スーパーロボット七つ目大戦α
 
 
<北部方面最終兵器ルート>
 
 

 
 
渚カヲルがさいたまからスカウトしてきた新戦力、ラーゼフォンの神名綾人、ミーゼフォンの美嶋玲香、それからどういう役に立つのか今ひとつ不明だが腕がたつことはたつのは間違いない紫東遥(ノーゼフォン=ゼフォンなし)・・・彼らを加えた葛城ミサト率いるドロン・ベル(正式旗揚げ前)は、ろくろく互いの自己紹介もすませぬうちに、慌ただしく第二東京、お台場は21世紀警備保障を後にした。(ちなみに、ダイ・ガードもついていくことになった)
 
 
エヴァ三体は全翼機で、ゼフォンカップルは自分で飛んで、ダイ・ガードは輸送機あほうどりで、デモンベインも自分で飛べるし、一体だけ置き去り、または陸地を追走、ということにはならずに、一応同じようなスピードで足並みをそろえつつ、自分たちの旗艦となる(はずの)ヒリュウ改のある北海道は小樽まで。空路にしては、かなり遅い。
ロボットを空輸するなどという無茶は速度に遠慮を求めたし、ゼフォンは空間転移もありな量子回廊をはじめとする能力自体は未知数でも、奏者、パイロットの方が不慣れ(そんなレベルでさえないが)であったし、デモンベインは二人乗りのところを三度、ドクター・ウエスト、エルザ含む四人乗りなどをやっているから騒がしくそして遅い・・・・大十字九郎の気が散るからだ。魔術回路を組み込まれている魔を断つロボットはパイロットの精神状態にパワーがかなり左右されるところがある。
「なんでまたてめえらが・・・・他の飛行機に乗せてもらえよ!」
「あきらめよ、九郎。この者らを抑えきれるのは”まだしも”慣れた妾たちしかいないのだ。・・・機内で騒がれたあげくに目の前で墜落なぞされたら、さすがに寝覚めが悪いぞ」「そ、そうか・・・・その危険性があるな」「そうロボ!危険ロボ」「だからっ!」
 
 
そんなわけで、慌ただしく出発したわりには、のてのてとしていた。
 
 
実際のところ、「のてのて」などと感じるのは葛城ミサト唯一人で、他の者はなんでこんなに慌てふためいたふうに出ていかなければならないのか、と不思議に思っていた。
新たに二体も新戦力が加入したのだから、一日くらい待って神名綾人君たちを休ませるなり親睦を深めるなりした方が今後のためにいいのではないか、と大河内社長などは言ってくれたのだが。葛城ミサトは聞く耳もたない。予定を一切変更することなく、そのまま発った。十八年の歳月とさいたまの封印を抜けて飛び出してきた東京から、休みもなくさらに北の大地へと。何も知らない少年少女にはちときつすぎる旅程だが、葛城ミサトは勘弁しない。確かに、戦闘に駆り出そうというわけではない、単なる移動だとしてもそれは。
ほとんど夜逃げの勢いである。余裕というものがない。荒っぽすぎる。人情がない。
 
「僕たちのホームへ向かうんだよ・・・・向かうべき場所があるのは幸せなことだよ」と渚カヲルにしれっととりあえずの説明はされたが、納得はあまりいかない。が、羽根を休める場所はここではない、と先導者に告げられたなら、もう少し飛ぶしかしょうがない。
「綾人ちゃん、もうすこしだって。がんばろ?」と女の子に言われればもはや観念。
美少年の外面にナイーブ神経という正統派美少年である神名綾人、びーびー言えない。
こんな美少年をお姉さんは守ってあげたくなるものだが・・・ナイーブそうな外見に横綱の神経を秘めた碇シンジに毒されているのかもしれない。
 
 
だが、葛城ミサトが急ぐのも無理はない。ヒリュウ改というのは、悪い評判の黒い霧を吹き飛ばして、ひとつひとつの情報を丹念に見ていけば、これ以上ないお買い得物件である。たまたま悪い運が重なって燻っちゃいるが、なんでこれを第一線級で使わないのか不思議でしょうがないほどの、力を秘めた空中戦艦である。使徒相手にバトルやらかしてきた葛城ミサトは縁起なんぞかつがないから黒い霧に包まれたヒリュウ改の真の姿が見える。・・・・・・自分たちがつかうにふさわしい艦だと。そう、
 
