停滞する状態を停止する、ということは
 
 
いや、ちょっと待てよ?
 
 
惣流アスカは思い返す。ねぼけ眼をこするように、といった幼く可愛い少女がやるような感じではなく、深く固く閉ざされていた瞼を、長期間下ろしたままでもう半分錆び始めているような商店街シャッターのように、記憶の油を差して、ギリギリとこじ開けていく。
惣流商店、再起動。いらっしゃい、いらっしゃい、まずは自分が。オープンする。
 
 
それは、おかしくないか?
 
 
渚カヲルはともかく、碇シンジは
 
 
消えたままではなく、会っている。ここで。
 
 
 
無法の隔離地域、竜尾道
 
 
劇的な再会、というわけでもない、おのおの遠出した先で、ばったりと、いう感じで。
場所が学校である、ということは、もはや映画のロケのようで。
嘘くさいというよりは仕事めいている。年齢的には学生であろうとも自分たちは。
 
 
人類最後の決戦兵器と二人同行するもの、
 
 
である。ここまでくれば、ただのパイロットで終わるつもりもないし、どう楽観的に考えてもそうもなるまい。事実、実際今、こんな奇妙なことになっているし。長い夢をみてきて、まだ見ているのか。飽きたらず。母親がすぐ目の前にいるような。
 
 
金色の炎壁
 
 
侵略すること火の如し、とはいうが、この火の壁はなんに喩えればいいのやら。
ふつう、こんなもんがこんな薄野にあれば、ぼうぼう燃えだしてあたりは火の海になるはず。燎原に火が広がる、というやつだ。無駄なことはせずひたすら己の仕事だけ果たす。沈黙の長城とでもいうか、狡猾&有能であるが。
炎の如く墨守する、とでも?・・・・火の災いから人を守るには流れる水では足りないこともあろうし、人の近くに寄ってある火をもって火を制す・・・・か。奥が、深い。
人と火の付き合いはもっと奥深いものがあるのではなかろうか・・・・・・
 
少なくとも、鷲に肝臓をつつかれるプロメテウスが期待したようなものは、残るは苦さ一辺倒、といったものではない気がする。この技術は、そこに通じる一環として学んでおきたいな・・・・防御人格の根幹にして真髄、謙虚な学習心が、炎壁に対して先とはまるで違う対応を惣流アスカにとらせる。
 
 
その変化を、某小才の利く小僧の母親は見逃さず、じっと、見守っていた。自分だけ。
 
 
普通は、その一番いいところ、いうなればビデオ録画必須の赤ん坊のハイハイからはじめて二本足で立ち上がる感動シーンに匹敵する、己で見つけた子供のほんとの才能が立ち上がるさまを、伝えるべき隣の友人には黙ったまま。てめえだけ見てた。小僧の母親のだけのことはあった。危うい、とても危ういが、手を貸すことも助言することをゆるされない、
それは彼女の純度をおとしめる、彼女の色を濁らすことになる、脱皮するきれいなあの子を見ていたい・・・・・まあ、子供が親の美点を引き継いで何が悪いことがあるものか。
 
 
壁は拒絶の手段でもある。理由は知らない。拒絶された方はした方の理由など、知らない。
 
 
知ろうともしないし、分かりもしない。言葉で言ってもわかりはしないし、世間の波に洗われて染みいるようにわかるころになれば、もうそこには壁の跡すら存在しなくなる。
 
 
だから、普通、そんなことはありえない。成長しない子供にはありえない。
なんらかの手段で壁を壊すなり回避する知恵のついた大人にもありえない。
 
 
親の壁を、取り込もうとするなどと。
 
 
成長する、その刹那の子供にしか、その勢いにまかせて、出来ることではない。
 
物事を引き継ぐのは遺伝子だけの仕事ではない。血統を発露させるのは、虹どこでない複雑怪奇な羅に流れる色を、肉の中に豪快に密かに歪に滲むそれを、美しい、と思うこと。
いつでも出来ることではない。人間はそこまでドラマチックにもロマンチックにも出来ていない。人類最高峰の不思議ちゃんであっても、そこまでではない。タイミングの問題だ。
トリガーとスイッチと燃料が、彼女にはそろっていた。このタイミングで。
それだけの話でそれだけの奇跡。経験値がたまりすぎても燃費が悪くなりすぎて困るのはザナドゥをやればよくわかる。いやー、うちの子にも見習わせたいわ、などとおきまりのセリフはだから言わないのであった。
 
