これは確実だろうけど、ただ、順番が分からない。
 
 
と、赤木リツコ博士が宣った。
 
 
何の話かと言えば、「VS」のことだった。ちなみに、将棋の練習のことではなく、いま業界で最も熱い話題、「使徒VS使徒戦」の話であった。エヴァとやるものと区別する意味でそのような略称になってしまっていた。共食いだの同士討ちだの休戦期だのと、のんびり喜んでいる場合ではないネルフ総本部としては適当な呼び名であった。業界の一部では使徒使いの敗北にウキャウキャ手を叩いて喜んでいたりもするのだが・・・・。
 
 
実際にそれにかかわるとなれば、そう呑気になどなれはしない。
次の対戦がいつ、どこで行われるか、そこまで知らされている身にもなれば。
異邦対岸の火事、ではすまされない。なにせ、現場はここなのだ。
 
 
しかしながら表だってどうこう、ということにもならぬのが人の世の厄介なところであり。
 
 
使徒使いが使役しようが使徒は使徒、全人類の敵種であり、殲滅すべし、という意見は強い。どころか業界の主流ともいえる。使徒使い、という存在がそもそも反則であるのだ。
 
 
流れに棹させば、というやつである。とかく、そこらへんは東方賢者・赤木博士にもいかんともしがたいものがあった。他にやるべき、人任せには断じて出来ぬ、”やらねばならぬ”こともあった。実際に今もそれをやりながら、話している。
 
 
いまや、ひょっこりひょうたんどころか、ネオアトランティス橋頭堡か黙示の魔鯨か、再び業界の暗闘領域と化してしまった竜尾道泳航体の監視・・・・正確には、非常に不利な条件でその内部にいる碇ゲンドウたちのサポート・・・・控えめにいってもそれは、命綱。切れれば、四人ともおしまいだ。
 
 
「そっち、お手伝いしましょうか・・・・」
 
いまはもうイヌイット風ではない、本部の制服姿に戻っている伊吹マヤが、断られるのは予想済みのうえで、一応、言ってみるだけ言ってみた。隣で非常に何か言いたげな日向マコトの心情を代弁してだけのことなのだが。
 
 
「いや、いいわ。今の段階であなたたちに出来ることはない」
 
伊吹マヤ、日向マコト、青葉シゲル、正式に本部勤務に戻った三羽ガラス、この三名にここまでばっさり反論の一つも許さずモノがいえるのは、やはり東方賢者の貫禄。
 
 
「けど、歯痒いっすね・・・・・」
単に現地入りして一暴れしたいのか、それとも友の気持ちを代わったものかロンゲが。
 
 
「ほんとなら、もうとっくに戻ってきてるはずなのに・・・・・」
 
総本部の全力をあげて介入、できるものならやっている。もとはゼーレの新たな天領となるべきところをいろいろドサクサで尻に帆をかけて逃げ出した、という経緯があるだけに
ネルフ本部が表だってどうこうするわけにもいかぬ。ウキャウキャ手を叩いて喜んでいたのにこの有様である。それよりも。
 
 
 
優先されるべきは、使徒への対処であろう。そのための、ネルフである。
 
このVSも例外ではない、というか、ここが戦場になるのが分かり切っているのならモロ当事者であるから対策を練らねばならない。・・・・が、かなり今までとは勝手が違う場面であるのも確かであり、相応の知恵者に知恵を授からねばならない。霧島教授がいればいいのだが、当然のことながら、愛娘についていってしまっている。当事者というより犯人、というのが近い、使徒使いであるところの。
 
 
そんなわけで、作業中の東方賢者のもとへ訪れて、なんとか無事で生きていられるであろう三羽ガラスの三名が、その知恵を乞うたのだった。そんな、3KARASUへ。
 
 
「これが使徒使いへのテストであるなら・・・・・使徒のコントロール、支配力、絆、そういったものを、試すような局面があるだろうから・・・・コントロールを奪うなり狂わせるなりして、使徒使いそのものを狙わせる・・・・・・・そういった相手が、出てくるでしょうね」
 
