ああしてやろう・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・、
 
 
 
こうしてやろう・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・、
 
 
と、いろいろ仕返しの方法を、考えてはいたのだ。
 
 
世に残る大軍師ともなれば、こんな状況でも先を読む感性を研ぎ澄ます鍛錬の時とするのだろうが・・・・・そういうことも少しはしなかったわけではないが比率として。偉大な先人にあの世で問うて見るハメにならなかったのはよかったが。
 
 
自分は、無実だったのだ。犯人ではなかったのだ。濡れ衣を着せられていたのだ。
 
 
尊敬する元上司の殺害未遂などという・・・・おぞましい所業を己が成したなどという・・・・・疑いは、晴れた。晴れたのだ。予想もせぬ粘り腰と異能を得た妹分が、その名のように、晴らしてくれた。
 
 
まあ、なんというか・・・・・・これはいわゆる、「復讐するは我にあり」状態であろう。
 
 
爆殺チョーカーを解除された葛城ミサトである。ようやく自由に動ける。
 
 
風雲急を告げている自分たちの根城、第三新東京市はネルフ総本部に今こそ戻らねばならぬ、というタイミングで無駄な足止めをくらった。この無念、この憤り、このド怒りをぶつける真犯人は目の前にいた。今こそ、身動きとれぬ状況の中、腹の底でグドグド煮詰めに煮詰めてきた復讐の溶岩シチューをぶちまけてやる時・・・・・!
 
 
で、あったのだが・・・・・・
 
 
「あ、あのミサト・・・・・これは」
 
 
”真犯人”と同行してきた・・・・
 
それも、がっちりと「確保」しながら・・・・・・・
 
惣流アスカが、その見事な働きにはあまりにもそぐわない、かつてない歯切れの悪いバツの悪い表情でなにか言いかけて、やめた。葛城ミサトも妹分の言いたいことは、わからんでもなかった。確保しているというより、されているその腕。まあ、こちらも大人ですし、まだ十代の妹分に濡れ衣を晴らして助けてもらったとかいううすらみっともないことになっていたわけですから、あまりえらそーなことはいえませんけど!にしても、それはないんじゃね?とか大人げないことを言ってしまいになる。ギリギリ・・・・・歯軋りの音がどこからかしてるわね・・・・・・・なんでアスカがびびった顔なのかわかんないけど。
 
 
「まあまあ、どうどう、・・・・な?」
 
十分こっちの気持ちを共有しているはずの連れ添いが位置移動したのはなぜかしら。
いやねえ、腹をすかした虎じゃあるまいし飛びかかって見境無く引き裂いたりしないわよ。
まあ、おしおきはしたいけど。100%自分の気分で。
 
 
「ほ、ほら、アンタも謝りなさいよ、そのために連れてきたんだから・・・」
 
言いながら腕を無理に解こうとしないのは、姉貴分を陥れた卑劣極まる真犯人に対して惣流アスカにしては異様ともいえたが・・・・たとえ、相手が包帯グルグルの半死人だろうが彼女は容赦するまい・・・・それを、しないのは
 
 
「おねえさまが仰るなら・・・・・ごめんなさい、すいませんでした」
崩れかかるようなお辞儀にあまり反省は感じられないが、意識は”あるワード”に一点集中、もっていかれる。
 
「”おねえさま”!?」
 
いろいろと、指摘し、修正をいれたかった。が、そこを堪忍してくれ、という妹分の顔をみればそうもいかない。いろいろと限界ギリギリであったけれど、なんとか耐えた。
 
「はあ・・・・・」
 
まあ、いろいろとあったのだろう。しかし、肝心なことを物事のキモを外してはならんのではないか・・・・この場合、肝要なこととは・・・・・
 
てめえの妹分が、姉として仰がれているのなら、子の子は孫、というか、妹分の妹分となれば、娘みたいなものになるのか違うか・・まあ、妹分、ということになるのか・・・・
礼儀作法はあとで思い切り仕込んでやらねばなるまいが・・・・・今の死に損ないでは。
 
自由の手始めになにをするか・・・・・・復讐するは我にある・・・・・が。
 
死に損ないの小娘に引導わたして後始末の葬式するのも時間が、もったいない。
 
せめて、もう少し、真犯人らしくしてくれてたらなあ・・・・・・・
 
などと、ちょっとは思ったけれど。あんなことやこんなこと・・・・・・って、いかんいかん。つっこむより怖がらせるより、アスカには先にいうべきことがある。
 
ぎゅっ
 
と思ったら、抱きしめていた。アスカのついでに、くっついている半死人の水上ミカリも。
「ミサト!?」「くむ・・・」
そこは分かったのか制止はなかった。めったに見ないほんとの笑顔で笑ってるし。彼にも心労かけたなー、なんか白髪ふえたね。健やかなるときも病めるときも、ってのは基本だけど、牢屋につながれるときも・・・となるとむつかしいけどね。けど、さすがに手が足りないから抱いてあげない。とりあえずは、妹分ふたりを存分に、満足するまで。
 
