「血の配合がどうたら、とか言われたらそりゃ、ぶん殴るけどさあ・・・」
深夜の赤木リツコ研究室に在室確認すらせずやってきた葛城ミサトは親友の淹れてくれた賢者コーヒー、もしくは魔女が生成した絶望より黒い色をした液体をグビグビやりながら
「まるで考えないってわけでも、ないわけよ・・・・分かるでしょ?」
理不尽な鬱積をゲロゲロ吐き出していた。むろん、組織の長がやっていいこと口に出していい話ではない。せめてもTPOはギリ守ってはいたが。そのはけ口受け口にされる方もたまったものではない。普段であれば、東方賢者赤木リツコ博士も論理と倫理の二刀流でもってギッタギタのズッタズタにした挙句、追い出していただろうけれど。
状況が。深夜、愛する家族たちが待つ家にも戻らず、待機したままのこの現在状況が。
受け入れるしかなし、と高度知性ゆえに諦めざるをえない。目の前のグダグダ女につきやってやるしかなし、と。西からの風雲が急を告げていた。国内はしんこうべ。
碇シンジ(未成年)と鈴原ナツミ(これまた未成年学生)が向かって到着した矢先のこと。
綾波ナダの危篤
巨大異能組織・綾波党党首にして綾波レイの祖母。数々の伝説をもつ嵐を呼ぶ女が舞台から去ろうとしている。孫娘の晴れ姿を見届けることもなく客席からも遠く離れようとしている。・・・これ自体はどうしようもない。医療で鳴らしたしんこうべでどうにもならなければ多少の知見はあろうがこちらからスタッフを派遣してもどうにもならぬし受け入れもせぬだろう。人体改造はあちらも得意で、それでもこうなった、この時を迎えた、というのはもう、いたしかたない。・・・・マギの予想よりもだいぶ早かったとはいえ。
そんな時に人を、しかも学生ふたりを送り込んでしまった後悔はある。あるにはあるが、相応の手は打ってあるのでさほど心配はしていない。まあ、国内であるし、一応友好関係ではあるし。ギリ。現地で何回かやらかしてはいるけど、手打ちはすんでるし党首は了承してくれたから今は共存共栄関係だし。その後継者も綾波レイで確定というのなら。
この先は。
未来は。
いつかは代替わりはする。早いパターン、遅いパターン、ちょうどよいパターン、または早すぎるパターン、もしくは遅すぎるパターン。力のある強大な組織集団であればあるほどこの引継ぎは難易度が高くなる。はじまりは人を引き付けてやまなかった夢、志の旗もいつしかセピア色に染まっていく。どうしても。哀しくても汚れっちまうもので。
綾波レイ。自分たちの知っていた、見ていた、表も裏も、こわくなるほど真っ白いあの少女が、変わっていく。変色していく。もともと、異変あっての縁であり、なにもなければ地元でずっとおひいさまとして育成されていたのだろうけど。自分たちはもう知っている。
その未来、その道行の先に幸あれ幸いあれ、と願い祈り、露骨に邪魔だて妨害する者あらばケリをいれてやるくらいには知っている。何が少女の幸せなのかとか分からなくても。
めちゃんこ借りがある身なのだ。使徒来襲の時、ここにレイやアスカがきてくれてなかったら。・・・シンジ君だけでも使徒は殲滅できていたかもしれないけど、それでも。
「逆ハーレムってのも言い方悪いわね・・最近はバチェロッテだったかな・・・・一婦多夫制度というか、母系の血筋優先なら男は種馬くらいの意味しかないし・・・レイに夜な夜な若い野郎が夜這いしてあとは知らん顔とか・・・ゆるせねえ・・・そんなの絶対なんかおかしいでしょうが!!!」
「党首後継、いや、党首となれば選択権はよりどりみどり、というか、異能だの血筋は厳選されるでしょうし・・・・実際は党幹部が選出した有能な遺伝子を取り入れる・・・んじゃないのかしらねえ・・・・・たぶんそうなるわ・・・むしろ、選ばないわあの子。基準値に恋愛項目とか初めから除外されてるでしょう・・・」
血の有用性。有効に血筋を使うこと。選ぶこと。選ばれること。そんな子供をつくること。
「チルドレン」(適格者)。
そんな子供を使ってきた、それこそ酷使に酷使を重ねてきたてめえたちがどういう言うのは筋違いも甚だしい。それはもう百も千も万も十万も百万も承知の上のこと。
しんこうべ現地で蔓延っている「聖母派」だの「聖レイ派」だの「聖事派」だの・・・
好き勝手な本音を言えば、「使徒戦で死ぬほど頑張ってきたんだから十年くらいはモラトリアム期間でほっといてダラダラ過ごさせてあげてもいいんじゃないの?」と、「聖ダラダラ派」を立ち上げて参戦したいところであるが・・・あるのだが・・・そうもいかない。