 
超お買い得物件なのだと。
 
 
だが、世の中、自分と同じことを考える人間はたくさんいる。これは巧い考えだゾ、とほくそ笑んでなんかいるうちに、横からかっさらわれてしまうわけだ。先手必勝あるのみ。
バーゲンと同じだ。
しかも、相手は古文書を読み解いてようやく発見できる迷宮の底に隠された伝説の宝物などではなく、膨大ではあるがきちんと計上された軍事予算を用いて造られて、居場所などちょいと調べれば誰にでも分かるようなところにいる・・・・つまりはしごく、目立つ存在であり、それをゲットするにはスピードが問題になってくる。人が手に入れる前に自分たちが乗り込んでしまう・・・・・葛城ミサトの考えていることはこれである。
自分たち以外にも、その力に目をつけて利用しようとする輩はいる・・・・必ず。
だから急ぐのだ。
そのためにビッグオーという手付けもうち、ロジャー・スミスに説得交渉にあたらせている。それは、現在の葛城ミサトがうてる最高の一手。 とりあえずは拠点を手にいれないと動きがとれない。・・・それを邪魔する輩は情け容赦なくぶっ潰す気である。
 
ロジャーさんを信頼はしてるけど、やはり気が急いてしまうのが若さか。
「フッ・・・・認めたくないものね・・・・」
周囲を確認してから、誰も聞こえない音量でぼそっと呟いてみる。
 
 
 
いろいろと若いのに辛い目、というか悪い目ばかりふってきたレフィーナ艦長との交渉は、艦長室で一対一でのロジャー・スミスの誠意あふれる説得に大いに心動かされ、ほぼ成功、のところまで来ていた。試験航海ということは艦長の自由裁量でコースを決めて良い、ということであるから、反対にいえば命令をもらえる立場にすらない、ということで戦力外の存在に見なされているわけであるが、このままではいつまでもクスブリ続けなければならず、いつまでたっても芽はでない、竜は宇宙へ飛び立てない。かといって、外海は危険でいっぱい。そこで、私どもが艦に乗り込んで護衛をしましょう、その代わりにこちらが”寄りたい”ところがあったら「寄って」ください・・・・こちらのメンツはかくかくしかじか・・・21世紀警備保障のダイ・ガードもいますよ・・・そうです、警備会社のあの赤いロボットですよ、対外的には試験航海を無事に実行するための、警護を雇ったことにしてはいかがでしょう?これは任務を遂行するための、正当な艦長権限ですし、臨機応変緊急避難な措置ともいえるでしょう・・・・この素晴らしい能力をもったヒリュウ改が最前線に立つことなく終わる・・・それはまさに地球規模の悲劇です・・・・そんなことにならぬように決断を行うのが、艦長としての最も重要な役割なのではないでしょうか・・・私たちはそのお手伝いがしたいのです・・・・・こんな調子のソフト路線である。が、これが功を奏した。渚カヲルも有能だが、やはりロジャー・ザ・ネゴシエイターも有能。衣食住はもちろん、装備燃料弾薬電力の補給はもちろん、給料までもらえるようにしてしまった。
ひどい話といえばひどい話であるが、もともと配属されるはずのパーソナルトルーパー部隊と地球圏最後の番人ジガンスクードがいないのだから、言うなればその分である。空いたハンガーに蜘蛛の巣が張るよりよほどましだとロジャー・スミスはプロらしく割り切る。当然、現在の自分たちの戦力が引き抜かれた者たちに勝るとも劣るなどと。
経済効果の面を巨視的に考えれば、これだけの艦をねかせておくより、「多少」自分たちに値をつけても、艦を動かした方が、費用効果は大きくなるだろう。決して、一方的に損な取引にはさせないつもりであった。いっそ、こちらが”雇ってしまう”手もあったが、それではヒリュウ改の悪評が強まることにもなる。この若い艦長の才質を殺してしまうことにもなりかねない。清濁併せのむにはまだ若いし、海賊とは同居できないタイプだ。
葛城ミサトがいきなり現れてもまた、交渉はうまくいかなかっただろう。
こんなじり貧状態でも艦内を崩壊させずに繋ぎ止めておく・・・・ヒリュウ改のクルーによる暴力事件だの窃盗だの周辺地の被害は全くない。てもちぶさたな感はあるが、人が荒れていない・・・凡人のよくやれるところではない。レフィーナ艦長には精神の貴種、とでもいうべき品格がある。
こういう人間相手には「ヒリュウ改から”緊急時”の名の下にスタッフを強引かつ大量に引き抜かれたのですから、こちらも”緊急時”の旗のもとに行動しても”当然”でしょう」などというのは禁句である。頭が固い、真面目である、という浅いレベルの話ではない。
葛城ミサトが直々に交渉にあたれば、絶対にこのNGワードを口にしていただろう。
 
