スーパーロボット七つ目大戦α
 
 
<君の名はルート 2>
 
 

 
廃棄されるだけあって、村は小さく、あっという間に一巡りしてしまった。
もともと学術研究でも、京極的情緒を味わいにきたわけでもない、休憩の気分転換としてはちょうど良かった。先行との連絡も途絶えているわけで、さっさと戻った方がよいのだが。
 
「あとは・・・・・」
 
碇シンジに鄙びた趣味があったのか、それとも、ひとの住まぬ雰囲気に何か感じるところがあったのか、碇シンジの足は初号機にはまだ向かず、シメとして目についた、赤いお宮の方へ・・・・荒れ果て草ぼうぼうだが、鳥居の赤朱は妙に生き生きとして、さくらんぼのように目を魅いた。勝手に立ち入ったことに一言いったほうがよいかな、などと殊勝なことを考えるほどに。「先生もそういってたし・・・・・」
 
 
もし、ここに年季の入った霊能者が同行していたら、絶対にそれはやめさせただろう。
その赤朱・・は異常だった。手入れもされないのに、なぜそんなに赤いのか。
碇シンジにもうちょっと観察力があり、なおかつ霊的なものを見る目が曇っていれば、
「それ」と関わり合いになることもなかっただろう。
 
 
お宮は村の中にだけにこじんまりとしている。よく田舎町にいくとそこの教育委員会が史跡に説明看板をたてたりするが、あのレベルに惜しくも届かないくらいの小さな。
どのみち、村には人がおらず捨てられた祭祀なのだから、関係ないが。
 
「?・・・・・・」
 
お宮の扉は、半分が倒れてもげかけており、中身のご神体が直接見えた。
このあたりでもう、碇シンジは引き返すべきだったのだ。だが、気をとられた。
碇シンジは特別に民族けたものに興味があるわけでも、歴史の成績が特別いいわけでもない。むしろ、使徒のせいで成績は下降気味だった。いや、それはさておき。
そんな平均的中学生である碇シンジにしても、そのご神体は風変わりなものだった。
 
赤い般若の面がふたつ
 
驚かしたろ、とばかりに狙ったようにカラスがないたが、聞こえない。
碇シンジには般若が虚ろにこちらを見つめていることしか感じられない・・・・。
長い間か、それとも一瞬、巡る時の歯車は狂わされ、その場に立ち尽くす・・・・
 
 
その目の前に、赤い般若の面を斜にかぶった、青い髪の少女が、現れた。
 
 

 
 
「シンジ、シンジ!応答しなさいよ、このバカ!!」
 
通信機に向かって怒鳴る惣流アスカ。無駄なこととは分かっている。やはり距離を隔てて連絡がとれない、というのは疑心暗鬼になってしまう。これが他の、綾波レイや渚カヲルなら単独行動を安心して容認していられるのだが・・・・・不安でしょうがない。こんなことなら、走らせ続けておくんだった。使徒も出現しないし、何もない、何も起きないのは分かっている・・・・けれど。イヤな予感がする・・・・
それは、綾波レイが感じていたものとほぼ同種のもの。二度とあえなくなる・・・・
 
 
「ネルフ本部の方へは連絡をいれたから・・・・おそらく、そちらの方が早い」
エヴァとビッグオーという巨大物体をぶら下げた全翼機を現地にターンさせるわけにもいかない。着陸させる場所もなければ、エヴァを投下するわけにもいかない。連絡を絶ったのは、初歩的なミスであろうし、何も起きていない、ということも・・・・ネガティブな想像をすればそれが実現化するかもしれない。渚カヲルは友人の、ダレン・シャンなみのバカぶりにとほほと悲しくなりながら、惣流アスカをなぐさめた。
 
 
「別に心配いらないって。たぶん、自然の録音にでもいってるのよ」
あとでシンジ君には”梅干し”あげないとね・・・内心でゴリゴリ思いながらも軽い口調の葛城ミサト。
 
 
「碇君にオーディオの趣味が・・・・」綾波レイの天然もかなしい。
 
 
「あ。要するに、おトイレってこと。山あり谷ありしてたから、酔ったかもしれないし」車酔いならぬエヴァ酔い。もともと内蔵電源で五分しか動かぬエヴァが長距離を移動することはありえない。今回の機動はエヴァの常識に外れているわけだ。赤木リツコ博士も整備の人間も初号機だから認めたものの、他の機体ならば首を縦に振らなかっただろう。
 