まったくもってそれは正論かつ正解であるからだ。天の使いを刈り取った怪しげな戦帰りの小娘を差別し阻害し非難しているならまだしも、己たちの上に、至高、このうえない御座にすえようというのだから、その判断に100点満点をつけるしかない。十代少女、という外見に目をくらまされずその真価を見事に見抜いているわけであるから。こちらとしてもそりゃ悪い気はしない。レイからしても人の本性を見抜く目をもっているのだから。
世襲以上に実力というか、実力以上に器であろう。文句のつけようがない。
赤い瞳のものたちが仰ぐ冠として天秤として旗として灯台として他の誰よりも。
「それは、レイしかいないでしょうよ・・・・でもねえ・・・・」
「ヒトにはそれぞれ役割がある。ひとつの役割が終われば、次の。人々に望まれ凡人には務まらない、無理にさせれば多くの不幸を招きかねない、慎重に選ばねばならない役目に望まれていることを、わたしたちは祝う立場にある・・・・・・んだけど・・・・」
幸せの形はそれぞれであるし、重責を若くから担いそれを果たし続ける幸福もある。
本人のみならず、多くの人間を幸福にする可能性が高いのだからなおさら。
「うう・・・・レイがへドリアン女王のコスプレしてる未来図が見えちゃった・・・・」
「それは、飲み足りないのね・・・ヒト型だからまだいいでしょ・・・女王アリとか女王バチとか昆虫型に連想走った私よりはましでしょ・・・お家安泰には多産が手っ取り早いかもしれないけど・・・どう理屈もこねてもこっちから介入できない領域だし・・・」
使徒戦の日々を潜り抜けあれだけの超ド級の苦労をしたのだから、未来は輝かしいはず。そうでなくてはおかしい!!。ハッピーとアンハッピー、禍福のバランスといいますか!
ただ、なにを幸せに、なにに輝きを感じるのかはレイ本人にしか分からない。こんなのは
オバハンどもの余計なお世話だ。他人から言われたらぶん殴るけど。
この調子で埒もないことをえんえんと話し続ける。アラートがまだこないのもあるけれど。
スルメなどをあぶってそれを齧りながら。「シンジ君とレイとか・・・どうなのかしらね」
どちらがそれを口にしたのか。それとも同時だったのか。互いの腹は読み切っている仲。
「いや、レイがシンジ君を、でしょ。この場合」「どっちでも同じでしょ・・・」
「いや、同じじゃないでしょ。でも、レイはいざとなったら一生養う気でいたわけだから」
「いや、あれは単なる責任感でしょ。恋情とかでは・・・いえ・・・もしかしたら・・・」
「とはいえ、外から見りゃそれこそ政略ってことになるだろうからねえ・・・」
またしても結論の出そうもないことをニヤニヤ話している。自分の顔は知らないが、葛城ミサトの顔があまりにも楽しそうで少々腹が立ってきたため「そうなるとアスカはどうなの?」楔をかましてやる赤木リツコ博士。無責任かつろくでもないことを考えている可能性がある。作戦家というのはそういう邪悪な生物でもある。うかつに信用してはいけない。
己自身が今は邪神の館の祭司めいた銀色吐息を吹いている自覚はあるけど。
「ひとつ屋根に住んでいた少年少女が大きくなって・・・ひとつの番になる・・それもロマンだけど・・・身近すぎて・・・兄妹みたいな感じでずっといっちゃうのもあるあるよねえ・・BGMはオフコース、小田和正さんで、みたいな?」
「シンジ君が兄で、アスカが妹なの?ミサトの見立てでは」
「少なくとも、姉らしくはないからねえ。一番近いのは男女の双子。この話、無限にできちゃうけどいい?聞いてくれる?」
「やめとく。もしかしたら、あなたたちは三姉妹だったのかもね。葛城三姉妹」
「コーヒーショップ経営とか面白かったかもねえ。それで、夜になったら使徒と戦うの」
「昼も戦いなさいよ・・・ま、盗みに入るよりはいいかしら」
アラートはまだこない。このタイミングでなにか人類に絶望することがあった使徒使いが「やっぱ人類滅ぶべし!」とか言って使徒を繰り出して来たらえらいことになるけど。
危篤状態ではあるけど、まだ。持ち直す可能性も、ないわけではない。死亡確定の報を待つ時間。これを消化するのも仕事のうちとか因果なことで。そんな話くらいしてなきゃやていられない。
「呼び戻す選択も、あったんじゃない?シンジ君一人じゃないんだし」