 
とりあえず、ゆえのない悪評の黒い霧を吹き飛ばすために、2,3,適当な手柄を立ててもらう必要があるな・・・とロジャー・スミスはすでにここまで計算していた。皮算用ではもちろんない。自分がいい目をみようとおもったら、相手にも見せる、というのが交渉の信義である。・・・・そんなフェアな想いがやはり、レフィーナ艦長にも通じるのだ。
シンジ君と合流できればあとのことはいいわ、などと考えていればしくじるわけだ。
 
 
この人たちになら・・・・・このところ、ロクな目にあってないので、そろそろ七の目がでるのではないか・・・・交渉人のロジャー・スミスさんのロボット、ビッグオーは確かに頑丈で強そうだし。ジガンスクードの代わりになれるかもしれないし・・・・
軍からの戦力の補充は期待できそうもないし、引き抜かれた分を返してくれそうもないし・・・・ここは、艦長として決断するしかない。ヒリュウ改を生かすためにも。
レフィーナ・エンフィールド艦長は決断した。彼らを受け容れるか否や。
「よろしく、お願いしま・・・・」
 
 
ズズン・・
交渉がこれで、まとまる、というところでビーム砲撃の衝撃による邪魔が入った。
奇襲によく反応したヒリュウ改のEフィールドが受け止めたようだが、完全には殺しきれなかったようだ。
「ムムっ、何だ?」二重の意味で顔つきが厳しくなるロジャー・スミス。
「くっ・・・・敵襲ですか!?ブリッジ!ショーン副長!状況を」
緊張を走らせても怯むことなく、ブリッジを呼び出すレフィーナ艦長。襲撃自体は何度かあったことで驚くほどのことでもなかったが、今回は少し違っていた。
 
 
葛城ミサトと同じことを考えた者たちが、わずかに遅れてやってきたのである。
この、超お買い得物件を手に入れるために。
 

 
 
美味しい獲物は、ぐずぐずしていると、他の誰かにとられてしまう。
 
 
これは、弱肉強食の世の道理のようなもので、作戦家のイロハのイであり、とりわけ急ぐ理由にはならない。やれることはやったのだし心配してもどうにもならない、ともいえる。
既にとられてしまっているのかもしれないし。それなら奪い返す算段をすればよいだけ。
それより、新戦力が二体も加入したのだから、イロハのロで、そんなに慌てず一休みする余裕をもつべきであった。せっかくの新たな戦力が馴染まずに離反する可能性を考えれば・・・・渚カヲルの苦労(涼しい顔でもやっぱりしたのだろうし)を考えると・・・・だが、しかし葛城ミサトは一秒も出発を待たなかった。
 
 
これはカンであり、他人に説明できないが、北の方から”やばい”匂いを感じたのだ。
一刻も早く現地に到着してしまわないと、やばい・・・・・
ロジャーさんもヒリュウ改もやばい・・・・・奪われてしまう・・・そんな感覚。
ニュータイプっぽいが、ここにニュータイプが同席していればなんともいえない野生の大地な匂いを感じただろう。宇宙とかいて(そら)と読むっぽくないのだ。
ゆえに、「空中自己紹介」のようなアクロバッティングで忙しない真似をしてでも先を急いだ。惣流アスカの弐号機を運ぶ機の操縦後部席にて、薄く目を閉じながら腕組みをしつつ何かを待っているような葛城ミサト。その真剣な佇まいに誰も声をかけられない。
 
