スーパーロボット七つ目大戦α
 
 
<青い桜ルート>
 
 

 
 
葛城ミサトの出した結論は、結局、厄介ごとに手をだすのは面倒なので、じり貧の戦力はじり貧らしくサポートに徹して、地味にやれることだけやりましょう・・・・・ということなのだろうか。難局を避けて北極とは・・・・さむい、じつにさむい。
 
 
「そうですか・・・残念ですが・・・・僕たちはこれで」
 
 
バビル2世がさすがの決断力と気遣いをみせて席を立った。つばさとヒカルなどは葛城ミサトの予想だにしていなかったあまりの冷たさに目をうるませて信じられないふうで膝頭を震わせて立つことすらできない。これではこの先ぐれてしまうかもしれない。
「さあ、いこう・・・」いいひと宇宙人DDとオルディナはふたりの肩に手をかける。
出ていけといわれてなおも粘るようなことはない。どうせそんなことだろうと思ったわ、とばかりにオルディナなどは氷の視線でドロン・ベルを一瞥して感情を断ち切る。
 
 
あらかじめ予想はしていたのだから、さほどショックではない。
バベルの塔コンピューターが弾いた五割で負けた。DDらの宇宙船のコンピューターが弾き出した期待値もそれより低く、その通りになっただけの話。
 
 
 
しかし・・・・
 
 
それでいいのかよ・・・・・・
 
 
という空気が満ち満ちる。なんでもかんでも無理難題を引き受けてきちゃあそのツケを部下に押しつけるトップというのも確かに困りもんではあるが、低いレベルの現状維持だけに汲々するというのも、将器を知らせてこの先ついていって大丈夫なんかいな、ということにもなる。とはいえ、一歩、いや三歩ほど引いて考えてみると、現在のドロン・ベルは強引に面子をかき集めてきて、なおかつ強引に元来はまるで関係ない、軍の新型戦艦に乗り込んでいる状況・・・・かなり疾風怒濤な展開でここまできている。
 
 
いくら小学生の女の子が目をうるうるさせているからといって・・・・・
 
 
ここでもう一丁無理してみようかあ、ということには指揮官の立場ではならない。
彼らの持ち込んできた話はかなりに巨大で難題で、へたすれば、ただでさえ少ない戦力を分割するような羽目に陥ることもあろう。それなら最初から別れていたほうがよろしい。
心はいっしょだが、身体は二つ、というやつである。身体がひとつしかないのに心や脳が二つあったらたいへんである。寄生獣である。人でも喰っていかねば手がまわらない。
 
 
いくら小学生の女の子が膝を震わせて、それでも立って出ていこうとするからといって
 
 
バビル2世は一般ピープルアンドスーパーロボット部隊不信となり、DDたちは地球人不信となり、つばさとヒカルが大人不信になったからといって、ここでてめえの身も守れない者たちを仲間に組み入れればその分の負担が全てパイロットにまわってくるのである。デモンベインが残ってくれる、というのは確かに嬉しいが、それが最善とは限らない。アル・アジフの言うのはあくまで方便で、宇宙人の技術を用いれば必ずや精神コマンド封殺の原因がつかめる、というわけではないのだ。ロンド・ベルには既に同様の件で招聘を受けた科学者やら分析や情報収集に長けたロボットなどが集まっている・・・という話も城田氏経由で入ってきている。
それらと解析チームを組んで対応に当たる・・・・というのが正解かもしれないのだ。
そして、あえて私情をからめていえば、碇シンジがロンド・ベルにいるのだ・・・・。
 
 
それに、バビル2世が目の敵にしているらしい、ヨミという男の組織・・・・
なんというか確かに悪といえば悪なのだろうが、いちおう地球産である限り、地球を植民地にしようとか破壊しようとかいうのではなく、裏から支配しようということであれば、まあー、早急に相手をせんでもいいのでは・・・・・逆に、支配する地球がなくなっては向こうも困ろうから、宇宙産の悪軍団とは足の引っ張り合いをやってくれるかもしれない。
敵同士を争わせるのもまた計略戦略である。地球に根付いている分、宇宙に追いだしてケリ、というふうにはならない分、その戦いはかなり長引くことになろうし。
 
 
しかたがないのである・・・・・・
 
 
指揮官というのは憎まれるのも軽蔑されるのも商売のうち、それで部下の安全を購うのだ。
おまけに孤独で、元は軍警察だが組織が肌にあわずにネゴシエイターになった経歴をもつロジャー・スミスからして、不服そーな顔を隠しきれていない。のだから、パイロットたちが我慢できるわけもない、クールなサラリーマンパイロット、青山圭一郎でさえ憮然としている。綾波レイでさえ、立ち去る少女たちを見ながら切なそうな顔をしている。
「な・!・・な・!・・な・!・・汝は・・・」
また、せっかくの申し出を廃棄された形のアル・アジフは爆発寸前であった。
 
 
「あ・・・」
部屋から出ていく扉のまえで、信じていた大人と正義の味方に裏切られて大いに傷つきうつむいていたつばさが立ち止まった。そして、ふりかえる。「つばさ?」「つばさちゃん?」DDやヒカルもこの突然の行動におどろく。ちいさな胸にはこの憤りをしまっておくことはできないのかもしれない、確かにいくら子供とはいえ地球人として、仲間の前で大恥をかかせてしまったわけで、それはいってやりたいこともあるだろう。信じてここまでやってきた少女には確かにそれを言う資格がある。この場にいる全員の視線がつばさに集まった。「あ。あの・・・・・・」ただならぬ眼力を持つ者ばかりである。その圧力は100トンの鉄球をのせられたにも等しいかもしれない。「あ・・・・・わ・・・・・」
そのまま黙り込んでしまうかと思われたが、つばさはきっちりと口を開いてこういった。
 