「・・・うん。まーね、ナツミちゃんには悪い事したわね。お兄ちゃんに連れ帰ってもらう選択もあったんだけど・・・気が乗らなかったのよね。必要になる気がして」
「誰の事?鈴原ナツミさん?それとも・・・」
「・・・・参号機は呼べないわよ。まだ・・・まだ早い」
組織の長ともなると、ストレスを吐き出しているだけでは務まらない。最悪の想定、それすら越える極悪ナイトメアレベルの事態も予測し対処の準備くらいはしておかねばならない。そうならないのが一番よく、そうならないために最強の一手を早期に繰り出しておくべきなのだが・・・「聖事派」とやらに担がれたあげく、レイと零号機が使徒ではないものにその力をふるうとなれば・・・それは誰が止めるのか。やらねばならぬのか。
初号機か,参号機が、血も焼けるカンカン骸骨舞台の上で踊り狂う零号機の首を刈る。
慟哭しながら、コアを砕く。神話にあるような一幕。神でそれなら人はどうなの?
そんなクソ未来、実現してたまるか・・・・!けれど、火をつけるはたやすく消すのは難しい。天井までに火が届けば初期消火は失敗、さっさと逃げねばならない。
もちろん、これは最悪オブ最悪の想定であるし、安定の日々が続く可能性も高い。
ただ、安定の日々が続くのは、何があった時、または起きる前に、有能な火消し役が小火のうちに人知れず消していただけのこと、であったかもしれず。彼の地、しんこうべではその大役は綾波党党首が担っていたのだろう。が。危篤状態ではそれも果たせまい。
党幹部が無能とは思わないが、現状維持を望む者が大部分でもあるだろう。それでも。
起きるときは起きる。
燃えるときは燃える。
壊れるときは壊れる。
それを留め立てする知恵を人類は編んではきたが、まだまだ発展途上。最前線にいる自分たちにすら、これをすればオールオッケー!的な鉄板手法を手にしてはいない。未だ。
幸い、科学の力で連絡性能は格段に上がっておりそれを有効利用するのが早道最善だと分かってはいるものの・・・今回のケースで厄介な点は。
未だ、綾波レイと連絡がとれていない、ということだった。
携帯端末をどこぞに紛失した可能性もないわけではないが、綾波党経由でも「党首代行としての重要任務のため出張中につき連絡はご遠慮ください」などと言われれば不安しかない。限られた幹部しかどこへ行ったのか知らず、そもそも真の話かすら判然とせぬ。
祖母が危篤となれば世界のどこへ出張してようが、さすがにUターンするはずだが・・・その形跡もない。ネルフの総力を挙げれば解明もできないこともないが・・・それをやってしまって私用の事情を暴くことにもなれば今後の関係はどうなるか・・・悩ましい。
こっちだって綾波党にネルフ首脳陣の動向を逐一報告しとるわけでもなし。
後継者を自派に取り込むべく、移動中に誘拐監禁説得洗脳、という流れも想像できなくも
ない。危惧されるのがこのケース。まさか地元でやられるとは思いもよらぬだろうし。
そんな戦国的心得まで教えてないし。そんなのをナチュラルに体得してても哀しい。
現実が18禁のゲームより上等であるとは限らないが、まずそうな流れだ。
レイがそんなことになって涙も流せないような光景など想像もしなくない。あ、やばっ!ちょっとやってもうてコーヒーカップをひしゃげてしまった。我慢我慢・・・
まだ表立って街に火の手があがっているようなことはない。異能バトルがあちこちで展開していることもない。平常。高齢ではあったが死にそうもない偉大な自分たちの太母の命が消えようとしている驚きに震えているのだろうか。深夜だが教会に祈る者たちが列をなしているという報告もある。酸の宮など歓楽街も普通に営業はしているようだ。モニターに「この街のヤバ危険度メーター」でもついてりゃいいのに、とは思うが。誰が開発するのよ、とリツコ博士につっこまれた。
「シンジ君たちは本当に大丈夫なんでしょうね?鈴原君がついてても多勢に無勢ってことも・・地の利もないでしょうし・・・」
もし万が一、妙な輩に取っ捕まってこれまた絵にも描けないようなことになっていたら。
ここでこんなことを言ってもしょうがないのは、分かっている。無い袖は振れず、準備していない戦力は投入できない。するにしても後腐れないようには相応の時間が必要。
ナギサ君も八号機とともにステーションに戻っているし、アスカもまだ天京だ。
いやいや!もちろんエヴァで現地にカチこむわけにはいかないんだけども!
