スーパーロボット七つ目大戦α
 
 
<力は必要、必要な力ルート2>
 
 

 
 
 
「・・・というわけで、ロンド・ベルがコテンパにやられたわ」
 
 
ヒリュウ改の作戦会議室にてパイロット連中を集めて葛城ミサトは事実を告げた。
ロンド・ベルの敗北・・・・撤退というよりは逃走といったほうがいいようなさんざんな負けっぷりは、時間が経つごとに続報が入り、詳細な輪郭が明らかになっていく。
圧倒的な戦力を擁するボアザン・バーム、キャンベル三星軍に対して、「いつものとおり」大した布陣もせずに各自好きなよーに突っ込んでいき、熱いあんこを薄皮で包むようにしていったのが、一気に破られた。連携がどうの戦術がどうの、というレベルではない、単純に揃えた戦力が違いすぎたのである。いつもはそれに耐えられたが、今回は耐えられなかった、ただそれだけの話で、その責任をブライト艦長に負わせるのは酷というものだろうが、艦長というのは責任者というのはそれが仕事であるので、面目丸潰れであった。
 
 
基本的にロンド・ベルはあれだけ神出鬼没の行動力と機動力を誇りながら、いざ戦闘となると「スロースターター」である。勝つまでやるんだ、という熱血性もさることながら、彼らの乗る機体がだいたい、そのように出来ているのである。”三十分”という普段の檻から解き放たれた彼らは持久戦を好む。熱血の割にはどうも地味だなあ、と思われるだろうが言い換えると、気分がノってこないと彼らの機体は力を存分に発揮しないのである。
「早いところカタをつけてやるぜ!!」とかなんとか言いながらも実際にそのようには動かず、スーパーロボットのパイロット達は侵入した敵研究所の自爆から逃れるためとかよほど切迫した事情がない限り、本職の軍人から見るとずいぶんと「ちんたら」戦い、自分たちの被害も顧みずに敵の全滅を狙う。これは正義と悪の戦いであり、戦闘は政治の解決手段でもなんでもないので、これはこれでいいのであるが、実際に敵の戦力が上回っている場合は、敵の大将首を狙って包囲の弱い箇所を一点突破していくのがセオリーである。が、ロンド・ベルはあくまで「全滅」を狙う。出会い頭に敵の大半をあらかじめセットアップしていた全力を持って刈り取る、という奇襲戦法も使えず、なおかつスロースターターときては。二重の無理であった。
その無理を可能にしていたのが、プリンス・ハイネルらが歯がみして悔しがっていたのが「精神コマンド」である。そんな内情を知らなければロンド・ベルの快進撃は「ブライト・マジック」として戦史の教科書にでも載ったかも知れないが。
 
 
その手は桑名の焼きハマグリがパックリと口をあける日がやってきたのである。
 
 
必殺技の使用可能など機体が本調子になるまで、かわしたり、防いだりダメージを減少させたり機体を回復させたりして敵の攻撃を堪えさせていた「精神コマンド」がなければ、スロースターターが暖まり、スタートする前にやられてしまう。
自分たちより上回る戦力を噛み千切らずに丸呑みにしようとして、アゴが外れた・・・・蟷螂の斧というか、ウシを呑もうとしたよくばりな蛇のようなもんだった。
 
 
分かった時にはすでに手遅れ。戦闘の趨勢はほとんど決してしまった。
やはり宇宙人は強い。さすがに広大な宇宙を越えて地球を侵略してくるだけのことはある。
しかも数が多いので、手強い主力級スーパーロボットには取り囲んでのヒキョウもラッキョウもないタコ殴り。いいように分断され、離されたままに援護攻撃も援護防御もままならぬままに、各個撃破されていく・・・・・この点、悪の御三家、ハイネルらの指揮は非常にうまい。ほとんど気分はワードナの逆襲である。とにかく、ギタギタのズタブタにやられた。これでもかこれでもかこれでもか!というくらいにやられたロンド・ベル。
 