と、作業中の多層モニタからは目を離さずに、救いのないことを。順番は分からない、と、もう一度つけ加えて。
 
 
「それとも・・・・これが試練であるなら、助力を求める、というのは、誘惑だったのかもしれない。それをした段階で、使徒使い失格、ということなのかもしれないわね」
 
 
悟り聖人あるあるエピソードじゃあるまいし、と、三人はつっこめなかった。
そんな袋小路、自分たちでもたまったものではない。しかし、人類の最新進化系にはそれを求められるのか。
 
 
使徒使いの精神を狙い撃ちにするような能力の使徒相手ならば、市街への被害は抑えられるだろうが・・・・それを望むのも。次の相手がどんなものか分かっていれば対策のたてようもあるが。
 
 
 
「狸、だったか・・・・・・・」
「そうらしい・・・・・・・・」
「倫敦での一戦もあまり参考にならなかったし・・・・・」
 
赤木博士とて予言者ではない。次にどんなのが来るかなどとドンピシャであてられるはずもない。全知力を注ぎ込んだのならともかく現状、あくまで片手間で、それが当たったとしたらもう、スーパー大賢者様であろう。
 
 
こちらの戦力が分かっているのがまだ救い、というべきか。なにか合戦むきのたぬきらしいが。どんなたぬきだよ、と、言いたいが、三人はこの秘密業務における調整役のような立ち位置であるので、各方面からむしろ言われるほうである。ベルゼ司令が回心したからいいものの、そうでなければこんなこととてもやっていられない。最悪、ル課の者どもに襲われたかもしれない。
 
 
にしても、たぬきを勝たせる特段のヒントを得たわけでもない。せいぜい、いらぬ横槍が入らぬように防ぐ程度だ。使徒使いそのものの捕獲を企む組織は多い。洗脳して配下として使うか、分解してそのシステムを解明するか・・・・それを非難できる身でもないが、排除はさせてもらう。なんとしてでも。そこまでなら、自分たちの手も届く。
 
 
実際、エヴァのパイロット、チルドレンたちにどうにかしてもらうほかない。
 
 
作戦部長連、としては、座目楽シュノとエッカ・チャチャボールが、残ってはいるが、二名とも現地入りできる身ではなく。こういった微妙すぎる案件に対応するには距離がありすぎた。座目楽シュノはまた体調悪化で本人の生命がやばい状態であり、エッカもまた別の戦闘の指揮をとっている最中らしい。葛城ミサトの復帰を企むには丁度いいが、その当人も海の上で重たい濡れ衣着せられて動けないのだから、どうしようもない。
 
 
 
「いやな仕事だなー・・・・・」
「あの子の反応が読めるだけに余計にな・・・」
「えっと・・・三人で行かなくてもいいんじゃない?あ、やっぱり三人で行こうか・・」
 
 
碇シンジはあの調子であるから、いやなくとも、現状のエヴァ戦隊を仕切る綾波レイに、五戦目のVSについて思うところを聞き、伝えるべきことを伝えに向かう三羽ガラス。
副司令か赤木博士がやってくれんかな、と思いつつ、自分たちにしか出来ないことも分かっている。否、というわけがない少女に言うのだ。ゆえに、三人で。
 
 
 
だが・・・・・・
 
 
 
「問題ありません。必ず、勝たせます」
 
 
大したフォローは出来そうもない、といった自分たちを慰めてくれたわけではない。
おそらくは、マジで。
本気、と書いて、マジ、と読む感じで。綾波レイは、断言した。白銀の輝きがあった。
 
 
それを鵜呑みにするほど、三羽ガラスは甘くない。なにせ、何を言われようが、否、と言わないであろう少女なのだ。パープーというわけでは、ないのだが・・・・
単に、引っ込みがつかなくなっているだけかもしれない。
ここで自滅されても本末転倒だ。もしやこれは使徒戦だと、割り切ってしまっているのか。
 
 
その点を問いただすと、逆に、不思議そうな顔をされた。これは、VS,使徒対使徒、でなければ基本、意味がないのではないですか、と。いや、そう聞き返されても自分たちも困るのだが、まあ、当人がそのつもりでいるのなら、その断言はますます不気味だ。
 