最大の後ろ盾になってくれるはずの綾波ナダと対面できなかったのは、まずすぎた。
心配しかない。科学者でも東方賢者でも、心配しかない。知恵を働かせて「こんなこともあろうかと!」とか言ってみたいけど!心配するしかない。もちろんレイも含めて。
「しんこうべで最も安全な場所、というか、”番人”のそばだから大丈夫だと思う」
それ以上安全な場所とか考えつかへんわ、みたいな顔をして親友が答えたので少し安心する。これで「安全かどうかわからん」みたいなアホアホ解答したら、額に穴をあけて風通しをよくしてやっていたところだ。
「鉄人・・・・」
「鉄人・・・・」
葛城ミサトは「番人」だと表現したが、実物にお目にかかった碇シンジと鈴原ナツミがそろって口にしたのは「鉄人」だった。
綾波イヌガミに案内され到着した聖☆綾波女学院女子寮の門で待ち構えていたのは、巨人。
エヴァを見慣れている目でも、巨大に見えるのはその人物が並外れてぶっとい両腕を持ち上げたポーズをとっているせいもあったが、威圧感、オーラが凄まじかったからだ。
帽子の庇で輝く眼光も強凄い。それでいて恐怖はあまり感じない。無限の頼もしさ、大地の如くの安定感が問答無用で勝負を諦めさせる。勝負をしてはダメな存在であると即座に悟る。どのような血の気の多いファイターでもこの巨影の前では首を垂れるしかない。
力の次元が違うパワフルさ。もし、あの腕がこちらに降り降ろされたら世界が終わる・・・・そんな予感がビシビシと。少なくともこのしんこうべでは絶対に逆らってはならぬ。
強者は強者を見抜くが、鈴原ナツミだってそんなことは分かる。そんなレベル違い。
鉄人28号にそっくり。
長田の方にある像がそのままやってきたのかと錯覚するほどに。本物を見たことは二人ともないけど。映像で見たことはある。日本最古のスーパーロボット。いや、人間だけど。
だが、眼光は赤。綾波者だった。
名を、綾波神鉄。番付表第一位、誰もが認めるしんこうべ最強の男にして聖☆綾波女学院の校長先生だった。女子寮の管理人でもあった。かつての姿は包帯魔人と称された包帯グルグルマンであったが・・・かつての骨肉の死闘の傷が癒えていなかったのだ・・・それでも碇シンジ率いる襲撃グループを叩き潰したことがある。それを考慮すると好感度はゼロ底値どころかマイナス・・・・単純にここで問答無用でぶっ潰される可能性が非常に高い。かつてのリベンジ、再戦を挑む気は毛頭ないのに。というか、まさかここでエンカウントするとは夢にも思ってなかった。リサーチ不足、事前の攻略情報の収集不足は即死。ゲーマーとしては切腹ものであるが・・・向こうもキズが癒えて完治状態ということは単純に考えてパワーアップしているだろうし、こちらの戦力は一般中学女子となると・・・
戦いたくはない・・・けっして戦ってはならぬ相手であるし、当初の目的を考えるとバトルとかありえん展開ではあるが・・・これで罠なら、戦わずして鈴原ナツミを逃がせるか・・・・厳しいところだ・・・綾波イヌガミ・・・彼女もすでに敵だとしたら・・・
ここで、こんな序盤で禁じ手、鬼札を使ってしまうことになるとか・・・・うーむ・・・
「シンジはん?なに肩からバトル風吹かしとんですか?ごあいさつしませんと」
かつてのやらかしを知らない鈴原ナツミからはつつかれるが、別に最低限の礼儀をしらぬわけでも、巨体の威厳にビビり散らかしたわけでもはない。いや、若干の恐れはあるけど。
黒星つけられた過去にはどうしてもこだわってしまうのが少年のガラスハートだったり。
