スーパーロボット七つ目大戦α
 
 
<君の名は ルート4>
 

 
 
 
違法駐車でミニパトの婦警さんに白チョークでやられとんならまだしも、相手は機械獣である。碇シンジになんの遠慮もなかった。小さい村であるから駆ければすぐに間に合った。
 
エヴァ初号機に乗り込み、再起動。
エヴァ初号機に乗り込み、再起動。
 
繰り返したのは、「オニムラE7」にならずにすんでほっとした初号機の顎部装甲の隙間からのため息。
 
 
「さて、早くここから離れないと・・・・・
 
 
「シンジっっ!!」「シンジ君!」「碇君!」
 
再起動したとたんに最大音量で放たれる2,5,1のチルドレンの呼び声。
「うわっ!・・・・ど、どうしたの。そんな大きな声で」
 
 
「あに通信切ってんのよ、この黒森(シュバルツバルト)バカ!!迷子になってべそかいて泣いてんじゃないかと思ったじゃないのよ!!」
どちらが泣きそうになっているのかよく分からない声で、顔で、惣流アスカが大画面で迫った。それでも、無事を確認できたので胸をなでおろしているようだ。そのすきに、
 
「で、シンジ君、怪我はないんだね?転んで頭を打って今まで気絶していたとか」
「・・・・現在の、戦況は」
渚カヲルと綾波レイが、惣流アスカを画面の隅においやって肝心なことを尋ねる。
 
 
「いやー、ちょっと村の中をひとめぐりしてたら、お宮があって、そこで不思議な女の子が・・・ああ、そんなこと言ってる場合じゃなかった。戦闘獣がたくさんこっちに来てるんだ。ああ、あれがそうか・・・・あれだけたくさんいると地響きがしてさすがにかなり迷惑だねえ。・・・・・とりあえず、これをなんとかして合流す・・・・・
 
 
ぶちん
 
 
「シンジ?!」
唐突に通信が切れた。話の途中で碇シンジが切ったわけではない。強制的なジャミングによるものだ。それも、かなり強力な。世界征服が目的なミケーネ帝国はなにかと自分たちの力を誇示して民衆をびびらすことが大好きなので、そんな手間なことをしない。見たければ勝手にみて我らの力におののけ!という程度の発想しかもたないはず。
裏から世界を支配する、というせこい現代組織とはさすがにスケールが違う。
応援を呼ばれることをおそれるくらいなら、はじめからそうしておかねば意味がないし。
理由が不明であることはなにより恐怖である。・・・・ミケーネ帝国とはまた別の悪の軍団が介入、悪であるから漁夫の利を狙って・・・・という可能性もある。
使徒対人類、白と黒、単純な二局対決ではない、乱戦の恐ろしさである。
エヴァ初号機は確かに強いが、パイロットがパイロットだけにそうした人生裏街道的攻撃にはうまく対処できるとは思えない。というか、現在この状況が全てを物語る。
 
 
ぞお・・・・・血の気がひく。喜びと安心が、一転して。短い通信がかえって残酷。
 
 
葛城ミサトとロジャー・スミスが大至急で安保軍の基地に離発着換装の手はずを整えているが、間に合うまい。わずかに遅れ気味スタート、初号機が追いつめられぎりぎりのピンチになった・・・まさにその時!のタイミングでも間に合いそうにない。
 
もてる装備はプログナイフ一本に、ATフィールドのみ。それで相手は戦闘獣十一体に、・・・・謎のジャミング勢力”α”。
 
 
「・・・・・それで、”不思議な女の子”って誰よ」
 
 
悪党は元気で活躍しとるわ、謎のキャラクターは出てくるわ、心配気苦労のタネはつきまじ。
 

 
 
「早くおいつかなくちゃ、おこられるんだけど」
はなはだ緊張感と緊迫感に欠けるセリフとともにプログナイフで機械獣を屠っていくエヴァ初号機。あやういところで<仲間入り>を避けられた初号機の動きがすさまじい。
 
 
それに加えて
 
 
「アスカたち、怒ってるんだろうなあ・・・・・やっぱり」
カヲル君も綾波さんもいるのに、通信をぶちっと切られるのはやはり尋常な怒り方ではない。かなり心配させてしまった・・・・・さすがに反省する碇シンジ。
これは早いところ追いついて謝らないと。どういう神経をしているのか、碇シンジはジャミングで通信が切られたなどと思わず、惣流アスカたちが自分を発憤させるために切ったのだと、考えていた。・・・小学校の体育の授業のマラソン練習ではないのだ。そんなはずはあるわけないのだが。
 
