もし、マジンガーZが最終回に負けなかったらどうなるか・・・・?
 
グレートマジンガーの出番はなかったのではあるまいか・・・・・・
 
 
最近、こんなことばかり考えている”ヴィレ”の面々であった。
 
 
旧式、ましてや実験機や原型機が、新型を戦闘力において凌駕する、というのは、ロボットアニメなどではよくある設定というかお約束であるが、それはお話において面白いからそうなのであって、新型が前のものより優秀でなければなんのための新型か、分かったものではない。むしろ、そういった常識から飛び跳ねたところに物語の楽しさ、というものがあり、観客を楽しませるわけだが・・・・・・・・・
 
 
自分たちは、なんとも楽しくない”ヴィレ”の面々であった。
 
 
新しい存在として、旧い先行者などは、さっさと歴史の一ページに加わって欲しい。
そして、出番と舞台を、自分たちに譲って欲しかった。できればスムーズな禅譲で。
 
たとえがマジンガーZであるのは、このあたりの機微である。相手を徹底的に殲滅した上でその座を奪ってやる、というのも、いろいろな環境面的に、やさしくないことだ。
 
計画では、総司令の解任から始まった作業スケジューリングでは、とっくにネルフは瓦解体、使える人材資材は他の地にて分配再利用されるはず、だったのだ。その最優先パイの分け前に預かるはずだった、ヴィレとしては、面白かろうはずもない。表だって口には出さぬが。
 
 
第二武装要塞都市計画・・・・・・・・やはり、世界の命運を分かつ総戦陣としてふさわしいのは、世界が百人の村だとしてアンケートをとってもらってもいいが、あんな島国ではないのは確かだろう。いや、むろん、彼らの奮闘を認めぬワケではない。ここまでやるとは誰も思っていなかった。50人近いアイドルグループがヒットするなどと誰も思わなかったように、だ。いや、喩えがちと卑近すぎたが、ワールドワイドな視点にたって考えたとして、そろそろ激闘の舞台を第二ステージに移す、というのは無理ない展開であろう。
 
 
だが、ネルフのしぶとさ。
 
 
どうなっているのであろうか。さしたるカリスマ理念もなさそうだが、保っている現実。
 
是非はともかくとして、エヴァ十三号機に禁忌の使徒兵装を使われて都市ごと氷漬けにされても、ヌケヌケと。生き残り、生存者の権利、とばかりにてめえの都合の悪い部分はチャラ、他機関から美味しいところを頂きマンモス、という無理を通しまくっている。
ネルフにしてみれば、碇の、いやさ怒りのアフガン的仕返しをしているのかもしれないが。
 
来るはずのモノが来ない、という点で、最大の被害を被ったのが、ヴィレであった。
 
武装要塞都市の衛士として、それで戦えぬ、という弱音を吐くつもりは毛頭ないが。
 
いろいろと接続されるはずの、肥沃な、栄養の、はちみつな流れが、ハズされてしまった、というのは、かなり痛い。司令である碇ゲンドウより番頭である副司令冬月コウゾウを始末しておくべきだった、と臍をかんでも遅い。
 
 
 
だが・・・・・・・・
 
 
 
そんな”ヴィレ”に、活躍の機会がやってきた。ネルフを凌駕する能力を宿す、いわば、グレート・ネルフたるところを業界に見せつけておかねば、この先がいろいろと不安。
 
やはり、出番がなければ、バッターボックスに立たねば、三振もホームランもない。
最後の最後まで「秘密兵器」のままで、試合終了など冗談ではなかった。
 
 
 
パターン青、「使徒」。
 
 
その姿は、「人面剣」とでもいうか・・・・使徒の姿の奇態さをいっても今さらの話であるが、「人面」、人のカタチが飾られている、という点が、なんとも異形だった。
 
 
それも刃の表裏、それぞれ違う、男面と女・・・裏になる女の方は顔面以上に肩胸の部分まで形作られており、さながら呪いで剣に埋められていたところ、日々の努力かなんらかの犠牲によってこれだけ這い出てきた、といった感じだが、まさか使徒が人間男性相手のサービスでもあるまい。かなり大きめではあるが。表情は、とくにない。スケールからいってもそのまま人間、ということもありえないが。そういった造作なのだ、としか。
 
 
魔剣というべきか邪剣というか・・・・・通常の斬撃用途には不似合いな形ではある。
 
 
ただ形が剣のようだからといって、それを振るう役がいるわけでもなく、単独で浮行している・・・・・どのように攻撃してくるか、単純な決めつけは出来ない。そんな素人じみた判断を、この”ヴィレ”がするわけがないが!
 
