スーパーロボット七つ目大戦α
 
 
<君の名は ルート>
 
 

運搬用の全翼機が足りなくなったために、ひとり地上を走ってついてくるように命じられたエヴァ初号機パイロット、碇シンジ。全幅の信頼がおかれているというか、信頼性が足りないから特訓を受けているような、まあ、あまり軍事的セオリー通りではない行動である。飛行機が足りないなら足りないで、第三新東京市に待たせておけばよいのだ。
なにも全機でいちどきに押し掛けることもあるまい・・・・・が、
葛城ミサトに云わせると、悪党の出来がよかった今年の現状は、「流動的で何が起きるか分からないので、戦力をまとめておくに越したことはない」、のだそうだ。
ロンド・ベルに合流後は、パワーアップの改造のためでなければ盆にも正月にも帰郷は許されない。そのまま第三新東京市とは逆反対の遠くの世界に旅立つこともあろう・・・
一人だけ待たせておいて、迎えにいける余裕があるかどうか分からない。
 
 
葛城ミサトの見立ては正しかった。確かに、状況は流動的で、何が起きるか分からない。
ただ、それは走行中の初号機にも当然、起こりえた点をうっかり忘れてはいたが・・・・
 
 
「あーあ。なんで僕だけ・・・・」
てめえの足で走っているわけではないが、綾波レイの進行ルートの指示がかなりシビアで気疲れする碇シンジ。ゆっくり、そっと、助走をつけて・・・・一気にジャンプ、大ジャンプ・・・・山菜狩りのお年寄りがいるみたい・・・しばらく止まって・・・・驚かさないように・・・・・ひたすら直線を駆け抜けるならそう大したことはないのだが、まるで横スクロールアクションゲームをやって、というかやらされている、その主人公キャラにされているような気持ちがして、疲れる。訓練もしているし、若いだけあって反射神経が鈍い方ではないが、さりとてズバ抜けているわけでもないので、順当に疲労する。
 
それも、適当に休み休みしながら、周りの景色を楽しみながらいく道のりなれば、多少は疲労も減じて不満もでなかっただろうが、しっかりと見張られている、となれば。
それも、惣流アスカと綾波レイと渚カヲル・・・・・・戦闘の味方なら背中を預けられるほどに頼もしく信頼できる仲間であるが、こうやって追走の見張りなどをされる分には正直、「やっかいこのうえなし」。手を抜かせてくれない・・・・・・・友愛の追い風がゴウゴウと背中を押してくる・・・・僕はもっとのんびりいきたいのに・・・・
 
渚カヲルなどは碇シンジのそうした根性のない心をきちんと見抜いてはいたが、休憩させるわけにもいかない・・・・・状況は流動的で、悪党の出現にはおおよそ「常識」というものがない。そこらへんが既存の軍隊では太刀打ちできない大きな理由のひとつであった。
どこからか、ぐわわっと、ババババーンと、どどどどーんと、地中からまたは空から闇から沸いてでるか分かったものではない。異次元から現れる悪もいるそうだし。
 
単機で走行中の初号機の前に現れない保証はどこにもない・・・・・・
 
それがわかっているから、綾波レイの指示もどうしても愛想がなく堅くなる。いっそ、急がせるために少々の施設、現地の人の驚きなど構わずに駆けさせたくもなるが、真面目な綾波レイにはそれができない。惣流アスカなどそうさせたくてウズウズしているのだが、綾波レイは指示用の機器を絶対に手放さない。
 
ちなみに、碇シンジの方はそんなことは分かっていない。仲間や葛城ミサトを恨むような性根ではないのだが、しょうがないかなー、とは思いつつ云われたとおりに動くだけ。
 
 
「でも、やってみるとけっこう面白かも・・・・アスレチックみたいで」
しまいには綾波レイの指示どおりに動き、動作をこなすことに面白さを感じ始める始末。
 
「そう。・・・・・・がんばって、碇君・・・・」
同じく、自分の声にていねいに従って動く碇シンジにロマンティックを感じ始める綾波レイ。どちらもどちらだが。辛い辛いと嘆かれるよりずっといい。すこし、うれしい。
 
だが、コントローラーとキャラクターのように繋がった二人が気にくわない惣流アスカ。
 
「ま、真面目にやんなさいよ!ぬあーにいがアスレチックよ!・・・・・かなり遅れてる。あんたの指示、ちょっと丁寧すぎるわよ。アタシに代わりなさい、だいたいのコツはつかんだから」
機動誘導術はギルでも学んだが、独逸と日本ではやはり土台が違う。地図をみれば全てやれる、というわけではない。が、さすがに天才だけあって惣流アスカは綾波レイの指示出しをもう学び取ってしまった。・・・・・学び取ったと思った。速度という観点が抜けているし、この優等生に手を抜けざざっとやれ、と云っても無理だろうから、代わるのだ。
 
