なにせ相手は人類の宝たる世界遺産。いくらこちらから破壊・攻撃できぬ、とはいえ、
 
 
”モンサンミッシェル商店街パンチ!!”
 
 
「うわーーーーーーーーーーーー!!」
 
まんま攻撃を食らってやることもないだろうに、さきほどから鈴原トウジの参号機は合体巨像のパンチをかわせずにいた。ビームでもミサイルでもないのでそれをかわしたところで後ろのビル群が破壊される、ということもないのだが。
 
 
”モンサンミッシェル商店街パンチ!!”
 
 
「うわーーーーーーーーーーー!!」
 
ネタでやっているのではあるまいかと思ってしまうくらい、食らってぶっ飛ばされる。
遺産巨像のサイズがサイズであるので、パンチが神速ということはなくむしろ傍目からみてかなり緩慢な動きである。パンチ、といってもそのように表現しているだけで、実のところはモンサン部分が参号機にぶつかっていっている、というだけでチョップかもしれないし頭突きなのかもしれないが、格闘技解説者でもない限りまあ、どうでもいい。
 
 
肝心なのは、それを、鈴原トウジと参号機がかわせない、という事実。ATフィールドがあっても装甲にヒビがはいるくらいの透徹ダメージがある、ということ。
 
 
 
「まずいな・・・・」
 
格闘技解説者でも評論家でもなく、発令所からこの状況をなんとかする知恵を絞り出すのが仕事であるところの日向マコトにして、景気の悪いうめきを隠せずにいた。
 
使徒相手に「相手が悪い」「勝手が違う」「そんなの反則」、などと言うたところで始まらないのはいつものことだが。に、してもだ。今回のは、ちょっといろいろ毛色が違う。
 
基本、VSであることは、まあ、おいておこう。使徒がくれば相手をせんわけにはいかないのだから。
 
 
それにしても、霧島マナが地下に潜った、というのは・・・・・・文字通り。
逃げるなり隠れるなり、というのはまだ分かるが。碇シンジに助けを求めにいった、というわけでもなく、さらに深く。父親の霧島教授が管轄していた凍結樹海、ニフの庭へ。
そこから何をしようというのか・・・・打ち合わせなど出来ようはずもないが・・・・
 
 
この機に乗じて火事場、いやさこの場合、極地、というべきか、泥棒を働くつもりでいるなら。・・・・・・・・副司令と司令が対処すべき問題だろう。作戦部の自分には。
 
 
使徒の相手が先決だ。だが・・・・・
 
 
コアが見えない、と火織ナギサは言った。使徒殲滅とはコアの破壊であり、その急所を外しているようでは時間のムダと不要の被害を受けるだけ。まずはそれを押さえねば。
怪なる獣のように追い払う、という選択肢があればいいが。
 
 
あの遺産巨像が使徒ではなく、単なる攻撃手段であるなら、そればかりにかまけていられず、可能であれば、早々に叩き落としてやらねばならない。フィールドさえ中和ないし剥離反転できるのなら、その中身の強度は・・・・・知れている。知れきっている、といえる。N2爆弾、通常の爆薬だけで十分、「対応」可能だろう。
 
 
ここに碇司令や葛城さんがいたらどうしていたか・・・・・・・・いや、背負うのは誰でも同じか。さして、難しい問題では、ないのだ。やろうと思えば、やれる。そのための段取りも手配も進めさせている。
 
 
現在の戦力は、エヴァ三体。参号機、八号機、後八号機。体調不良の零号機と自主封印状況の初号機が使えない。それでもエヴァ三体、というのは大した戦力である、と思おうとするのだが・・・・・・
 
 
八号機をコアの、本体使徒の探知に、
 
後八号機を遺産巨像に接触データの収集に、合体部の切り分けが可能であればそれを。
 
そして、参号機を足止め、可能ならば都市部反対方向へ誘導・・・・・というところで
 
 
役割分担して事に当たらせたわけなのだが・・・・・・
 
 
三機とも成果があがらない。参号機のダメージを考えると、負けの坂を転がり始めている、という恐れが止められない。それを防ぐには・・・・・
 
 
”モンサンミッシェル商店街パンチ!!”
 
