シン・カルナ・チャル・ステーシア
 
 
            第二十七章「ドームカーメー」
 
 
「あ、シン」
なんとか直前で、ステーシアがシンに気づき、事なきを得た。
ステーシアはシンに会うとにっこりと笑むから。
 
 
そして、「街道占拠群を蹴散らし部隊」の初代隊長としてのシンの挨拶が始まる。
 
 
「あー、皆、よく来た。とりあえずほめてやる」
 
 
しぃん・・・・・・
 
 
波をうったように静まり返る。ステーシアが中心にいた時の空気とほぼ逆。
力のみが、力の優先順位のみが存在する、支配者と被支配者の鎖の関係。鉄錆の匂いがする。これがあるべき関係。おだやかに緩んでもいた彼等の顔が凶悪に引き締まる。
 
「戦闘のやり方なんぞはいちいち指示せんから好きにやれ。どうせ烏合の衆だ。チームワークなんぞ期待してないから、それぞれ適当なところで必殺技でもなんでも使って敵を倒せ。治療は・・・・・このステーシアが担当してくれるが、あまり頼るな。運と実力が足りずにやられた場合は、オレが蘇生復活の呪文をかけてやるから、オレの所まで来い。その折は、頭と手足はきちんと拾ってこい。乱戦中探してまではやってやらんからな」
 
一瞬、ざわめいた。蘇生復活の呪文といえば各宗派の大神官クラスがお祭りの折に、カタチだけやって終わり、という形骸化もいいとこの呪文だが、それを使える?・・・・だが、この若大将ならやりかねない・・・・だが、続く言葉でこの呪文が形骸化した意味がよおく分かったので再び静かになった。シンは意地悪でも不親切でもなく、ただ嘘をいわんだけなのだろう。たまたま術者のスグ隣でやられる・・・そんな幸運があるならそもそも敵にやられたりせんだろう。
 
「・・・・・それで、だ。これから、大事な役目を選ぶぞ」
 
各自勝手にやれ、といっておきながら、大事な役目とは?いまさら副隊長やリーダーが必要なはずもない。だが、この男が大事、というからには生命に直結するような事項であろう。聞き逃さぬように要確認。赤丸チェックだ。ゴクッと、誰かののどがなる。
 
 
「”ドームカーメー”だ。誰かやれ。自薦他薦とわん」
 
 
はあ?なんだそりゃ
 
そんなもん聞いたこともない。それが大事な役目なのか?・・・・・怪物の名っぽい。
ただ、その語感はどこかで耳にしたことがあるようなイヤな予感・・・・・・
 
「”ムードメーカー”の間違い・・・なんじゃ・・・ありやせんか?・・・」
そこにいる全員の視線をうけて代表生け贄・カンニバルがおずおずと訂正をかけた。
どう見てもシンというやつは自分の間違いを素直に認めるタイプでは無さそうだし、図星をさされると実力を持って反撃してきそうなタイプに見える。
 
「なんだと?そんなのはいらん。必要なのは”ドームカーメー”だ」
意味が分かって・・・・いるのだろうか。言葉は明瞭としている。思考はともかく。
 
「シン、説明が必要みたい」カンニバルの救援信号を受けて、ステーシアが助け船。
彼女は分かっているようだ。どことなく、面白がっているふうにも。
 
「そうか?これだけ面子がいれば、その重要性は十分理解していると思うが・・・ドームカーメーを知らんとはなあ・・・・そこの騎士崩れっぽいお前も知らないのか?・・・・仕方がないな・・・全く、こいつらには説明のしっぱなしだ。勉強が足りないぞ」
 
 
シンが説明するところによれば、ドームカーメーというのは、カンニバルが指摘したようなムードメーカーとはむしろ「逆」。集団の結束にヒビをいれて雰囲気を乱す、いわばサイテー風味の嫌われ者のことをいうらしい。なんでそんなもんが必要かというとシンにはシンなりの理屈が一応あった。通常、ただでさえ顔慣れぬ者たちが共に戦うのだ。いかに意思の疎通を図るか、それをリーダーは考え頭を悩ますところであるのだが、シンは違う。
もちろん、結束して反逆されるのが怖い、などというありがちな理由ではない。
 
下手に意気投合されて、希望にキラキラ輝いた目で「よし!これからも一丁、この部隊でやっていこうじゃないか!シン隊長殿、よろしくお願いします!!」なんてことになったら困るからである。
 
面倒を見るのはステーシア一人で十分すぎる。というより、他の連中の面倒なんかみたくない。人生は一人か、または二人で生きるもの。お前たち、幻想を抱いてはいかん。
 
 
シンの真に恐ろしいところは、今の点を余さず真顔で言い切ったところである。
 
 
いや、確実そりゃねえし
 
完全に皆の動きがシンクロして首を振る。全然全く完全によろしくしたくねえのに。
 
というわけで、部隊が仲間割れで崩壊せん程度に結束を乱すのがプロの「ドームカーメー」だ。だが、乱そうにも第一、シンの率いるこの部隊はその結束自体がまだ存在しない。
微塵も。ないものを乱せ、というのもこれはまた難題である。ステーシアが面白がるのも当然といえる。しかも一番の適役は、言い出した本人ときている・・・・・投票であったらすぐに決まっていただろう。この中で一番の嫌ワレ者はどう考えてもシンなのだ。