使徒使い霧島マナが、使徒を使って、後八号機の首を、ハネた。
 
 
様々なことがあった今回のVSであったが、シメのこの行動により、非公認ではあったもののネルフ総本部の霧島マナ・使徒使いとの共闘態勢が、破棄された、というのが第一等にくるだろうか。
 
 
なるようになった、ではなく、使徒使い・霧島マナが、するようにした。
 
 
もとよりVSなど、使徒使いと使徒との試練であるから、それを敵とするネルフは漁夫の利でも狙っていればよかったのだが、公然の秘密的に肩入れしたあげくに、最奥の秘密装置であった「杖」の機能を顕わにしてしまい、直轄ではない客分格の後八号機の機体を損壊させた。
 
 
総括する立場の司令と副司令にしてみれば、かなり頭の痛いことであった。
 
 
まあ、最悪の展開としては、使徒使いが敗北した後、余勢をかっての使徒に市街と本部が蹂躙される・・・もちろん、その中で保有エヴァも全滅、という悪夢もあり得たわけだが。
 
 
「あれは、使徒使いからの手切れ金であったか・・・?」
 
「実際、切られたのは首ですが・・・・・まあ、近いものでしょう」
 
 
あそこで使徒使いが「綺麗に」去っていれば、今頃、ニフに及ばず本部内を隈無くゼーレから送り込まれた調査隊によって「調査」されていただろう。略奪か強奪、といってもいいがそれくらいの血気で。それがないのは、とりあえず、であろうが、やはり使徒使い・霧島マナの行動意図が不明だからだろう。渾沌不明こそ調査されるべきであるが・・・。
上の腰が退けている間に、言い訳の準備をしておく。その余地こそ金銭に勝る代償。
 
 
誰の目にも明らかな境界線を引いて・・・・・・・彼女は去った。
 
 
最後の試練がどこで行われるのか知らぬ。もはや凡俗の目に届かぬ彼方で行われても我ら年寄りには言うこともない。そうそう、年寄りついでに言うなれば。
 
 
「そろそろこの職を退こうと思います・・・・・さすがに、体が限界です」
 
「その職座、余人を持って代え難い真実と古びた血肉の器という現実・・・・天秤は傾き、ネルフは瓦解するだろうが、それでも尚」
 
「適任を推薦させていただきますよ。もとより学者が座る席でもなかった。いや、見るべきものの近くにあれて、ある意味、冥利に尽きたのか」
 
「分かった。これまで御苦労だったフユツキ副司令・・・・推薦も違いなく受け入れよう」
 
「ありがとうございます、司令」
 
 
留守はなんとか守り通した。不遜な表現であろうが、ここは、あの一家の館城。
 
そうであればこそ、ここまで耐えきることが出来た。そうでなければとうの昔に投げていただろう。武装要塞都市?そのために学者がガマンしきれるはずもない。
ま、こんなことは赤木博士くらいにしか言えたものではないが。
 
降ってわいたように近郊に出来てしまった世界遺産ランドの後始末も大変だろうが、皆で力を合わせてがんばってほしい。ル・ベルゼもよくよく観察してきたが、どうも最後まで演技ではないようだ。ここで逆転の大裏切りをかましてくる、という可能性も考えてはいたのだが・・・・まあ、使徒の効力が消えて元に戻ろうとあまり変わりはない、か。
 
 
ネルフ総本部の冬月コウゾウ副司令、退任
 
 
前司令碇ゲンドウの解任後、崩壊もせずヴィレに追い抜かれもせず、業界内に絶対の領域(ナワバリ)を保持しつづけたのは、まさしくこの人物の手腕と口先ひとつ。
 
 
それが失われれば、ネルフはこの先どうなるのか・・・・・・・・・!?
 
 
本部内に激震が走っても、おかしくなかった。
 
 
おかしくないのだが、そういうこともなかった。
 
 
 
なぜなら
 
 
 
「本日付で、司令代行となった碇ゲンドウだ。諸事情で空白となった司令職と気力体力精神力、三種の限界を感じて退任された副司令職を兼務する形となる。諸君も健康には十分留意するように、以上」
 
「あー、お久しぶりです。同じく本日付で作戦部長総代行となりました、葛城ミサトです。
葛城ミサト、帰って参りました!知った顔も知らない顔も、よっろしくうっ!碇司令代行をうさんくさく感じても、ネルフ総本部をキライにならないでくださいっ!」
 
