スーパーロボット七つ目大戦α
 
 
<夢でもし会えたら〜ケフネスの聖油ルート>
 

 
 
葛城ミサトは今夜にも発ちたかったようだが、パイロットたちの疲労や機体の準備などを考慮して、出発を一日遅らせることにした。北へはロジャー・スミスがビッグオーで先行してヒリュウ改との最終交渉に入ることになった。彼も次から次へと予定外の仕事をこなす羽目になっているが、その代わりといってはなんだが頭の痛い難題もひとつ片づいた。
デモンベインの所有者、覇道財閥との交渉が思わぬ形で決着がついたのだ。朝刊、つまりはあの”挑戦広告”を見たという覇道財閥、総帥覇道瑠璃がオッケーを出してきたのだ。
 
「正義のためなら、やむをえません」、と。デモンベイン使用承認、と。
 
日本の国に、ああも苛烈な、凛とした正義の形があるのは、誇らしくさえ思います、との通信モニターに映る覇道財閥総帥じきじきの感動的な誤解コメントのあとで、
「デモンベインは魔を、悪を断つ剣。そのために用いてこそ、お祖父様の遺志にもかなうことでしょうし・・・・けれど、大十字さん、”頃合い”をみて戻られますように」
と、乙女帝の威厳をもって起きたばかりの大十字九郎に命令した。その正確な意味は魔術暗号になっているわけでもないが、本人たちにしか分からない。それを見てまた隣のアル・アジフの機嫌が悪くなる。「ふん、”頃合い”なぞ永久に来ぬわ!妾と九郎はこのまま・・・・・むぐっ」
「了解しました、姫さん。”頃合い”になったら、必ず戻ります!・・・・で、あのおう・・・・半壊させちまったボーリング場の修理費用なんかは・・・・」
慌ててアルの口を背後から塞いだのは、他人の目があるこの連絡所で口喧嘩などをはじめられたらいい恥さらしであるとともに、小声になった後半部分のお願いのため。ミスカトニックの学生さん、いやさ大十字九郎は金がない。
そんな彼に覇道瑠璃は、にっこりと笑む。
 
「あら。世界最強の魔導書、アル・アジフがその偉大なる魔力で直してくださいますわよ。建物の一つや二つ・・・・ねえ?それでは、お体に気をつけてがんばってくださいね」
 
「あ、あの・・・・姫さん?」
そして、通信は一方的に切られた。怒りが完全におさまったわけでも、許してもらえたわけでもないことを思い知らされる。総帥として大器を見せたものの、覇道瑠璃は少女なのだから。金持ちのお嬢様が貧乏な若者に意地悪なのは、世界の法則なのかもしれない。
魔術師はそんな世界の法則を自分の意志で書き換えてしまうこともできたが・・・・
 
「ま、しょうがないか・・・・・」
しおしおの大十字九郎ぱぁである。そのザマがまあ、またアルの気に入るはずもなく
 
「男が金のことなぞ言うな!男は前だけ向いていればよい!その点・・・、”だけ”は、ウエスト、あやつを見習うがいい。全くなんの悩みもなく、この旅路を楽しんでいるではないか!九郎、汝も・・」
「あいつが悩むところなんざ全く想像できんが・・・・・アル、おまえには出来るのか?」
「い、いや、そういわれると・・・・妾にも・・・・・、違う!汝が不甲斐ないから、小娘にあのようなことを言われねばならんのだ!!」
「オレのせいかあっ!?元はと言えば誰のおかげでこんな・・・・・・あ、いや、すいません。そういうわけですんで、修理費用の立て替え分の返済はもう少し待って下さい」
 
ここで喧嘩をやらかすわけにはいかぬ、と思い返して葛城ミサトの方を見る大十字九郎。
 
「いえ、いいわよ〜。やりたかったら遠慮なく続けて。中途半端なところで止めるとストレスたまるから」などとニンマリされた日にはよけい。まるで奥様戦隊だ。
 
「ふん・・・・」アルはさっさと連絡所から出ていってしまう。気位が高いだけに羞恥に負けたのだろう。何百年も生きているはずなのに顔が赤い。早くも葛城ミサトはデモベご一行の扱い方を習得していたわけだ。・・・・アルが行ったあとに、真顔に戻る。
 
