シン・カルナ・チャル・ステーシア

第二十二章「セルフィア買い物伝説その六」



「血だよ」
チャルダーシュは云った。




アマルダの道具屋。
騎士やごろつき、猫妖精に天使に悪魔までおしかけて買いに来た化け物刀。
「タブラトゥーラ」

しかし、これほどの面子が揃いながらも店主アマルダは人間、それも同業者に売るという。オァ・タバリン。魔法道具ストア、タバリン・マートの社長である。
強力な魔法使いではあるが、剣は使えない。ただでさえ扱いに長けるどころか超えるような技量を要求してくる巨大刀だ。しかし、飾っておいて楽しむほど好事家ではない。
また、店の前にでも立てかけておいてCM宣伝につかうつもりでもあるまい。
そんなことなら、アマルダは売らないはずだった。

シンはアマルダの横顔を見る。
その海を渡った国からの陶器人形のような表情からは何も。

アマルダの意志に変更はないようだったが、店の前に屯する一群は引き返す気配もない。悪魔・・・汎魔だと名乗っているが・・・インフニティエルのしつこい交渉をかわしているが、いつ切れてくるか分かったものではない。所詮は魔属。
シンは護衛役らしいガッチョとかいう黒い魔剣士から気をはずせない。


その時。道の先から騒音じみた歌声がゲリラのように鼓膜に襲いかかってきた。
魔法で拡声されたものかもしれないが、このヘタさはすでにテロの領域だ。


「タバリン・マート社歌」
一番
@都の西北、我らの東い、タバリンマートは
そこにありい。来よく正しくお値段安く。
店員親切、社長は美人、いうことなしです、
タバリン・マート、萌える安さの喜びはあ、
すべて世のため金のため、たしょうのホンネが
信用のみなもと、求めてやまん、業界制覇!

ああーーーーーーーーー (9オクターブ)

タバリン、タバリン、タあバリン・マ・ア・ト!

(伴奏)じゃじゃじゃじゃんっ!



二番
@都が西北、我らは東、今日も方角バッチグー
利害を忘れて愛と自由と協力の恵みを忘れて
どーすんねん。今日ももうける流れのために。
行方の使命ただならむ

ああーーーーーーーーーーーー

タバリン、タバリン、タあバリンマ・ア・ト

(伴奏)じゃじゃじゃじゃんっ!




一番と二番の歌詞で同じのは最後だけ。金にあかせて何人かの吟遊歌手に曲をつくらせて作者の意図を完全無視してあちこちつないで作ったのが見え見えな歌だった。
しかし、その音声パワーだけは凄まじい。
共鳴震動効果により、ごろつきのもっているような武具、疲れの出ている騎士の装備は、ギシギシと揺らぎ、ひび割れてきた。
まさに向かい来る音声兵器だ。趣味の悪さと度を越えたセキュリティの融合した、ある種の宗教を思わすタバリン・マートの「がまマーク」の入った馬車が乗り付けてきた。


「あら、三番まで流そうと思ってたのに。先についちゃったか」
馬車の中からでも平気で通る声。それがタバリン・マート社長、オァ・タバリン。
完全にその場の空気を掌握している。と、いうか空気自体がその歌に震えさせられることに耐えきれずこの場から逃げ出したのかもしれない。


どんな女傑が降りてくるのかと思いきや・・・・・・・

馬車のドアが開き・・・・・中から人がおりてきた・・・・・

長い黒髪・・・・・高位魔道師の位階を示す紫装・・・・・・そしてなにより・・・

青水晶で造られた仮面・・・・


シンが最近見知った女性だった。