「あー、あー、あー・・・・・・・これ、一緒にされたらこまるってサインだから。到着が遅れましたが、エヴァ弐号機パイロット、惣流アスカ・ラングレー・・・・・って、もうちょっと離れなさいよ、マイクしゃべりにくいじゃないの、ってなんかヒかれてるじゃない!やばい、こいつのダッコちゃんにすっかり慣れてた、あ!いや、なにも変わってないから!ちょっと支えてただけだから!趣味とか世界とかひろがってないから!一緒じゃん、みたいな目でみるの禁止!・・・あ」
 
「マイクをほいっと。仲の良い少女ふたりは美しき哉、その続きが冴えない男二人で申し訳ないが、職分柄、こんな壇上挨拶もなんだか申し訳ない感じですが、加持リョウジ、ソウジです。趣味は、スイカとメロンの栽培。ついでに、彼女の紹介もさせていただくと、水上ミカリ、かの水上左眼女史の後継者でありエヴァの適格者でもある。その絡みでいろいろと複雑な事情を抱えてもいますが、なにせ未成年でもあり、温かく見守りをお願い申し上げたいところです・・・・では、トリをお願いします」
 
「前副司令、冬月コウゾウだ。司令代行の言われたとおり、三種の限界を感じたため、もはや隠遁させてもらいたいものだが、相談役、ということで残ることになった。主な業務は詰め将棋となるが、よろしくお願いする」
 
 
碇ゲンドウ、葛城ミサト、惣流アスカ、と、水上ミカリ、加持リョウジソウジ、それから冬月コウゾウ・・・・・と、出戻りどもがとうとう戻ってきたあげくに、冬月もと副司令もこのまま本部にいる、というのだから、激震など起こりようもない。
 
 
歓喜興奮の嵐、ならば、といいたいところであるが、
 
 
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
 
 
赤木博士、日向マコトら三羽ガラスをはじめとした本部が長い者たちからして、なんというか。素直に喜ぶには今までの苦労が重すぎたというか、いまさら昔にもどれんわ、というのもあるし、どういう手管を用いたのか、冬月副司令のまんま後釜に座るのではなく、司令代行とかいうなんとも怪しげな地位についてきた、怪しい、というのがあるし、加持リョウジはああいったものの、水上ミカリ、ただでさえ水上姓はタブーに近いのに加え、車椅子で体力が戻りきっていない碇ゲンドウを瀕死の目に合わせたのが、惣流アスカにくっついているあの少女。安全装置がどこにあるのか分からない爆弾を見ているかのような。
 
 
面子のどれも、実力のほどは、いまさら、言うまでもないが。
その点の心配はないが・・・・・・まあ、なんの心配もない新人事というのもあるまいが。
 
 
冬月相談役!よろしく頼みますよ!というのが、新旧の総本部職員の偽らざる心境であり。
むしろこのタイミング、いまこそ、無責任相談役(と言うのもヘンだが)をやられてはまずいバランスのネルフ総本部だったかもしれない。
 
 
ただ、その戦力は・・・・・・・・・
 
 
冬月副司令の退任に小躍りしていた業界関係者(ヴィレなど)が、碇ゲンドウら古巣メンバーの復帰、冬月コウゾウの結局の居残りをもとに再計算してみたところ・・・・・
 
 
慄然とした。
 
 
「まじかよ!?」と、戦力計算した保有スパコンにチョップをかますと
 
「まじだぜ!!」と、即座に廻しげりをかえされたというほど。間違いは、ない。
 
 
まあ、単純に考えても、保有エヴァの数とパイロットが増えたのだから当然の話。
 
 
エヴァ零号機、綾波レイ
 
エヴァ初号機、碇シンジ
 
エヴァ弐号機、惣流アスカ・ラングレー
 
エヴァ参号機、洞木ヒカリ・鈴原トウジ
 
エヴァ八号機、火織ナギサ・赤木サギナ・赤木カナギ
 
エヴァ九号機、グエンジャ・タチ
 
エヴァ後八号機、真希波・マリ・イラストリアス
 
エヴァ仮設九号機、式波ヒメカ
 
 
エヴァ八機にパイロット十一名・・・・・寄港中の竜尾道泳航体に付随した形の九号機(つまり海からあがってこない。パイロットも同じく)と獣飼いの後八号機と仮設九号機(きゅう、というより、りゅう、に近いという専らの話)は、あくまで一時的な所属となるだろうが、どういう話をつけたものか、本部作戦室の指揮の下、使徒戦に駆り出される身になっていた。使徒使いによるものとはいえ、使徒の攻撃で瞬殺されたのがよほどに悔しくなんとかリベンジを・・・・・というわりには、後八号機パイロットの表情はあまりに呑気でマイペース。一名欠損しようが獣飼いはまだ頭数がいる、というのもあるか。
 
