シン・カルナ・チャル・ステーシア
 
 
             第二十六章「六本指の昔話」
 
 
カンニバルに案内されて集合場所へ行ってみると、確かにおるわおるわ。
平和なはずの公園広場の中央そこだけが毛色が違う。ほぼ戦時下の出番をまつ傭兵陣屋。
義理堅いのかよほどシンが恐ろしいのか、一人の欠番もなくやってきていた。
だが、彼らを束ねる若大将は「よく考えたら集合場所を決めてなかったな」という物事にあまりこだわらない性質であり、文字通りまとめて叩きのめしてシメたのでいちいち顔など覚えてないし名簿なんぞもむろんないので、ばっくれたとしても分かりはしないのだった。それでも集まってみると壮観で、渦を巻く強烈なオーラ風を感じる。猛者揃い。
 
その中心には・・・・・・なぜか、前日アマルダの道具屋にいなかった人物が。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
神官服の女性。ステーシアである。パッと見れば、戦士の群の中に神官、とくれば似合わないこと甚だしいし、だいいち、超・強制的に集合かけられた彼らにしてみれば昨日現場にいなかった女神官なんぞと楽しげに話す理由も義理も何一つなかろうに・・・・
 
 
すげえ楽しげ
 
 
に話していた。まさに姐さんアイドル状態。だれがリーダーなのだか分かりはしない。
もちろん、話は自分とシンのことについてに決まっている。
シメられしモノたちは、自分たちをやすやすと打ち倒した底なしの強者、シン・リュウについての強烈な好奇心があった。多少の情報で埋められる実力差ではないのは分かっているし、どうせ今回は敵ではない。しぶしぶながら率いられるのなら弱い大将より強い大将がいいに決まっている。それに、その話は無茶苦茶に面白かった。神官で説法慣れしているステーシアの話がうまく、声がいいのもあろうが、その内容がまさに。吟遊詩人の華麗と王族貴族のゴシップと商人の儲け話の秘訣と冒険者の正確なるリアルタイム地域情報・・・・それらが渾然一体となったまさに「聞いて美味なる」お話。そこに、シンや仲間への愛情がたっぷりとふりかけられている。それがイヤミに聞こえないのは、聞く全員がシンがいかなる奴か骨身に沁みて分からされているからである。確かにあんなカンシャク餅の異常者を愛せるとしたらこの女しかなかろう・・・・、という一種の尊敬を生むからだ。
 
 
「・・・・その時、チャルさんは全然動いてくれなかったんですよ。でも、それは分かってたからなんですね。タイリスタ・デァ・エルテ・・・その楽器を弾くには指が六本必要で、いにしえの名手・サイロンマイロンの指は六本あったんです。古文書の、演奏会前の用具注文書を細かく読んでたら分かるそうなんですけど、わたしなんて楽器が奪われた時はあんまり悔しくて悲しくて泣いちゃったんですけどね・・・その楽器があれば、・・・・・・」
 
じわっ・・・・・
 
話がうまく、感情移入しやすい、というのも困りもので思い出し泣き。”体質的”に水分が多いのかも知れないが。ステーシアの涙腺がみるみるうちに・・・・・おいおい姐さん、こんなところで泣いちゃ困るよ。話を聞くだけで分かる、この女神官に惚れて惚れて惚れまくりのあのカンシャク持ちの若大将が現れたらどうすんだ。まるでオレたちがよってたかって泣かしたみたいじゃないか。やべえやべえ、早くなぐさめねえと。
 
その時、集団の背後から切り裂くような一陣の覚えのある蒼白い殺気が。
 
 
貴様ら・・・・・・
 
 
シン・リュウは自己中心的に見えてそうではない。ステーシア中心主義者で、世界は冗談ぬきでステーシアを中心にして廻っていると思ってるし、その命題で古代機械と論叢して正面から言い負かしてやってオーバーヒートさせたこともあるし、世界滅亡を企画する魔の会社を倒産させてやったこともある。「世界を破滅させる、ということはこのステーシアも破滅させる、ということか?」とシンに問われてやめとけばいいのにバカ正直に「うん。そうなるかな」と答えてしまったのか運の尽き。「自分たちは世界を滅ぼすが、魔王ではないから剣でもって倒せばお前は犯罪者だ」などとさらにやめておけばいいのに法治国家の盾を構えた。結局、命はとられなかったが、その魔社長はケツの毛まで毟られた。
 
ステーシアが風邪をひいたりすると、「どこかで雪崩か津波か地震が起きているな」などと真顔でいう。それで「地域の子供など困っているだろう。少ないが」と神殿に募金をしに行ったりする。「早く治らないと、多くの人間が困るぞ」といって必死に看病する。
いかなる神話にも侵されぬ、極少レベルの世界観をもつ男、といってもよい。
 
その分だけ、ステーシアがどんな女であるかが、ある意味、シンを決めている。
 
そして、彼等の運命も。