スーパーロボット七つ目大戦α
 
 
<夢でもし会えたら〜ケフネスの聖油ルート2>
 
 

 
 
「あのなあ、アル・・・」
こりゃ、誤解を解いておいた方がいいだろうな・・・・・
大十字九郎はそう判断した。確かに、半分無理矢理に連れてこられたようなもんではあるが、それで行った先で少々トラぶったところで泣きをいれるようなお坊ちゃんじゃないつもりなんだがなー。意外に日本の国も見るべきものはあるし、ファーストインプレッションこそ最悪だったが、ちょいと時間をかけて話し合えば、俊介みたいにいい奴もいるし、楽しくやれるんじゃないかと。こっちに来たことに後悔はない。長い人生、しくじることだってあるさ、という意味において。外見はああでも、長い年月を経た魔導書にはそう見られてしまうのか、それとも単純に頼りないのか、はたまた、そんなことが分かるほどに人の世に馴化してきたのか・・・・ま、ヒステリーだろうな。つまり、精神が不安定。
湿気が多いらしい日本では調子が狂うのかもしれないな。
無理に連れてきたのに今度は帰ろうだなどと・・・・・ウエストとエルザを置き去りにすることになるが、まあ、それはそれでアーカムのためかもしれん・・・・イヤ違う。
 
 
「実はなあ、このところ覇道の姫さんのところに行ってたのはだなあ・・・」
膝を屈めて、アルに耳打ちできるところまで。ここからの話はアカシックレコードの守護神に検閲かまされる恐れがあるので、内緒の話であのねのねだ。耳たぶに熱い吐息をかけたりしてみたくなるが、ちょいと真面目かつ真剣な話になるのでやめておく。
「九郎?な、なにを・・・・」
「ライカさんと、執事さんの結婚の話なんだな、これが」
 
 
「なぬ?」
アルのエメラルドの瞳が丸くなる。
「いつの間にやらそんなところまで・・・・だが、執事のウィンフィールドはともかく、シスターの方はありゃ、”神の嫁御”ということになっておるのだろう?宗教的に。一応。ならば、重婚になるのではないか」
 
「いや、それがな。あの教会は実は##############ということなんで、宗教的にはなんの問題もない。ただ、執事さんはこんなこともちろん知らない」
 
「それから・・・・妾も人のことは言えぬが・・・シスターは実は#########なのだろう?世間的な建前などどうにでもなるだろうが、そうなると本人たちの新婚生活がだな・・・・何を言わせる!・・・あー、こほん、・・・・そのことも、執事は知っておるのか?」
 
「いや、それも知らない。から、困ってんだよなあ・・・・・両方とも、まあ頼りにはなるが融通の利かないクソ真面目なところがあるからな・・・・ライカさんもそのことで引け目を感じてるから、ここで誰かが背中を押してやらないといつまでたってもまとまらねえぞ、あの二人」
 
「確かに。あのアンチクロスの魔人とも互角に渡り合える二人だ、アーカムの最強夫婦になるだろう・・・・・肉体的な総合戦闘力では妾たちを凌駕するであろうな・・・・うーむ、傑作だ・・・・そう考えると、あれほど似合いの二人もおるまい・・・・むむ」
 
 
ちなみに、二人の会話中にある、####は、何者かによる「検閲」。真理と真実に近づけぬように人類の脳に深く古神に仕掛けられた封印、ともいわれるが、その別名を「ネタバレ回避」という。一応、字数も違えてあるので、わからん人には全く分からないだろう。
分かる人にもわからなかったら文章として問題があるが。
 
 
「ライカさんにはさらに、教会で面倒見てるガキども・・・アリスンたちもいるしなあ・・・・いきなり三人の少年少女の父親になるなんてのは・・・・覇道財閥の執事ってのはそれなりに高給とりなんだろうから経済的には問題ないだろうけど・・・・・血の繋がりの全くない、家族か・・・」
 
「さながらテレビの映画かドラマのようではないか!。ならば、ハッピーエンドにならねばおかしかろう!」
 
「たとえハッピーでも、”エンド”になってもらっちゃ困るんだよ!。これから始まるんだからな、ライカさんやガキども、もちろん、執事さんにも幸せになって欲しいんだ・・・・だから難しい。財閥を采配する姫さんも、これだけはさんざん悩んでたぜ・・・それでまあ、オレに相談をだな・・・」
 