決して、シンジを「動かして」みたかったわけではない。よもや、「面白そう」などとは。
 
 
「・・・・・・」
綾波レイの返答は、無言のままに機器のガード。片手ですうっと、覆う。
いや、もしくは、だめ、もしくは、あなたにはむり、とにかく却下の構え。
 
「!!むかっ」その態度にむかっ腹がたつ惣流アスカ。しかし、ここで指示を混線させてしまうほど愚かでもない。一計を案じることにした。
 
「・・・・・シンジも疲れてるだろうし、ここらで休憩いれたらどうかしら?
調子よくやってるみたいでも、やっぱりエヴァに乗るのは集中がいるし」
休憩をいれれば、その間、綾波レイも指示機器の前を離れる。というか、実力で離れてもらうかもしれない、とりあえず混線することなく、指示者の交代が出来るってわけ。ふふ。
しかし。
 
「だめ・・・・何が起こるか分からない・・・・なるべく早く到着したほうがいいわ」
 
「じゃあ、もうちょっとダッシュ!、ダッシュ!、ダンダンダダン!!と指示しなさいよ。そんなまわりくどいチンタラ指示じゃ百年経っても追いつけないわよ」
 
二人とも正論ではある。ゆえに、仲裁をしなければならない渚カヲルはちょいと苦労する。
それにしても、ダンダンダダンな指示とは一体・・・・・。かるく微笑んで、一考する。
 
他の機に乗っている葛城ミサトに通信をいれる。
「このあたりでシンジ君に休憩をとってもらおうと思います。いかがですか」
渚カヲルの口から出た時点で、それは決定されたもおなじ。やはり二人も逆らえない。
「そうね・・・・・やっぱり走りっぱなしは気疲れするかもね、そうしましょう」
日本語的にはおかしいが、神経接続されているエヴァ的には正しい。
 
 
というわけで、廃棄された村の真ん中で、完璧に忘れさられた大魔神のような休憩に入る碇シンジとエヴァ初号機。エントリープラグからヌルッと抜けだして、背中を伸ばしたり深呼吸したりする。長時間のドライバーがやる体操なども。喫煙の習慣はむろんないので、一服したりはしない。しかし、LCLに濡れたその姿は確かに異様で、もし村人がいたら大いに驚き、村役場に安置して、神の子「シンちゃん」として崇めたか、捕獲してテレビ局に売り込んだかのどちらかだろう。
 
「水道もガスも電気も来てない感じ・・・・・写真とかテレビで見るぶんにはいいけど、暮らすには不便そうだなあ・・・・・さびしいし・・・・・
あ、ちょっと探検でもしてみようかな・・・・・トイレにもいっておこう」
 
 
渚カヲルや綾波レイや惣流アスカや葛城ミサトらのいう「休憩」と、
碇シンジが考えているところの「休憩」は、どうも、違っていたようだ。それもかなり。
 
一応、作戦行動中の休憩と、小学生の遠足での休憩は、文字としては同じでもその中身は百八十度違っていたりする。まさかいきなり碇シンジが初号機から抜け出すとは思ってもみなかった渚カヲルたちは驚きを通り越してびびった!それは確かに敵影もない安全圏ではあるが、何が起こるか分からないのだ。援護やフォローが期待できない状況下であっさり機体を離れるとは・・・・
 
「あん・・・のバカ!!無限底なしバカ!!あとで修正してやるから!」惣流アスカの激怒も虚しいこだま。こういう時に限ってヘッドセットを忘れていって、リストの通信機も切ってやがっていたのである。何を考えているのか・・・・
 
 
結局のところ、碇シンジは疲れていなかったのである。ぜんぜん。
休憩、と言われて、機体を降りてそこらへんをノコノコ、ヒョコヒョコ見物にいくくらいに、元気だったのだ。
人の精神の疲労は確かに肉体的なものとは違い、一元的なものではないが・・・にしても。
 
 
「シンジ君・・・・・・」友に裏切られた業火に焼かれる魂の苦痛を味わう渚カヲル。
 
 
「大丈夫、このあたりは・・・・・なにもないから」
指示機器のマップ情報を再検索かけながら綾波レイが告げる。この廃村にはやはり、なにもない。悪党が欲しがりそうなものはなにも。あるのは自然くらいなものだが、そんな情緒を味わう悪党もいないだろう。すでに朽ちているので、破壊する楽しみもなさそうだ。
 
 
だが、胸の奥で、悪い、それも、とてつもなく悪い予感がする・・・・・・
まるで、碇シンジとこれを境に二度と会えなくなるような・・・・・・
心臓が痺れる・・・・・・とても、悪い予感・・・・・
 
 
「碇君・・・・・」