「うわーーーーーーーーーーーーーー!!」
 
参号機もそろそろ限界だ。いちいちくらって足止めもない。なぜあんな鈍重パンチを”格闘戦最強”の血を引く参号機がかわせないのか不思議でしょうがないのだが・・・・・重圧に身が竦んでいるわけでもないのだろうが・・・・かわせ、と言えばかわせるならば世話はない。鈴原トウジ本人も「なんでこんなノロノロパンチ、よけられんのや・・・?」と首をかしげているのだからどうしようもない。豹のように巨像に張りついて敵データを収集する後八号機にフォローさせるか・・・
 
 
「かわしなさい!鈴原!」
 
無慈悲というかきつすぎるというか、これ以上なく体を張っている彼に対して、そんなことを言えるのは、彼女しかいない。洞木ヒカリ。山吹のプラグスーツに着替えて待機している参号機の、真パイロット。苦闘の様子はモニタで見ているしスーツ内蔵の専用線で会話もできる。発令所で聞こえる仕様なのは戦闘中当然として、じっと男を立てて待っているタイプかと思われていた洞木ヒカリがここまで言うとは、かなり意外であった。
伊吹マヤが「ほお」とか、赤木リツコ博士が「あら」とか。なんか後輩を見るような。
 
 
「参号機が、かわせてない!迷った顔してる!鈴原がリードして!」
 
意外ついでに洞木ヒカリから出た言葉は、まさしくパイロット以外には理解しようもないパイロット言葉、チルドレン言語であり、赤木博士でさえ理解不能。
 
 
「にゃに?」「なんだそれ」
いや、真希波マリや火織ナギサたちも理解不能なところからすると、参号機言語もしくはカレカノ言葉なのかもしれない。「迷った顔いうてもなあ・・・・・しとるんかお前」
 
鈴原トウジにしても理解できてないわけだが、異論を唱えるわけでもなく。
 
「商店街?・・・・・・商店街が、どうしたんや・・・?」
 
急に妙なことを言い出した。ダメージが脳にきていたのか、はたまた精神汚染か。
どうしたんや?はこちらのセリフだが、
 
 
”モンサンミッシェル商店街パンチ!!”
 
これまで面白くもないネタのように喰らい続けていた巨像のパンチを、初めてかわした。
 
どうやってかわしたのか、見えなかった。それほどの速さ。風のように。アヤソフィアにいた後八号機の隣に瞬間移動のように立っていた。どう考えてもこれまでのはネタだ、と思ったくらいで。鈴原トウジてめえ、と発令所から大ブーイングが飛ぼうとしたところで。
 
 
「そう、そうだったのね・・・・」
 
小声であるはずなのに、やたらに通る赤木リツコ博士の博士声が、それを止めた。
 
「どういうことなんです?センパイ」
後輩でもありお約束でもあるので伊吹マヤが、勝手に納得させとけばいいのにさせない役割を果たす。
 
 
「幻想的な離れ小島の修道院、モンサンミッシェル・・・ミカエルの山・・・・・遠くからみると、とてもそうは見えないけれど・・・・中にはいると、門前町の商店街状態で・・・・・イメージと現場との蜃気楼を感じるわ・・・・・おそらく、さきほどの巨像の攻撃は、それを応用した・・・・ひたすらそとの幻影しか知らない者に対して、実体である質量攻撃を”かわしようもなく”加える、というものだったのではないかしら」
 
 
まあ、科学でもなんでもないが、赤木リツコ博士も訪れた際、そんな感慨を覚えたのかもしれない。「でも、世界遺産で観光地なんだから、そんなの当たりま・・・・す、すいません!」先輩にギロッとにらまれ首をすくめる・・・・・・そんな役割を果たす伊吹マヤ。
 
 
発令所内でもうなづく者が五割、よくわからん者が三割、ついていけない者が一割であった。「まー、なー、確かにアレはなー。わかるけどなー」青葉シゲルは残りの”どうでもいい”派であった。
 
 
ともあれ、参号機が巨像の攻撃をかわせるようになった、というのは助かった。
 
 
あくまで一時しのぎではあったが・・・・・
 
 

 
 
 
 
そこに、”杖”があった。
 
 
 