 
「早くおいつかなくちゃ、おこられるんだけどぉ!」
 
 
叫ぶようなことでもないことを叫んだりするとなぜかガンダム節となる。ちなみに攻撃はクリティカル。死神鎌のガラダK7をお株を奪うようにナイフで切り裂き、褐色色に油太ったアブドラU6に左腕での地獄突きをかます。やられた機械獣はズガズガズガーン!!と爆発するが、ATフィールドのおかげで傷一つつかない。これで六体。
 
 
強い!エヴァ初号機強し!使徒戦は経験していても、その他の悪の軍団ロボとの戦いははじめて、これが処女戦であるのに、マジンガーZをはじめとするスーパーロボットたちとさんざんこれまで戦ってきた経験豊富な戦闘獣を、ものともせずに、とてもはじめてとはおもえぬくらいに、奮闘していた。それは、向こうもふいをつかれた上に、エヴァ系とは初めての対戦ではあったが、それにしても中学生の碇シンジ相手にだらしがない。
いいように攻められている・・・・とは何事だろうか。指揮官のあしゅら男爵は何をしているのだろうか。こんなことでは百億年マジンガーと戦っても勝てるわけがない。
 
 
しかし。これにはきちんと理由があった。
 
 
<精神コマンド>である。
 
 
言うなれば、スーパーロボットたちが戦う鋼の、炎の戦場において<のみ>働く魔法のようなものである。戦う魂が呼び覚ます奇跡とでもいうのか、それを用いれば<必ず攻撃が命中>したり・・・略して<必中>、<必ず攻撃を回避>したり・・・呼び名は<ひらめき>・・・・正義のスーパーロボット軍団が必ず最後には苦しい戦いを制して勝利してきた影には、パイロットたちのそんな精神能力があった。ただし、一般生活の中では使えないので、超能力ともいいがたい。戦場においてのみ、使える、解放される精神能力・・・・・これが使えるから、パイロットはスーパーロボットに乗る資格がある、ともいえる。
プロの軍人をおしのけて中高生がパイロットはっていたりするのは、こういう理由もあるのだ。ロンド・ベルに参戦するには必須の能力であった。これがなければどんな高機能のロボにのっても熱い魂がぶつかりあう鋼の戦場では力を引き出せないわけである。
 
 
もちろん、碇シンジたち、ネルフのチルドレンたちも習得してきた。
素質さえあればある呪文を三回唱えれば使用可能なのだからちょろいものだった。
 
ちなみに、碇シンジが習得したのは<脱力>・・・・・敵の気力を失わせる、というある意味平和的な精神コマンドであった。戦わずに引いてくれればこしたことはない・・・・・それって素晴らしいヨネ!とばかりに、惣流アスカらが止めるのもきかずに、全精神力をそればかりに注ぎ込んだ結果、<脱力>は<大脱力>にレベルアップした。してしまった。戦場にある全ての敵の気力がマイナス20される、というとんでもない裏コマンドに。
それから、全ての精神力を注ぎ込んだはずが、<かくらん>・・・全敵の命中率を一ターン半分にするというこれまた美味しくうれしいコマンドである・・・・も覚えられた。
これは、実はエヴァ初号機からのプレゼントで<鬼のかくらん>というやつであった。
どうせ碇シンジには漢字は関係ないし、ワープロに頼らずそらで書ける綾波レイがだまっていたので誰もわかりはしない。ちなみに、葛城ミサトもチェックいれられなかった。
 
綾波レイが<自爆>を覚えたのが、よく分からない。本人もよくわからない。
 
 
さて、そういった理由で、碇シンジは情け容赦なく遠慮なく、精神コマンド<脱力>を炸裂させて、行軍中とはいえいまだ本式に戦闘用意の精神になっていなかった機械獣に、ケダモノのように先手必勝に襲いかかったエヴァ初号機。ここいらへん、葛城ミサトの薫陶が効きすぎるほどに効いています。
 
 
「(男女)うっ、なんだか急にやる気がなくなってめんどくさくなってきたぞ・・・・・」
「そうですねえ、あしゅら様。海底要塞ブードに戻って、”とっとこハム太郎”でも観ましょうよ・・・」
指揮官であるあしゅら男爵がこのザマであるのだから、機械獣も同様である。
精神コマンドのいいところはそこが戦場であるなら距離は無限大であるところだ。
 
 
その間隙をついて、いいように暴れまくるエヴァ初号機。まことに鬼の子か?
 