そのくらいは満喫させてもらってもよかろう。厄介ごと山積らしいシャバに出る前に。
 
 
ぎゅっ、ぎゅっ、ぎゅのぎゅ!
 

 
 
 
「こなかった?」
 
防寒仕様の綾波レイがやってきた。
 
 
「あ、父さんの霊魂が、きましたよ」
 
なぜか敬語の碇シンジの返答に、いつも以上の雪女より無表情で、そこらに転がっていた冷凍みかんを拾って投げつけた綾波レイ。かわしようもなく、額に命中する。
 
 
「すいません、嘘でした」
正座と土下座の中間くらいで詫びをいれる少年。
 
 
「きたのね・・・彼女」
 
それを見下ろす冷徹極まる赤の目。碇司令が他界せずにすんだ、という話は聞いている。
 
いつぞやとは、さかさまの厳寒の対峙。ここにいる、ということは連れ去られなかった。
疑いとはまた別の、彼の意思というものがある。この都市を離れる選択。血は地にあらず。
 
 
「きました。マナ・・・霧島さんが」
 
「さそわれた?・・・・碇君」
 
「いや?・・・・手続きの連絡みたいなもので」
 
「・・・・・・・」
 
嘘はついていないようだが。まあ、聞くべきコトはべつのこと。ここで問いたださずともよかろう。緊急の問題があるのだ。人はそれを試練、と呼んだりするが。
 
 
VSのことである。・・・・いくらなんでも箒はないだろう、と思う。宅急便をするくらいしかない。それで正体不明の使徒と戦うとは無茶ぶりがすぎる。
 
要するに、使徒使い霧島マナに対する試練は、終了したのではないかと。
 
いわゆる、詰み、というかたちで。
 
使徒が来襲してくれば、それは自分たちが相手をするにやぶさかではない。
 
が・・・。
 
 
 
「彼女は、なにを、証明するの?」
 
自分たちには言わなかったが、もしかして、彼、碇シンジにならこぼしたかもしれない。
似た者同士、同位存在として、共感共鳴する何かがある、と彼女は考えているようだし。
 
碇シンジなら、それに応えることができるのではないか・・・・・
期待しすぎというのなら、ただのカンでいいけど。なにせ賭の賞品は彼の大事な
 
 
「霧島さんは、霧島さんを、証明する・・・・それだけだと思うけど」
 
脳、とかいうのではないだろうけど。期待外れかつ失望するよな返答だった。
面白くな・・・いや、面白くしてもらっても困るのだけど。彼にも告げなかったわけだ。今日日めずらしく、絶対の秘密が守られる、告白には指折りの場所だと思うけれど。
 
 
「・・・・・・・・」
真剣での不意打ち突きにも近い己の問いかけに、すぐ前の夜雲色の目があっさり呑み込んでみせたことには、あまり意外にも思わない綾波レイであった。
 
 
そして、くるりと背を向ける。もう、用事はすんだとばかりに。
体力的にかなり限界、というのもあった。まったくもって、これであとひとつ何が大事なパーツを取り戻すだけで真人間に戻れるとは・・・信じがたいところではある
 
 
 
「貝の火、みたいだったよ」
 
 
呼び止めるつもりはないのだろう、完全に独り言の口調。ここで足を止めて彼のもとへ戻る体力はない。誰かシェルパ役がいてくれれば引き摺ってでも領域外へ帰還させてくれるのだが・・・・本部内で凍死、とかシャレにならない。
 
 
おそらく、貝の火、とは宮沢賢治の童話のことだろう。ここでサザエの壺焼きが食べたいでございまーす、とか言われても、こまる。そちらの方が分かりやすいけど、おそらく、そうではない。出前をだしても、到着前に凍りつくにきまっている。
 
 
それは、何を指したのか・・・・・戻って問いただそうにも、体力がつづかない。
 
ちら、と振りかえると、当人はもうごろん、と転がっているし。・・・・なんだか・・
・・・・・眠くなってきた。・・・・まぶたが・・・急に重く・・・・・なって・・・・