スーパーロボット七つ目大戦α
 
 
<君の名は ルート3>
 
 

だいたいお宮には、なんでこの地に祀りがはじまったのかを記録した「縁起」というものがある。なんかよくわからんけどありがたいけど拝め、と言われて拝むほど人間はおめでたく出来てはいないからである。
碇シンジがもうちょっとこのあたりに詳しくて、しかも草書体と角筆が読めればこのお宮の縁起と、ここにいる奇妙な少女の正体がわかったことだろう。
いやー、そんなこっちゃ立派な妖怪ハンターになれないゾ!
まあ、時間があってもこの振動の中、のんきに古文書解読などしておられんが。
と、いうわけで。ここはおまけらしく、その縁起を解説しておこう。
 
ちなみに、「角筆」というのは、とがった木の先で紙や木に文字を刻みつけたもので、簡単に代わりの紙なんぞなかった昔は、それを目印に刻んで失敗せぬようにしたのだ。
目には見えにくい代わりに、それだけ本音や正直な心を書いていたりするので、なかなか貴重な資料にもなりうる。十年ほど前の国文学の最新鋭領域だったが、現在は一通りの成果が出ているのではなかろうか(不勉強のためそこまでは不明)
 
さて。大昔、この村では「カッパ」と「狸」と「天狗」の三つどもえの争い、まさに「もののけ三国志」があった。もちろん、村人は大迷惑したが、ふつうの村人はもちろん、かなりの高徳えらい坊さんにも手を出しかねた。それぞれがそれぞれに「あいつらがわるい」責任転嫁をしつつ自分たちは悪くない、と言い張り、いっこうに喧嘩をやめようとしない。いくら法力があろうとも確かに一理あるので祓ってしまうわけにもいかない。
大きな刀をつかう犬の半妖や弓を操る髪の長い巫女や手に風穴があいた法師でもいれば、24週間ほどかけてなんとかなったかもしれないが、あいにく彼等は訪れてくれなかった。
 
もののけたちも、少しでも有利になろうと各々人間たちを引き込もうと考えて、サービス合戦をも展開し、村人たちも三つの勢力に呑まれかけ関係が険悪なものになろうとしていた矢先・・・・・
 
 
衝撃とともに、それは現れた。
 
 
ある夜のこと、天から降ってきた赤い般若面が争いを続けるもののけたちを一喝して、収めてしまった。あまりにあっけなく。ぼそぼそとだが、もののけ側から伝わってきた情報によると、あくまで争いを続けようとする各陣営の強戦派は赤般若面に逆らい、景気づけの血祭りにするべく戦いを挑んだが、「ヨミジ」なる技、たった一撃で皆殺しにされたという。(現代戦略科学の見地から推理するに、それはマップ兵器に間違いない)その名のとおり、黄泉路を下らされたのだろう。死ぬことを知らぬいかにもののけでもこれには大いにビビリ、即時停戦決定。村人たちもその絶大なる力の般若面に大いに恐れたが、そこから現れた青い髪の女の子の「もう、休みたいですの・・・ずっと」という言の葉を全面的に受け容れ、お宮を建立。現代に至るという・・・・・悪戯されて封じ込められたどころではない。
日本のむかしばなしには似つかわしくないハードな実力を、ほとんど神格めいた力をもっているわけだ。伝奇SFみたいな縁起だが、いままで宗教的な弾圧に潰されることも、耳ざといテレビ局にさらしものにされることもなかったのは、ひたすら「祟りが凄まじい」からであった。お清めなどしなくとも、鳥居はいつも不気味などの赤朱を誇る。
しかし、伝説は風化して、恐れる者も祀る者もなく、捨て去られる。
もとより、手厚く面倒見てもらいたかったようでもない、寝床さえ用意してもらえばいいですの、というユースホステル感覚だったのかもしれない。ひたすら眠り続け。
終末地点は、ミケーネ軍団の無神経な機械獣の前進による振動破壊。
 