目的地まで迷っている時間でも場合でもなく、可能な限りの最速で到着した。
 
 
霧島マナである。
 
 
のんびり魂を凍らしているひまはない。
 
 
”杖”といっても、単純に人間が手に取れるサイズではない。巨人、エヴァが手にして振るうにちょうどよい、葉こそ茂っていないが大木、というに近い。
 
 
もとの名は”杭”。エヴァ初号機を氷壁に止めていた代物で、通常一般の木材ではありえない。ユリに似た巨大な花が咲いているのは、このことを言っていたんだ、と理解する。
 
 
こんなの咲いてて使えるのかしらん、と思ったが、使わねばならない。
 
 
地上ではどうなっているだろう。出来る限りの速さできたが、それだけに戦況を聞く余裕もなかった。どうしようもなくなれば・・・・・・・碇シンジが、出ていくだろうか。
誘惑のようにも未練のようにも、さいごの欠片を置いてきたけれど。
 
 
”杖”は、生命溶融実験群「赤い海」を割る力があるのだという。そのための、備え。
 
 
それを、霧島ハムテル・・・・・・・自分の父親が作成していた。調整、と言うのが近いのだろうが、想定される機能が出力されればそれでいいし、その点、大信用している。
領域というものを考慮した暴走実験群に対するアンチシステムなわけだがなぜ杖か。多分。
 
モーゼがやったアレのことだろう。分かりやすい。だから杖、というだけのことで。
 
 
融合や融和ではない、切り裂き、分かつ力。零れた水はまた汲めばいいが、切り分かれて流れた血はどうなるか。多分に減衰させる。時に回復不能なほどに。
 
 
何を、どれほど切り分けるか。全は一、一は全、なりしといえど。
 
 
こんなものまで自分が管理せねばならんのか、とは思う。ゴドム半分で十分すぎるぞ、と。
 
 
だが、大使徒たちが求めるものは・・・・・さらに巨大で。正直、爆裂四散しそうだ。
 
 
・・・・・・・・・泣き言を言っているヒマはなかった。ネーメジスにエヴァは勝てない。
場を収めるには、自分が舞台に立たねばならない。それも全ての準備を調えた上で、だ。
 
 
ここで”杖”を使えば、その存在が明らかになる。人類統合に対する絶対反旗、悪魔的シンボルとして認知され・・・・・その気になれば人の絆だの縁だの信仰だの、霊的領土、そういったものさえ切り裂ける切り取り放題というのだからそりゃそうだわな、と自分でも思う・・・・・・徹底的に追われる身になる。ここも相当に安全な地であったけれど、それも曖昧の霧の中にあっただけのことで。使用したあとは、破壊するのが一番利口なのだろうが。我が父ながらよくもまあ、あの穏やかフェイスでこんな極悪な代物作ったなあ、と思う。いやさ、作っておきながら使わないことに耐えられるのはあの人だけ、ということか。
 
 
 
 
「さて・・・・・やろうか」
 
”杖”に触れる。いうなれば、世界最強最悪の、邪法の杖だ。資格に足りなければ、冷凍ゾンビにされるくらいの報いはあるかもしれないが、父親は娘に甘いだろうし。その点、大目に見て欲しい。力が反転して、てめえが十七分割されたりしたらたまらない。
 
 
せめて娘らしく、そのあたり!
 
 

 
 
 
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
 
蓑虫のように寝転がったまま、冷気に強い特製モニタをちょっとだけ見る碇シンジ。
 
 
画面の中では、三機のエヴァがさんざん苦戦している。モンサンミッシェル商店街パンチをなんとかかわせるようにはなったものの、伊達に七体合体もしておらぬ巨像は、その他にも商店街どころかデパートどころか巨大ショッピングモール並みに豊富な「世界遺産技」で参号機を圧倒、もはや下手に退けば瞬殺される状態で、八号機と後八号機も応戦にまわっていた。三機の連携は、発令所の指揮もあいまって大したものだったがそれでも分が悪い。こちらから相手を思い切って破壊できない、というハンデがでかすぎた。もはやここまで、と、巨像破壊指令を求める声が上がりはじめ、愛にあふれたベルゼ指令が各国相手に調整を始めてしまった。なんともあかん空気であるが、それを止められる者もいない。
 
 
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
 
自分が、初号機が、行くべきなのだろう。雷で破壊することはできずとも、氷で固めてしまうことは、できる。だろう、たぶん。だが・・・・・・やる気が。モニタを見ることさえ続かない。今すぐ助けにいかねば!!!と思うのだけど、やる気が。
 