 
さーて、どのように料理してくれようか・・・・・・・
 
 
各個人の思惑やドラマはともかく、ヴィレのおおまかな総意としてそういった気分であったのは間違いない。感知からの対応速度は、けっして第三新東京市のネルフ総本部に勝るとも劣るものではなかった。(最近のネルフ総本部も嘘のように速度を向上させているので、いわゆる当社従来品との比較というやつで)
 
 
深夜でのことであるが、所属するエヴァチームの出撃にも問題はなかった。
 
しかし、第三新東京市の、旧の武装要塞都市とはケタの違う都市としての「武装火力」。
結局の所、エヴァの力に頼り切りで単なる戦闘フィールドとしての地の利の役を果たすしか能のない点を改善しないわけもない・・・・・・・・!!むしろ、この点を業界にアピールしたい!!スタッフたちが戦闘機構を展開しようとした働きは電撃、と表現してもよかった。もちろん、使徒のATフィールド対策もばっちりであった。大火力をブチこんだはいいが、ATフィールドのおかげで無傷、などというかませなお約束は必要ない!
 
 
見とれよ!ネルフ!!時代はどちらを待っているのか!思い知らせてやるケン!!
 
 
(総意として)気炎をあげるヴィレ。生粋のキリスト教圏で使徒を前にしてこれだけの戦意を保てるのは彼らの有能さ群体としての強さを証明するものだった。
 
 
だが、それとも比べものにならぬ速度・・・・・・・まさしく、使徒の出現を予め知っていたとした思えないタイミングで、応戦を始めた存在があった。
 
 
なんじゃオマンサーは!!?
 
 
これも、いきなり現れた。
 
 
ヴィレの驚嘆の声は別に司令官が日本の九州出身だったり薩摩隼人リスペクトだったりするわけではない。ちゃんと独逸語だったが心情を正確に訳するとこうなるのだ。
これは各個人の思惑もドラマも関係なく、老若男女、そう思った。それほどまでの予想外。
 
 
こんなところに堂々と姿をさらすはずがない・・・・・・・人外の存在。
 
 
使徒使い、霧島マナ。
 
 
今や、業界で知らぬ者とていない。「霧島章」なり「マナ記」なりがこのままいけばまず世界一の万年ベストセラーに追加されることが間違いない、少女。そのゆったりとした黒の衣が、魔女のようにしか見えないが。
 
 
しかも、よりによってその立つ足場は、「第九・ボンバイエス」。
 
 
名前で見当がつくかもしれないが、使徒のATフィールドを反転させて剥ぎ取るというJTフィールド発生装置を組み込んだ、使徒殺しのデスリングのコーナーポストとでもいうか、誰が売り込んだのかも見当がつくだろう、そんなファイヤーな戦闘カラクリであった。これを発動させるのは、使徒戦闘の第一手順として、リングや土俵の設営並みに欠くべからざるところであったが・・・・・・ここで迷いが出た。
 
 
彼女を、捕獲、いや、保護すべきか、どうか・・・・・・・・・・
 
 
偶然、発見されたわけではない。こんなタイミングで現れたのだ。
彼女の意思なのだろうが。エヴァ十三号機との話は、さすがにヴィレにも伝わっている。
 
 
使徒と、使徒使い。
 
ここに現れた使徒を己の配下にしようというなら・・・・・・・・・
 
しかし、明らかにあからさますぎた。エヴァの縄張りを避けて人気取りをしていたのがこれまでの行動パターン。それが。電撃の戦闘態勢をとりながら、そこで、止まった。
 
この少女の扱い一つで、業界の天秤が、揺らぐ。敵を殲滅戦闘をしようというのと、己の懐に世界にひとつしかない時限爆弾が放り込まれた場合では、対応も覚悟も異なる。
 
使徒に政治など通用しないが、それをやろうとしたのが、間違いであった、と。
 
事が終わったあとならば、誰にでもいえる。
 
 
魔女装束の霧島マナは、懐から赤い卵のようなものを取りだすと、ふっと息を吹きかけて前方に投擲した。人面剣使徒とは距離がある。大リーグの選手でも届くまい。まあ、手榴弾でもなかろうが。
 
 
ぼんっっ
 
 
魔法のように、赤い卵が投擲途中に割れたか、と思ったら、巨大な使徒が現れた。
 
 
赤い、巨人に近い、ドロリドロ、と溶けかけた姿は、デフォルトなのか「早すぎたんだ・・・・」なのか、それとも魔法の失敗だったのか、ヴィレの人間には知る術などない。
 
 
霧島マナに動揺がないところを見るに、ああいったモノなのかもしれないが、
 
人面剣使徒に向けて、強い視線を向けたまま
 
 
なぎはらえ!!
 
片手を、そんな感じで力と戦気をもって振り払った。その意は多分、間違っていない。
 
 
ボラーーーーーーーーーーーー!!
 