 
「トドメこそさされなかったけど、負けは負けだわね・・・」
葛城ミサトが決定的な一言で締めると、作戦会議室が静まり返る。
正義が悪に負けた・・・・・・あまりに重たい事実に皆、言葉が出ない。
ロボットのパイロット達、つまり最前線に立つ者たちは、それは人ごとなどではなく、わずかな未来の己の姿に他ならぬ。意気消沈し、恐怖し、びびるのは当然なことだった。
 
 
ビッグオーの操縦者でありながらドロン・ベルのネゴシエイターとして先に艦長室でこの事実を聞いていたロジャー・スミスは葛城ミサトのあまりに直接的な、オブラートに包まない知らせ方に危惧を抱いていたのだが・・・・・アンドロイド、R・ドロシーのように恐怖を感じないものはおるまい。特に、神名綾人君の恐怖度は可哀想なくらいだ。昨日の今日でこんなこと言われたら青春まっただ中の彼ではたまるまい。人間は、恐怖を感じる。自分たちより強い者が自分たちより悪い者に負けたとなれば、それに伴う激しい感情の波は。下手をすると、一気に組織が内部崩壊する。R・ドロシーの能面のような無表情を見る。我々が立ち向かうべき恐怖のメモリーはどこにある?それを、今、プロの舌鋒で突き刺さねばなるまい。
私は皆の勇気と交渉しよう・・・・いろいろと決めセリフを考えてロジャー・スミスが口を開く前に
 
 
 
「ふん。妾たちは負けぬ」
 
微塵の恐れもなく、むしろ闘志を滾らせて腕を組み、高らかに言ってのけたはアル・アジフ。エメラルドの瞳が爛々と輝いている。人間ではない、魔導書の精ゆえの戯れ言であるのか、いや、そうではない。そうではなかった。かたわらに同意を求める
「そうであろ、九郎」
 
 
「応よ」
大十字九郎が応える。あまりにも燃えるように。あまりにも剛毅に。あまりにも格好良く。あまりにも昨夜の宴会の女装の記憶は燃やすように。
 
 
「もともと妾たちがブラックロッジの連中と戦う時に魔法は使ったが、精神こまんど、など使ったこともない。だが、勝った。最後まで戦い抜いた。なにを恐れることがある?・・・・神名綾人!」
いきなり名指しで呼ばれて、俯き加減に青い顔をしていた神名綾人がびっくりして顔をあげる。
「な、なに?・・」
 
 
「汝は、恐ろしいか・・・?」魔導書の精の問いは、これまたみもふたもないが、その表情は無限の闘魂を告げた先とは違い、どこかやさしい。小娘の顔でそれが挑発的、ととれないのはやはり実年齢と長きにわたる戦闘経験のなせる業か。
 
 
「そりゃ・・・・急にこんなこと言われて・・・・驚いてる・・・」
さすがに、美嶋玲香が隣にいては正直に「怖い」とはいえない。悪が正義に勝ちました、なんて話を聞かされて怖いと思わないのはどうかしている。そりゃあんたたちは戦い慣れてるんだからいいんだろうけどさ・・・・
 
「恐ろしいかどうか聞いたのだ・・・・・どちらなのだ?驚くだけならハトにでもできる」
内心を読みとったのか、多少、表情に険を戻して問いなおすアル・アジフ。
この中で一番、精神耐久力のなさそうな芸術家の卵系美少年であるところの神名綾人にいささかこれは酷だろう、と皆思ったが、この問いは必要な問いであることもこの場の者は皆、感じていた。ダイ・ガードの赤木俊介あたりはそんなこと感じないから気の毒な高校生をフォローしてやろうかと口を開きかけたが、桃井いぶきと青山圭一郎に止められる。
 
 
「・・・・こ、怖いさ!!悪いのかよ!!・・・だって、そうじゃないの?ロンド・ベルってのは、僕たちよりも力のある集団なんでしょう、それが負けたっていうなら、もし襲われたら僕らも・・・」
立ち上がって逆ぎれる神名綾人。だが、すぐにその熱は冷める。言葉をぶつけた相手は姿かたちこそ幼女のそれだが、はっきりと「だからどうした、負けるものか」とこの現状に対して自信たっぷりに言い切ったのだから。それにひきかえ。「綾人ちゃん・・・・」不安げな顔で美嶋玲香のこちらを見上げる視線に気づくと、さらに赤面する。思い切り罵倒されるかと覚悟した。いまのはあまりにも、かっこわるすぎる・・・・・・
 