「きったないわねえ・・・・・でも、ありうるかも」
イヤな予感を叩き潰すために、むりやりこじつけっぽく納得してみせる惣流アスカ。
 
 
だが、その空元気も広域レーダーからもたらされた一報によって打ち砕かれる!。
 
「げっっ?!突如出現した機械獣の集団が、初号機を包囲してる?!恨みを買った覚えはまだないし、くそっ、目ぇつけられた?角も生えてる鬼ツラなのに!」
「数は!?ミサトっっ!」
 
「十・・・・一体。ロンド・ベルから解析コードをもらってりゃ名前まで分かるけど」
それだから、戦闘経験は貴重なのだ。なんせ連中はあらゆる敵と戦ってる。
そのデータとつき合わせてみれば名前も特徴も弱点もバッチリなのだが・・・・
 
にしても、十一体の数は、偵察や単なる移動にしては多すぎる。事前に予習したところでは機械獣を使役するミケーネ帝国は「世界征服」を狙う、かなりストレートで分かり易い悪党。本拠地はバードス島その他であり、しっかりとした移動要塞ももっていると聞く。こんなことをしている間に大都市でも襲った方がよくはないか?それなのに、こんなところで戦力を投下してきたのは・・・
 
紛れもなく「やる気」である、ということだ。それとも、このへんに正義のロボットの秘密基地でもあってデビュー前に潰してやろうと探し回っていたのか。
なんにせよ、範囲の輪は狭まっており、たとえ当初の目的がエヴァ初号機でなくとも、見逃してもらえるはずもない。囲まれてボコられる前に、包囲を切り崩して逃げることだ。
機械獣と初号機、どちらが足が速いかわからないが、いや、獣だから速いかも・・・・
 
 
綾波レイの悪い予感、
惣流アスカのイヤな予感、
渚カヲルの不安思考の現実化
は、このことだったのか
 
 
だが、肝心の碇シンジと連絡がつかないのではどうしようもない。どうするか・・・・
使徒以外の敵との初陣となるが、こんな形でとは・・・悔やみが入る葛城ミサトだが即座に対応を決めねばならない。最優先で着陸可能な空港を空けさせて、すぐさまエヴァ三体に投下装備に換装させて、全速でUターンして現地に戻るしかない。どうしても外地では電力供給がネックになる。ロンド・ベルが参戦にいい顔しないわけである。
たぶん、これは失策だがどうこう言っているヒマはないっっ!
 
のんびりの空の輸送が一気に戦闘態勢に入る。いくらエヴァ初号機でも使徒以外の敵とは初陣(はじめて)であり、しかも数は十一体。おまけに装備はプログナイフしかない。
あげくのはてに、パイロットが機体に搭乗していないときた!。
はたして、間に合うのか・・・・・なんとか包囲を切り崩して、合流可能な方角に逃げてくれればいいが・・・・・ここは、ATフィールドにすがるしかない・・・・
絶対にシンジ君を守って・・・・・・!奥歯を噛みしめて祈る葛城ミサト。
 
 

 
 
「(男)ウーム。古文書にあったロボとはこれのことか・・・
少し絵図と違うようだが・・・・般若と、鬼か・・・」
 
移動飛行要塞グールから雌雄同体の怪人・あしゅら男爵が望遠鏡をのぞきながら状況を確認していた。ちなみに(性別)は、どちらの声帯で声がでているかを表している。
 
「あしゅら様」
そばにいたヤカンに穴をあけたような兜をかぶった兵士がたずねる。
べつに貧乏なのではない、それが正装なのだ。
 
「(男女)なんだ」
男声と女声の混声で言うので芸が細かいというか豪華というか不気味だ。
ちなみに、お湯をかけても男になったり女になったりしない。
 
「古文書にのっているようなロボットなど、はたして戦力になるのでしょうか?」
 
「(女)おだまりっっ!!」
ビビビビと水木しげる風のビンタをかますあしゅら男爵。
 
「(男)そんな自己否定につながるようなことをいってどうするのだ!たわけめ」
あしゅら男爵は大昔に滅んだミケーネ帝国の貴族夫婦のミイラを一体に縫い合わせて合体した、早い話がえらく大昔の人間なのだ。古文書を否定すれば自分の力も否定せにゃならんのだった。
 
「は!、そ、そういえばそうでした。」
ヤカン兜の兵士はふつうに現代で採用された人間であるから、このようにたまにジェネレーション・ギャップが生じる。
「(男)中国で発掘された超機人、竜王機と虎王機の例もある・・・・・恐竜の化石と同じで日本でも強力な古代ロボットが発掘されぬとは限らぬ・・・・そして、何より現にこうやって我々の呼びかけに反応して目覚めておるではないか・・・・フフフ」
 
 
「しかし、あれは最近売り出し中の”エヴァンゲリオン”とかいうやつでは?」
ヤカン兜兵士はなかなか最近の事情に詳しかった。いかにも怪人の上司に向かって再度口をはさむ反省のないあたり、悪党の新人類かもしれない。
 
