スーパーロボット七つ目大戦α
 
 
<ハイパー・ジェリドルート>
 

 
 
「にはは、行っちまいましたか」
 
 
一触即発の緊張感から解放された文明保全財団にまた新たに通信が入ってきた。
ドロン・ベル首領・葛城ミサトである。ジェリド・メサ、そしてティターンズの一軍を乗せている巨大な掌をもつ恐ろしい女性だが、話すときはこんなである。
 
 
「こちらの方はなんとか。後はお任せしていいのですかな?」
 
機人のレンタル条件として出した、ティターンズを痛い目に合わせること。
ドロン・ベルという、ちょっと聞いただけではロンド・ベルの紛らわしいにせ者というか、それを狙った二流集団にも思えるそれは、驚くほどの速さで返答してきた。
 
 
ああ、いいですよ。やりましょう、と。
 
 
筋書きはこうである。ドロン・ベルに所属している宇宙人、ほんものの宇宙人だが、最近ヴイヴイいわせている悪軍団のそれではなく、まっとうに正義の宇宙人である、者が、千丈市に機人を引き取りに行く。それも、そこそこ表につく格好で、証拠品が残るような形で持っていく。表向きは「謎の宇宙人にとられた」ということにする。
そうなれば、いかにティターンズでも千丈と文明保全財団にケンカは売れなくなる。
徴発、強奪するモノがないのに攻撃したとなれば、さすがに今後の立場がない。
 
 
だいたい、市街地でロボット同士でケンカなど出来ない。葛城ミサトは言い切った。
 
 
そうすれば確かに胸がすうっとするけれど、周りが迷惑するだけだ、と。
 
模造品にしてはいい度胸だと。ヘルマン・ウィルツ博士は同じ作戦を指揮する人間としてドロン・ベルに興味を抱いた。
 
 
とりあえず、ティターンズの目を千丈から離して、あとは機人の姿を適当にチラつかせながら誘導する・・・・もちろん、地獄の三丁目こと、三星軍の占領するビッグファルコンへである。精神コマンドの封殺原因を秘める、おそらくは今回の大戦の天王山ともなる場所に。まあ、ティターンズといえども、そこでいい目を見ることはないだろう。当然、誘導するだけしといて、機人達はその前に姿を消して現場を離脱、あとは三星軍とティターンズがやり合うのを高みの見物・・・・・という筋書きだという。
 
 
そうやすやすいくだろうか・・・・・ティターンズはバカではないどころか、そう言う点に関しては非常に利口かつ狡猾であり、絶対に危険なところには手を出さない・・・ロンド・ベルが哀れなほどに危険な戦闘ばかり追わされるのと好対照に。
しかも、飛行できるライオールはともかく、陸上をいくヴァヴェルとグラングは飛行可能なモビルアーマー相手にとても誘導、囮役を果たせるとは思えない・・・・。
机上の空論としては面白いが、現実にはかなり厳しいだろう。おまけに、機人たちを操縦するのはまだ慣れていない宇宙人たちだという・・・・最悪、機人達だけ奪われて、ティターンズは戦闘回避で痛い目なんも見ずに終わる、という結果にもなりかねない。
そこまで初対面のドロン・ベルの力量を信用する気にはなれない、慎重な意志の人、ヘルマン博士である。理事長達をあれほどの目にあわせたティターンズはなんとしてもそれ相応の目にあってもらわねばならないのだ。ドイツ人だけあって、表には激することはないが、謹厳実直な意志で必ず事は実行させずにおかないのだ。声も小杉十郎太氏であるし。
 
 
「まあ、そりゃそうでしょうね」
 
その点を指摘すると、葛城ミサトは平然とこう言い返した。その態度にさすがにムッとするヘルマン博士。もしかして、この女、科学者をからかうことに慣れているのか?作戦指揮に関してはこちらとてヴォルガーラとの戦いでそれなりの蓄積があるのだ。適当な言葉で誤魔化されたりはせんぞ!と、腹の中で気合いを入れ直したところで相手は続けた。
 