 
「なにか、策が・・・・?」
 
問うと、こっくりと肯かれた。あるらしい。あるようだ。三羽ガラス内で声にならぬ驚きが輪唱伝播する。もちろん、これは教えてもらわねば。無論、なんらかの考え違いをしている可能性だってある。三人寄れば文殊の再チェックも出来るだろう。というわけで。
 
 
「実は・・・・・」
 
少女は、普段通りの淡々とした表情で。これがちょっとでもドヤ気配でもあれば。
 
 
「実は?」
ためるなあ、とは思ったが、綾波レイであるから許せる。これが他のチルドレであれば、一発小突くくらいのことはしたかもしれない。三人の内、誰かが。
 
 
ここで、「実は秘密です」などという碇のシンちゃんのようなむかつくことは、綾波レイに限ってするまい、と三羽ガラスは信用しきっていた。それだけはなかろう、と。
綾波レイが小賢しく、わざわざヒキをつくる、などと。ありえない。ありえまい!
 
 
「ちょっ!?」
 
というわけで、あっさり策の内容を日向マコトらに話した綾波レイであったが。
 
 
「ちょっと待った!」「ちょっと待った!」「ちょっと待って!」
 
三人寄った文殊菩薩レベル(当社比)のチェック機能が作動した。
 
 
「何か?」
何を待たねばならぬのか、まったくさっぱりわからない、といった純粋無垢の返答。
 
 
「いやいやいや!いくらなんでも、”そこ”は・・・」
「いくらなんでも、それはないだろ・・・”そこ”は」
「”そこ”にそんな細工する必要ないでしょ、考え直して!」
 
 
「なぜ」
 
単純の問いに赤色の虚。底の見えないそれを埋める説明などできないことを三人は即座に理解した。まあ、そりゃそうだわな、とも思ったが、腹に収めておくならともかく実働としてそれを発揮された日には。
 
 
「信じてあげないと!」
「そう、せめて!」
「人間らしく!ね!」
 
答えになっていない。赤い瞳は無言で返答する。実際に対峙した者でなければ分からぬこともあるのだと。だからこそ冷静になりきれない、という面もあるのだが・・・・
 
 
これ以上はどうにもならない。やるといったら、やるだろう。綾波レイは。
 
非常にむつかしい問題であった。彼女当人を支えるのはなんとかやれるだろう。
 
だが、彼女が、何者かを支えようとするやり方をさらに支えようというのは。
スタープレイヤーがコーチをやっても上手くいかない場合、そのスタープレイヤーを誰が教えるべきか。監督、というのなら、碇ゲンドウか冬月副司令か、ということになるのだろうが。
 
 
 
そして、VS五戦目当日。
 
 
 
あっという間であった。綾波レイの腹中の策はいっさい変化無く、当日を迎えた。
 
それをどうにかしようという動きもあるにはあったが、いかんせん使徒のことであり、人知が及ぶ限界もある。何が正解であるのか、などと。誰にも分からぬ謎の領域。
 
 
だが、その「策」が外れた場合、綾波レイはどうするつもりなのか・・・・・
 
 
斬り捨てご免覚悟で鈴原トウジが聞いてはみたのだが、「心配いらない」の一点張り。
 
たぬきなんぞ後ろにさがらせて、こっちで倒してしまうしかないだろう、というのが常識的な戦闘思考というものだが・・・綾波レイは、あくまで、たぬきに勝たせる、という。
 
 
獣飼い二人と火織ナギサはそれで完全に「ならばお手並み拝見」モードになってしまった。
 
 
霧島に連絡ができればなー・・・・・・・と、つくづく鈴原トウジたちは思った。
 
 
依頼者が言わねば、絶対に路線を変えまい。主人公のくせにここで出てこようとしない碇シンジにも腹が立つが、その関与を綾波レイが絶対封印するのだからもうどうしようもなく。「はなしたらゆるさない」と、その顔に書いてあった。「ひみつにしてもすぐわかるから」と。こわいもんはこわいし、惣流アスカ、いや渚カヲルがいれば、とも思うのだが。なにせチルドレン的には大先輩である。
 
