覚えない、というと、嘘になるだろうか
 
 
異形のもの同士の食い合い、というのは、心の底にどこか、愉悦を。
 
 
それ以上に疑問も多かったが、それにより疑念が澄んでいく、ということがあった。
 
 
「勇者ライディーンの後期で、こんなのがあったなあ。敵の将軍同士が仲が悪くて、どっちがライディーンに挑むか挑戦権を賭けて戦う、という・・・・二体同時にいけばいいじゃないの、って疑問もあったけどあれはアツい展開だった・・・・」誰かがそんなことをほざいていたが。
 
 
 
ネルフ総本部・第五作戦会議室にて見せられた、3編の映像。
 
 
 
ひとつは、独逸の第二武装要塞都市での
 
 
●赤巨人使徒 VS ○人面剣使徒 戦・・・・決まり手は溶解マウントからの叩殺
 
 
ひとつは、南洋実験諸島での
 
 
●翡翠巨鹿使徒 VS ○握手環使徒 戦・・・・決まり手はゼリープレスをかわしての扼殺
 
 
ひとつは、北極基地ベタニアベースでの
 
 
●皇蠱侍使徒 VS ○鍵兜使徒 戦・・・・・・決まり手はギロチンロック&ロックギロチン
 
 
使徒VS使徒、の、同類対決
 
 
霧島マナの言ったことは嘘でも冗談でもなさそうだった。
 
 
 
「そりゃ、必死になって隠すわな・・・」
 
真希波マリが同情顔でも気怠げな声で。どの拠点も必死に隠していたらしいが、さすがにこうも連続して、しかもこの先止む保証もないとなれば、いつまでもそうも出来ない。
真実を覆い隠すために拡散された膨大な怪情報を処理するために、業界がどれほど混乱し無駄な停滞を強いられたか。日向マコトの額がまたどれほど後退してしまったか。
 
 
 
「馬鹿な連中だ」
 
 
 
冬月副司令は切って捨てた。霧島父娘を知り、こういった展開を予想も覚悟もしていた身からすればそういうほかない。実際には口にも出さず、人相の悪い相棒がそう言うのをただ肯いていたいのだが・・・・・・・・・・なかなかうまくいかない。このままだと竜尾道泳航体が碇ゲンドウの棺桶になりかねない。葛城ミサト、加持リョウジ、それに付き合った形の惣流アスカたちまで足止めを食らい、こちらと合流できない、ときている。
内部の状況もよく分からず、本当のさまよえる幽霊船状態になってしまっている。
最大の懸案事項だった碇シンジのことも決して上手くいった、とは言い難く。
ゼーレの塩時計も動いてしまった。
 
 
難題を確実に片付けていきたいのだが・・・・・・・・片付く前に
 
 
「だが・・・これで、信じるしか、あるまい」
 
持ってこられた新たな難題に、向き合うほかない。
 
 
今、行われている使徒同士の抗争は、実は、四大使徒による使徒使い霧島マナ向けの試練であり、勝負は全七戦。負ければどうなるか分からないが、現状で三敗している以上、あと一敗すれば負け、ということになるのが自然の流れであろう、と。
 
 
綾波レイが言ったのだ。
 
 
赤い瞳で。なんの迷いもなく。
 
 
これに参戦すべし、と。とりあえず人間側である霧島マナを勝たせるべし、と。
 
 
どこからそんな情報を得て、そのメリットはなんであるのか、冬月副司令は問わなかった。
 
 
霧島マナからの救難信号でもあるのだ。世界に唯一人の使徒使いでもある少女の。
 
 
レイ当人は口を割らぬであろうから、他の者をあたって取引内容を把握はしていた。
 
使徒というのは、ほんとうに、こちらのしてほしくないことをしてくれる。よく研究していることだ。まあ、使徒使いの試練というのも、しきたりの一環なのかもしれないが。
 
 
「使徒の殲滅はもとよりネルフの使命だ」
 
という建前である。使徒使いの操る使徒は、カプセル怪獣的な立ち位置であると規定し。
 
 
またしても四大と関わらねばならない・・・・・・・これで、すでに三つ。儀式盤を回転させるに十分な三方の流れ。もうそろそろ魔術などには退場願いたい年頃なのだが。
 
 
「だが、ことの性質上、使徒使いとの共闘は偶発上のものとする」
 
 
その代価は、碇シンジの「だいじななにか」・・・・を、「得られるかもしれぬ選択権」
 
 
こうしてみると、使徒使いと言うよりは悪魔女めいている。
 
・・・・・受けた方がマジ聖女なのかもしれぬが。公にできる話でもない。ここにいるのも限られた人間だ。口が固いうんぬんよりは、神話の波風にあてられても耐えきれる面の皮というか。パイロットでは、言い出しっぺの綾波レイと真希波マリと火織ナギサの三人だけ。
 