 
そんなカンは当たってほしくないものだが、・・・・・・・的中。
 
 
ぴぴー、ぴぴー、ぴぴー、ロジャー・スミスからのエマージェンシーコール。
ビッグオーをもっていった以上、生半可なことでこれが鳴るはずがない。
ショウタイムさせているし。
葛城ミサトの目が必殺の刃を抜くがごとく、カッ、と見開かれる。
間に合うか、どうか。
 
 
「大十字九郎君!」口喧嘩を続行しているデモンベインを烈火の声で呼び出す。
「は、はい!」通信は全回線を開いている。皆が聞いている。
 
 
「デモンベインは全速で現地に向かって。ロジャーさんが攻撃を受けているみたいなの」「応!!」さすがに熱血、魔を断つ剣。細かいことは聞かずにそれだけで装甲翼シャンタクを全力で稼働させて北にぶっ飛んでいった。襲われた仲間を助ける・・・・それだけでもうデモンベインは、大十字九郎は、アル・アジフは、全力を出せるのだろう。あっという間に見えなくなった。ビッグオーの重装甲がそう簡単にやられるはずもないが、応援は速いにこしたことはない。
 
「エヴァ各機も、戦闘態勢。状況によっては投下して戦闘に入ってもらうわよ。ダイ・ガードとラーとミーのゼフォンはヒリュウ改の防衛をよろしく」
実際、戦闘でまともに使えるのはビッグオーとデモベ、そしてエヴァときているのだから相手によってはかなり苦戦させられることになるかも・・・・・
小樽のあたりにはヒリュウ改が高性能のチャフをはっており、遠距離だと詳しい状況も分からない。襲ってきた敵もジャミングをかけているのだろうし・・・・・うーむ。
 
 
「ちょ、ちょっと待ってくれよ!」意志の疎通が全然できていない神名綾人から、これまた心が通じ合っていない停止の合図。フォルテ。
 
「ヒリュウ改ってなんなんだよ!それをなんで守らなくちゃならないんだ?!説明してくれよ!!」
 
あそこまで行けば一休みできる、と聞かされていたのに、「戦闘がある」などと。ナイーブな神名綾人の神経が耐えられなかった。ただでさえ混乱しているのにまだ新しい情報を頭にいれないといけないのか・・・・・脳内の譜面がゴシャゴシャになる。
言っていることも確かに正しいのだが、ヒステリーと言われても仕方がない。このメンツでは。訓練もうけずにロボットにのって主観的時間では三日も経たないのに、「戦闘がある」と聞かされて「わーい、がんばるぞ!」というのもどうかしているが、困った。
「綾人ちゃん・・・・」
 
 
「アンタねえ!・・・男で・・・」惣流アスカが気合いをいれてやろうとしたが、「アスカ」葛城ミサトに止められた。ナイーブな美少年にはアスカ式は逆効果だ。かといって、今のレイに説得させても、「なら寝てれば」の一言で全てを終末に導きそうだ。火と水でもだめ。こりゃまた手がかかりそうだわい・・・・・寄り合い所帯をまとめる、まとめないとならない葛城ミサトは苦笑い。そして。
 
 
 
「綾人君」
 
輸送機あほうどりで眠らされたまま同行させられている紫東遥がきいたら、ハンカチを噛んで悔しがりそうな、少年の心にすっと入り込む呼びかけであった。
 
 
「さいたまには、お買い得バーゲンってあるの?」
 
「え?」
「あ、あります!さいたまジュピターにもお買い得バーゲン!綾人ちゃんに荷物もちしてもらったこともあるし」
話術というか唐突と言うか、ヒステリーの矛先をかわされて、反応できない神名綾人のかわりに三嶋玲香が答える。「そ、そんなこと言うなよ!」「だって・・・・」
 
 
「ナンダコヤツラ」惣流アスカと綾波レイが冷たい、冷たすぎる目でラーとミーを見る。
「初々しいねえ・・・・」ダイ・ガードの青山圭一郎となぜか渚カヲル。
 
 
「これから向かう先には、わたしたちが欲しがっている、ロボットを積んで移動できる大きな船があるんだけどね、そうやってロボットに乗って飛ぶのもやっぱり疲れるでしょ?」
 