 
溶けかけた赤巨人使徒は、人面剣使徒にむけて熱線を口から放った。直撃。
 
凄まじい熱量は、その軌跡をケロイド化させた。その方面に人は住んでおらぬがそんな攻撃は最低、宇宙空間で使用せよ思ったが、もちろんそんなことを口に出せるわけもない。
霧島マナ自身はATフィールドか何かでその周辺をバリアーしてはいたが。
 
 
使徒使いが使徒を配下におくには、やはりいったん、上下を思い知らせるために、徹底的に叩きのめし瀕死の状態に追い込む必要があるのだろうか・・・・それはそれで貴重なデータになるだろうが・・・・・とにかく、ATフィールドを使ったとしてもこの一撃で人面剣使徒は半壊ならぬ半溶くらいにはさせられただろう、とヴィレの人間は思った。
もちろん、その根拠は、自戦力のエヴァからきている。もし、アレをエヴァが喰らったとしたら。しかも、霧島マナは突如出現して、警告もなにもなしで、アレを撃てるのだ。
 
 
だが、ヴィレの面々には悪いのだが、これは本題ではないのではしょることにする。
 
 
結果から言うと、人面剣使徒には、熱線は、殺害的殲滅的な影響は及ぼさなかった。
 
効果がなかったわけではない。その効果具合が、人間には理解しがたいものだった。
 
熱線は人面剣の男面側に当たる、というところで、くるり、と反転し、女胸像面に当たった。その熱のゆえか、みるみるその姿が溶けて無くなっていく・・・・・が、その反対側、男面がむくむくと膨れあがり、たいしてサービスにもならぬ大胸筋を見せつけた。
 
 
赤巨人使徒の熱線は三十秒ほど続いたが、相手に与えた効果というのはそれだけで、ダメージであるのかどうか、人間にも戦術コンピューターにも判断しきれなかった。
 
 
が、霧島マナが慌てたように、「もういちど、なぎはらえ!」のゼスチャーをしたところ、やはり効いていないのだろう。だろうなあ、とは思ったけれど。そうなのらしい。
 
 
結果は同じ。男女が反転したくらいの違いで、むしろ元に戻った、ともいえる。
 
 
「今度は、魔球のカーブで!」みたいなゼスチャーを霧島マナはしてみせたが、赤巨人使徒は「そんな無茶でんがな」といった顔をしただけで、熱線を出さなかった。
 
 
あとは、接近されてボコボコにやられた。剣というよりは鈍器に近いやり方だった。
 
 
このタイミングでエヴァなり戦力を介入、ということも出来なくはなかったろうし、ネルフの葛城ミサトあたりなら確実にそうしただろう。だが、迷いがでた。
 
 
使徒使い、霧島マナの敗北・・・・・・それも、使徒による一方的なそれ。
 
 
勝手に現れて、勝手に挑んで、勝手に負けて、勝手に逃げた、というのがヴィレの人間の感想であるが、文句をつけている場合ではない。今度は、自分たちが使徒の相手をせねばならないのだ。その意味では、相手の手を明らかに出来た分、感謝してもいいくらいだが。
 
 
・・・・・まあ、その頑丈さとガチガチぶりに、恐れを覚えなかった、といえば、嘘になる。それも総意の話で、一部の各個人として喜々としていた、ということは、はしょるにしてもきちんと記さねばなるまい。しかしながら。
 
 
 
人面剣使徒も、霧島マナが消えるとすぐさまこちらも上空に昇り、のち、消えた。
 
 
さすがに両方とも追跡補足はできなかった。どこぞへ、消えた。片方は人の知らぬどこかへ。もう片方も、そうそうは捕まらぬ何処かへ。もしくは敗北の傷を癒せるどこかへ。
 
 
それにしても・・・・・・
 
この一戦は、なんだったのか。ヴィレにしてみれば、自分たちの目の前でやられたとなると・・・・自分たちなど目もくれず、使徒同士であんなことをされた日には・・・・
こうもいいたくなる。
 
 
 
「せめて、使徒らしく」
 
 
と。
 
 
どうにも意味がつかめぬので、ヴィレはこれを手を尽くして秘匿することにした。もちろんネルフなどに相談するわけもない。介入のタイミングを計りそこねた恥もさらしたくはないし、「自分たちが使徒に負けた」などという怪誤解も避けたかった。それにしても、使徒使いの敗北、というのは貴重な情報だった。最近の業界において必殺のネタといえた。
悪びれないのがヴィレの美徳になりそうであった。
 
 
これをどうやって有効活用するべきか・・・・・・・・
 
と、頭をひねっているうちに。
 
 
次の事件が、南洋実験諸島で起きた。