「なら、なぜ妾に相談しない?秘密にした?いくらでも智恵を貸そう!妾とて・・・・」
 
「人情の機微ってやつがわからん奴がからむと、うまくいくもんもいかなくなる。世界最強の魔導書も、その点じゃ悪いが・・・・惚れ薬をつくってどうこう出来るもんじゃない・・・・・後ろからあたたか〜く見守りながら、ここぞ!、というところで背中を押す」
 
「ふん、ストーカーのように聞こえるのは気のせいか?」
小馬鹿にしたように笑って、大十字九郎から離れるアル。
 
「なにおう!アルてめえっ」つかまえようとするが、するりと逃げられる。
 
「そのようなこと。周りが世話を焼くほど、あの二人は幼くも弱くもあるまい。しかも、面倒をみようというのが、汝と小娘では・・・それこそ」
 
「マコトさんたちもいるぞ」
 
「うっ。・・・・と、とにかく、放っておくのが一番だ。事情が分かった以上、”頃合い”に戻るなどというどこぞの婿養子のようなフヌケた真似は許さぬぞ、九郎!悪党どもを根絶やしにするまで、妾とともに、鉄風雷火の道を往くのだ。デモンベインでな!」
 
 
「応よ!!
 
 
・・・・・って、なに意外そうな顔で見つめてんだ、アル」
 
 
「い、いや。反論が返ってくるとばかり・・・・・いいのか、九郎」
勢いに任せて、必死に相手をのみこもうとしたのに、あっさりと従われると逆に手も足もでなくなる・・・・これは負けなのか。
 
「お前と共にいくのに、なんの異論があるんだ。変なやつだな・・・・やはり、湿気か」
 
「何が湿気だこの大うつけめ・・・・っ。湿気があろうが、氷が張ろうが、洪水が起ころうと、嵐に巻き込まれようと、氷山がぶつかってきたとしても!汝がいるならば妾になんの変わりもない!・・・・祈りの空より来たりて!」
 
「おっ。機嫌が直ったか。・・・・・我らは明日への扉を開く!!」
 
 
「「汝、無垢なる翼、デモンベイン!!!」」
 
 
決まったな・・・・・やはり、かけ声はいい。大十字九郎は思った。景気づけには最高。
ちょっぴりお腹は減るけれど、心がドカンとひらくぜ。
この状況でデモンベインを呼んで早々に出立しようとしたわけではないが、こうでかい声で完璧なタイミングを合わせて叫ぶと気分がいい。そのへんは久々でもわきまえているデモンベインである。呼ばれて飛び出ていったりしない。
仲直りをしたようだし、勝手に二人を陶酔させておけばいい・・・魔術師というのは、なんせ思いこみの激しい人種であるから・・。
 
 
だが、操縦者たちは場所柄をわきまえてなかった。
 
ここは21世紀警備保障の本社ビルの中で、結界が晴れた今、多くの社員たちが通路を行き交っているのだから。視線に曝され完全に注目の的。自分とこのダイ・ガードでロボットの巨体には慣れていても、そんな奇行にはさすがに理解が及ばない。遠巻きにして、さっきの検閲会話も聞かれていた。
 
 
ひそひそひそひそひそひそひそひそひそ・・・・・・・・人垣回路内でかわされるのはあまり好意的ではない噂話。それをマギウス・イヤーで聞き取れば、ちょいと哀しくなってくる大十字九郎。そりゃ確かに今さらロリコン呼ばわりは耐えますが、「スタジオを間違えた特撮モノ」ってなんですかそれは。高揚した気分は、一気に失墜。どん底の精神状態へ。これでは暗黒面に囚われて、シャイニング・トラペゾヘドロンは使えない。
 
 
「う、うーぬ・・・・と、とりあえず、逃げるぞ九郎!」
「お、応よ!」
さすがに襲撃されているわけでもないので、社員たちを魔法で吹き飛ばすわけにもいかない。かといって、これ以上好奇の視線にさらされているのもかなわない。確かに妾たちは目立つ!それが通路で大声をはりあげれば耳目もひこう。結界を解くのが早すぎた、が、後悔先にたたず。スタコラサッサとその場をあとにするアルと大十字九郎。二人ともアーカムでは警官や悪党に追いかけられたり発砲されたり等、鍛えられて足はなんせ達者だ。
 