 
「ごまかしてないで質問に答えろよ!ガー」と普通、少年ダックな反応が返ってくるが、育ちがいいのだろう、「いや、そ、そんなには・・・・・玲香はどうだよ?」正直に答えて、今思い当たったのだろう、心配を隠してなにげないように尋ねたりする。しかもバレバレ。「走ったりするみたいな疲れはないけど・・・・ちょ、ちょっとお腹へったかな」
疲労がないはずはないのだ。が、葛城ミサトとしてはその返答を引き出せばいい。
 
 
「ただまあ、その船は現品一隻限りで速い者勝ちなのよ。だから、早く手にいれないといけない・・・・・それが、ヒリュウ改。船の名前よ。そして、いろいろと秘密がありそうなラーゼフォンとミーゼフォンを安心して隠しておける場所・・・・東京はさいたまに近すぎるしね・・・・船さえ手に入れたら、もう北海道の幸をてんこもりに食べながら一晩中つき合って事情を説明してあげるから、それまで我慢してもらえるかな?」
 
 
そういう風にいわれると、納得するしかないではないか。そんなことは全然ないのだが、なんか自分たちの事情のために船を手に入れる苦労をおかしているようにも聞こえる。
 
「一晩中は・・・・いいですけど・・・わかりました」わずかに俯き頬が赤い神名綾人。
「むっ」・・・・・あまりにも古典的なお約束を反応をみせる三嶋玲香。
 
 
「アナタタチナニモノ」再び惣流アスカと綾波レイの凍える視線。
 
 
ロジャー・スミスが苦戦しているらしいというのに、このように、和んでしまっていいのだろうか。かわいそうなロジャー・スミス。有能すぎてあまり人の同情をひかないタイプ。
 
 
「さ。こっちが先に手打ちを払ったのに、横取りしようとするイケずーずーしいバカを退散させるわよ」
 
 
美少年説得お姉さんモードから、戦闘バーゲンおばはんモードに切り替わる葛城ミサト。
こっちの主力であるデモンベインを先行させている以上、やれることなど祈るくらいしかないのだが、すぐ目の前の敵をヒネるような口調である。
 
 
「了解!!」
と皆から元気の良い返事が。神名綾人、三嶋玲香からも。 のせられている。
実際に、これだけの戦力になんの前触れもなく奇襲されたら、そこらの悪軍団など者の数ではない。総崩れにおちいるだろう。今の所あまり戦力的に期待されていない、灰猫おみそ状態のラーゼフォン、ミーゼフォンも実のところは・・・・大層な力を秘めている。
ロジャー・スミスもいよいよやばくなれば、ヒリュウ改の中に逃げ込んで、ゲタをひとまずレフィーナ艦長に預けてしまえばよい。彼女がどのように対応するか・・・性根と腕の見せ所だ・・・作戦部の人の悪さで葛城ミサトは腹の底でこんなことも考えている。
 
 
だが。
ぴー。ぴー。ネルフの用いる通常回線での連絡が来た。ロジャー・スミスから。
「葛城三佐、じつは一目あった時から・・・・」とかいう遺言などではない、バストアップの映像入り。ロジャー本人だ。元気で生きており、ドロシーも控えている。
 