「機体の正式使用許可はもらえたし、しばらく私たちに着いてきて欲しいんだけど。それが修理費立て替え分の代償、それでいい?あなたたちの戦闘力を考えると、こっちが儲けすぎになっちゃってるんだけどねえ」
「”頃合い”が来るまでは、帰れないですよ。どうもね。だから、ご厄介になります」
そう言って大十字九郎は人好きのする笑顔をニカッと浮かべた。
「ありがとう。助かるわ、すごく。・・・・・それで、さっそくで悪いんだけど」
 
(・・・ほんとに早速だな。オレの人生の早速記録で歴代第一位ですよ)と内心でつっこみつつ、その用件を察していた。
 
「ロボット探し・・・・ですね。北の方へ出発する前に見ておいた方がいいんでしょうね」
元来はそれのために呼ばれていた・・・・のだから。引き受けた覚えはないが、ここまでくればしょうがない。可愛い相棒が受けたとなれば・・・・それに、多少の事情を聞き、関係する人間の顔を見てしまった今となっては。
 
 
「お願い」
これほど真剣な表情の人間を目の前にしては。
 
 
「すぐに準備します」そう答えるしかない。「必ず、見つけてみせますよ」と。
 
たとえ、それが定番のようにはぐれた仲間が敵の中にある、というのでは・・・・なく、
はぐれた仲間が、なんだか一人だけ運良くゴールインを果たしているとゆー事情でも。
よくあるパターンで、敵にまわった仲間が遅いかかかってきて、それを「説得」、ということにはならないのだから、そうせっぱ詰まることもないとは思うけれど・・・
まあ、かける言葉もない。いろんな意味で。デパートで迷子になった子供が、案内放送をしてもらうために親が慌てて駆け込んだインフォメーションにいて、丁度その子供が”迷子のお知らせ”として親の風体を案内嬢に吹き込んでいる・・・・・ような感じだろうか・・・・だとしたら、かなり焦るだろう・・・・・碇シンジ・・・・どんな少年なのだろうか・・・・やはり、あの三人に匹敵するようなただ者ではない、子供とは思えぬ優秀をもった、エリート少年みたいな・・・うーむ・・・・考えながら大十字九郎は連絡所を後にする。
 
 
なんにせよ、ロボット探しにはアルの協力が不可欠、というか、アルがメインで、自分がそのサポート、ということになるだろう。デモンベインを用いたダウジング、としてもその役割分担は変わらない。そしてもちろん、ウエストの野郎には内緒にすることだ・・・
「我輩に任せるのである!このロボット追跡機を使えばたちどころに、そんな子猫の迷子ちゃんロボットは発見できるのであ〜る!ただし、使わせてもらいたくば今日一日我輩のドレイになるのであ〜る」とかなんとか、ウザさ百パーセントな展開になるのはまちがいねえし。とにかく、アルと打ち合わせだ。さて、どこにいったやら。・・・・探す途中、
 
 
「お。大十字さんじゃないっすか、昨日はどうもお疲れさまっす」
礼儀正しく元気良く、さながら高校球児の合宿のような挨拶の赤木俊介とでくわした。
なにかいいことでもあったのか、目がキラキラ輝いている・・・・昨日の今日でそんなことが起こりそうにもないのだが、歯ブラシにTシャツ、新聞紙とその起き抜け三点セットの格好を見るとなおさら・・・・よほど夢見がよかったのか。もともとこんな男なのか。
ただ分かるのは、その言葉になんの裏も隔意もない、ということだ。
 
「あ・・・・、お、おつかれさまです。えーと・・・・ダイガードのパイロットの人・・・でしたっけ?」
探偵としてはあまり誉められた話ではないが、顔は覚えているが、名前が出てこない。
正直なところ、最初の出会いが、第一印象最悪な、あんな感じだったので、隔意があった。
悪いなあ、とは思いつつ、こっちをさんざん怒っているであろう相手の名前を詳しく覚えようという気にはなれなかった。まともに互いの紹介もしてなかったような・・・・・
よく考えると、それでよく同じ戦場に立ったものだ。
 
