したい組織やら機関やらがいてもおかしくはない。というか、この現地がすでにそれだし。もしかしたらもう進行しとるかもしれんけど。
 
 
しんこうべのあちこちを、名所めぐりでもするように、少年少女の影を求めながら
 
 
現在、この世界にひとりしかいない使徒使いの話を、心情を、想うところを聞いた。
 
 
自分は正規のネルフ職員でもないので、いち女子であることを最優先して秘匿する。
忘れてしまうのが礼儀なので近いうちに忘れようとは思う。飲茶代も奢ってもろたし。
これに喰われずにすんでいる、というのはシンジはんは相当に運が強い、というのは。
忘れられそうもないけど。
 
 
夕日に溶けるように使徒使い霧島マナの姿が失せた。「シンジ君と綾波さんによろしく。じゃあね」その挨拶も夢だと思った方がしっくりくるほど。その来訪は使徒来襲と同義。
夢でなければかなり面倒なことになる。使徒使いが一学生に気を使ったりはするまいが。
 
「ヤスさん、あのー、今日の事、上の人に報告とかは・・・」
自分は女子を優先しとけばいいが、公務員はそうはいくまい。この場合の公が、どこ向けかは別として。有能な運転手に徹してくれてたけど、完全にまねごと捜査にさぞムカついてたかもなあ、と思うと申し訳ない鈴原ナツミであった。女子中学生の考えることではないが。
 
 
 
「現在の上の人はボスです」
ドット印字されてるような声色はまったくブレない。顔色もファミコン画像のように深読みをゆるさない簡潔さで。なんかロボコップよりも怖い。ダーティーよりもなんか怖い。
異能も怖かったが、宮ワーカーの手本みたいなこの態度が何より怖い。その怖さゆえに
 
 
「なんかおもろいこと言うてください」
 
と、つい反射的にムチャぶりをかましてしまった鈴原ナツミ。こんなこと相手に言ってスンとも笑わんかったらパワハラではないか。とはいえ、まったく期待できそうもない。
まったく面白くないネタにムリヤリ笑う、なんてことはできん。体質的にできないのだ。
遺伝的にも。そもそもこんなこと言われてやる気になるのは生粋の芸人だけで、ふつうの人間は小バカにされてる感を受けてムカつくだけであろう。おもろい空気でないのなら何をいっても面白いはずがない。ものすごく後悔するが、意外にもリアクションはすぐにあった。
 
 
「犯人は」
 
 
げ!!腹いせ、というか、パワハラ認定による正義行使の異能発動か!?
そ、それは自分が悪かったけど!つい、じゃすまないのも分かるけど、堪忍してほしい!
 
 
「ジュジャク、かもしれませんね」
 
 
「え?」
しんこうべにおける鉄板ギャグとかなのかもしれないが、寡聞にして知らなかった!
おもしろポイントがまったくわからん!警察の隠語的なアレ?
 
 
「これだけ探しても休息地に至る痕跡を残していない・・・たとえ飛行したとしても街中なら着地点は限られます。タクシー、電車といった交通手段も用いていますが、周囲の注目を集めながら、不審を感じられることなく消えています。強く興味を惹かれながら積極的に追跡する者もいない。ただその姿を見届けるだけ・・・点が線にならぬよう・・・認知をずらされているかのように」
 
 
「え?」
 
突然マジの報告になってきた・・・・これは、謎でミステリで、フフフ、これは興味をそそられる・・・面白い・・・とかいうやつ!?それとも単に女子トークばっかりしとったからあてつけ!?いや確かにはたからみればそうにしか見えんでしょうし、実際そうなんですけど!うちも好きでボス呼ばれされとるわけでは・・・なら、ムチャぶりとかするな、ちゅう話ですよね・・・マジすんません・・・・ちゃんと運転以外の仕事もしとくれとってホンマに感謝です、それなのにうちは・・・・でも、認知をずらされとるとかいう話はおもろいな・・・・言われてみれば噂にはなっとるけど、騒ぎにはなっとらん。綾波先輩の未来の子供、なんて話は、聖処女性を貶めとるぞー!!みたいに怒りだす層もいようし、後継者の次代を世襲させるための戯けた宣伝工作だ、とっ捕まえて暴露したるわ!みたいなことになってもおかしくはない。それらが群れをなして大声をあげる展開になっても。
やるな、と言われても関わる者は大勢いるだろうし、その筆頭に本人たちがいる。
碇シンジと後継者・綾波レイが何日も地元を探し駆け巡っていればどうなったか・・・
 