 
「わ、わたしたちもがんばりますから・・・・・
み、みなさんもがんばってください・・・」
 
 
ぺこり、と頭をさげた。あまりに意外なそのアクションにおもわず、百戦錬磨のアル・アジフや惣流アスカでさえつられてぺこり、とやってしまう。さげてから「え?」と思ったくらいに自然の動作。あまりに幼い別れの挨拶。
北の寒さに負けぬあまりにも清く白い花の笑顔
 
 
これでいいのかよ・・・・
 
 
再びやりきれぬ空気で満ち満ちる。早晩、その白い小さな花が蹂躙されるのは目に見えている。そして、自分たちと共にいたからといって守られるわけではない。あちこちの悪軍団から恨みを買っている現状ある意味、危険度があがるといってもいい。その小さな力でも立ち向かう気でいるならば、いずれ巨大な力で踏みつぶされる日がくるだろう。
だからといって「そんな無茶な戦いはやめろ」などといえた義理ではない。
自分たちの力、結束具合がどの程度のものなのか、痛感する。自分たちの編む力の網は、太いかも知れないがあまりに目が大きすぎて、その間からこぼすものがある。
 
 
パイロットたちもそろそろ事の本質が見えてきた頃合いを見計らって葛城ミサトが言った。
 
 
「出ていったら、また戻ってきてね。改めて皆に紹介するから。なにごとも最初はケジメが肝心だからね。きっちりやりたいの・・・・新しい転入生を紹介しまあす、とかね」
 
 
「え?」×その場全員
 
 
「なに驚いてんの?つばさちゃんも意外にせっかちだし〜」
 
 
「え?え?」
テレパシーが使えるぶん、バビル2世や名指しのつばさがめんくらっている。
 
 
「ドロン・ベルはあなたたちを歓迎します。こんな日陰の青い桜が咲くようなトコロでよければ、ね」
葛城ミサトの瞳が砂の色から元に戻っている。
 
「たぶん、あなたたちと組んで一番うまくやれるのは、わたしたちです。パイロットに新人率がちょっち多いけど、裏方がなかなか優秀だからねえ・・・・」
 
「は?ミサト・・・・?」
 
「しゃらっぷアスカ!先生のいうことは最後まで聞く、ていうか、立ち聞きしてた者はあとでお仕事を与えますのでそのつもりで。で、仲間になる以上はっきりいいます、わたしたちにはあなたたちを守る余力はありません、自分の身は自分で守って下さい・・・・とはいえ悪の巨大ロボットから身を守れるのは、同じく巨大ロボットだけです・・・・・
そういうわけで、つばさちゃん、DDさんたちには、巨大ロボットを”レンタル”します」
 
 
「はあっ?れんたる?」
冷血言い放ちモードから好き放題ほざきモードにチェンジした葛城ミサトはますます手におえなくなっていたわけで・・・・
 
 
「それで戦ってもらえればこちらの戦力も増強されますし、ヨミさんとかいう人物の組織を邪魔する余裕もできます・・・・マギュアとかいう宇宙生物兵器を研究するにはそれなりの施設がいるんでしょうから、ネルフの方から情報を収集して確定後、ドロン・ベルの全戦力で一気に攻め寄せるということでどうでしょうか。当然、その中にはデモンベインのご一行も入ってますよ?DDさんとバビル2世君はデモンベインの解析作業の手助けをしてもらう、ということで・・・」
 
 
「ちょ!ちょっと待って下さい!」さすがにロジャー・スミスがストップをかけた。
 
いくらこのご時世でも、というかこの時勢であるからこそ、巨大ロボのレンタルなんかしてくれるわけがないだろう。手持ちの巨大ロボなどヒリュウ改にはもちろんない。おまけに操縦の習熟とかのんきにしていられる余裕もなかろう。うそつきはかつらぎのはじまりとはいえ、あまりの大嘘は信義にもとる。いくら親分であろうと交渉者のプライドが許さない。だいたい、そんなことを誰が・・・・・いや城田氏と紫東遥がこの場にいないのは・・・・まさか
 
 
「フッ・・・・・ロジャーさん、ひとつ忘れていますよ」
葛城ミサトがかっちょいい女弁護士のように髪を一房かきあげる。鋭い眼光。
 
 
「ローリング・ロボットの法則を」
 
 
「え・・・・そ、それは・・・・・」
自分にも秘密にされていた作戦名かなにかか・・・・この女、油断ならん・・・!
とロジャー・スミスが戦いた時
 
 
「ロボットに乗りさえすれば、ランドセルしょっても主役になれます!これは大宇宙の法則なのです」
 
 
葛城ミサトが断言した。こけるロジャー。
 
 
「いろいろありますけど、あとはイイ感じで転がっていきますよ、たぶん・・・・というわけで、今日があなたたちの記念すべき”第一話”よ、つばさちゃん!タイトルは大鉄人フィギュア17とかで!・・・・むぎゅっっ!!」
農薬よりきっつい大人のプワゾン、ネタ毒からつばさを守るため、皆で葛城ミサトを抑え込む。
 
 
 
彼らと行動をともにしていいのかどうか・・・・・・
結局、バベルの塔が予想だにしない方法をもって、ドロン・ベルは応えてきた。
バベル2世はヨミと戦うと決意してより笑ったことなどないが・・・・・
 
 
 
この桜がひらひらと舞うような光景を見ていると、
わすれていた感情を、うっすらと思い出す。