シン・カルナ・チャル・ステーシア

「セルフィア買い物伝説その七」





たしか。フーリンとかいった。青水晶の仮面の魔導師。
襲撃を受けたとき、誰よりも早く反応し、魔法使いだけ安全圏に逃した、分かっている女。こんなところに何しにきたのやら。しかもタバリン・マートの馬車に乗って。



二女性の登場によってこの騒乱もようやく終幕を迎える予感があった。

すいすいと水晶の湖面を渡るようにアマルダの元へ歩み寄るフーリン。

どすどすこいこいと大地に振動の魔法をかけながらやってくるオァ・タバリン。


「・・・・・・・」
フーリンは足を止めると、その仮面を外した。その下には・・・・・

にこっ、童心をまだ持ち続けてなお、自分の世界から降りない者だけが表せる笑顔。

どんなきっついガリガリの秀才のベラドンナが出てくるかと思えば・・・・。
シンは見知っているため、このような感想で済ませておいたのだが、こうしてハッタリの利く仮面を外してしまえばどう見てもこの場にいてよい役柄ではない。
タバリン社歌攻撃に、一時黙らされていたものの、装備をひび割れにされた者などは突如舞台中央に現れた、この何も知らなそうな素人さんにも遠慮する気はなかった。

ここにはどういう因果なのか、人間ではない者もいるというのに。



「くださいな」

フーリンは確かにそういった。辺りの空気がからみあった知恵の輪と化した音のする。
「はい、お待ちしておりました。フーリン様、ですね。タバリン・マート社から承っております」
アマルダも応じて微笑んだ。滅多にみられぬ営業用のスマイルだ。
そして、長い指を踊り子のようにくゆらせる。それだけで奥に眠っていた人形達が起きあがり、品物を運んでくる。

「タブラトゥーラ」

今回の大騒ぎの原因である。そして、結果である。

「お支払いは・・・・・」

「五年ローンでお願いします」

「はい。タバリン・マート社からの紹介料を差し引いて、これほどになっております」
アマルダは雷精電卓器を取り出すと、値段を算出しフーリンとタバリンに見せた。

「うはー。あんたのところも老舗のくせしてしわい商売しますなあ。今回のことは宣伝費も含めますからもう少し勉強してもええんとちゃいます。元はと言えばクニがしっかりせえへんからこないなことになっとるわけやしな」


ちなみに・・・・・・・

「墓石」や「銅像」など一生に二度も三度も買うようなものでない代物は、代理店を通した方がたいていの場合、安く買えます。直接、申し込んで買いにいったとしても絶対にまけてくれません。それは何故か?代理店を通した分だけ経費がかかるんじゃないの?と
思われるでしょう。しかし、さにあらず。
そういう一生に何度も買わないだけに、馴染みの客、なんてのはまず出来ません。墓石見学ツアーに何度も行こうとするとブラックリストに載せられるのと同じコトです。
さて、そういうわけでお客開拓ルートというのはか細いもので、代理店からのそれは貴重なものなのです。他のお客さんを紹介してくれるからですね。ところが、普通のお客さんが三人も四人も銅像を造りたいという人を紹介するなんてことはまず、ありえませんから。
それに、代理店を通せば「集金」のリスクはありませんし、ただ造ればいいのですからそう言う意味で、中間マージンを払っても楽なのです。

ここでオァ・タバリンのいう「宣伝費」とは・・・・、あ、やめておきましょう。
では、お話の続きをどうぞ・・・・。



「配送先はどちらにいたしますか・・・・・それともすぐお持ち帰りに・・・・・」
容赦なく、手続きモードに入っているアマルダ。すでに書類も用意してある。
フーリンは少し指を動かして、シンを見た。

「送り先は、彼に」

ぎょっ

周辺がどよめく。アマルダの店内にはいたものの、まるで興味のなさそうな剣士が最後にそれを手にすることになろうとは・・・・・。

「ちょっと、待ってくれ」
魔人の殺気もようやく沈静させたところで、シンは口を開いた。なにせ売り払った張本人なのだ。もし、気が変わって取り戻そうとしてもすでに金は半分ないのだ。

「俺にはそんな気はないぞ」

「配送先・・・・シン・リュウ様・・・・・すぐに届きますわ・・・・・」

「・・・・サインはこれでよろしいですか。魔術師簡潔印・エトラムルですが」

「はい、これで結構です・・・・」

「おい!」

「それでは皆様、お騒がせいたしました。失礼します」
再び青水晶の仮面をつけると、黒髪の女魔導師はゆるやかにきびすをかえした。

「そいじゃ、失礼すんよ。あとは勝手に解散してくんな。ガハハハは」
成金がそろそろ身に付き始めている、太ったガマ好きの魔法使いも去ろうとした。
「おっと、これを忘れとった。兄ちゃん、これを貼っとくんやで」
振り返ると脂肪のねじれる音がする。そしてなにやら二、三枚、札のようなものをシンにほうって渡す。さすがに太っても、いや腐っても、いや、血色はいいんですけど、魔法使いだ。それは風に乗った。