 
 
「面白かったですか、ボス」
 
声色はまったく変わらない。表情も。登場時点から一ミリの変化もない。綾波ヤスは。
 
 
「そ、そうですね。そう言われてみると、かなり面白いことになっとりますね、さすがプロの刑事は違いますわー!高水準のおもしろグレードでしたわ!GOE500満点!」
 
本来であれば謝るべきところなのだが、相手の反応が相変わらず読めなすぎるのでできなかった鈴原ナツミ。ジュジャク、というのも分からないままだし。あとでそれとなく調べてみると、なつかしのアニメ「ヤットデタマン」に登場する時間を自由に行き来するクジャクに似た神秘生物らしい。それを捕まえると王位継承ができるとかなんとかナンダーラ。
手塚治虫の火の鳥、とか、時間超越存在との邂逅、という意味ではあってるのか・・・
まあ、犯人なわけないけど。人でないし。
 
 
 
「今日の捜査はここまでですか?ボス」
 
ここでセーブしますか?イエス/ノー 的表情で聞いてくるので、「はい」と答える。
 
明日もやるんかな、と思わなくもなかったが、ひとならぬ積年のひとかたならぬ話を聞くのも疲れるのは疲れるので今日はここまで、女子寮まで送ってもらう鈴原ナツミ。
 
 
夕食の時間には遅れてしまったが、きちんと温かいものは温かく、冷たいものは冷たく用意されていた。これで作ってくれたのが居闇はんじゃなかったら・・・いや!あのビジュアルでせめてなかったら涙流して喜ぶんですけど、というも贅沢。若者の明日の健康に留意されつつの美味は素敵。これでもう少し量があったらなあ、美味しい飲茶もけっこう頂いたけど、傾聴するエネルギー消費も膨大なものがあったから、おかわりほしいなあ・・・という顔をあらかさまにしていたら、「夜食にはケーキもつけるから、今はそれくらいにしとくざます」と言われた。?いや、今日は夜更かしするつもりはない。お風呂からあがったらナオラーコたちと情報のすり合わせをして、早めに休むつもりだった。
 
明日はもすこし捜査っぽいことを重点にやらねば。さすがに今日みたいな乱入はなかろう。
きょとん、としてたら居闇カネタはさっさと奥に引っ込んで断るタイミングを逸した。
深夜、急激にお腹が減って眠れない可能性もゼロではない。まあ、翌朝の朝食時に調節してくれるかもしれない。長い滞在でもないのに、このあたりの差配の信頼度はもはや万全。
文句のつけようもないが・・・ホンマに・・・・・あのビジュでさえなければ。
残酷な人の見た目は九割のテーゼ。ヤスはんといい・・・うーむ・・・
 
 
いやいや!?まあ、うちもひとさまのこと言えるほど大層な美少女ビジュアルゆうわけでもないけどな!綾波先輩とか惣流先輩とか、美少女絶対領域からターボかけて世紀の美女の聖域に足を踏み入れているモノホンを見知っていると思いあがることなどない。
 
その神域美少女と一つ屋根の同室で朝も昼も夜も過ごしている碇シンジが何も行動を起こさなかったら、・・・・・まあ、男じゃない、というか人間じゃない、というか生命体ではない。そりゃ周囲の医療チームの目があっても、発射してしまう時は発射してしまうだろう。どんなボタンを押そうと、発進してしまうのは止められない。
 
罠に近づかなければ、罠にかかることはない。罠の方から襲い掛かるわけではないのだ。
かかった以上、罠に近寄ったその者の責任。罠に触れないという選択の自由があるのだ。
 
まあ、たかが10年そこいらしか生きてない小娘である自分には分からないことだけども。
兄の生態ともまた違うんだろうしなあ・・・シンジはんは・・・違う生き物なんやろしなあ・・・肉体の門をくぐってしまうのか、ロマンチックラインを死守するか・・・・
家だの政治だの世界だの責任だの選ばれた不安の共有だのを一切無視、リセットして個人同士で好きなように流れに流されてまうのも、それはそれで清々しいのかも。うーむ。
 