 
「実際にぶっつけるのは、そこらで隠れて様子見してるミケーネ軍ですから〜」
 
 
「なに?」
一応、巨大ロボット業界にいる「博士」として、悪軍団の知識はあるヘルマン博士。
機械獣だの戦闘獣だの使って世界征服を企むなんともレトロな組織だ。
 
 
今までさんざんロンド・ベルにやられてきたが、宇宙人の連合軍が恨み重なる仇敵をやっつけた、となれば、悪党としては複雑な心境であろう。手放しで誉めて勝利を称えるわけでもなく、かといってそれが嬉しくないわけでもなく、あえて言うなら悔しい、か。
どうやってロンド・ベルを撃破したものか、その秘密を是非譲ってもらいたい・・・が、無理だろうから、とりあえず近くに陣取って様子を見る・・・隙あらばそれを横取りしてやろう・・そういう次第であるらしい。
 
 
ここからやたらに微にいり細にいりの作戦説明となるのだが、長くなるので省く。
とりあえず、城田氏と紫東遙が作成したそれは、ヘルマン博士を納得させるに十分なものだった。なんせ城田氏はヘテロダイン・・・巨大怪獣の誘導では国内でも有数の権威だ。
 
 
三星連合軍、ビッグファルコンとの距離だけを気にしているティターンズがひっかかる可能性は大。ましてや、それを仕組んだ存在、足を引っ張ろうとしている者たちがいることを考えもしなければ・・・・・!
 
 
なんにせよ、賽は投げられた。あとは、彼女らドロン・ベルに任せるほかない。
だが、これが成功すれば、この混沌とした戦局の中、大波紋を起こしどえらいことになるだろう。
 
 
「まあ、ちゃちゃっと片づけて、理事長さん達のお見舞いに行きますよ。ティターンズのやられぶりをおみやげにして。では」
そう言って葛城ミサトからの通信は切れた。
 
 
そして・・・・
 
 
 
結局、そのとおりになった
 
 
 
ジェリド率いる機人強奪部隊は、葛城ミサトの(正確には城田氏の)作成したルートをそのまんま通り、ミケーネ軍の隠れ駐留している地点に踏み込んでの大戦闘となる。それでも、サイコガンダムやらヤザン組の活躍もあり、ミケーネ軍を追い払うことに成功・・・しようとしていた。なかなかティターンズも強いのである。だが、その騒ぎを感知して、同じ悪同士の密約でもあったのか、ビッグファルコンから駆けつけてきた三星連合軍によって挟み撃ち。
ジェリドもハイパー化してがんばったが、いかんせんモビルスーツ系で重装甲の敵はきつかった。
 
 
 
戦艦アレキサンドリア改・・・・・撃沈
 
 
 
旗艦を失っては勝利も敗北もない。散り散りに逃亡するしかない、逃げの一手。部隊の崩壊である。敵にも大損害を与えつつも、ティターンズの敗北としかいいようがなかった。敗北条件、「母艦の撃沈」を満たしてしまった。
 
今まで自分の力を増強することだけしか興味がなかったティターンズがいきなり正義に目覚めて特攻したかのようなこの行動は各方面に衝撃を与えた。特に驚いたのが、ロンド・ベルであろう。ジェリド・メサ、ヤザン・ゲーブルの名がそこにあればなおさらである。
 
「もしかしたら仲間に・・・・?」「いや、そりゃねえだろ」「だがなあ、そろそろ改心したということも考えられるぞ」「ハマーンが仲間になるのもそろそろお約束になってきたしなあ・・・・ここらでいっちょ新機軸ってことかもしれねえぜ?」「うーむ・・・」
 
 
大敗北したものの、隠れていたミケーネ軍の存在を突き止めて急襲をかましたジェリド・メサ中尉の手腕と勇気は世間的に高く評価されることになった。
にわか英雄・ハイパージェリドの誕生である。
 
 
これで生死が不明でなければ、ジェリドも多少は浮かばれただろうが・・・・・