シン・カルナ・チャル・ステーシア


第二十五章「引きずられし者たち」









「、というわけで少し行ってくることになった」
「シンもご苦労様だね。それで、スーちゃんには言ったの?」


早朝にてチャルダーシュの家。
「・・・・そのあたりを上手く伝えてくれと頼みにきたんだ」
「いいじゃない、一緒に行ってもらえば。話を聞くに、僧侶はいないみたいだし・・・・ケガしたときに困るでしょ?」
「・・・あれだけ叩きのめしても生きてるようなしぶとい連中だ。かまわない。それに、ステーシアがケガしたら困る」
「でも、わたしはやだよ。お断り。シン怒らしても別に困らないけど、スーちゃん怒らすと困るもん」



「・・・・・・仕方がない。ステーシアも連れていくか・・・・」
「そうそう、それが一番。惚れあった二人はいつも一緒にいるのがねえ」
チャルダーシュはきゃらきゃらと笑った。
咳払いをして、シンは話をすすめる。
「それはいいとして・・・・・今回の戦闘を占ってほしいんだ。それと、強い、防御力を持つ言霊の名前が欲しい」

「ありゃま、都合、三つもお願いかい。それほど気が騒ぐの?”堕天使”シン・リュウともあろうものが」
「やばくなれば、すぐに引き上げるが、その引き際にどうしても不安が残る。相手も素人じゃない」
「ちっと紙鳥飛ばして様子を見たけど、高速馬賊の第十九連隊が後詰めに押し寄せてくるかもねえ。他のはなんてことないけどね。強くて速い・・・・厄介なのは相手にしないことだよ」
「大物は仕事が済めばすぐに立ち去るからな。後に居残ってぐずぐず荒らす雑魚が問題なのさ。町にとっては」
「ま、スーちゃんのことは聞けないから、他のふたつはサービスしてあげようね」

チャルダーシュは占いもやるのだ。なにせ長生きであるから、本職顔負けの神眼なのだ。
木筒をいろいろ組み合わせて球体にしたものを覗いてみる。
「あらら・・・・・いきなし大凶だわ。まず・・・・・・、と、言っちゃっていい?」

「それを避けるための占いだろう?。かまわないよ」

「そう・・・・・・・じゃ、気を落とさないで聞いてね。・・・・メンツが揃わないわ」

「なんだ・・・・そんなことか。臆病風に吹かれる奴なぞ端から勘定にいれていない」

「いやー・・・・・全員なんだけど・・・・一人残らず、こないわ」

「てっきり、ステーシアが守りのふいをつかれてさらわれるとか・・・・それほどの事かと思った・・・・・あんだと?!

「今時、任侠精神なんか廃れているからねえ・・・・・・強制の呪いでもかけるか、人質でもとって脅さないと・・・・・そんな、口約束なんか守る人間なんかいないよ。
まー、一人くらいは物好きが来てるかなっと思って覗いてみたんだけど」
ステーシアを連れていけ、と言ったのは、なんのことはない。シンのためだった。



「くくくくくく・・・・・・・・・・許さん!

許さん!と怒りあげてみたところで、それでメンツが揃うわけではない。



「すいやせーん、若旦那、いらっしゃいますか」
そんな折りに、カンニバルがチャル家の玄関に現れた。さっさと危険地帯から去ったおかげで無傷で済んだ、幸運かつ利口な男だ。しかし、今の状態のシンにわざわざ会いにくるとは・・・・・トータルで不運な人物かもしれない。

「なんだ・・・お前か」

「・・・・なんだか気合いが入っている眼差しですね。まだ敵前ってわけでもなし、あたしにゃご遠慮願いたいです、がね・・・・・それは集まった連中に一喝呉れるときにでも」

「集まっていないはずだぞ・・・・・」
「でしょうねぇ・・・・・集めたのはあたしですから。若旦那、気が早くていらっしゃるから、連中のキズを治すとさっさと消えられたでしょ。集合場所の日時も言わずに」

「そうだったかな」

「そうなんですよ!あれだけのメンツを集めながら・・・・・あたしは呆れてものがいえやせんよ」

「そうか・・・・苦労かけたな」
後ろでチャルダーシュがにへらあっと笑っている。
「あたしも顔覚えられてるもんですから、追いかけられたりしましたよ。人間相手ならまだしも、あの猫につけ回されたときは正直、死ぬかと・・・・・・ま、あ、それはようござんすけど・・・・それで、若旦那のいいひとに偶然お会いして、なんとか話を・・・」

「ステーシアに話したのか?おい!!」

「もちろん、話しましたとも。若旦那より話が・・・・いえ、こいつぁ失礼です・・・・もう先に待っておられますよ。若旦那をよろしく、とかなんとか、あの猛者どもを前にして恐れもせずに・・・さすがは若旦那の・・・・、とともかく、メンツの準備は整いましたぜ。あとは若旦那の登場を待つばかり・・・・・」


さらにチャルダーシュがけへへっと笑っている。


「・・・・最後の頼みくらいはちゃんと聞いてくれるんだろうな・・・・」

「ア・ラ・ビヤラモー・・・・・この名前、旗か何か、部隊の中心部に配置してある物体に書き記すなり、刻むなりしておいき。北方、南方、東方、そして、天方。西以外の方角から、なかなか攻め落とされない言霊があるよ。でも、西はやばい」

「礼をいうよ。・・・・・ほんとに、チャルだけは敵にしたくない」

「それじゃ、いってらっしゃい。実験結果がまとまったら、様子を見に行ってあげるね」

「ああ。行って来るよ」



「あの・・・・あたしには?」



「そういえば、なんでお前がここにいるんだ?・・・・・それから、そっちのは」
常人では駆けてもおいつけないほどの早足で出るシン。
「ちょ、ちょっと待って下さいよ。若旦那、集合場所がどこかご存じ無いでしょ」
「どこだ」

「あたしについてきてください。それから、お給金の方はご心配なく。ある方から頂いてます。そして、こいつはあたしの娘です。名前はロクヤヲン、見かけはこんなですが、使えますぜ」

娘か・・・父親はカニ缶みたいだが、娘の方は・・・まるで系統が違う。
一言でいえば、陸にあがった海藻女だ。網に十何個も造りものの頭骸骨を入れており、それを引きずっている。魔法使いにしても・・・・・怪しすぎる女だ。

まあ、いい。この男が使えるというならば使えるのだろう。俺はしらん。



しかし・・・・本当に俺は集合場所と時刻を告げなかっただろうか・・・・・大体、言わなくてもこういうのは、察してしかるべきなのだ・・・・・男なら分かるはずだろう・・・・・言葉にしなくとも通じ合うものが・・・・・・



よく考えてみると、なかった気もするな・・・・