 
「はあ・・・・・感心いたしますの・・・・・」
お宮の中では、赤色の水晶玉を観ながら女の子が感心を口に出した。
妖怪三国志を一夜で制する赤い般若機械神(ベルゼイン・リヒカイト)をもつ、この人外っぽい子が。
お宮は結界をはっているからいいものの、村は戦闘の余波を受けて、完全に壊滅。
機械獣の大きな破片だのがモニュメントのように廃屋に突き刺さり、外れたミサイルがあちこちにクレーターを穿っている。確かに人は住んでないから人命の心配はいらないが。
十一体を相手にしているのだから、それを一歩もひかずに戦っているのを称賛すれこそ攻めるいわれもなかろうが、エヴァ初号機に一切配慮の影もみられない、悪鬼の破壊神ぶりに少女は・・・・ぽっと、頬を桜色に染め、呟いた。
 
 
「気に、なりますの・・・・・」
 
 
<脱力>の精神コマンドがなにか違うふうに作用したのではあるまいか。しかし確かに。
単なる疑念をこえて、少女は少年に(この場合は碇シンジに)興味を抱いた。
 
 
だが。
碇シンジの快進撃もここまであった。やはり、世の中それほど若さでいつまで押せるほど甘くはないのであった。
 
 
ズキューーーーーーーーーーーーン!!
 
 
少女のハートが碇シンジの魅力の矢で射抜かれた音ではない。もっとハードでボイルドな音響であった。それも、音は「それ」より遅れて追随してきたもの。
 
 
「あぐっ・・・・・・!」
碇シンジの左目に突如、激痛が走った。エヴァ初号機の左目が潰されている。
遠距離を超高速で飛来してきた弾丸によって。精密ライフル狙撃。二発目がまったくの同一箇所にブチ込まれた。ATフィールドも特殊装甲もこの一撃は防ぎきれなかった。
エヴァ初号機の左の眼窩から潰れた眼球と液体がドボッと噴き出す。
 
「あぎっ・・・・・・・」
初号機と神経接続されている碇シンジはたまったものではない。繋がれて間接的に形成される未完成の痛撃とはいえ、眼球へのそれは恐怖を媒介に苦痛を倍増させる。
実際に、自分の眼球が潰れたわけではない。だが、それは光を奪われる事への本能的な恐怖を抉り、掴み出す。間髪いれずに、両腕で頭部をガード。
その隙間から残る右眼はどんどん、その色を変化させていく・・・・・・夜雲色に。
 
 

 
「あしゅらさんよ、子供相手に何遊んでんだ・・・・」
狙撃体勢からゆっくりと身体を起こして、十二体目の機械獣、ジェノバM9は言った。
 
独立の思考機能をもち、スナイパーとして高い誇りをもつ特異な機械獣である。
古文書のロボットの発掘などたるい仕事などやっておられんので、適当にサボっていればこの有様だ。強敵の予感に血が騒ぎ、スコープを覗けば見知らぬ鬼型が単独で同僚を屠っている・・・・。久々の狩りの獲物として申し分ない・・・・
だが、簡単に二発を食らうあたり、外面ほどの実力はないようだ。戦闘のプロではない。
甘ちゃんの子供だ。自分の手で狩る興味が失せて、寝ぼけて寝言をほざいている指揮者のあしゅらに追撃を指示する。とても機械獣とは思えないが、これがジェノバM9。
 
「今がチャンスじゃないのかい」
大ボスであるドクター・ヘルの信任も厚い、ハードボイルドスナイパー。
一番厄介なのが精神コマンドをくらってなかったわけだ。人生は皮肉で厳しい。
 
 
「(男女))はっ?貴、貴様にいわれんでもそのくらい分かっておるわ!!
いけ!機械獣ども!そやつをコナゴナに破壊してやれ!!」
機械獣に命令された侮辱に気力を蘇らせたのはいいが、はじめの目的をすっかり忘れていつものマジンガーZと戦う調子になるあたり、男と女の両方の視野をもつわりには指揮官の資質に欠けていそうなあしゅら男爵であった。そのとき
 
 
ヴォオオオオオオオオオオオオーーーーーン!
 