「(女)おだまりっっ!!」またビビビビとビンタをかまして力説する。
「(男)あの色彩を見てみよ、紫などと言う色があるものか。あれは紫を神聖視した古代人の発想であろう。あやつこそ我らの意のままに従い、破壊の限りをつくす悪の魔神よ!」
勝手に決めつけて、男女混声での高笑い。
 
 
「はあ、そう言われてみれば・・・・」
ポリシーがないあたりは、あしゅら男爵の部下にふさわしいのかもしれない。
 
「(男)それではあやつを回収するぞ。自ら地上に出てくるとは、機械獣で掘り起こす手間が省けたわい・・・・よほど、地上を血の海に変えたいと見える。凶悪な奴だ。・・・・それにふさわしい名前を与えて暴れさせてやるぞ・・・・・さて、なにがいいか」
 
「(女)・・・・オニムラE7というのはどうか」
 
鬼型で色が紫だから。オニムラ。すげえネーミングでエヴァ初号機は勝手に新たな人生を与えられることになった。(予定)ロンド・ベルに参戦するつもりでミケーネ帝国の手下になる・・・・明訓の微笑三太郎にも匹敵する、すごすぎる、まさにスーパー人生である。
 
「それでは回収作業に入ります。・・・・いきなり見境なく暴れたりはしませんよね?」
 
「(男)古い時代のロボットだからな。その可能性もあろう。だが、そのための機械獣であるぞ。何を恐れることがある」
 
「は、はい。ガラダK7、ダブラスM2、アブドラU6、グロッサムX2、ジェノサイダーF9,引き続き、目標地点へ前進せよ」
 
 
エヴァ初号機に改名を強制して人生変える魔の手が迫る!!
 
 

 
 
「鬼にのりますの?」
 
青い髪の少女がそうのほほーん、と間延びした口調で聞いてきた。
 
ちなみに鬼は「き」と発音したので、初対面の身としては聞き取りにくい碇シンジ。
きゃしゃな両肩をむきだしにした、上黒下白の、成長しきってない身体でもボディコンはボディコンであるところの、ぴったりした服に、胸と肩口に赤朱の宝石をつけたコードを何本も吊り垂らしている。フルーツパフェを連想させる、たっぷりした青い髪、赤い瞳。
 
うーむ、なんといってよいか。
 
おそらくは、妖怪の姫君であろうか。何一つ機械けたところはなく、テレビのリモコンでさえびっくりしそうなナチュラルな感じを漂わせている。にしても、場違いな・・・
いや、こっちが場違いなのか。やはり、探検なんかするんじゃなかった。
 
と、なるとこの続きの展開は、漫画のお約束で言うと、「ここから出してください。お礼になんでもしてあげます」とか、そういうことになる。で、実際そうやってみると、こっちの言うことなど聞いてもくれずに暴れ回って、責任をとるはめになる、と。
狭いようでいて、日本は広い。いやー、本当に妖怪がいたなんて。たぶん、お宮にいるのは村人に悪戯して封じ込められたかどうかしたのだろう。
 
 
「・・・・気になりますの」
返答してくれない少年に、わずかに残念さをこめながらつづけた。ぽやーんと。
 
「あ、いや、ごめんなさい。いきなり聞かれたし、出てこられたから驚いちゃって。
あー、僕は碇シンジ。外に駐めてあるエヴァ、エヴァンゲリオンっていうロボットに乗ってやってきました。急に入ってきてごめんなさい・・・・・ところで」
 
とりあえずの挨拶をすませ、「君は?」と問いかけようとした時にズズン、と地響きがした。機械獣十一体分が進む振動がとうとうここまで到達したようだ。
 
「地震・・・・・?」
しかし、連絡手段を忘れてきている碇シンジには、それが分からない。地が響けばふつう、地震だと思う。即座に「機械獣の襲撃だ!」とダイナミックに判断できるほうがどうかしている。「まずいなあ・・・・・」
なにがまずいのかというと、この朽ちたお宮だ。地震が強ければ倒壊してしまうかもしれない。そりゃ、今のうちに逃げてしまえばなんの問題もない。早く初号機のもとへ戻れば。
しかし。
 
 
「ここ、崩れるかな・・・・・危ないよね」
 
はっきりいって、廃棄された村に一人でいる時点で尋常でないのはわかるし、対人関係において善良性を期待できそうもない、人間であるかさえも分からない。
悪戯で封じ込められた妖怪であっても、建物に潰されて圧壊死、というのはあんまりではなかろうか。しかし、助けたからには最後まで責任をもたねばならない。
 
地響きはますます強くなっていく。