スーパーロボット七つ目大戦α
 
 
<すなのうつわルート>
 
 

 
 
「なんなのよ、あんたたちは立ち聞きなんて・・・
古典的な・・」
 
どこかの孤児院の院長先生のようなことを言いかけてやはり葛城ミサト。少しひねる。
扉の向こうのズッコケ音に、開いてみればそこにはパイロット連中一同。赤木俊介らリーマンパイロットもいるし、なぜかロンド・ベルに合流するため出発したはずのデモベ一行までいる。全員集合ではないか。しかも一様に葛城ミサトに向けて、ばつがわるい、というのともまた違う、”微妙な”顔をしている。
 
 
「妾の隠形術を破るとは・・・・・恐るべし・・・・」神妙な顔でアル・アジフが呟く。
「あ、ああ・・・・」冷たい汗を流しながらシリアス顔で応じる大十字九郎。
 
 
「こ、この俺が飛んでしまうなんて・・・・」ショックを受けている青山圭一郎。
「そうねえ、青山君ってゲキガスキー系なのかしら・・・」
なぐさめになっていない桃井いぶきに
「じゃあ、いぶきさんはアターシャっすかね・・・・・・・・げふううっっっ!!」
赤木俊介が余計なつっこみをいれてスカポンな一撃をいれられている。
 
 
「なんでこの三人、さっきは飛んでたの?宇宙空間でもないのに・・・・☆マーク入りで」
惣流アスカが新世紀の子供らしく首をひねる。「ミサトのアレもよくわかないし・・・・で、渚、何でアンタキョロキョロしてんの?天井とか」
「いや・・・・・・さすがに”あのシリーズ”は登場してこないようだね・・・・さすがに対象の年齢層があれか・・・でも、また予断は許さないな・・・・・」
なぜか珍しくキリッと表情を引き締めている渚カヲル。
「・・・・・・・」
綾波レイはなぜか、じいっと、食い入るような赤い目で、フィギュア組を見ている。
(形としては・・・あの髪・・・・・メガロマンに近いの・・・・・でも、ユリアンかもしれない・・)
 
「ど、どうなってんの?このふたり・・・・・」少しあとずさる惣流アスカである。
 
 
「なあ・・・・玲香・・・・これってもしかして・・・・・・・・・じゃないのか?」
「だめだって、綾人ちゃん!そんなこと云うとさいたまジュピターが誤解されるから」
神名綾人と美嶋玲香はふたりしてこそこそ「仲間」とか「時代」とか何か言い合っている。
 
 
「よくわかんないけど・・・・ずっと聞いてたみたいね・・・。でも、大十字君、あなたたちはもう行ったんじゃ・・・・?」
バビル2世とフィギュア組を救出したあとはもう、デモンベインは所有者たる覇道財閥の命令に従ってロンド・ベルに合流しなければならないはずだ。最後の一働きは十分すぎるものだったし、その戦力はあまりに惜しいが彼らの立場を考えれば引きとめられるものではない。出立の挨拶はもらったし、こっちも新しいメンバーというか依頼者というか、その対応があるのでなごりを惜しむ時間もなかったが、デモンベインの出発の見送りはできなかったが、ドクター・ウエストの”積み込み”等、準備は完了した旨の連絡はブリッジから受けていた。まさか直前にアル・アジフのわがままに押されるほど情けなくもなかろう。彼らには彼らに求められる彼らの戦いがある。大十字九郎、やる時はやる彼に見えたが。
 
「いや、そのことなんですが、アルがちょっと気になることを言い出したもんですから」
「うむ!出立間際に突如、天啓のごとくに閃くことがあってな・・・確認にきたのじゃ」
そういってエメラルドの瞳をバビル2世らに向けるアル・アジフ。その目つき。
外見上の年齢はつばさやヒカルとえらく違いはしないが、やはり中身の違いがスグに分かる。体操服などを着ても、ポートボールをやる光景などちょっと想像できかねる。
 
 
「うーむ、どこから見ても見事な宇宙人じゃ。宇宙からこの星にわざわざくるくらいであるから、けっこうな技術をもっているのであろうな?」
 
あくまでその本質を見ているのだろう、今はフィギュア組とて変身を解いており、どこから見ても地球の中で暮らす地球人にしか見えない。
 
 
「実は今、少々厄介な調べものを抱えておってな、そのためにその技術というか、知恵を貸してもらいたいのだ。どうであろ?」
調べものというのは当然、ロンド・ベルを敗北にまみれさせた精神コマンドの封殺についてであろう。そのために覇道財閥からロンド・ベルへの合流命令が出たのだから。
 
 
「それは・・・・」葛城ミサトは答えられない。バビル2世らも同様。力を借りにきて、いや、あんたの力こそ貸して、などと言い出されては面食らうほかない。それが分からないアル・アジフではなかろうに。身勝手を通り越して無礼でさえあった。そりゃ確かに彼らの救出に大働きをしたのだから、というのはあろうが、にしてもである。
 