 
「機密にならないよ、こんな話は」
「だから、なんで僕を呼ぶんだ。関係ないだろ」
 
 
少女少年はまだ言うが、赤木リツコ博士以下大人は、えらいことになったな・・・と思うだけで口にする気力もない。3拠点がそれぞれ秘匿してやがった使徒VS使徒戦は、どれも圧倒的で一方的な「負け」であり。使徒使い霧島マナの用意した使徒もけっして弱そうには見えなかった。いや、エヴァに比べてもけっして遜色のないレベルにあった。
 
実力伯仲であっても、先に機を制した方があっけなく相手をボコボコにしたりする、ということも、まあ、あるのかもしれないが・・・・・・・
 
 
しかし、使徒が来るのは使徒の都合なのだろうが、今回もそうなのであろうし、実際、独逸、南洋、北極、とずいぶんと離れた距離で、超人オリンピック的にバリエーションに飛んだ場所設定であるが・・・・・・・・・四戦目は、ここ、第三新東京市、と決まっているのだろうか・・・・・・そうでないなら、いちいち出張しなければならないのか。
それもかなり無理っぽいのだが・・・・・・
 
 
そこは確認する必要があるだろう。おいそれと連絡がつくわけではないが。
 
 
 
「その点は、心配いらないよ・・・」
 
 
夕方、綾波レイが幽霊マンモス団地の自分の部屋に帰ると、ベッドの上にずいぶんとズタボロになった霧島マナが眠っていた。黒の戦装束。襲われたのではなく、戦ってきたのだろう。このナリでは勝ったのか負けたのか、判然としないが、もう四戦目が行われたのか?
勝手に鍵がどうこう、とかいう細かいことを言っている場合ではもちろんない。
 
 
そうなると・・・・・・・・
 
 
あまり考えても仕方がないので、シャワーを浴びて、夕飯の準備を二人分して、その途中で洞木ヒカリたちに連絡して、連絡網がまわってジュニアハイスクールな面子がそれぞれ弁当さげてやってきた頃合いに、霧島マナの目も覚めた。周りを見回し・・・・・・
 
 
「・・・・シンジくんは、こないよね」「話も、していないから」
「そっか」「そう」
「お風呂、かりていい?」「どうぞ」
 
 
飯など食うている場合ではない!というのはたいていメシをすましている奴のいうこと。
厄介な話を聞かねばならぬのは分かり切っていて、空きっ腹で受け止められるはずもない。
長風呂の霧島マナを待たず、さっさと夕飯をとりはじめる綾波レイ。
部屋の主がそうなのだから、他の者がバカ正直に待つわけもない。それに同じくする。
 
 
 
「とりあえず、一勝しました・・・・」
 
ズタボロだった黒衣は不思議に修復されていたが、濡れ髪のままで霧島マナは皆の前で勝利を告げた。もぐもぐと飯をたべていた面々は「おめでとう」もなく、とりあえずこっくりとうなづいた。
 
 
「座って、食べて」
話はそれから、と、箸をわたす綾波レイ。他の者も同様の考えで引き続きもぐっている。
 
「ええ・・・いただき、ます」
合掌して、食事を始める霧島マナ。今となっては奇妙な光景。サギナやカナギ、ミカエル山田もいたが、さすがに静かにしている。いるべき者がおらず奇妙な客の多い不思議の席。
 
 
若者が集中すれば食事の時間などあっという間に終わる。どういうチョイスか、うな重など提げてきていた真希波式波コンビもぺろりと片付けて。ちいさくとも食べるのが早いサギナカナギのサンマ三兄弟弁当などむしろナギサが遅いくらいで。緊張に胃が縮んで食が進まないのは山岸マユミで、もう片付きそうにないので相田ケンスケに食べてもらっていた。ちなみにトップは、予想通りの鈴原トウジ・・・をかわしての洞木ヒカリだった。
 
 
 
「四戦目は、してきたのね」
 
部屋の主、綾波レイが話を切り出した。予想より早い展開に、居並ぶ者たちの顔も食事後とは思えぬほど引き締まっている。三敗あとがなく負けてどうしよう?と少々パニクっていた感じの前の対面からすると、かなり置いてけぼり感がある。
まあ、試練の主役は彼女だけれど。
 
 
「ええ」
あのズタボロ具合で、睡眠と食事程度でこうも回復するあたり、身に纏う黒衣に何かあるのか、落ち着いた感じの霧島マナ。それでもこの距離であまり威圧感を、今さらだが感じないのは、内部のエネルギーレベルが、がっくんと低下しているのだろう。
 