 
そして、何より。
 
 
エヴァ初号機・碇シンジの完全復調
 
 
この情報こそ、業界内に激震、いやさ昇天級の感電ショックをもたらした。
 
 
一時期はトーキョースカイリムなどと呼ばれ、すっかり業界の流れから取り残される僻地となり果てるかと思われていた第三新東京市を、とにもかくにも時代の潮流からその名の通り繋ぎ止めていた・・・・・<重鎮>・ザ・碇シンジ・・・・・・チョー似合わない感じがするが、それだけは何者も異論を唱えられない。<動かざること極地のごとし>、本部地下にて死亡説、即身成仏、聖人牢獄説、司令成り代わり説までさまざまな風説が一人旅していたが。それらすべて覆された。
 
 
碇シンジis 碇シンジ
 
 
表舞台に、つまりは通常の学生生活に戻ってきた少年は、少年だった。
 
なんというか、普通の。以前のデータとあまり変わりのない。あ、普通に動いている、というか。
 
 
本部のいかなるピンチにも初号機を動かさなかった主役機体の主役がなにもしなかったこの鉄の事実。裏を返せば、それだけゴドムの威力がもの凄まじい、ということであるが。
 
それを呑み込み消化し己の血肉ハラワタパワーに換えてしまったのだ、ということを知るのはまだ限られたネルフ関係者のみであるが、こういう察しは機械よりも人間の得意分野。
 
 
恐れ。畏れ。
 
ブルブルと寒気を感じる。化け物がそれを成したのであれば、まだ納得も理解もできる。
だが、今回それをやったのは、普通の、人間の、子供なのだ。
碇シンジは以前のような、無敵のバラバラマンではない。合体儀式を果たした一個の人間なのだ。調調官でもあるまいし、時間をかけたからといって、普通、そんなことはできんだろう、と誰しも思った。実のところ、赤木リツコ博士にも解析できていないし、父親のゲンドウにも、母親のユイにも、さすがにそんな真似はできない。謎であった。
 
 
が、綾波レイだけは知っていた。
 
なんで普通の人間、碇シンジにそんなスーパーな真似ができたのか。
 
父、綾波エンの綾波異能「天逆」を、あのしんこうべ行の折りにどういうわけだが、碇シンジはそれを引き継いでいた。それで胸を・・・・まあ、それはいいとして。
乱用していい力ではないが、使うとなればあの時はまさに。
 
 
都市丸ごと氷漬けにする極冷気をそのままバカ正直にひっくりかえしてしまえば、今度は都市がこんがり焦土となる。いい感じに天逆具合をコントロールするのが肝要だったわけだが・・・・・・それもかなりハードルが高い話だなあ、と綾波レイもあとから気づいた。
 
 
何より、「根気」が重要となる。根っこの気、と書くだけのことはある。根気は大事。
 
 
碇シンジを構成する最後のピース、霧島マナが拾った、と主張する赤い涙のような魔法めいた品こそ、まさに、それ。オド、とか魔術めいた呼び方をせんでも、根気は根気で。
 
それがない以上、天逆能力を操ることも、ごく刹那の間で。強火に解放するより、弱火のテンションをえんえんと続けていく方が、よほど大変。冷気の奥底で、ことこと一人、怪しげな鍋をかき回していたようなもので。役柄は、ほとんど魔女。
 
 
しかし、そこに聖なる、か、どうか使徒使いが現れて、呪文を残していった。
 
 
お伽はなしならば文脈もキャラ配置もおかしいが、たとえるなら絵本が閉じたあと、呪文は唱えられた。力の解放量からすると、今世紀ベスト5入りは間違いない神の句パワーワードであろうが、正確なところは記録されていないし、これからもされることはないだろうし、本人達が暴露することもないだろう。呪文にも唱え時、というものがあったのだ。
 
 
 
ともあれ、碇シンジは、エヴァ初号機専属操縦者、として、表舞台に復活した。
 
妙なキャラをたててもう戦闘役やめた、と、のたまっていたこともあったが。
 
碇ゲンドウ、葛城ミサト、惣流アスカ、と、戦闘の鉄神女神たちが帰還したとなれば、そんなことも言っていられない。使徒が来れば使徒戦やるしかない。
 
 
敵が使徒だけであれば、まだいいのだが・・・・・・
 
この都市が、エヴァによってまるごと氷漬けにされようとした、現実。
 
一度は、それをはね除けた。
 
また来てもそれをはね除けるだろう。
 
 
だけれど・・・・
 
 
三度目は?
 