「・・・・・」ロジャー・スミスが口を開こうとした。おそらく、それはネゴシエーションの領域。だが、その前にアル・アジフがあっけなく真意を吐いた。
 
 
「・・・・ということになれば、だ。ここに留まっても小娘に文句を言われずに済むわけだ。宇宙人の呪いを解くのには宇宙人の知恵を借りるのが一番であるからな・・・・。
これが大義名分だ・・・・・どうだ?」
 
 
どうだ?・・・・・おそらくはここにいる全員にむけて言ったのだろう。
 
葛城ミサト、ロジャー・スミス、パイロット連中、バビル2世ら新しいメンバーたち・・
 
 
大十字九郎としても、オーナーである覇道財閥、総帥の瑠璃に対して言い訳というか面子がたてばいいわけで、正義の血燃ゆるままどーしてもロンド・ベルに行きたいわけでもない。どちらかというと、慣れがある分こちらの方、ドロン・ベルに愛着がある・・・・パイロットに子供が多い構成メンバー戦力的に心配である、ということも大きいが。なんとなく貧乏くさいところが性格的に落ち着く、というのもある。
そして何より、精神コマンド封殺の原因と解除方法を発見するのは絶対成さねばならない命題だ。人情だけでなく、魔術師として計算しても、分析は多角的にやる方が成功確率と速度が増すであろうことは明確。こういうことであれば、姫さんを説得できる自信がある。
 
 
葛城ミサト・ロジャー・スミスとしても、デモンベインはなんとしても残ってもらいたい戦力であるし、その申し出は願ってもない。その残留条件が目の前の宇宙人たちを助けてくれ、というのであれば・・・・彼らが助太刀を頼んだ相手はこれでけっこう厄介そうではあるが・・・自分たちよりさらに小粒な戦力・・・小学生の女の子もいるような・・・それが世界的黒幕組織に挑んでぷちっとばかりにイクラのように潰されたら・・・・
知っていながらそうなってしまったら・・・・使徒が出てこないからといってなんのために箱根の山から出てきたのかわからない・・・・・・力は必要、必要な力・・・・・
 
 
パイロットたちは・・・・バビル2世、つばさ、ヒカル、DD、オルディナは自分たちの仲間になるもんだと思いこんでいる。そうでなければ、嘘だと。どんな理屈をつけようと、そうでなければ、嘘だと。パイロットたちの戦う力の源が、そう言っている。
 
 
バビル2世とフィギュア組はすでに共闘を決めているので、あとは彼らドロン・ベルの力を借りられるかどうかが問題なだけで、断られたらそれはそれでやっていくほかない。
バビル2世はいつも一人で戦ってきたし、フィギュア組とて非常に極端なことをいえば、地球はどうせ自分の星ではないしそのまま自分の星に帰ってしまうこともできるのだ・・・・・というわけで、バビル2世はなにがあろうとヨミと戦い続けるだけ。つばさ、はあくまで地球は日本、北海道の自分の住む、家族の、友だちの住む町を守るために、ヒカルとともにあくまで戦うだけ。力を貸してくれと頼んだけれど、代わりに戦ってくれなんて言わない・・・。だけれど、敵は強大で、底が知れない・・・・勝てるかどうか・・・。
 
 
アル・アジフのエメラルドの瞳はここまで見通していたのだろう。
 
だが、この先どうなるのか、各自がこの声にどう応えるのか、分からない。
 
 
これで横から口を出されることなく関係性が閉じる・・・・それだけの理屈のこじつけ・・・・・・いわば、触媒は放り込んでやった・・・・あとは。
 
 
「やれやれ・・・・・」ドロン・ベル首領の葛城ミサトが決める。
 
 
たぶん、これは砂の器。そこになにかをいれようと、そこからはじめようなどと余人は笑うに違いない。尋常ならぬ勇気がいる。砂、なにかれば崩れ去るもろきもの、はかないもの。そんなもんで器をつくって、人を容れる・・・・。器をつくって人を、集める。
強い風が吹いただけで壊れてしまうかもしれない。それならば、はじめから器などつくらずに、地の上にほうったままに転がしておけばいい。少なくとも、砂で器をつくる愚か者と呼ばれずにすむ。けれど、器にはいっていないものは、風吹けば、二度と会えぬほどの向こうへ遠くへころころと転がってしまうかもしれない。
 
 
「・・・・、となると・・・・・いや、しかし、でもやっぱり・・・・」
 
こめかみに手をやり、髪をかきあげたりしながら、悩む葛城ミサト。
 
 
心に浮かんだ砂の器のイメージ・・・・その心情がわかるだけに、あえてバビル2世もテレパシーを使用しない。どのような決断を彼女が下そうと・・・・
 
 
そして、しばらくして、葛城ミサトが口をひらく。バビル2世たちをはっきりと見て。
 
 
「ごめんなさい、ここから・・・・出ていってもらえる?」
覚悟を決めた人間の声というのは、腹に響く。さして大声でもないのに。
 
 
「ミサト!!?」信じられない、と惣流アスカが異論を唱えようとしたが
 
「・・・・・」
 
葛城ミサトの砂のように乾いた目の色をみて・・・・・・、力無く黙り込んだ。