 
なんにせよ、対戦相手の使徒の力が不明なのだから、あまり考えても仕方ないところだ。
試練当事者の霧島マナにしてみれば、胃が逆さになるくらいの重圧ではなかろうか。
当然のことながら、大使徒は使徒使いの手持ちのカード、使徒の能力を全て把握しているのだろう。
 
公平なゲームなどではない、運の左右する余地もないほどの無道上等。
 
 
 
これが、「試練」であるのか、それとも、「誘惑」、であるのか・・・・・・・・・
 
 
 
その日、来襲してきた使徒の姿を見ても・・・・・その判断は、つかなかった。
 
 
 
「美少女、型・・・・・・・・?」
 
日にちと場所が分かっているのだから、予めエヴァで待機してるに決まっているわけだが、
使徒使いとの共闘をまさか公にするわけにもいかんので、霧島マナのたぬきエルのリングインは対戦相手が現れてから、ということになる。
 
 
にしても・・・美少女型、とは。正確には、少女、というても、そこは使徒であるから使徒並みにでかい。あくまで型、タイプが、という話。淡く七色に波打ち光るフリル状の衣装というか生体装甲をまとい、両手腕部にマイクのような形状のものを備えている。二刀流ならぬ二マイク流。単に美少女というよりは、アイドル歌手型、と言う方が分かりよい。
ちんまりとした足下には星の形をしたステージ。
 
 
コアは胸の中央に輝く。あれをブチ砕けばたぬきの勝ちになる、わけだが・・・・・
 
 
すぐさま何かやってくることはない。第三新東京市、つまり人間の迎撃発動領域に入るか入らぬかのところで停止して、様子見に入った。
 
 
「きつねじゃないのか・・・・・・・」
 
使徒がくる、ということが分かっていても、これには意表をつかれたネルフ本部発令所。
いや、本気できつねがくると思っていたわけではないが。
 
倫敦が燃え果てるところだった、火の鳥が百羽も留まる火界炎樹のような無茶苦茶強そうもう絶望、ということでなくて良かったが、使徒は使徒であり。
 
 
通常の戦闘態勢に移行しながらも、今回は「裏」の戦闘態勢、使徒使いとの共闘態勢モードも展開させる。綾波レイと霧島マナとのホットラインでの臨機応変のやり取りとなるため別名、綾霧モード。
 
 
「きたけど。準備は」
 
挨拶も気遣いも何もない、冷酷非情にさえ聞こえる綾波レイの零号機からの機器を介さぬ問いかけに
 
 
”もちろん。やりますよ〜やってやりますよ〜・・・・・でも、そっちで作戦があるんだよね”
 
ほぼノータイムで頭の中に霧島マナからの返信がくる。気分はともかく盗聴の心配だけはない。直接の戦力にはならずともこういった便利スキルをもった使徒も配下にしているのはいいが、端からすると綾波レイが独り言を呟いているようにしか見えない。
 
 
”え!?”
 
綾波レイの作戦を今になって聞いて驚く霧島マナ。”いやいや!!ちょっと待って!確かに、情報共有が完全だったとはいわないけど、その点については言っておいたじゃない!そこは・・・”
 
タヌエルは現出させてしまった。アイドル歌手型の使徒にしっかりターゲッティングされたのが分かる。使徒名鑑にもいないやつで大使徒が今回のために造ったか召還したか分からぬが、能力も知れぬ。見た目だけなら音波兵器系か・・・・精神攻撃系なら市街への被害が抑えられて結構だけれど・・・・・イヤな予感がしたし、綾波レイの作戦はそれを大いに助長してくれた。
 
 
意思疎通に齟齬があった。それはある意味、仕方がない。が、こんな土壇場で表明されても。当人が戦うのであればそりゃその場の臨機応変でもよいだろうが、誰かを勝たせるというのはもうちょっとしんどい知的作業となる。攻略のための戦略を、感性としかいいようのないそれを、他者に理解可能な設計図にし、図面上に導き、練習の中で体得させつつ微調整する・・・・・個性に適したスタイルに導き、弱点を矯正し、経験を積ませ、最期には才能の限界をつきつける・・・・・・ようなことまでしろ、とは言わないが・・・
 
 
 
「たぬきだから」
 
 
”は?”
 