 
例の呪文を唱えることくらいは、できる。代価の先取りであろうが、もとはといえば、自分のもので。じぶんのものを頂戴したからといって、誰に文句をいわれるおぼえもない。
 
 
綾波レイ
 
 
もちろん、口に出しては言わないだろう。この世の終わりがきても、そんなことは言うまい。そんなこと、知ったことではない、みたいな顔をするだけだろう。
 
 
今は、風邪ひいて熱出してベッドの上だろうが、目の開く限り、戦闘状況を見ているはず。
薬でむりやり眠らされているかもしれないけど。体調が良好なら、当然、参戦していた。
 
 
・・・・・そうなると、ここで自分が出張っても、それは彼女の代行、という面もあるのではないか。彼女の代行として、約定を果たしたのであれば、代価をもらってもそれはそれで。仕方のない事情であるし、さすがにこれは怒らないだろう。
 
 
 
思考としてはすらすら流れたようではあるが、実時間としては、寿命のきた蛍光灯のように、点滅を繰り返すような調子で、この結論に至るまでかなりかかった。当人にしてみると大真面目であるが、周囲にしてみればふざけんな、としかいいようのない時間差であった。時間はいつも思いに足りない。やばいくらいに。つかいものにならないくらいで。
 
 
「あ、あー・・・・・」
 
霧島マナが、すぐに返そうとしなかった、自分の一物。誰かの欠片を自分の手元に置いておきたい心境というのは・・・・・コレクター心理、ではないよねまさか。
 
 
証明。人外の証明、なのだろうけど。
 
 
「こんな約束が交わせる相手がいるなら・・・・・・・それは、必要かな」
 
 
霧島マナの問題は一部、片付いているといえる。その代わり、別の問題を発生させて。
 
 
それは、面子の問題。
 
少女にも少女の面子があり、それを潰されれば無間に凹むであろう。
取り返しがつかないほど。少年の手など届かないほど。
 
 
力では解決されないが、とりあえず今はそれが必要。火急に。
 
 
碇シンジは、例の呪文を唱える・・・
 
「あれ?」
 
唱えようとしたのだが、モニタの映像が目に入って中断してしまった。
 
 

 
 
「これが世界遺産の力・・・・・・」
 
明らかに使う局面が違う、もっと文化的なところで使うべきセリフであるのは百も承知で日向マコトが呻いた。言いたくもないし、言っている場合でもないが、
 
 
「おそるべし世界遺産・・・・・・」
 
言ってしまった。普段であれば零下の視線を浴びることになっただろうがもはやそんな余裕は発令所のどこにもない。エヴァ三機をもってしても抑えることができない。結局未だにコアをもつ使徒本体を発見できない。ないない尽くしで猛攻にさらされるパイロットたちも機体も限界に近い。とりわけ商店街パンチをまともに喰らい続けた鈴原トウジはもう限界を越えている。洞木ヒカリも何も言わず、ただ祈っている。
 
 
「”目標を破壊しなさい”」
 
 
そんな中、ル・ベルゼ司令からとうとう破壊命令が出た。以前の蠅の羽音に似たあの作動音ではなく、反転した以後の爽やかな鐘の音とともに出されてもさすがに即座に受け入れがたい。「”このままでは愛すべきチルドレンと皆さんが全滅します。たとえ歴史書に記されても全ての責と悪名は司令たる我が負います。目標を、破壊しなさい”」
 
反転してこれであるから、以前はどれだけこっちに興味がなかったのか・・・空寒くなるほどではあるが、判断は判断だ。ここまでくれば、そうするほかない。日向マコトたちは隣の冬月副司令を見上げるが、補足はない。確かに打つ手がないのだが・・・・いまさら零号機と綾波レイを出撃させたところで状況はかわるまい。しかし、何か、ないのか。
 
 
この苦境、それを招いた使徒使いを全く恨まなかった、というと嘘になる。
 
 
「命令とあれば・・・・・やるしかないね。かなり、遅かったけど」
「出来る限り・・・・試してはみるけど・・・人のいない部分から」
 
それを待っていたらしい八号機と後八号機の二人は受け入れた。だが、
 
 
「まてや、こらぁ!」
 
鈴原トウジが吼えた。「あんなもん、壊してどないすんねん!中に人、おるんやろが!」
 
 
そこを狙った「アヤソフィア皇帝裏口脱出チョップ」が炸裂!
 
