スーパーロボット七つ目大戦α
 
 
<秘密兵器彼女ルート>
 
 

 
 
「やらいでか」
 
 
と葛城ミサトはいったものの、この時点でティターンズとコトを構えるのは戦略としては下策の下、最低の最悪であった。理由はいくつかあるが・・・・まず、その一。
 
 
ティターンズは強いので、勝てるかどうか分からない。
 
 
これである。伊達に神話時代の巨人の名を使っていない。前回、文明保全財団側がなんとか撃退できたのは、向こうがまさか要求を断られると思っておらず、戦闘態勢が整っていなかったことがある。メンツを潰された仕返しに、今度こそは十分以上の戦力をもってやってくるに違いない。サイコガンダムにも肝心の強化人間が乗っていなかったというし。地球の戦力を統一した上で、宇宙人などの外敵を排除する、という大義名分のもと、あちこちから戦力をかき集めてそれを温存しているのだから、強いに決まっている。
しかも、それでいて有象無象の群れではない証拠に、ヴァベルたち機人のパイロットたちはその身を集中して狙われて、現在は操縦不能の重体になっている。活動方針は強引極まるが、力押しのみならず、きっちり相手の弱点を狙って攻撃できる頭の良さももっているわけだ。ということは、今回もつばさたちフィギュア組がコントロールしようとも同じように狙われるのは分かり切っている。運動神経、運動能力は確かに優れていようとも、人間サイズの悲しさ、モビルスーツの砲撃にさらされてそういつまでも耐えられるとは思えない。おそらくは、同じようにしてつばさたちも良くて重体、悪くて・・・・という羽目になるだろう。
 
 
ドロン・ベルの現在戦力・・・・百戦錬磨のデモンベインやエヴァがいるので、決して、弱いとは何者にも言わさぬだろうが、それでも圧倒的数に対して絶対にしのぎきれるとまではいえない。向こうにエース級なんぞがいた場合、こちらに新人が多いだけに下手をすると大やけどさせられることが考えられる・・・・
 
 
おまけに、やり方はやり方として、ティターンズはあくまで軍隊であり、一応、悪軍団とは敵対する間柄である。というか、会話が通じないというか。ロンド・ベルのようなまっとうな正義軍団を間に挟んだ絶縁体としてお互いになるたけ触れないようにしているが、もし真正面から鉢合わせたりすれば、必ずやり合うことになるだろう。悪軍団の方からすれば、ティターンズもやはり支配すべき小賢しい人間の集まりにしかすぎないのだから。
 
 
この戦乱期に乗じて大いに力を蓄えて、自分たちの権能を増大させようとするのが目的のティターンズ。やっていることはヤクザと結託した悪徳商人とえらく変わらない。
兵隊やくざ、ならぬ、軍隊マフィアみたいなもんである。
だが、それでも中身は人間であり軍隊である。こんな宇宙人軍団にロンド・ベルがコテンパンにやられた時期に人間同士でやりあっていても、喜ぶのは悪党軍団である。
 
 
さらに言うと、そんな時間も、それに割く戦力もない。他にどうしてもやらねばならぬ、最優先事項がある。それは、ボアザン・バーム・キャンベルの三星軍が乗っ取った、ボルテスの基地、ビッグファルコンに一矢報いてやることである。これは早ければ早いほど、というか、これ以上遅くすれば長年の怨敵ロンド・ベルをコテンパにやっつけて鼻高々の敵の鼻を挫く、という目的時機を完全に逸してしまう。調子に乗る前に調子を崩すのだ。これは不確定要素にして不協和音であり謎の影の軍団であるドロン・ベルの役目、自分たちにしかできない。精神コマンドの封殺原因の調査解析作業などもあり、すぐにそれに取りかからねば間に合わないのは分かり切っている。
 
 
とてもじゃないが、千丈市でティターンズを迎えて決闘の真似事などできたものではない。
 
 
おまけにいうなら、ヒリュウ改の件もあり、これで失敗すれば向こうのメンツが丸潰れであり、本気も本気、大本気、市街がどうなろうと全く構わずに攻め寄せてくるだろう。
ヴォルガーラとの戦闘で戦慣れしている千丈市であっても、街が再び戦火に包まれて嬉しいはずがない。前回と違い、財団への脅迫のためにあえてそちらメインで攻撃を行ってくる可能性も高い。市街を守りながら、ティターンズを撃退する・・・・・それがどれほど困難なことであるか・・・・
 