 
”今”ならク首ビがとれるでござるかな・・・・・・やめときなよ、メン”ここ”ドウでは・・・・・・獣飼いのハンター×ハンターなアイコンタクトも怖い。
 
 
「問題は、ここで切り札をつこうたか、どうかやな」
 
鈴原トウジが指摘する。獣飼いのツーカーは分からぬが、キナ臭さは感じ取れる。話を進めてしまうに限る。ウダウダしているとろくな空気になるまい。友達、ではないのだ。
 
「確実に一勝はできる、って言ってたよね。それをここで使わなかったら二勝だけど」
 
相田ケンスケが続ける。四つ目も業界関係の地域であるなら、そこも沈黙するだろうか。
何処だろう。当人が目の前にいるのだから、推測するのも意味はないが。
 
 
「残念。それを使ったの。育ててきた切り札・・・・それでも、ギリギリだった・・・・いや、エヴァ十一号機が介入してくれなかったら、負けてたかな・・・・・」
 
使徒使いの表情に暗い影がおちている。勝った、と言うより、拾った、というところか。
天下無双の使徒使いが。試練のレベルが高すぎるのであるまいか。空気が、重い。
 
 
「十一号機・・・・・・ということは、英国か。マーリンズマーリンズマーリン」
 
火織ナギサが、うっすら笑いながら。どういった感情がこもっているのかはサギナとカナギにしか分からない。
 
 
「切り札を・・・・・使ってしまったんですか・・・・・参考までに聞きたいんですけど・・・・それは、たとえると、やはり、スーパーレアくらいの?それとも、ハイノーマルにレアリティアップを重ねた?はたまたボイスレアくらいの?」
 
山岸マユミがこんなことを聞き出したのは、ミカエル山田の言いそうなことを先んじて訳してやったためか、それとも純粋本人か。相田ケンスケにもよく分からなかった。
 
 
「・・・・あえていうなら、コラボレア以上。ごめん、ごめんなさいシャルギエル!!」
 
女子も野郎も、喩えがいまいちよく分からないが、霧島マナの琴線に触れたのか心の一部を抉ったのかどうなのか、使徒の名を呼び泣き出してしまった。切り札を用いても互角以下、という現実は確かに相当ショックであろう。これに加わらねばならぬ身としても泣きたくなる。それでも洞木ヒカリが震える背をゆっくりと撫でて落ち着かせる・・・。
 
 
 
「スーパーわんこ君、じゃない、シンジくんにご出馬願えば簡単なんじゃないのかにゃ」
 
逆転策というより、先取り約束機、のような話であるが。魔の牙、とあだ名されるそのものの顔をして真希波マリが。もろに足下を見た提案であるが、悪いとは思っていない。
これは単なる報復。しかもやさしいことに倍にはしてない一倍がえしだ。しかし。
 
 
「それは、ないから」
 
と、綾波レイ。はめられた当人が言い切っているのだから、なにをかいわんや、だった。
 
 
「とにかく・・・・・、地の利は欲しいところ。それは?」
 
今度は南極だ!とかいう話であれば、経費その他もろもろ実行はかなり困難を伴う。しかもこれまでのパターンを考えるにその可能性はかなり高そうだが・・・・・そこらへんはなんとかならんものかと綾波レイは問うたわけだが。
 
 
「その点は、心配いらないよ・・・」
 
霧島マナは請け負った。どういうことかと問いを重ねると、「勝てば、戦闘場所を選択できる」ルールなのだという。こうなると、場所をころころ変えたのは四大の意向ということなのだろう。試練っぽいといえば試練っぽいが。そうなると・・・・・・
 
 
「ここしか、ない」
 
武装要塞都市、第三新東京市。数々の使徒を屠ってきた殺戮の京。星と飯の数が最強に強まっている。そんな、自分たちのホーム。
 
 
それは、誰の被害も出ない海の上やら雲の上でやってくれれば一番いいのだろうが。
 
 
それでは、自分たちの手が届かない。
 
 
使徒使いの敗北と勝利が、自分たちに何をもたらすのか・・・・・
 
 
「得るものはないけれど・・・・・その存在がある種の防波堤になっているのは確かだ」
「うちらは、機体次第かな〜。気持ちの応援だけならいくらでもするけど」
 
霧島マナにシンパシーなどあろうはずもない火織ナギサと真希波マリもとりあえず積極的な妨害は控える意思を表明した。ここで使徒の数を減らしておくのは、まあ悪いことではあるまい。最悪、綾波レイが腹でも切ればいいことだ。
 