 
「悪くはない。それでいいのだ」
だが、アル・アジフはあっさりとそれを肯定した。「一人の敵を殺したる証拠ないものは死罪、その父子親族は重刑に処せらるることあるべし。わが隊将の首級を敵に委ふべからず。この仇を報ずるあたわざる時は一隊ことごとく討ち死にせよ」という薩摩軍法のようなことを言い出すかと思っていた他の者はしばしあっけにとられる。
 
 
「強敵を恐れぬのはただのうつけだ。そのような大うつけは・・・・幸いなことにこの中にはおらぬようだな・・・約一名を除いて・・・」
ちろ、と作戦会議室の一点に目をやる。その緑頭の”約一名”はパートナーの密命を帯びた大十字九郎がエリザと組んでこの空気の中で何もいわぬよーにキッチリ口を封じている。その男が口を開けばなんの話をしていたのか分からなくなる。「・・・・で、だ。」
 
 
「もともと、妾たちはロンド・ベルとはなんの関係もない。彼の者たちが破れたからといって敵討ちにやっきになることもない。彼の者たちが噂に違わぬならば、おそらく自力でなんとかやりかえすであろ。精神こまんどに頼らぬ戦術を編み出すか、または精神コマンドを封殺する手段を破壊するか、それは分からぬが、こちらは前者をとるべきであろうな」
 
そういって、ニヤリ、と笑う。死線を幾度も幾度も超えてきたものだけがもつ逞しさで。
外見だけでいえば、どう見ても戦闘の役には立たない、ほっと一息つかせるための美幼女「マスコットキャラクター」のアル・アジフであるが、その中身たるや真・三国無双の武将でさえ一目置かねばならぬほどの剛毅。このゲージの高さを見よ。惣流アスカでさえ「はあ・・・」とわずかに頬を染め、ため息混じりでその白薔薇のように誇り高い横顔を見ている。
 
 
「とりあえず、今の状況でやらねばならんのは、昔年の恨みを晴らして今頃祝杯でもあげているであろう宇宙人どもの杯をひっくりかえして鼻面を水浸しにしてやることだ。・・・・まあ、要するに勢いを削いでやることだ。これは急いだ方がよかろうな。とはいえ実際、妾たちの現戦力ではそこまでのこともできん。返り討ちにあうのがオチだ」
 
 
おいおい・・・・・この調子で行くとさんざんアジりまくって皆の気力をあげまくって特攻するのかと思いきや、そこはやはり長きにわたる戦闘経験者、十二分の信頼をおく愛機、魔を断つ剣・デモンベインを擁しても無茶はしない。ロジャー・スミスや葛城ミサト、特に常識人、ドロン・ベルの安全弁、冷却装置を自認する城田氏がやばい方向に話がいかずに内心、ほっとする。だが、裏を返せばそれは他の機体、自分たちの能力を信用してないということか、という受け取り方もできるわけで、アルのアジにのりかけた惣流アスカが不満の表情を見せる。こっちだって使徒相手に激闘を繰り返してきた、侮られる覚えはないわよ、と。おうおう、元気のいい小娘だ、とアル・アジフは横顔に受ける熱い視線に小気味よささえ覚える。そして、もう一つの冷たいが真摯の視線を感じる・・・・。
 
 
「かといって、バカ正直に現状のロンド・ベルと合流するのもさほどの得策とも思えぬ」
 
 
読心されたわけではないが、考えを見透かされてわずかに表情をこわばらせる綾波レイ。
ロンド・ベルのピンチということは、それは碇シンジのピンチに他ならぬ、今すぐにでも駆けつけたい・・・・足を止め、もはや神出鬼没に逃げられずに、今なら追いつくだろう。
合流するならば、今、このタイミングをおいてほかなし。葛城ミサトたちの首脳部の判断もそうだろう、と読んでいたのだが・・・・・この魔導書の精は、違う、という。
 
 
「?」こんな緊急事態には戦力を集中してコトに当たった方がいいんじゃないのか、と大人の計算をしていたダイガード・チームの赤木俊介以外のふたりが首をかしげる。