 
たとえ感動の状況であろうと自分のペースを崩さないのは、それがよその子だからではなく、単にそれが母親というものだからである。とはいえ、あ、さすがにこれはまずいかな、と思えば今さらながら伝えもする。
 
 
「ねえ、アスカちゃんが・・・・」
 
 
さすがに容量不足で取り込みに失敗しそうだよ、とか。遅かったが。
いくら天才でもさすがに歴史がハンパじゃない術式だしなあ、とか解説にならん解説も。
 
 
 
炎の大津波
 
 
としかいいようのない現象が起きた。炎の壁が惣流アスカ側に倒れ込んだ、ということになるのだが、倒れ込まれた方にしてみると、体感の恐ろしさはまさにそうとしかいいようがない。「やばいっ!!」と思えば足も竦まず即座に逃げるのはこれまでの経験のたまものであろうが、妙に金炎をいじくってしまったせいか、辺りの薄野をどんどん呑み込み焼きながら身の程知らずの小娘を呑み込もうと迫ってくる!。炎を避けられる隠れる場所もなくひたすら後ろ向けでダッシュ逃走するしかない。炎には先と違って怒りと敵意があり触れたが最後、焼き尽くされるのが気配でわかる。身体で試す度胸はない!!。
 
 
失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した・・・・・・・と
 
 
胸で悔恨経を唱える時間も惜しい。アタシは、失敗した、やめておけばよかったのか・・・とのんびり迷っているヒマもない。遙か遠くで母親が叫んでいるような気もするが。
たとえ火の中水の中、母を訪ねて三千里、というわけにはいかない。戻れば消し炭になる。
しくじった報いというやつだ。うーん、こんなところでしくじってしまうとは・・・・・
いい線いってたと思うんだけどなー・・・・・こう、アウトラインの4分の3くらいは。
 
娘のその存念を聞けば、母親達はかなり驚いただろうが、失敗したのは変わらない。
 
 
「これは、早く解除してあげないとアスカちゃん、危ないんじゃない?母の意地も分かるけど」
「意地なんかやない!やないよ!!あー、えーと、えーと、かなりまずい感じでいじられてるな・・・こんな繋ぎのセンス、ありえへん・・・・きゅーうっ!!あのひとのやな・・・・とにかく早う壁を崩してしまわんと!ま、ま、待っててな、アスカちゃん、きっと助けてあげるさかい・・・・」
「出来れば手を貸してあげたいところだけど、オカルト関係はわたしはからきしだし。科学もこうなると無力ねえ・・・・予定計画第一で、突発的なトラブルに対処できないっていうか」
「そんなもん、なんでもそうやんか!わ、わ、ここもそうかいな!この南蛮接続法・・・きゅーうっ!あ、あ、アスカちゃん、もうしばらく時間ちょうだいな!!」
 
 
「・・・・・・・」
返答もなくサイボーグ戦士のように走り続ける惣流アスカ。止まれば骨も残るまい。
まさに、屍、拾う者なし。だいいち、聞こえていない。川まで逃げればなんとかなる、とそれしか頭にない。他のエネルギーはすべて脚力へ。
 
 
標識もない一面の薄野原野でブリュンヒルデを残してきた河原まで戻って来れたのはラッキーというべきか。ものすごい帰巣本能というべきか。だが・・・
 
 
地獄に仏、知り合いに会ったような安心をブリュンヒルデに感じたとき、息が、切れた。
それを、甘い!と指摘できるのはかの冒険家、ネイト・ドレイクくらいなものであろう。
 
 
しかし、こけた
 
 
それを、まぬけめ!と笑っていいのもやはり、ネイト・ドレイクくらいなものであろう。
そのツケは惣流アスカ自身が支払うのであるから。迫る炎津波は債権者のように待ってくれない。さすがにすぐには立ち上がれない。「痛ぅ・・」足に疲労以外の痛みが走った。
 
 
やばい!!
 
