中学生は、中学校へ行く。
 
 
 
それが、「中学生らしさ」というものだろう。
 
 
いろんなことが・・・・・激震というか烈凍というか、使徒来襲にも慣れてきたこの都市の住民もさすがに辛抱たまらんようなことが重なりはしたが・・・・・
 
 
それでも、人は「らしく」生きていく。
 
 
曖昧であるからこそ、強靭、ということでもある。「らしくありたい」と願う限り。
 
 
世の中の状態が渾沌、人の事情はさまざま、心の内もグラグラ揺れまくっていても
 
 
それでも、らしく、生活していく。
 
 
 
ここ、第三新東京市の中学校2年A組でも、そんな「らしい」生活の一幕があがっていた。
 
 
 
 
「あー、転校生を紹介します」
 
始業前、担任の根府川老教師が、拍子木でも打つかのように。
 
 
”よりにもよって”と子供達は思った。いろんな意味で。しかし、その芝居めいた空気に納得も、していた。いろいろと慣れていた、というのもある。”そういうものたちに”。
新体制後、ある程度の入れ替わりはあったが・・・・・これは。彼らは彼女たちは
 
 
4人。全員、ただものではないオーラを出しており、「中学生らしく」など、ない。
 
 
感受性の高い中学生のことではあるが、磨かれた人物鑑定眼なぞ望むべくもないが、これは。分かる。分かりすぎた。別にオーラを見なくてもよかった。芝居なればこそ、幕があがった矢先には驚けない。どよめきが起こらないのは、そんな納得があったせい。
 
 
さて。
 
 
「では、順に自己紹介を」
 
教室に入った順、もしくは背丈、あるいは五十音か、
 
 
「アカギ、カナギです!あ、ナギサ、やっほー」
「アカギ、サギナだよー!みなさん、ナギサがおせわかけてまーす!」
どう見ても、このクラス、というか、学校自体間違っているような・・・・幼い姿ふたり。
 
 
赤木カナギ、赤木サギナ、と根府川先生が板書していた。確かに手が届くまい。
制服からして、超特注な感じだ。もはや反則であろう。私服にしとけとも思うが。
 
 
渚カヲルを知っている者は、彼の子供時代の幻影のように思えたし、知らぬ者も机で頭を抱えている火織ナギサの親類かと。ともあれ、場違いなんじゃね?根府川そのへんどーよ?という視線を老担任に集中するが、反応すらなく。ええんですか?いいんかい。飛び級うんぬんよりは、「ネルフ関連」なのだろう。いよいよ時代はここまできたのか・・・・・的に。
 
 
これだけでもインパクトは十分すぎるのだが、時代はさらなる荒波を用意していた。
 
 
三人目の名の板書で
 
 
どよよよっっ
 
いかにも「おまえらおどろけ」的シュチュエーションでは、かえって人は驚けない。ある程度の予想がつくならなおさらのこと。しかしながら、耐えきれず2年A組の面々からどよめきがあがってしまったのは。不意を、打たれたせいだろう。しかも、裏側から。
その姿を見慣れていた者もいた。忘れるはずもない、特級美少女の面影。
 
 
セカンド・チルドレン、惣流アスカ・・・・・・・
 
 
生き写し、というのも陳腐な言い回しではあるが、まさに。彼女と同じ顔、同じ姿、
 
 
ただ一点異なる・・・・・・左眼の黒い眼帯をのぞいては。
 
 
式波ヒメカ
 
 
名も違う。別人、なのだろう。眼帯に覆われていない瞳には、表情がない。
幼児ふたりと対照的に、この場になんの興味もないような、静けさ。惣流アスカと違いこの場になんの記憶もないのなら当たり前の状態かもしれないが・・・・・洞木ヒカリがじっと見詰めていた。惣流アスカの帰還、一秒で霧散したそんな奇跡の残光を。
 
 
「拙者、式波ヒメカでござる」
 
 
どよよよよっっ
 
どよめき再び。先のふたりのインパクトに対抗しようとしたわけではなさそうだ。素だ。
 
 
「この都市には剣技の習得に参った。何事にもそちらを優先させるゆえ、皆の和を破る時もあるかもしれぬが、お許し願いたい」
 
淡々と一礼した。つられてクラスの半分が頭を下げ、もう半分は、ぽかんとしている。
こちらもまあ、来る場所を間違えているのではなかろうか・・・それとも時を駆けたか。
なんにしろ、美少女枠から、ヤバイ枠確定であった。よもやチャンバラのスポーツ推薦でもあるまい。
 
 
「にゃははは、正直だねえヒメは。ま、あとあと面倒がなくていいか。で、トリのあたしが真希波・マリ・イラストリアス。長いから、呼ぶときはマリでいいからね。あたしも急にいなくなる時とかあるかもだけど、体は健康なんでどこぞでぶっ倒れてるとか心配はノーサンキュー。よろしく」
 
一人くらい一般人でもよかろうに、とも思うが・・・・・・眼鏡のこいつが一番やばい。
ここで暴れ出してどうこう、ということはないだろうが。
その名が偽名でないのなら・・・・・・「獣飼い」筆頭、”魔の牙”。なんでここに。
 
 
担任の調子は、表だって口には出せぬ警告だったのかもしれない。
 
 
「・・・・・」
綾波レイも彼ら全てを、知らなかった。クレセントの転入自体は承知していたが。
鈴原トウジや相田ケンスケの視線を感じるが、応じることはない。知らぬのだから。
 
 
「皆さん、仲よくしてあげてください」
 
この時期、このクラスへの、新しい学友・・・・
 
白々しい、とはいうまい。根府川先生とてそういうしかあるまい。教師らしく。
 
 
「では、転校生の皆さんは空いている席に、とはいえ、視点の問題がありますから、赤木くんたちは一番前に・・・・・別に椅子も職員室に用意してありますから、洞木さん、鈴原君を指図して椅子を運んであげてください」
「いやそれ先生!直接指示してくれればええんとちゃいますのん!ま、了解ですけど・・・おう、ナギサ、オノレもつきあわんかい」
「なんで・・・いや、分かったよ」
「ありがとー」
「はやくねー」
 
 
鈴原トウジたちが教室から出て行くのと入れ替わりに、式波ヒメカと真希波・マリ・イラストリアスは適当に空いている席に落ち着いた。なんのこだわりも、宣戦布告めいたそれらしい挨拶もない。けれど。
 
「あれ?遅刻なの」「遅刻か・・・」
 
二人して、とある席に視線を向けて、同じようなことを、言った。現時点で空席の。
そこは。
 
「では、出席をとります。・・・・碇シンジ君は、今日も欠席ですね」
 
 
学校に来ていない、中学生らしくない中学生の席だった。