 
しかしながら、綾波レイは自信ありげに(彼女にしては)言うのだった。
何を言われたのか、言われた方は分からなかったが。そんな、そっちの事情はみな分かっているから、みたいなことを的はずれに言われても。早くなんとかしないと・・・鈴原君か洞木さんに連絡を
 
 
「早く」
 
使徒が来襲したわけだから、第三新東京市、ネルフ本部のエヴァも出撃せねばならない。
ちょうどいい感じに本部内に、しかもすでにエントリープラグ内にいるパイロットたちに出撃命令がかかるのは、当然のことである。零号機と虎参号機が地上に射出される。
 
 
綾波レイの言葉は、誰が聞いても違和感の持ちようのないレベルの簡潔さであるが、この場合は、霧島マナに向けて「早くいわれたとおりにしなさい」と言っているわけであった。
自分の零号機が地上に出てくる前に、スタンバイせよ、と。
 
 
「それは、できない」とか言っていたけど。わかっている。それこそが、「たぬき」。
 
使徒の特殊な事情なのかもしれないけど、わかっている。自分にもそんな過去が。
 
 
”いや、だから・・・・・・・”
 
心を読んだわけではないが、短い、短すぎる言葉にこめられた気持ちは分かる。
どうも高度な心理駆け引きの末、こんなことをいっているわけではないらしい。
 
 
綾波レイの作戦、というか、要求は「武装内蔵型の兵装ビルに化けろ」というもので、「可能であれば零鳳入りのもの。こちらはそれを使って使徒を殲滅する」と。
 
 
「この子はシャイだから、人間が先に見てると化けられない」・・・・・とか、致命的弱点を晒してくれていたけれど、分かっている。それは、「化かし」。たぬきであるから、人を化かさずにはいられないのだろう。合戦向きとか言っていたのはそういうことだ。
化かすことで化けるエネルギーを発生させるのかもしれない・・・・・
 
 
 
使徒使いと人間の隔絶なのか、単に綾波レイと霧島マナとのすれ違いなのか・・・・・・
 
使徒がシャイなどと、そんなことあるものか、と、信じようとしなかった。
 
まあ、後者であろう。ほとんどの者は止めようとしたのだから。綾波レイを。
 
 
 
結果からいうと、アイドル歌手型使徒の能力は、「寝返り」、妖しの歌を歌うことで、使徒使いに使われる使徒を解放なり支配権を横取りするなりして、主を狙わせる・・ことであり・・・赤木博士が予想したとおりの事態になった。
 
 
だが、その使徒使いを狙う手段として、寝返りタヌエルは、兵装ビルに化けることを選んだ。操られようが戦闘力に自信がないのは本質的に変わりなく、狙わせたアイドル歌手型もよく承知していたせいかもしれないし、人類への意趣返しだったのかもしれない。
もしや、主を思うタヌエルの最期の意地ないし抵抗だったのかもしれない。まあ、しかし。
 
 
綾波レイには、そんなことは、どうでもよく。
 
 
打ち合わせ通りだと、本人は思っているが、周囲の全てが驚く滑らかな速度で、タヌエル兵装ビルから、プログレッシブブーストハンマー(コピー品)を抜き取ると、そのままアイドル歌手型使徒を討ち取った。美少女型だろうが関係ない。ボコボコにボコった。
 
まあ、・・・・やったのは確かにタヌエル自身だと、いえなくも、ない。
 
虎参号機の出る幕もなかった。見事な勝利。久々の完勝に発令所では大きな歓声があがってもいいはずだが
 
 
「・・・・・・・・」
 
しばらくは、声もなかった。もちろん、勝利を言祝ぐにやぶさかではなかったが、内心、誰もが心の片隅で、こんなことを思っていたからだった。
 
 
 
せめて、美少女使徒らしく・・・・・