碇シンジは、そんなこと知らない。
草書体も(中学では習わないし、角筆なんて知りもしない)読めないし。
 
で、ここからは何者によるのかは分からないが、角筆で記されていた。
 
{赤般若ロボットこと・・・・ベルゼイン・リヒカイト。”SRW・INPACTに登場したボス級の敵ロボ。移動8,運動性132,装甲1562,限界412,適性全てS、HP回復(大)EN回復(小)の特殊能力を持つ。武器はマブイタチ、ヨミジ、ライゴウエ、マブイエグリ。最低でも3400ダメージオーバー。見た目は般若面で人体が浮遊構成されているという感じで、射撃武器が当たりそうもない骨っぽさだが、パワーは凄まじい}
 
敵にすればこの上なく恐ろしく、味方にするにもその外見がちょっとあれで出来るなら関わりたくないなあ、という感じで、その姿は碇シンジにも分かる絵巻として描かれていた。
 
うわっ、怖っ!
 
エヴァ初号機に乗っている碇シンジが言うのだからほんとうである。
あしゅら男爵のもっている古文書にもその絵がのっている。確かに分類すれば同カテゴリーであろうが、確かに違う。兵士の方が正しい。
 
碇シンジはこの振動の中で、考えた。
さっさと逃げないあたり、この思考の重要度が分かる。
 
人からそうは見られなくとも、碇シンジ自身はじつは、「知性派」を任じている。
 
その他の人間が聞けば「はあっ!?」てなもんで爆笑間違いなし、もしくは全力で実力をもってしても、訂正にかかったであろうが、人間は大なり小なりナルシストである。
なんてったって知性派である碇シンジは駆け出してから目的地を考えたりしないのである。・・・・しかし、あまり時間をかけるとお宮の倒壊に巻き込まれペシャンコである。
そのあたりは考慮の外であるのが、「考えるヒト」の素敵なところである。
 
ここでまあ、彼女を助ければその後のことも責任をとらないといけないわけである。
それも、警察署に届けたり、葛城ミサトに報告してすむたぐいのことではない。
最低でも、その後の落ち着き先くらいは一緒に探さないといけないのである・・・・・
 
、とよく考えたら、暮らすところなら父さんから団地をまるごともらったっけ。
ホームセンターで神棚でも買ってきて、そこに住んでもらえばいい。おお知性派!
犬猫とちがって食事の心配もしなくてよさそうだし。かえって、手間がないかも。
ここで会ったのもなにかの縁だろうし、・・・・よし!!
 
「ところで・・・・・」
 
「え?なに」
 
ふいの侵入とお宮を揺らす振動に怯えるわけでもなく、駘蕩に笑みながら青い髪の少女は碇シンジに問いかけた。
 
「ここ最近・・・・”呼んで”いらしたのは・・・・あなたでしたの・・・・・いかり、しんじさん」
 
「今さっき着いたばかりだから、・・・・・呼んではなかったと思うよ。それより、ここを出た方がいいよ、崩れるから危ないよ。一応、気に入るかどうか分からないけど、避難先も考えてあるから一緒に逃げようよ」
 
碇シンジにしてはシャキン、とした鋭さで手を少女に差し出す。
だが、少女はなにをいっているのかわからない、という風に首をかしげる。
それから、にこっと、不思議にわらって
 
「それより、鬼をとられちゃいますの・・・」
 
「はあ?」
 
少女は緑の足が何本もついた奇妙な赤水晶玉をとりだして見せた。
そこには地響きをたてながらこの村そばまで近づく機械獣の集団が映っていた。
 
「鬼をとられたら、ご用がすむから地震もおさまりますの・・・・」
だから、助けてもらう必要がない、とでもいうのか。
 
「ふーん、地震はあの・・・戦闘獣?の足音で、目的は留めてあるエヴァ初号機で、それを盗もうと・・・・つまり、エヴァ泥棒?たいへんだ!!」
ATMを深夜ショベルカーで掘りあげて盗んでいく、という強腕犯罪があるが、碇シンジの認識はその程度でしかないらしい。・・・・・十一体の機械獣を見ても。
青い髪の少女は内心でその見かけによらぬ神経の太さに感心した。
スーパーな人には見えないですの・・・ふしぎですの
 
「そ、そうか。自然現象じゃないなら、止まってもらえば揺れはおさまってお宮も無事なんだ!よかったね、すむところが大丈夫で。じゃ、僕、これでいくから!」
 
初号機が盗まれかけているのに何を喜んでいるのか碇シンジは嬉しそうに駆けていった。
少女の名前も聞かずに。