するところだったが、八号機が抱えて飛んでギリギリかわした。逆らうことを想定していたとしか思えないタイミング。「だから君は・・・・・」「すまん!ナギサおおきに」
「女には今の、助けられないからね〜」意見が割れても三位一体。そのくらいのしたたかさでなければ、とっくに押し潰されていた。なんせ歴史分の重量である。
 
「もうちいと、もうちいと待ってや!!霧島が、なんとか、するはずや!それまで!」
 
大人達にお願いしつつ、「ロードス島巨人兵斬撃」を、真剣白刃取りで防ぐ鈴原トウジ。
ここまでくればこざかしい建前など言うていられない。その一念が彼を支えているのならなおさら。碇シンジが、とは言わなかった。スジの問題であろう。
 
 
「”待っている間に君が死んだらどうするのです。私は大いに悲しむでしょう。君たちは他の何者にも代えられない、かけがえのない存在なのです。他のものと違うのです”」
 
恐るべし愛、と、内心で呻く日向マコト達。まさしく、そうなのだろう。反転しただけに、逆にこういう局面で厄介な。以前であれば、遠慮無く全て見捨てて我関せずを通してくれただろうに。だが、このままやらして鈴原トウジが死亡するようなことになれば。
 
 
「三分後、砲撃開始だ」
 
冬月副司令が命じた。単なる砲撃でフィールドがどうにかなるわけもない。
三分間の猶予を与える、ということだが、その時間になんの保証があるのか、光の巨人にあやかったわけでもあるまいが。八号機と後八号機に参号機を後退させる展開をつくる時間がその程度だろうか。ともあれ
 
実質トップによる線引きはされた。
 
さまざまな対策を考えたのだろうが、確かに今回は、相手が悪かった。
ただの人質を内包した合体でくのぼうであればとにかく、強さも相当なもの、などと。
 
 
あと三分で霧島マナがこの状況をどうにかすると・・・・・冬月副司令が思っているのかどうか・・・・
 
 
さすがに、そんなことを見抜けるのは碇ゲンドウくらいなものだっただろう。
 
 
二分十一秒
 
 
命じたその時間内に、霧島マナが
 
 
本気本分の己を、証明した。
 
 
碇シンジによる電光石火の横槍も許されず。
 
 
 
巨像の足下から、突如、白い巨樹がロケットのように突き上がり・・・濃霧か噴煙か周囲数キロの視界を一瞬にして奪ってしまうほどのそれを突き抜け上空へ。上がりざま巨樹は七つの枝をもって巨像を美事に「裂いて」いった。美事、というのは、融合しかけていた遺産たちを綺麗すっぱりと元の状態に戻しながら裂いていったゆえ。巨像の上にあったのがたまたま飛行可能な八号機だけであったからそのまま降下して難を逃れたが。
 
 
目というのはいかに騙されやすいか・・・・・そうなってしまうと、遺産がモズの早にえのように見えてしまう。もっともそうなればエヴァをボコボコにする戦闘力と縁切りになったこともあるだろうが。
 
 
白の巨樹は、実体ではなく、強力なATフィールドが目視できるような、機能をもったエネルギーがたまたま目についた、というだけらしく、その役目を終えるとみるみる薄れていった。縮んでいく、というのが適当であろうか、突き上げたままそのままでは誰も訪れることが出来なくなる。裂かれたあとは、ゆるゆる、と地上に降りてきた。これは常人の目には分からぬコトだが、八号機、火織ナギサたちの目には、いままで遺産たちを包んで合体させていたフィールドが、地上に降りたとたん、シャボン玉のように、ぱちんと弾けて消えたのが分かった。都市部のど真ん中、といったらこれまたシャレにならんが、何者かが調整いれたかのように、エヴァがプロレスしても文句の出そうもない人家のないところであった。ただ、そこに世界遺産、いわば超A級の観光スポットが集中してしまったわけで、今後いろいろと返還問題など大変であろうが、とりあえず鈴原トウジたちの知ったことではなかった。
 
 
 
そこに、さらに使徒が来襲してきたからだ。
 
 
しかも三体。