それ以上は?
 
 
仏の顔は三度までらしい。人生何処でも修行の場、ともいう。
左の頬を打たれたら右の頬を。右の頬を打たれたら左の頬を。
 
 
目には目を。歯には歯を。肉には肉を。目には肉
 
 
・・・・・・・ん?仏道修行に肉食はいかんのでは?
 
 
 
「どしたの、食べれば?」
 
 
そうひと声かけられて、目の前の焼きたてカルビが二枚、自分の皿に置かれた。
 
 
「あ、・・・・ありがとう」
 
時の流れを感じる。あれから、どれほどの、時間が流れたのだろう・・・・・・
ぼっとしていたこともある。たぶん、疲れもある。けれど、それ以上に時は大いなる河のようだと、初めて感じた。
 
あの、アスカが、焼き肉の肉を、自分で頬張るだけでなく、他人に分け与えるなんて。
 
 
「今日の財布はほぼ底無しだから、心配しないで。お腹が弾けるまで食べて食べて!あ、おねーさん、ビールおかわりー」
 
ミサトさんは、相変わらず、でもないか。あの、ミサトさんが、お金の心配をしないなんて。成長、いやさ、歳をくう、いやいや!お年をめされる、って同じじゃないか。貫禄がついた、というところかー。
 
 
ここは、焼き肉屋。いつぞや、かなり昔の気がする・・・本部から帰りに寄る予定だったのに、誰かさんが財布の中身を補充しとくの忘れて、さらにカードも使いたくないとか言うからこれなかったところだ。ご店主や店員さんが牛の格好をしているのが焼き肉に対する並々ならぬ愛情を感じさせる。こちらも、それに応じて気合いを入れて肉を食せねば。
 
 
と、思うのに、ぼうっとしていたらしい。個室は、三人。アスカとミサトさんと自分。
 
 
「おいしい・・・・」
「でしょ。ミサトの許可も出たことだし、お高いトコロ、いかせていきましょ」
「あー、いーわよいーわよ、どーんとまかせなさい。トラ王の超熟成サーロインでもねー、あ、ここトラ王じゃないけど」
 
熱いカルビは美味で。熱いものが食べれなかっただろうから、焼き肉とかいいんじゃない?こっちも魚はちょっち飽きたし。というミサトさんの発案。肉となれば、綾波さんは来れないわけで。こんな店の焼き肉屋に司令代行の父さんも来れるわけもない。加持さんやトウジたちも来ないのは。
 
 
かつての三人、水入らず、ということなんだろう。
 
 
・・・・・まあ、今日の客筋に黒服の人達が多い感じがするのはアレだけど。
 
肉を食べる。肉を焼く。肉を食べる。肉を焼く。野菜やサイドメニューも食べているけど、肉だ。とにかく肉。いろいろ希少部位が出てきたけれど、どれもうまいとしかいいようがない。
 
