スーパーロボット七つ目大戦α
 
 
<バビル17・いっしょにいたい人はいますかルート>
 
 

 
 
「ヨミという男の組織です」
そう云ったバビル2世の顔には激しい敵意があった。これまで超然というか泰然というかみかけどおりの学生の歳とは思えないほどの底知れぬ器を感じさせていただけに、葛城ミサトとロジャー・スミスはこりゃーかえって単なる敵対関係じゃなさそうだ、と見当をつけた。バビル2世とヨミという男・・・・ひどく深い因縁を感じさせた。
 
 
葛城ミサトとロジャー・スミスは警戒する。
 
 
バビル2世の力は見た。巨大ロボット怪鳥を操り、自身も人間とは思えない動きをする。あれだけの戦闘をこなして、学生服にはほつれひとつないのがその証拠。
大きな力を、そう簡単には伺うことも計る事もできない力を、もっている。
そして、どこの組織に所属しているわけでもなく、その力を制約無しに使える、その近田を縛るのは本人の意思のみ、というのは、正義という名の大規模私闘にたやすく転換する。べつにそれを否定するわけではないが、自分たちと行動を同じくしようてんなら、それなりに足並みをそろえてもらわんといけんわけであり。単なる敵意を越えた、相手を滅ぼさずにはおかない、そのためなら、どんなことでもやる、退くことを知らない一直線なぐわんばる殿下の話にどう向き合うか、ドロン・ベルの二人は内心、戦々恐々としている・・・・。
 
 
が、そんなこともテレパシー能力を持つバビル2世にはお見通しなのだった。
 
(うーん、コンピューターの云ったとおりだな。あれだけ剛毅な行動をしておきながら、”力”に対する慎重さがある・・・・説得できる確率は五割・・・・)
砂の嵐に隠されたバベルの塔に鎮座する自らの軍師・コンピューターの言を思い出す。
 
そして、ヨミのような表に立つことはなく影からじわりじわりと支配領域を拡大していくような知能タイプの世界悪はロンド・ベルのような正統派正義軍団には叩けない。
 
影を踏み砕けるのは、同じく裏街道をいく闇の馬・ダークホースのみ。
 
できれば彼らの協力を得たい。いかんせん、人手が足りないのだ。ビールス人間事件のときも厄介だったが、今回の件はそれ以上。宇宙生物相手では、日本の国家保安局や自衛隊では力不足だった。
 
 
「ヨミ、ですか・・・・・あまり聞かない名前ですね。ロジャーさんは?」
「そう、ですね・・・私も職業柄、裏の組織にも通じている方ではありますが・・」
 
 
「そこがヨミの恐ろしいところです」
自らの宿敵を遠回しに「マイナー」呼ばわりされてもべつにバビル2世は怒らない。
 
「超能力という大きな力を持っていますが、真におそるべきは真正面から向かい合えばたいていの人間を心酔させるカリスマである、ということでしょう。世界の王になってもおかしくはない・・・歴史にある古代の大王というのはヨミのような人物なのかもしれません・・・世界の裏側で巨大な組織を一人で立ち上げ、部下の絶対の崇拝を受ける・・・各国の指導者層に自らの息のかかった者を送り込み、それがかなわぬ場合は替え玉とすり替える・・・・そうすることによって、力を蓄えていっているのです。軍事力や経済力・・力と名のつくものでヨミが手にしていないものは・・・・ありません」
 
 
(うーん、さながら宗教関係者やんけ。なんだかあんまり関わりたくないわねえ・・・)
自分たちもある意味そうであるくせに、そんなことを内心で考える葛城ミサト。
(この少年、実はヨミという男の息子かなにかで、父親を倒して自分が世界の王になろうというのではなかろうか・・・・)
とても目の前の女の子には聞かせられないことを内心で考えるロジャー・スミス。
 
 
もちろんバビル2世にはお見通しである。だが、心をのぞけても、脳をのぞいているわけではないので、葛城ミサトがあっさりと
 
 
「要するに、超能力に傾倒せずに、非常にバランスがとれた組織であり、戦力になるものは貪欲に研究、吸収していく・・・広範囲な畑をもっているってわけですね。そのヨミという男の組織は。・・・・・・なるほど、今年は悪党が豊作ですしねえ」
 
