スーパーロボット七つ目大戦α
 
 
<巨神の従者と獣飼いルート2>
 
 

 
 
そこは薄暗い船倉を特に改造して「檻」とした一室。通常のクルー、パイロットはまず訪れることのない密所。ヤザン・ゲーブルが自分の組員に会いにいったのはそんなところ。
 
 
強化人間・・・・・それも、ムラサメ研究所の新式・・・・
 
 
コードネームは<獣飼い>
 
 
その名に惹かれてどこも敬遠していたそいつらをサイコガンダムごと引き取ってはみたものの、すぐに後悔した。兵士とは異なる”者”。ただ暴虐、ただ残忍、ただ襲うだけの獣であれば調教する自信がヤザンにはあった。自らそれに同調しまた上位にある者として。
 
 
だが、違った・・・・
 
 
「どうだ、あいつらの調子は」
ヤザンが声をかけると、室の前で見張りをしていたラムサスとダンケルはげっそりした顔をしてそちらを見た。ヤザンとともに修羅場をくぐってきた猛者二人にしては顔色が悪すぎ、お得意の軽口もでてこない。
 
 
「異常は・・・・ありません」ラムサスが告げる。自分たちの限界を。どうかしばらくこの見張りの任を解いて上の、まともな”人の空気”を吸わせてください、と。ここに満ちる、扉の向こうから放射される人以外の気配から避難させてください、と。粗暴ではあるが鋭くもあるヤザンは正確に部下二人の心理状態をみてとった。
 
 
「あとはオレがやる。お前たち、メシでも食ってこい。機体のチェックもな。・・・・そうだな、あの新人どもの面倒もみてやれ」
 
「「はっ!」」ラムサスとダンケルは声をそろえて、組長の命令に従った。これでしばらく解放される・・・・その顔には安堵があった。
 
 
部下を上に戻したヤザンは、拳銃のチェックをして、<獣飼い>のいる室内に入った。
ラムサスとダンケルがその場にいれば絶対に引き止めただろうが、そこがヤザンであった。
 
 
「隊長か・・」
 
 
薄暗い室内に入ると、若い女の声がかかった。ヤザンの目からは女の姿はまだ見えない。
電力をひいてないので室内灯もない、まるで捕虜の扱いであるが、女の声には特に恨みめいたものはない。ひどく淡々としている。「明かりをつけた方がいいか」
 
 
「ああ、そうしてくれ。このまま喉笛を食いちぎられてもオレには反応もできん」
 
 
「そんなことはしないよ・・・」試すようなヤザンを相手にせずに、薄闇の向こうの女、<獣飼い>はライトをつけた。ぼうっと、床の方から光が照射されて女の姿が浮かぶ。
 
 
 
四つん這い・・・・
 
 
 
藍色のパイロットスーツにポンチョのような茶色の貫頭衣・・・・・
黒い長髪をまとめてひとつに束ねているのが尻尾のように見える。手足に鎖と鉄球をつけられているわけでもない、<獣飼い>は二本の足で立って歩くことが出来ないのだ。
 
だからライトも床の近くにある。その光がもう一人の<獣飼い>・・・・こちらは全体的に白い服装になっているが、背を向けて眠っている。起きようともしない。
 
 
ムラサメ研究所の新式の「強化人間」・・・・
 
失敗作であったのか、これで成功であったのか、ヤザンにはよく分からない。
 
ただ目の前にいるこの<獣飼い>イヌカイ・イヌガミが、強化人間にありがちな破綻破滅的性格には全く縁が無く、恐ろしいほどに理知的知性的であり、なおかつ、サイコガンダムを動かせるだけの能力をもっている、ということだけは知っている。
 
向こうで寝ているのがヒツジカイ・ヨーコ、サイコガンダムMk2に乗る。
こちらも、二足歩行ができない。羊のようにヨチヨチ歩くだけだ。四つん這いで。
 
 
こんなマネまでして、サイコガンダムなんぞを使わにゃならんのか?と引き取りの折にヤザンはムラサメ研究所の人間に問うてみた。象と同じで強いことは強いのだろうが、その巨大さゆえに実戦ともなれば今ひとつ使いにくいというのがヤザンの見方だった。面倒をみる立場ともなれば、正直、厄介もんだな、と。人格を壊すのと歩行バランスを崩すのとどちらが罪なのか、ヤザンの知ったことではなかった。
 
 
そして、かえってきた答がこうである。
 
 
「彼女たちの気力はいつも150の満タンで、減ることはありません」と。
 
 
気力150で動かされる巨大ロボットがどういう存在であるか、数々の大戦をくぐりぬけたヤザンはよーく知っている。あれはもうすでに機械の集合体ではなく、破壊の神である。
 
 
「で、どうしたんだ。そろそろ私たちを使うのか」
 
「ああ。今回はお前たちを乗せていくそうだ・・・・・さすがに剥製では脅せもせん」
 
「機体にいらぬ傷をつけられてヨーコが気落ちしている。慰めるのに苦労したが・・・」
 
「その気持ちは分かるな・・・・指揮官殿はお前たちがお嫌いらしい」
 
「そうだろうな」
 
ヤザンに見下ろされてもイヌカイの目は小揺るぎもしない。卑下もなく。天然でもなく。冷徹な判断、冷静な感性のもとにすでに明確な結論が出ている者だけが出せる、理性の色。
それがなんとも違和感を生じさせるのだ。ラムサスとダンケルが恐れ、忌避する理由。
 
 
 
「ここから、出たいか」
作戦の概要を話した後、ヤザンはふとそんなことを問うた。悪魔との契約書類の裏面を確認するがごとき、好奇心だった。出たい、と答えたところで無論、出す気はないのだ。
 
 
「・・・出られないさ」
イヌカイ・イヌガミは理性的にそう答えた。ヤザンの好奇心など相手にしない。
サイコガンダム二機でアレクサンドリア改を灰にしたところで。その目は語る。
 
 
「わたしたちの檻の鍵は、誰の手にもない」