「?」
確認してみると、その札は・・・・・タバリン・マートの商業用ステッカーだった。
魔法がかかっているのか、プリントされたマークが小声ながらも社歌を歌っている。

「破いて捨てたくなるでしょうけど・・・・ダメよ・・・・・・・・・」
アマルダが釘をさした。


「はい、シン。確かに届けたわよ・・・・・・それを刀身にでも貼っておいて」

「冗談ぬかせ」
縁もゆかりもない上に一銭ももらってないのに、なんでそんな真似をしなきゃならない。

「あの女が何考えてたか教えても同じこと言えるかしら・・・・・」

「あの女?どっちの方だ。両方か」

「あの・・・・お話中、いいですかね?」
おずおずと手をあげるようにカンニバルがそれを中断させた。

「なんだ?」

「なんか・・・・皆さん、怒ってらっしゃるようなんですが、ね。あの眼の色は・・・・今にも力づくで奪おうとしているような、そんな感じなんですがね。・・・・・・・・・アタシ、先に帰らせてもらってもいいですかい?」

「そうだな・・・・・お前も仕事をしくじったようだしな。もうこれ以上、ついてくる理由もなくなったな」
「短い間でしたが・・・・・・・」
カンニバルはササササ・・・と姿勢を低くして裏口に駆け消えた。

「それで。話の続きだが、なんでこんな具合になったんだ?」

「運命について尋ねているなら・・・・・お門違いだよ・・・・・あたしは商人なんだからね・・・・まあ、経済の基本だよ・・・・こういうことはね・・・・・モノを動かすか・・・・ヒトを動かすか、もうける道は単純にいけばこの二つしかない。商人はどうせ武器なんか使いやしないんだから・・・・・コレの最も効果的な使い方を商人なりに・・・考えるだけさ」

今回の場合は後者というわけだな。
シンは少し考えて真相に行き着いた。

「売ったとはいえ、シン、アンタが造った代物だからねー、・・・・・そんな風に使われちまうのも・・・・なんだろ」

「それだけか」

「・・・・・結構、アンタは評判がいいのさ。要するに」

「・・・・・そんな覚えはない」

云いつつ、シンは革製のケースから三メートル超の化物刀、タブラトゥーラを取り出す。

「だが、いつまでも街がこの調子ならステーシアが困る。あの修道院は貧乏だから・・・・・寄付も集まりにくくなるだろうしな・・・・・」



す・・・・・・・・・風のように店内から敵の群がる店外へ。



「おい、兄ちゃん。なんか上手いコトやってくれたやんけ、ワレ」「俺らの面目はどないせえっちゅうねん、あ、コラ」「二メートル五十センチ以上の刀剣の携帯には、騎士団ないし市局の許可が必要です、あなたはそれに違反しています。引き渡しを要求します」
「男・・・・恨みはないが、その刀、妖精城に持ち帰る」「ほろほろー、そんなぶっそうな剣、人間がもったらだめだよー、わたしにちょうだいな」「・・・・・・・・・・・」「やれやれ・・・・まさか五年ローンとは・・・・ここはほんとうに商店なのですかな」

ワレワレワレワレワレワレワレワレワレワレワレワレワレワレワレワレワレワレワレワレコラコラココラコラコラコラコラコラコラコラコラコラコラコラコラコラコラコラコラコ違反違反違反違反違反違反違反違反違反違反違反違反違反違反違反違反違反引き渡し
男・・・・その刀男・・・・その刀男・・・・・・その刀男・・・・その刀男・・その刀ほろほろほろほろほろほろほろほろほろほろほろほろほろほろほろほろほろほろほろほろ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・やれやれやれやれやれやれやれやれやれやれやれやらやれやらやらたれたれたらたれたら


「文句があるならかかってこい
勝った奴にはこの刀くれてやる。
ただし、負けたら俺のいうこと
なんでもきけよ・・・・・・」




アマルダの道具屋 本日ただいまより休業いたします。 明日は平日通り営業を・・・

「ぐえーーーーーーっっ!!」
「ぎゃあーーーーーっっ!!」


またのご来店を心よりお待ち申し上げております・・・・・・

「ぐおおおお・・・・・!!」
「ひべしったわぶっあべばっ」