本質をついたことをごく自然にのべたことに驚く。心と頭が直結していないのだろうか、この女性は・・・・わずかに目をみはるバビル2世。
 
 
「いうなれば悪のデパート、悪の総合商社といったところですかな」
エディプス疑惑はそのままにしているくせに、さらりとつづけるロジャー・スミス。
 
「表の看板だけはしっかりしているから、戦っても民衆の支持は得られない、と」
その涼やかさは交渉者より、悪徳弁護士のそれである。宇宙の金髪美人、オルディナが眉をよせる。美人に最低呼ばわりされるのはロジャー・スミスの宿業である。
いいひとDDと小学生つばさとヒカルはいまいち分かっていない。
 
 
「ヨミという人物の組織がDDさんたちが追跡しているマギュアを捕獲していったのは、新戦力を開発するためであり、ヨミを追っていたバビル2世さんがその線で合流・・・・・といったところですか。それで、私たちにコンタクトをとろうとしたのは、どちらの発案だったのですか」
迅速に状況を理解し、まとめるのは作戦家の仕事である。葛城ミサトはだいたいことの「厄介度レベル」を測定し終えた。彼らに独力で打開する力がないであろうことも。これは力の差ではない。広さの差だ。いかに力があろうとも耕す畑が大きすぎる。そのヨミという男の人徳、といっていいかどうかしらんが、カリスマ、組織構築力の勝利だろう。
向こうは世間、というか世界をどっぷりと知り尽くし浸かりつくしているのに、向かうは身体に神殿を内蔵しているような秘密裏に動くしかなさそうなエスパー少年と、小学生の女の子の力を借りねばならない、地球の外からの宇宙人ときている。ダメだ、こりゃ!
あとはマギュアとやらがどれくらい地球の脅威になるのかどうかだが・・・・・
ロンド・ベルが三星軍にコテンパにやられた例のとおり、いまさら宇宙凶悪生体兵器だからといって驚くこともない。フィギュアのような人型サイズでなんとかできるようだから、その脅威度は・・・・・まー、云っちゃなんだがなあー、ということになる。
聞いていることと脳で思考する内容がこのように違うので、バビル2世にも見通せない。
 
 
「あ!それわたしです!」ヒカルが元気よく手をあげて、こんどは葛城ミサトをあっけにとらさせた。
 
 
「へ?」
 
 
なんつうか、あれは自分たちなりに剛速球だったはずなのに・・・・150キロくらい
受けたのは子供・・・・ちょっとショック。液体金属でも知能や記憶は使用者のそれを受け継ぐというのなら・・・・つばさちゃんもそうなのか。あの懸命さの意味が分かった。
 
 
「DDたちもこれからどうしようかーって困ってたから、その時ちょうどお父さんたちの読んでた新聞に広告が出てたから、ちょうどいいや!と思って。
でも、正義の味方がほんとにいて、ほんとに来てくれるなんて!、ほんと、驚いたよね?
つばさちゃん」
満面に嬉色を、笑みを浮かべて隣のつばさに同意を求める。恥ずかしげに、それでもはっきりと、「うん!・・・いや、は、はい!、う、うれしかったです!」と答えた。
 
 
確かに”あれ”をまともに、額面どおりに受け取るのはよほどの子供か、地球の流儀を知らぬ宇宙人くらいしかあるまい・・・・ドロン・ベルの大方が考えていたとおりに、そのまんまの人材がやってきていたわけだ。実務を仕切ったロジャー・スミスにしてみれば笑うしかない。
 
「い、いや!ちょっと待って下さい。一応、誤解がないように云っておきますが、こちらでも下調べをして、あなた方が十分に信頼に足ると判断したうえで、バビル2世君とも相談して、あそこで待っていたのです。なあ、オルディナ!」
DDがなぜか慌てたように捕捉。「も、もちろん・・」オルディナも顔を赤くして。
 
いまさらながら「微妙かつ気づくとはずかしい」まちがいに気づいたように。
 
 
「えー?そうだったっけ?DDたちもけっこう乗り気だったじゃない!地球にもこんな素晴らしい組織があるのか!M87星雲の守備隊にも匹敵する誇り高さとかなんとか」
 
「な!なにをいってるんだヒカル!そ、そんな単純な話じゃあ、ないんだぞ!
ね、ねえ、そうですよね?」
 
 
うげっ!・・・・美人の相方(アニー)がいるのにこっちにふるなよ、宇宙警官!
 
と子供の前であるから大人げなくつっこまず、葛城ミサトはちょっち引きつった笑顔で
 
 
「そ、そうね、せいぜい・・・オタスケマン、くらいかな〜。助けにきたぞ、オタスケ〜あ〜ざやかはれやかーオタス〜ケマ〜ン、なんちゃって☆」
 
 
ぜんぜんいい格好ではない。おまけに、ドアの向こうで大人数がズッコケる音が響いた。
何人かは「しびびん☆、しびびん☆」と飛んでいた。