 
「そう、赤木俊介。ダイ・ガードの一号機のパイロット、操縦担当。いろいろバタバタして自己紹介するヒマもなかったっすね。よろしく」
にかっと笑って、タオルでグリグリ拭いて手を差し出す。
 
「あらためて、大十字九郎、です。あんときはどうもすいませんでした・・・」
それを握り返したが、いまひとつ熱血でファイト一発!これから頼むぜブラザー!な握手にならない。
 
「いやもう、それはすぎたことですから。自分たちもダイ・ガードで車を踏みつぶしたり、ビルを壊したりしたことがあるし、あんまり偉そうにはいえないっすよ。勝手が知らない街ならなおさら。パイロットはつらいよ、ってところですかね・・・・でも、デモンベインっすか・・・・あんなに強いロボットと一緒に戦えて、最高でした!」
躊躇いのある大十字九郎の手をさらに熱く強く握りしめる赤木。熱しにくいが、一旦熱せられると冷めにくいところがある大十字九郎に伝導するに十分な熱量。赤木以外の人間がいえば皮肉なセリフであっただろうが、それを聞き、我が子を誉められたパパ親のように大十字九郎の顔がぱあっと明るくなる。こっちに来てからペコペコ謝ってばかりだったのでなおさらである。赤木の一言はじいん、と胸に沁みた。なんていい人なんだ!
心の友発見!赤木に応えて、握手に力を入れ返す大十字九郎。元気はつらつリポビタンベイン!。・・・・同時に、大十字九郎の脳裏、魔法使用領域に突如、コマンドが浮かぶ。
 
今の友情の握手をきっかけに、大十字九郎は「精神コマンド」に開眼した!
 
元来は参戦を許された証に伝えられる秘密の呪文をさんべん唱える必要があるのだが、もともと魔術師である彼は、そんな方法で目覚めてしまった。また、彼の魂と深いところでリンクしているアルも、同じく精神コマンドが使えるようになった。
 
「それじゃ、オレ、青山と伊吹さんを叩き起こしてこの素晴らしいニュースを知らせてきますから!。お互い、平和を守るためにがんばりましょう!ああ、それと、良かったら昼飯、いっしょに食わないっすか?まだ食券が余ってたんで使いきらなきゃいけないんでオゴりますよ。ウチの社員食堂、けっこういけるんっすよ」
 
ドクターウエストとはまた別系統のテンションの高さに圧倒される大十字九郎。いや、ライカさんに似てるのか・・・・・アーカムシティの優しいシスターのことを思い返す。
しかし、赤木は別にセクシーでも巨乳でも、ましてや女でもない。似てるのはメシをくわしてくれる点だけだが、彼にとってはそこが重要で、赤木が言う素晴らしいニュースとはナンなのか、推理することも、聞き返すことすらもしなかった。探偵失格であろう。
昼飯の約束だけ受けて、赤木と別れ、アル探しを続ける。
 
 
「おかしいな・・・・どこ行ったんだ・・・・」
 
21世紀警備保障をくまなく・・・・・魔術師の感覚を総動員しながら・・・あちこち
探したが、見つからない。途中、赤木に誘われた昼飯のタダメシに呼んだのに現れない。
なぜか呼んでないウエストが代わりに現れてアルのために空けておいた席に座ったのでボコっておいたが、見つからない。食券を全部使いきるために、野郎二人でケーキセットまで頼んだのに出てこない。さすがに心配になった。ロボット探し・・・デモンベインのダウジング作業にかからないと葛城さんも怒・・・いや、仕事上、困るだろうし。
 
 
 
結局、居場所が分かったのは、夕方おそくになってからだった。
見つからなかったのは道理で、今の今まで結界をはって理学実験室を占有していたらしい。
そこから出てきたので、感知できた。大急ぎで現地へ駆けつける・・・・
 
 
「アル、なにやってたんだ」
葛城ミサトには「すぐやります」と言うた手前、問う声はどうしても尖ってしまう。
姫さんに言われたことがそれほど堪えたのか・・・?と思い返して、すぐに後悔するが。
 
 
「いや、久々なので、気を引き締めてよけいな邪魔が入らぬように一人で精製する必要があったのでな・・・が、なんとか、うまく出来た・・・・」
うっすらとアル・アジフの白い肌に汗が浮いている。もとが魔導書である。紙であり本である。単なる新陳代謝の熱放出ではない、それは魔力の激しい消耗の証。
 