何を食べてもおいしかったかもしれないけれど、それでも美味しいものは美味しい。
 
 
焼き肉なんか食べてる場合じゃないぞ、ともし誰かに言われようと、あまり気にならない。
今こそ、焼き肉を食べるときなのだ。今食べねばいつ食べるのか。
 
 
こんな風に、一緒に
 
なんて
 
 
「ふわあぁ・・・」
 
あくびかと思ったら、泣いていた。食べながらアスカ。
 
どういう生態なんだ、と指さして笑う人がいたら、八つ裂きにして焼き網にかけるので。
 
「飲ませたんですか?ミサトさん」
 
「まあ、ちょっとね。ちょっとよ、ちょっと。別に帰りに運転させるわけじゃなし〜」
 
こっちもさきほどトイレに寄って、なんとなく顔を洗ったりしてる。煙が目に沁みるなあ。
 
 
「・・・・アスカにはいろいろ、かなり無理させちゃってね。あ、まあ、いつものことか。シンジ君にも」
 
「・・・・これからも、できることは、やりますから」
 
「ありがと。守ってたんだか、守られてたんだか・・・・・でも、ここまで君がやってくれるとは、あの時、思ってなかった。凄いよ、君は。シンジくん」
 
 
「たべなさいよ〜食べなさいよ〜」
 
泣きながら、葛城ミサトと碇シンジの皿に焼いた肉を置いていく惣流アスカ。
まあ、酔っぱらいの挙動。そういうことだ。
 
 
なんか度数を間違えた奴を飲まされたのではないかと心配になってくるが、最後まで見届けることはもうできない。
 
 
「はいはい」
「はいはい」
 
同じタイミングで肯いて、置かれた肉を片付けていく葛城ミサトと碇シンジ。焼き網の火もすでに落とされている。
 
 
「あー、最後の一杯、ぬるくなってるう・・・・・あ、そうだ、シンジくん、お願いっ」
「うわ、そんなこと頼みますかね・・・・・・・・はい、どうぞ」
 
手渡されたジョッキを受け取ると、とくに力んだようでも呪文を唱えたわけでもないのに、一秒程度で、ぬるいビールはフローズンキリキリ状態になっていた。
 
「あれだけ焼き肉を食わせたのにこの冴え冴えとしたというか鮫島とした冷え具合・・・・・・・すっかりクール男子になっちゃって」
「いや、それ関係ないですから。しかも鮫島とした冷え具合って」
「目標は氷のミハイル?」
「いやそれも・・・・ロリコンよりもキャラ的に弱い感じは見習いたくないといいますか」
 
 
「えー!?なんで最後にパタリロネタなのよ!!」
惣流アスカがキレ気味に叫んで、焼き肉会はお開きとなった。
 
 
 
迎えの車は二台。
 
 
もう葛城ミサトの青ルノーでブイブイ言わせて自宅に帰る、ということはない。
葛城ミサトが飲酒運転だ、というわけではなく。
 
 
「ミカリのことなんだけど・・・・・こらえてもらえないかな?」
 
 
別れ際に葛城ミサトが碇シンジにそっと耳打ちしたのは、昔の家族のことではなかった。
 
今の家族のこと。竜尾道、泳ぎ始めた後のあそこでいろいろなことがあったらしい。
碇ゲンドウ襲撃犯として、拘束されていたというのだからもう。むちゃくちゃだけど。
いやまあ、水上左眼、ヒメさんからして・・・・延長線上にてめえの両親がいて・・・・むちゃくちゃなのだから。落としどころをどこにするのかしたのか、文句もいえない。
 
家族であれば、別だけど。父親を殺されかけた、許すまいぞ、と言えばいい。
父親を殺しかけた相手となぜ、つるんでいる?おかしいよ、と言っていい。
 
 
その身をもって、まっとうなところへ道連れていく覚悟が、あるなら。あるのだろう。
この二人なら。
 
 
怒りの感情がないわけではない。理不尽だと思わないわけではない。
事の成り行きによっては、簀巻きにされたヒメさんを前にして、この二人に「このアマドラゴンを処刑しろ!」と詰め寄られる、ということになったかもしれない。
 
全く知らない相手ではなかったけど、この手は、あの子には届かなかった。
アスカの手は、届いたらしい。縁というか因縁というか・・・・・・巡りあわせか
 
水上姓の相手には、とられっぱなしやられっぱなしのクセとかつかないといいけど。
 
 
「父さんとミサトさんが何も言わないなら、僕も同じです・・・」
 
痩せ我慢だとわらわばわらえ。そのために、肉を食べさせてもらったのだ。
三人で甘い肉を食べたのだ。「ありがとう、いい男だねシンジくん」「そんな・・・」
 
「じゃあ、レイの方もよろしく頼むわね」
 
「は?」
表だってどうこうすることもないだろうが、内に秘めた赤い瞳がどのような高圧殺意光線を発生させるか分かったものではない。ミカリとアスカが撃ち抜かれぬよう盾になるなり反射材になるなり、説得するなり、なんとかしてちょうだい、ということでは・・・・
 
 
「おやすみ。また明日、本部で」
 
ことらしい。目と目で通じ合ってしまった。こんな厄介面倒ごと。知らぬ顔ができない。
 
それって無茶ぶりじゃないですか!と異論を唱える間もない。寝てしまったアスカをおぶったまま、あまりにも電撃的なおさらば。ゴキブリ走法より素早すぎますがな。
 
 
 
「せめて・・・・・」
 
昔の家族らしく、と思いもしたが、口にはせず、もう一台の車に乗り込んだ。