 
だが・・・・慌てると、九(きゅう)、ではない、ろくなことがない。
気をつけろ、魔術師 急に 止まれない。角を急いで回った先に、人影が。
なんと。
 
今起きたばかりの、綾波レイがそこにいた。昨夜の疲労抜けきれず、それでも義務感のままに起きあがり、連絡所の方へ顔を出して葛城ミサトの指示を仰ぎにいくところであった。
少々、よろついていた。そこに。
 
 
「うわ!」「・・・・」気づいたときにはもう、遅い。赤い瞳と翠の瞳。
アル・アジフと綾波レイとの正面衝突。加速度はついていたが、もともと軽いアルのこと。大十字九郎がぶつかるよりはダメージが遙かに少ない。だが、あくまで比較してまし、というだけのこと。おまけに、アルは造ったばかりのケフネスの聖油、アラバスターの壺に入った、を、持っており、それはぶつかったショックで跳ね飛んで・・・・・、中身を全部、綾波レイの頭に・・・・・ぶっかけてしまった・・・・・・
 
 
「おいおいおいおいおいおいおいおい・・・・・・っっ」
歌舞伎役者のような発声になる大十字九郎。
一度ならず、二度までも。よくよくこの子にぶつかる・・・・・そは運命か?
壺自体は当たっていないから、流血などの怪我はない。あわてて駆け寄り「大丈夫かい?」と綾波レイに声をかける。もちろん、アルはこの場合後回し。なんか顔色もよくないし・・・・さすがに厳重注意なんかじゃすみそうもないぞ・・・・オーマイゴッド!やはり貴方の嫁御の一人を取り上げる算段などをしていた罰ですかこれは。・・・・・呼びかけて返事がない・・なんか意識を失っているし・・・・目をあけてくれない・・・・・もしかして、これはかなりヤバイ?当たり所が。その気になればビルを飛び越えるアルの脚力だ。そのパワーと加速度を、アルの体重に×ことの・・・・・心臓は動いているか、呼吸はしているか、確認する・・・・・生きてはいる・・・・・
 
「この油、こんな突然に使っても、大丈夫・・・・だよな。毒じゃないんだから・・・な?」おそるおそる、アルに確認いれる。だが、
 
「さあな。このような唐突な使用法は今回が初めてだ。どのような結果になるかわからぬ。
汝も知るとおりに魔術とは、段取りが肝心であるからな・・・プロセスを変更すれば全く異なる結果をあらわすかもしれん・・・・・少なくとも、何が起きても妾は驚かぬ」
 
「驚けよ!!・・・・ああ〜ああ〜なんてこったあ〜、ああ〜ああ〜」
無慈悲と無責任をほどよく混ぜ合わせた返答に悶え苦しむ大十字九郎。しかも、こんな時には誰も通りがかってくれない。まあ、通りがかったしても、今現在この会社の中で一番魔術に詳しいのはてめえたちなのだから意味はなかったろうが。
 
 
「とりあえず、この娘をこのままにしておくわけにもいくまい。・・・・多くの意味で」
「そ、そうだな。いろんな意味で心配だから、こんな通路で寝かせておくわけにもいかねえ・・・・とりあえず、隠匿・・・じぇねえ、人目につかないところで・・・目を覚ましたら言い訳だけでも先に聞いてもらおう・・・・アル、結界だ」
「わかった」
綾波レイを背負って、アルのつくりだした誰も入ってこれない無人の休憩室に運び込む。
出来ることなら、葛城ミサトには知られたくない。ぶつかったのは確かにこちらが悪いのだが、なんとか謝ってかんべんしてもらいたい大十字九郎。しかも、魔法の油を正統な儀式の手順もふまずにぶっかけてしまった、というのは・・・・・本職が傍で推移を見極める必要がある。眠りについている間、来るべき時代の真の幻視をえられる・・・というケフネスの聖油。かなり疲労が残っていた綾波レイに、いかなる夢を見せるのか。
 
 
「表層意識を呑み込んでしまうようなイドの巨鬼に食らいつかれてなければいいんじゃがな・・・・それにしても・・ああ、もったいない」
「寝顔からは・・・・ちょっと判断できんがなあ・・・・」
「想い人の夢をみておるのなら、もう少し幸せそうな顔をしてもよいものじゃが・・・」
 
 
そんな、勝手なセリフを遠くに聞きながら、闇のカタパルトにのせられて綾波レイの意識は、遥か遠方に飛翔する。最強の魔導書が精製した魔法油はさすがにグンバツの効き目であった。・・・距離も時間も関係なく。
 

 
 
 
そして、碇シンジを視た。その、アーガマ艦内の暮らしぶりを。