 
その手には、極上のアラバスターの壺がある。・・・・魔法の薬をおさめる資格のある。
 
 
「それは・・・・・?」
魔力はあるが、知識はアルの足下にも及ばない。バカボンのように尋ねるしかない。
だけれど、そのやつれた様子を見ると悔しさなど影もなく。
 
 
「・・・エジプト人ケフネスの聖油じゃ。説明する元気もない・・・詳細は、ほら」
アルは自分の体からそれに関する記述の頁を割いて見せてくれた。それにドキンとするのは魔術師ではなく真性のロリコンだ。・・・まあ、それはどうでもいいじゃないか。
つまり。
 
 
ケフネスの聖なる油を頭にそそぐものは眠りについている間、来るべき時代の真の幻視をえられるであろう。
月がその光を満たすときに、陶製の坩堝に睡蓮の油をたっぷりとそそぎ、微塵にしたマンドラゴラを1オンスふりかけ、野生の茨の二またになった小枝でよく攪拌すべし。これをおこなった後、イェプスの呪文をかく述べるべし。
 
 
われは諸霊の支配者、オリディンバイ、ソナディル、エピスゲスなり。
われはウバステ、ビヌイ・ヌフェより生まれしプト・ファスなり。
アウエボティアバタバイトベウエエの御名において、
わが呪文に力をあたえよ、ナシラ・オアプキス・シュフェ。
力をあたえたまえ、テーベ・ネフェル、ホテップのコンスよ、
オフォイスよ、
力をあたえたまえ。
 
 
聖なる油に、赤土をひとつまみ、塩水を九滴、乳香の香油を四滴、右手の血を一滴くわえるべし。これらすべてに鵞鳥の脂を等量まぜあわせて、容器に火をかけよ。すべてが首尾良く運び、黒々とした蒸気が上り始めれれば、旧神の印を結び、容器を火からはなすべし。
 
 
 
このよな魔術儀式を結界にひとりこもって、コソコソやっていたのだ。他人がいれば神経が散ってうまくいかないほど厄介な作業なのか・・・・判断がつかない。ただ、らしくない、ということだけは言える。断言できる。魔力の補給役たる術師をそばにおいておけば、そのように疲労することもなかっただろうに。今さら、何をするにでもそばにいて気が散るような間柄でもないしなあ。水くさいのは禁物だ。うーむ・・・・
 
 
「も、もうよかろう!。さっさと返せ」自分の体の一部分の返還要求・・・それに応じる前に大十字九郎はすうっと体を伸ばすと、アルの腕をつかんで自分の懐に引き寄せる。
それから、あう、という間よりも素早く、唇を奪ってしまう。「む・・・・!」エメラルドの瞳が見開かれる。アルが慌てて離れるよりも先に、大十字九郎は小さな唇が奥に秘めている言霊を舐め取ってしまっていた。魔術師の接吻、マギウス・キス。
 
「な、汝はっ・・・・」
 
「そんなことを考えてたのか・・・・・なんで手伝わせてくれねえんだ」
 
 
「べ、べつに引き受けたからには確実性の高い方法をとるべきだと・・・思っただけだ。
探すだけなら、この先合流できるかどうか分からぬ・・・・何よりもあやつらが真に知りたいのは、今、仲間がどうしているかであろうから・・・・・」
 
 
「質問に答えてくれてねえぞ、アル」
 
 
「こちらに来てから、九郎、汝に面倒なことを押しつけてしまった。本来、汝はこんなところに来たくはなかったというのにな・・・。世界でも指折りの魔術師となった汝がヘッポコ探偵の姿で世を忍ぶなどと・・・・許せ、不甲斐ないのは妾だ」
 
「今さら何言ってんだ・・・・・というか、後半部分にさりげなく悪口が挿入されてないか」
 
「もう、帰ろうではないか。この油で葛城たちの探す子供の居場所と様子は分かる。それを知ればおそらく自分たちだけでそこへ一直線へ向かうだろう。妾たちの仕事は終わりだ・・・・・汝もその方が良いのだろう?」