 
下策の下、最低の最悪、というわけである。だからこの話を持ってきておきながら、城田氏と紫東遙は葛城ミサトがそのように即座に言い切ったことにかなり驚いた。
そのようなことはどんな無能な指揮官でも考えることだ。現在のドロン・ベルにはそのようなリッチな戦力はない。それともなにか、葛城ミサト、彼女は、”秘密兵器”でも温存していたのか・・・・・・・・城田氏と紫東遙は顔を見合わせる。このような愚かな選択をされるくらいならば、いっそこの巨大ロボレンタル話はまとめてこない方が良かったかも・・・・・・・
 
 
「今回はきっちり強化人間を乗せてきたサイコガンダムとか、サイコガンダムMk2とか量産型キュベレイとかバウンド・ドッグとかパラス・アテネとか量産型ジ・オとか、百式にちょっと足りない九十九式とか白式とかバイアランとかアッシマーとか・・・・
なかなかの機体が揃えてあるけど・・・・・・それでも、やらないわけにはいかないでしょ」
 
 
葛城ミサトはもう一度同じことを繰り返した。ティターンズと「やるのだ」と。
 
 
信じられない城田氏と紫東遙・・・・敵戦力の充実を知りながらなおもいうのかこの女。
 
 
なかなかの陣容どころではない。これくらいになれば調べるのはさほど難しいことではなかっただろう。真偽のほどはさほど問題にはならない。要するに、これだけの陣容でお前のところを脅しにいくぞ、どうだこわいだろう・・・、だからさっさと降伏しろ!!、ということである。なかなか戦乱期らしくデタラメっぽい名前もあるが、とにかく強そうであった。事実、強い。なんせガンダム、の名がある。たとえ頭にサイコがつこうとガンダムはガンダムであり、戦場での御利益はすこぶるつきのものがある。
対抗しようにも、こちらにはガンダム系はいない。
 
 
そこまでしてティターンズと正面切って闘わねばならぬメリットは、はっきりいって、ない。まだ17歳の理事長をやられてトサカにきた文明保全財団の胸がスッとするくらいのもので、条件通りにコテンパにしてやろうにも、こちらにも相当なダメージを覚悟せねばなるまい。いくらヴァヴェルたち機人が葛城ミサトの出した都合の良い条件に適合する「世界にひとつしかないロボ」・・・・結局は三体見つかったが・・・・だとしても。
いくらなんでも割があわなすぎる。
こちらの損害が微少でも向こうに大打撃を与えられる、なにか神様のような、いやさ悪魔のごとくの作戦があるというならば別だが。城田氏も、紫東遙もそんな虫のいい作戦が思いつかないし、考えつかない。葛城ミサトにはそれができるというのなら・・・・
このまま弟子入りして、一生師匠と呼ぼうじゃないか。だが、そうでないのなら。
 
 
にや
 
 
葛城ミサトが二人の顔を見ながら、月から来た魔法使いのように笑った。
 
「なんか誤解してませんか、お二人とも」
 
 
「む・・・」「え・・・・?」
 
 
「要は、ティターンズを”叩きのめせばいい”んでしょう?別にわたしたちでなくても」
 
 
それはそうなのだが・・・・じゃあ、誰が叩きのめしてくれるのだろう?
 
 
「ウチにはガンダムがいないし、サイコさんとはいえ、ガンダムが向こうにはいる。
まともにケンカすれば負けるのはこっち・・・・・冗談じゃあないですよ?」
 
 
そして、葛城ミサトはこの優秀な裏方ふたりに「作戦」の概要を告げる。
 
 
「むむっ!?」「ええっ!?」
 
 
一難題去ってまた一難題。葛城ミサトの作戦は、その虫の良さ都合の良さにおいて、世界にひとつしかないロボ探しよりもさらにターボがかかっていた。
 
 
「お二人ならできます。と、いうわけで細かい作戦立案の方はお願いします」
ドロン・ベルの首領は、自分で細かい線引きやタイムテーブルを作らない気らしい。
つまり丸投げ、むしろダンク。注文スラムダンク。
 
 
「ちょっと急ぎますけど、千丈市に着くまでに。できますよね?それじゃ、私はつばさちゃんたちの様子を見てきます。一気に平均年齢下がったからなあ・・・・・」
どうでもいいことに頭をひねりながら出ていった葛城ミサトの背を見送りながら・・・・
 
 
「・・・・・・・・はあ・・・・・」
十歳くらい老けたようなため息をつく、城田氏と紫東遙であった。
 
葛城ミサトの示した方針は、これ以上ないほど無茶ではあるが・・・・・光がある。
強い光。掴もうと手を伸ばすだけの価値がある。
 
 
「休む間もないが・・・・・」
「やりましょう。私たちができることは・・・・・」
 
出来ることならば、彼らには光のある道を歩ませてやりたい。苛酷であっても。