 
そして、具体的に話は進む。
 
 
「それで、残存戦力はどれほどのものなのでしょうか」
 
なぜか、山岸マユミだった。なんか眼鏡が光っているが。なんであなたがそこで?という顔で皆が彼女を見るが、その眼光は揺るがない。別にあなたはエヴァのパイロットじゃなかったよね?もしかして極秘裏に訓練を?どーなんだ?・・・相田ケンスケに問い合わせ視線が集中するも、彼氏も彼女の豹変に驚いているだけだった。まあ、使徒戦力のカウント方法などある意味、誰もが素人といえるかもしれないが。
 
 
「え・・・?そう、だね・・・・戦闘用はあまり残って、ないんだけど・・・・」
 
先の一撃が尾を引いているのか、少しびくついた様子の霧島マナ。
 
 
「ここまできたら、オープンハート、オープンカードでお願いします!」
 
びしっと言ってのけた。山岸マユミが。なぜか、山岸マユミが。綾波レイさえ差し置いて。
 
むろん、第三新東京市が戦場になれば、エヴァのパイロットでなかろうが無関係などではない。生命に直結するほどの大関係者であるが。ここでこの強気の理由が不明だ。
 
 
「え?じゃあ・・・ちょっと古いけど、昔のカードゲーム風に紹介するけど・・・」
 
手品師のように、宙からカードセットを取りだす霧島マナ。
 
「うお!」
イラスト化された使徒の姿と、かんたんな能力数値と、裏に紹介文がある。
10,20ではない、けっこうな枚数だった。ハッタリでないなら、であるが。
 
 
まさか事前に用意していたはずもなかろうから、”其は奇跡のショートカット”、使徒使いというものがエヴァのパイロットなどとは本質的に異なる存在なのだと改めて知れる。戦闘、という一点で重なるところがあっても、活動領域は本来、遠く離れている・・・。
 
それはともかく、
 
ああ。
それでか。綾波レイ、洞木ヒカリ、鈴原トウジ、相田ケンスケは納得した。それでだ。
山岸マユミの強気の理由を。能力名をあえていうなら、<マイナーの国の女王様>。
他の面子はワケが分からないが、あえて問わなかった。さすがに重要なのは、使徒使いの現時点の戦力が、ざっくりとだが分かりやすい形で示された、ということだろう。
 
 
「で、この次に出るのは?」
 
綾波レイが肝心なところを尋ねた。全てが戦闘用というわけではあるまい。どれを使うのか・・・よもやのゴッド将軍視点である。とりあえず、それを勝たさねばならないのだ。
 
 
「「せめて、ハイレア級で!!」」
 
山岸マユミが強く願望するwithミカエル山田。喩えはまたしてもよく分からないが。
 
 
 
 
ちなみに。同時刻。
 
 
碇シンジも小型テレビをカチカチ凍りつかせながら、使徒VS使徒の三戦を見ていた。
 
 
「どうだい、シンジくん・・・」
 
イヌイットみたいな格好をした日向マコトが問うた。青葉シゲルと伊吹マヤもいた。
三羽ガラスというより三匹のアザラシといった風情であるが。
 
 
「どうっていわれても・・・・・その前に、青葉さんと伊吹さんを起こした方が良くないですか」
 
「!!起きろ!!シゲル!!北欧に行ってた分寒さに強いはずだろ!!マヤちゃんも!!」
 
二人に急いで体当たりをかます日向マコト。「眠るな!!死んじゃうぞ!!こんなの労災にはならない可能性が高いぞ!」そのために、一人でなく三人で来たわけだが。
 
 
一応、ここはネルフ本部である。日本である。冷凍倉庫の中ではなく、初号機のケージ。
気温は一定に保たれていない。シャレにならぬ自然の冷威が牙を剥いていた。がお。
時刻にもよるが、碇シンジの精神状態にもよるようだ。
 
 
「僕の出る幕は、ないと思います・・・・・」
 
「そうか・・・・」
 
 
言いたいことがないわけではないが、これ以上はいられそうもない。レクター博士に相談しているわけではないのだ。第一、命が危険だ。せめて言葉に熱があるなら、というのも。
 
 
この限定ブリザードが、彼の、シンジくんの内面をあらわしているのだ、とかなんとか解釈しながら半ば二人をひきずりながら日向マコトはケージを去った。
 
 
だが、ゆっくりと冷気をおさめながら・・・・まるで献血後の血圧のように・・・・・・
 
 
碇シンジは奇妙なことを、言ったのだ。
 
 
 
「使徒も、サービスするもんだなー・・・でぃんど・でぃんど・でぃんど・でぃんどん」
 
と。