と思ったが足が動かない腰が立たない。これは夢でほんとは熱くない!、心頭滅却火もまた涼し!!、とか悟ろうともしたが、夢だろうがなんだろうが、覚めなければ同じこと。あの金色の炎はそういった領分まで焼いてくるのだと、知っていた。そっちの方が得意かもしらんと。金色の輝きが迫ってくる。さすがにこちらが痛みをこらえて這うよりは速い。
追いつかれる。なんとか川に飛び込めば・・・・・いや、燃料のないブリュンヒルデなしに川に沈めば・・・・それはそれで、まずいのだと。予感や予想以上に悟っていた。
どげんかせんといかん!!とか思うのだが、気ばかり焦って南国方言を使ってみたり。
 
 
ばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばり
ばちばちばちばちばちばちばちばちばちばちばち
 
 
バリバリバリバリバリバリバリバリバリ
バチバチバチバチバチバチバチバチバチ
 
 
こうして聞くとモノが焼ける音というのは恐怖だ。童話でも郷愁でもなんでもない。
楽しさのかけらもない。もし、それが自分を取り囲んでしまえば・・・・・
どんな音がするのか、かえってまた別の音色がするものなのか、かき消されて分かるまい。
降りかかる火の粉を払うどころではなく、もう熱の吹雪だ。やばいやばいやばいまずい・・・・・・・
 
 
ぼーっ、ぼーっ、と、この距離でも伝導される熱量の凄まじさのせいか、ブリュンヒルデが必死に警笛らしきものを鳴らしてくるが、ゴキン!とした感触が足に凝り固まって、なんとか立とう走ろうと励むのだが、立てない。疾走のツケが前倒しの取り剥がしにきたのか全身の力が抜けてきている。筋肉の製造する熱量まで吸い取られていくような虚脱感のなか、感覚器は逆に冴えてきている。吹きつける火の粉ひとつひとつの色の違い、灰銀薄野の焼ける匂いの移り変わり、身体を捩らせるだけで毒波のようにジグジグ全身を痺れさせていく熱伝導、それから先ほどからの、「音」。恐怖と不安と混乱と、その他もろもろ焦燥色した感情を合奏させた踊り食いめく暗黒の騒楽。ばぢばぢばぢばぢばぢばぢばぢばぢ
 
 
ジ、ジジジジジジジジジジジ・・・・・ズ、ズズズズズズズズズズズズズ・・・・・
ゴ、ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・ザ、ザザザザザザザザザザザザザ・・・・・
 
 
近くになればなるほど、かえって音は芸をなくして味気ないそれになる。それを判別する感受性そのものが乾燥しきっているせいなのか。とはいえさすがにこんな状況では茨木のり子先生も怒るまい。
 
 
ぼーっ!ぼーっ!ともはや警告ではない、悲鳴に近いブリュンヒルデの警笛。
だが、それでも奇跡のようにパワーが吹き上がって最後の疾走が出来るようにはならぬ。
 
 
うわー、こら、あかんがな
 
辞世の句がこんな大阪のオッサンのようなことでええんかいな、と美少女としてそれで、というとこであるが、こんな局面でかっこいいことを考えたりできるわけがない。そもそも準備もしとらんし。えらいもんに手え出してもうたなー、という反省はある。
 
 
最後に聞くのがこんな味気ない炎の音とは・・・・・ふさわしいような気もするが。
人間のカタチを保っている、という意味では、普通の人間が火葬場で聞くのも、また。
それとは違うのは、生きているのかいないのか、ということだが。
 
 
オラララララララララアララララララァアアアア!!
 