大昔の大陸の国では、偉人が生まれる兆しとして、龍だの鳳凰だの麒麟だのが出現したという。これが西洋圏なら違う受け取られ方をしたであろうが、吉兆ということで。
特別大サービスで未来の面影が映し出されたとか?それなら犯人とかいないわけだ。
ジュジャクとか言い出されるのも・・・これが推理小説なら、その突飛な単語が謎の突破口になったりするのだけど・・・まあ、ないわな・・・
 
 
 
いろいろ考えながら風呂からあがって部屋に戻ろうとすると、「今夜はこっちの部屋を使うのら」ナオラーコに呼び止められ、「ぜったいひみつリモートかいぎしつ(乙女用)」なる手書きプレートが掛けられた個室に連れていかれた。
 
「リモート・・・・?」身長的にはアレでも確かにナオラーコらも乙女であろうし自分もそのつもりであるから異論はないが、会議というか話はいつも自分たちの寮室でやっているし・・・使徒使いの件をもう掴んでいるのだとしたらさすがだが、少し気合が入りすぎてはないでしょうか。自分、今日は早めに寝たいのですが。明日でもよろしいでしょうか。
と、言いたい鈴原ナツミであったが、居闇カネタの言った夜食の件を思い出した。
 
「念には念をいれた特別の秘匿回線だから、好きにしゃべってもらっていいのら」
「もちろん、この寮の誰にも聞かれないでつ」
「わたしたちもモニターはしますが、音声言語化はしませんので・・・ごゆっくり」
 
赤木ナオラーコ、ツリーツ、コナコ、ナリは小さくとも世界破壊・・いやさ賢者級のシステム管理者が断言するのだからそうなのだろう。しかしながら、ここまでして誰と話せと?
使徒使いと差し向かいで飲茶もしてきたのだから、誰だろうと驚きはしないけれど。
 
腹七分目くらいでお風呂にも入ったあとだから正直もう眠い。こっちから頼んだなら我慢もするけど、・・・・あ、いやいや、大変なことが起きるか起こるかもしれないなら、ここまでするわけで。やっぱ使徒使いに関するネルフの査問的なやつかなあ・・・兄やんに迷惑がかからないといいけど・・・でもうちにしたって不可抗力なわけで・・・・
 
まあ、正直に話しとくか・・・・とは思いつつ、話せない部分も多い。使徒使いの女子領域とか信じてくれないかもしれないけど・・・・あー、夜食ってそんな長く聞かれるかもしれんのかー・・・・かんべんしてほしいな・・・でも、しゃべらされたことがバレたらマナはんもブチ切れて襲撃かましたりせん、よな・・・・リモート会議室、といいつつ広さ的に画面と対面しての一対一がようやく。用具入れを急遽改造した感が。埃っぽくはないけど、なんでここで感が強い。なんなら設備が整ったとこへ出向いたっていいのに。
なんやおかしいな・・・・
 
 
複雑極まる回線の開封手続きやらはナオラーコたちがぜんぶセットアップしてくれた。なんか楽しそうな感じがするのはさすがに被害妄想か気のせいだと思う。うちら、仲よかったよね?
 
 
ここまで鈴原ナツミが「相手は誰?」と聞かなかったのは、疲れがあったせいか一日に使用する警戒気力が限界突破していたせいか。ナオラーコらも居闇カネタも秘密にするつもりもなかったが、なんとなく口に出しにくかったのだ。適任がほかにおらぬゆえの選任など本人からしてみれば重苦しいだけで。鈴原ナツミがその名を聞いては受けるしかない、断らぬだろう不憫もあった。でも、勇者はいかなる苦難を前にしようと逃げることはないのら!そんな信頼と期待もあったのでつ。
 
 
 
通話先は海を越え大陸の天京。今夜限定ではあるが世界最硬最堅のダイヤモンドラインが開通した。各国情報機関が阿鼻叫喚し、電子の魔法使いたちが大雪崩に呑み込まれていく。
強制的に耳なし芳一にされるスリラーナイト。はた迷惑極まるが、小さな賢者は知らん顔。
相手はどこぞの世界大統領ではなく、惣流アスカ。
 
 
 
「こんな時間に悪いわね・・・・」「現地に乗り込めばこんな手間はいらないと思うがな・・・面倒くさい・・・」「・・・保全状態確認・・・まあ、こんなコトが可能なのは今夜この時間帯しかありませんが・・・・くれぐれも漏洩はないよう注意してくださいよ?」
 
 
ただ、画面にいるのは、鈴原ナツミが見たことも聞いたこともない惣流アスカだった。