 
「ロジャーさん、ご無事でしたか」
「ええ、まあ・・・・・ヒリュウ改の強奪にきたティターンズのモビルスーツ部隊は、なんとか追い返しました。ヒリュウ改も無傷です」
 
 
「ティターンズ!?そりゃまあ・・・面倒な連中が・・・・」
 
ティターンズというのはジャミトフ・ハイマンなる人物が組織した軍のエリート集団で、エリートだけあって実力はあるのだが、軍隊における優秀な実力とは人殺しの力であり、それをなんのてらいもなく誇りにして見せつけて、命令された相手に情け容赦なく振るう困った連中である。悪の豊作の今年では、様々な理由をつけては自分たちの権能の拡大をはかりその増長はいまや天をつくともいわれる嫌われ者たち。そのうち暴走して軍事クーデターでも起こして政権をも手中にいれるようになるだろう、というもっぱらの評判。バラバラで無能な者たちを統括して強大な一枚岩として、人類の脅威に立ち向かうのだ、というのがそのお題目なのであるが。誰も信じる者はいない。おそらく、口にしている当人たちでさえも。
裏を返せば、そんなジャミトフの私兵めいた集団が組織内にあって一枚岩に固まるはずもないのだが。それを反省して解散する気配もなく、今日も今日とて、苦戦必至の戦場は放置して、悪に蹂躙される市民はほうっておき、戦力の拡張に励んでいるわけだ。頭がいいと言えばいいわけだが。エリートが、試験航海も済んでいない戦艦を強奪に来たというのだから笑うほかない・・・・・ただ、戦力は充実している。パイロットだっていい機体に乗りたいに決まっている。エースやエリートならばなおさら。ティターンズの悪しき相乗効果は決して侮れない。エリート集団だけあって、エリートに報いること報いること。
確かに、強いことは強い。戦力集団として分かることもあるが、軍隊として最低。
戦闘は数。戦いもせずに戦力のみをブクブク膨らせていく有様には、吐き気さえ覚える。
悪と戦うより、味方を籠絡するに多くの時間を割いているのは間違いない。
確かにこいつらは、頭がいい。戦力集団として、正しい。戦力が貯まった時点で大攻撃を仕掛けるのだろう。だけれど。
ロジャー・スミスが問答無用で得意の交渉の間もなく、戦闘に持ち込まれて苦戦しただろうことはすぐに分かる。彼らは、悦びのために戦闘をする。戦闘のために戦闘をする。
鞘もなく、日々刃金を分厚くしていく、血の泡をふかせた人切りダンビラ・・・・。
 
 
ティターンズのモビルスーツとなれば、そういうわけで高性能であり、目的が至上であるから強化人間などもドンドコ造り、パイロットも優秀で、しかもビッグオーは見た目どおりパワーはあるが、敏捷さの点ではいかにもたこにも、ときている・・・・・
 
かなりの苦戦を強いられたはずだが・・・・ずいぶんと、早くカタがついて、ロジャー・スミスの表情にもあまり疲労の影は見られない。さすが、ロジャー・ザ・ネゴシエイターと讃えるべきかここは。葛城ミサトがそのことを言うと、ロジャー・スミスの顔が曇った。
 
 
「いえ・・・当初は、飛行型モビルスーツの連携機動に悩まされていたのですが・・・」
 
「飛行型・・・・・モビルアーマーかもしれない・・・・そんなのに地上で乗れるパイロットはおそらくエース級・・・・!・・・・・ロジャーさん」
 
「はい」
 
「合流したら、勲章授与式ですから。常勝朝日猛打賞をさしあげます。ビッグオーみたいなドン鈍そうなのでよくもエース級のモビルアーマーを・・・今日からサンライズ大王と名乗っても誰も笑いませんよ」
 
「辞退させていただきます。実は、機銃で攪乱してくれた・・・・・が、いたからなんです」
 
「はい?途中が小さくて聞こえなかったんですけど」
 
「・・・・・・です」どうも言いにくいなにかがあるらしい。デモベは間に合わなかったし、やばいところを助太刀してくれたっていうのだから何を遠慮することがある。
月光仮面でも黄金バットでもジャッカー電撃隊でもなんでもいいじゃないですか!勲章なんてボール紙に金紙を貼っただけなんですから。 にしても、機銃で攪乱って・・・・戦闘機なのだろうが、モビルアーマー相手に尋常な度胸と神経ではない。もしや・・・!
身の程知らずの義憤にかられた安保軍の戦闘機が挑んでいって・・・・そして散ったのか。それならば、ロジャー・スミスの躊躇いも分かる・・・・そうか、そんなことが・・・・
 
 
「制服を着た女子高校生だったわ・・童顔の」
 
 
ドロシーが無表情に、告げた。いきなりのその意味が分からなかったが、顔色を変えたロジャー・スミスの態度で分かった。・・・・・の、機銃で攪乱、助太刀してくれた者の正体が。R・ドロシーがアンドロイドで良かった。
 
 
とりあえず、話は聞こうと葛城ミサトは思うことができたのだから。