 
神話級の怪物にも似た、無制御の炎壁が、きた。
やったのは自分であるから自業自得ということになるが。
ああ、それは身の程知らずであったのか。壁を破るより壁を知り己のものにしたいと思うことは・・・・・それは叶わず、破れれば火に取り込まれるのもまた宿命か
なんか急に燃音がマンガチック擬音になっているが、まあ、これも最後だから調子にのっているのだろう・・・・侵略すること火の如し、インディペンデンスは一日にしてならずか。
 
 
 
そして、
 
 
ばくん!!
 
 
と炎津波に呑み込まれる。そんな擬音が
 
 
 
聞こえなかった。
 
 
その、代わりに
 
 
 
ぐわぎゃらおおおおおおーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーん
 
 
 
怪物の、鳴き声かと思った。よく映画などである、目の前の自分を襲っていた怪物が急に背中を向けて逃げ出して「お、おじけづいたか?バカヤロー!」的な、そんなわけあるわけないのだが、主人公が調子こいていると実は後ろにもっとやばくて強大なバケモノがヨダレたらしてましたみたいな、観客目線でなければ成立しない、虎は威を借りません虎は虎です虎がきました的シュチュエーション。キャメラの専門用語では「トラトラドラ」という。嘘だが。脇役がやると必ず死ぬ。これは、ほんとう。
 
 
<ずぶぶぶーーーーーーーん>
 
直後に衝撃波がきた。縦か横かナナメか、分からなくなるほどに身体が揺さぶられて浮いたから相当なものだ。とっさに衝撃に備えた体勢をとってなければ目玉がぼろんと落ちていたかも知れない。火津波の次は地震か!?もう目茶無茶苦茶でござりまするがな!!
 
 
が、熱くない。地震程度で吹き飛ばされるほど生ぬるい炎ではないはずだが、目の前の愚かな獲物を見逃してくれるほど甘くもないはずなのに、己の周りに火がついてないことに安堵するより不思議に思う。うっすら目をあけようとする・・・・・が、物凄い薬臭と目にツーンとくる刺激で閉じざるを得なかった。何が起こったのか?頭は働かないが、まだ耳はいくつかの足音の接近を教えてくれる。心臓が、はねる。・・・はねた。
 
 
「いたいたいたいた!!アスカがいた!!」
「いた!じゃありませんよ。発見したのはお手柄ですけど。抱きしめるとか頬ずりするとかやっぱり愛してるとかそういうのは百年くらいあとにしてください!お熱いどこじゃないですから!早く運んでしまわないと!運転席へ、要救助者発見、これより搬送します!あー、なんだってこんなラジウム怪盗団みたいなことになってるんですか!幻想のかけらもないじゃないですか!」
「熱いのよ〜、もう汗でだらだらなのよ〜、はやくお風呂にはいりたいのよ〜」
「一番力仕事にむいてるのが何言ってるんですか!はやく運んでください!あとでかき氷おごりますから!こんなルール破りのケタ外れ熱量、消火霧の方もあまりもちません!汽哭のハッタリも一度しか効かないでしょうし」
 
 
声があった。聞いた覚えのある声たち。こちらがなんか言う前にえいやっと身体を持ち上げられる感触があったと思うと、えっさほいさと運ばれる移動感覚。ものすごい荷物扱いだが、口もあけられそうにないから文句もでない。触られた箇所に異議を唱えている場合でもないし、こいつら無責任そうだしなあ・・・・・それにしても・・・・「汽哭」か・・・
 
 
それは、聞いたことが、・・・・その名称だけ、ある。もしや・・・
 
あの怪物の鳴き声みたいのが、
 
そうだったのか・・・
 
 
荷物扱いではあるが、タラップから客席の座席に寝かせられた感触があった。
完全に熱気から遮断された空間の中だ。ここなら、安堵しても一息ついても、大丈夫だ。
 
 
「あー、つかれたのよ〜、さあー、かき氷いただくのよ〜」
「あ!やさしくって言ったじゃないですか!足を痛めているんですよ!罰としてシロップぬきです!」
「え〜?かこくなかんきょうで、労働したのにひどいのよ〜」
「文句があるなら、砂糖水ですらなく、食塩水かけてあげます・・・」
あのデブ黒猫、最後の最後に置くところで手え抜きやがった・・・けど、座席のスプリングがきいているので痛くはない。まだ目が開けられないが・・・・足は痛い。
「では、看護セットを運んできてください。そうしたらシロップがけを復活します」
「ええ〜、あれも重たいのよ〜・・・・うう、わかったのよ・・・・・」
デブ猫がシロップめあてでその看護セットを運んでくる間、足はひんやりとした手でマッサージされた。それだけで痛みが溶けていく・・・。相変わらず有能だ。まだこの列車に乗っていてくれて良かった。
 