「・・・しゃあないですね。(綾波先輩のことが心配しすぎて頭がまわらんのかもしれんし・・・)」
しかしながら、女子と勇者の神経はそんな野郎のちぃちゃい拘りなど簡単に超越する。それを兼ね備えている鈴原ナツミならなおさらのこと。あの巨体に気後れがないわけではないが、こんな夜中に門前でわざわざ迎えに立っていてくれる(ポーズはあれだが・・・つっこまないでおこう)のだから、まずは礼をのべるのが基本の人の道であろう。
「お迎えありがとうございます、うちは鈴原ナツミといいます。こちらは碇シンジはんです。到着が遅うなってもうて申し訳ありませんでした」
ぺこり、と頭をさげる。客観的に考えて鈴原ナツミのしくじりは何一つないのだが。
「今日、ちゅうか、今夜、ちゅうから、これからこちらの寮でお世話になります。どうぞ、よろしゅうお願いいたします」
オーラからしても、ただの警護役以上の責任者クラスであるのは、感じ取れる。感じなくても誰に対しても似た様な口上にはなっていただろうけど、怖気ることもなくすっぱりと鈴原ナツミはまっすぐ相手を見ながら言った。
「うわ!ナツミちゃん、僕の後ろに隠れておいて!前に出たらだめだよ!?」
今さらながら、勇者なつみんの前に立つ碇シンジ。勇者とはいえ勇気ムーブすぎる!
「ビビりすぎてしょ、シンジはん・・・何かやらかしたんですか・・?ゆーか、シンジはんも頭くらいはさげてくださいよ。いろいろ気になって頭まわらんのかもしれませんがスジは通しておきまへんと、ね?」
ふたたびつつかれた。「何かやらかした」かと問われれば、やらかしの過去ではあるのだが。ここで説明できる空気ではない。でもまあ・・・明らかに一般人で敵対行為もしてない以上、番付表一位の最強が、罪もない少女もまとめて叩き潰しとか乱暴な手法を用いるとは考えにくい。願望も多量に含んでいるけど。ああ、チンさんがいたらナツミちゃんだけ逃がしてもらえるのになあ・・・早めにゲットにいかないとなあ・・・うわっ?
「よろしゅうおねがいしまーす!」
つつかれても下げない頭を、首の音つかまれてむりやり下げられた・・・・どちらが年上なの・・・尻に敷かれるっていうのは聞いたことあるし現物も見たことあるけど・・・
こんな出来の悪い部下っぽくやられてしまって・・・僕は・・・・
「よろしくおねがいします・・・」
手のかかる出来の悪い部下っぽくアイサツだけする碇シンジであった。ただ目つきは。
(僕は何発かシバかれても仕方ないけど、ナツミちゃんに手を出したら絶対にゆるさないからな・・・・反則も禁じ手も辞さないからなあ・・・はぁはあ・・・)
凶悪デンジャー極まるもので。
新たな性癖を開発されてしまった者の瞳ではなかった。なんか呼吸も荒かったが。
普通の門番ならば、こんなのを絶対に入れることはない。
<碇シンジへの好感度情報>
しんこうべ市民=しょせんはよそ者。ではあるが、男のくせに女子寮の門をヌケヌケくぐろうという奴は神鉄に滅ぼされろ、と思っている。恨みというより常識で。
聖事派=忙しくなってきたので邪魔さえしなければ放置。ただよその派閥に取り込まれると厄介そうなのでもうワンチャンくらい篭絡してやろうか、くらいのプランはあり。
綾波党=碇シンジ本人に悪意も隔意もないのだが、(呼んだのは党首だし)この状況下では最早その保護者やバックと早急に話がしたい。小僧扱いで悪いが、それが力学的正解。
綾波レイ=変動なし(なおも情報遮断状態が続いている。)ただ、時計の針が想定よりも早く回ってしまったからには、なんらかの判断、結論を出す必要がある。
準備など出来てなくとも