 
「あの・・・ありがとう、歓喜・・・」
 
「名前を覚えていてくださったんですか?うわ・・・感激です・・・」
目はまだ開けられないが、声とその態度、歓喜に違いない。リップサービスではないのだが、働く手は止まらない。安定して仕事を続ける。座席の弾力がよくなっているのでちと不安になったがやはり、ここは「あの」銀鉄らしい。他の客の気配もないし。もともとは乗客を乗せる段階にない試験車両を。正式運行になったわけか。内装もそれらしく手を入れたのかもしれない。
というか、あの状態が客を乗せるものとしては論外だったわけだが。
 
「うーん、骨が折れてますね。あんなところで転んで、よくこの程度ですみましたね・・腐食もしてませんし・・・ずいぶん頑丈に・・・いえ、失礼しました・・・」
 
「・・・・・」
いくら全力疾走でもこの年齢で転んで骨折というのはちょっとがっくりくるが、どうも歓喜の失言を聞くに、それはかなり幸運なことだったらしい・・・・・あの灰銀の薄野。
そちらにいくな、とあの髑髏サッカーに教えられていたのに。
 
「まあ、綺麗に折れているからすぐに直りますよ。そのあとで、食事になさいますか?それとも湯浴みを?それとも」
 
「・・・・・あー・・どうしよ・・」
なんかつっこみどころ満載であったが、歓喜の性格上、べつに冗談でもなんでもないようだから、まじめに迷うふりをしてスルーする。あえてつっこむのであれば、それはもう初手からいかねばなるまい。この場合はデブ猫に搬送されたあたりから、いや・・・・
 
 
 
「ところでシンジは?」
 
 
そのあたりからいかねばなるまい。ようやく目の刺激も薄くなってきたから、目を開けてみるとやはり内装は変わっている。車窓の外も高速で星が流れているところからするともうあそこからはとおくとおく離れた銀鉄路線なのだろう。象面をあみだにかぶった歓喜の顔もそのままで、重たげに黒い箱をこっちに運んでいる車掌服のデブ猫の姿もある。
 
しかしながら、碇シンジの姿はない。汗をかいたからシャワーでも使っているのか。
 
確かに、その声がした。まさけ形態模写で歓喜がサービスしたわけでもあるまい。
その姿をみたわけではないが。炎津波のど真ん中、銀色の消防服を着てこっちを探し当てた人間レーダー・碇シンジの姿を。想像だにしていなかったが。なんであいつが銀鉄に乗っているのか・・・・あの切符はなんか特別のようなことを言っていた覚えもあるが
 
 
「ん?降りられましたよ。もともとズルして乗ってきたんですから。薩摩守ってほどじゃないですけど」
歓喜の反応はあっさりとしたもので。薩摩守というのは「ただ乗り」に平家の武将、薩摩守忠度(ただのり)にひっかけたもので。隠語というかしゃれである。肥後の守というのは、いやそれはいいとして。
 
 
「よくもまあ、あんなズルを考えつくもんですよ。まあ、タイミング的にはそれが正解だったわけですが・・・・はい、ありがとうございます。約束のかき氷はこのあとでつくってあげますからね・・・・針を打ちます、ちょっと痛いかもしれませんよ・・・」
 
 
いろいろ問いたいことがあったが、針を打たれるとなると、黙るしかなかった。
ちなみに、針はちょっと痛いどころではなかった。かなり痛かった。
 
 
車窓を見ながら、ちょっと泣いた。