 
天をも引き裂く咆吼が響き渡る。あしゅら男爵、ジェノバM9を震撼させる。
悪の軍団として、てめえたちで凶悪なボイスを唸ることはよくあったが、敵である正義ロボからこうも極悪な吼声をかまされることはついぞなかった。あまりの凶悪さに天も空もかき曇っていくではないか・・・・・見る見る真っ暗な雷雲がモクモクと
 
「(男)な、なんだこいつは・・・・!」
「ほお・・・・・・」
 
 
グールから望遠で確認される「敵」は、顎の装甲を引き千切って天に向かって咆吼するエヴァ初号機。左目のダメージはともかく、戦意でいうなら先ほどとは比べモノにならない。
追撃を命じられた感情のないはずの機械獣どもが、怯えて奴に近づこうとしない。
 
 
「あああ・・・・・・・」
逆に、その凶悪極まる姿にますます頬を染めていく青い髪の少女。
「いいですの・・・・・」
まともでない、というか、機械獣を超越する感性の持ち主であるのは間違いない。
「もっと・・・・ちかくで・・・観たいですの・・・・」
ただ、それだけの理由で、青い髪の少女は宮に祀られた伝説の妖巨神を、恋する乙女風味の切実さと適当さで起動させた。
 
 
ベルゼイン・リヒカイト。
 
 
暴走気味のエヴァ初号機のそばによろうという、勇気と無謀と強面と、実力を兼ね備えた強力機体のいきなりの登場に機械獣たちは驚き、退却しかけたが、それは許されなかった。
 
 
「(男)ぬぬぬ・・・・!、あれは・・・・絵図面の・・・あいつは違ったのか」
「だから言ったじゃないですか、あれは違うって」
「(女)おだまり!ジェノバM9,本当の標的はあの赤い般若だ、おやり!」
非常時であるので兵士に水木風ビンタはかんべんしてやり、代わりにジェノバM9に命じる。そこらへんがあしゅら男爵の最悪なところなのだが、スナイパーはエヴァ初号機にただならぬ気配を感じ取り、大口をあけたところを冷静に延髄ぶち抜いてやろうと冷静にプロの判断で狙撃に入って<集中>していたところを・・「ちいっ!」・・・乱し邪魔することになった。
 
 
そして、それが、運命勝利の分かれ目であった。
 
 
「サンダー・ブレイク!!!!!」
 
曇天から前口上もなく発射された悪を砕く正義のマシンの雷は、見事グールを貫いた。
 
 
「(男女)ぐわわわわわわわわっっっっっっ!!」
「あしゅらさまままままままっっっっっっ!!」
正義のマシンの雷は避雷針など通用しないのである。悪を倒すべく少々の対雷設備などは問題なく効かないのである。
「ふん、貴様たちか・・・・・・」使い物にならなくなったライフルを投げ捨て、ジェノバM9は苦笑した。これが引き時であることを即座に判断したゆえの。暗天を仰ぎ見る。
 
 
そこには・・・・
 
 
闇空に厳然と仁王立ちする、スクランブルダッシュしてきたらしい尊大にして偉大なる言葉を話さないから問答無用に悪を討つ、正義と云うよりただ単に悪いやつらをぶちのめすことしか頭になさそうな黒鉄城に居をどっしりと構える、恨み重なるミケーネ帝国相手にはとくにやる気が盛り上がり攻撃力は1.5倍するという戦闘獣の天敵・・・魔神暴れん坊将軍・・・・・
 
 
グレートマジンガーが睨みつけている
マジンガーブレードを突きつけている
パイロットの剣鉄也はアゴが割れている
 
 
すでに勝負は決まった。
 
「オレたちが来たからには、好き勝手にはさせんぞ!!ミケーネ帝国!!
たった一機を寄ってたかって・・・とは貴様らの好きそうなやり方だ・・・ヘドがでるぜ。覚悟は出来ているんだろうな!!」
 
 
パイロットの剣鉄也の目が血走っている。熱い感動の涙を耐えているせいである。
彼は元来はやさしい性格だが、厳しい戦闘訓練と複雑な幼年期を経たために周囲にいささかニヒルな態度をとりがちのクール・ガイ・・・・なのだが、もちろんマジンガー乗り、スーパーロボット乗りとして必要十分以上の血の熱さをもっている。
 
悪の軍団の寄ってたかっての暴行に、たった一機で耐える!・・・耐える!・・・耐える・!!などというシュチュエーションはたださえ熱い彼の血を燃えたぎらせ、感動の涙が滂沱と流れる・・・・のを戦闘のプロとしての自覚でもって必死で抑えさせていた。
そんな状態で攻撃力はウナギ登り。同時に、視野はどんどん狭くなっていく。
 
エヴァ初号機と機械獣の戦闘具合をよく確かめもせずに、自分で脳内にこさえた熱血物語に酔いしれている。・・・・グレートマジンガーがグレートなゆえんである。
 
 
「(男)なんだと!いきなり現れて事情もわからぬくせに卑怯者よばわりとは・・・・」
自分たちは当初の予定としては古文書のロボットを発掘しにきたのだ。いわば、文化事業だ。それによって戦力が補充されることも考えてはいたが、考古学的側面もあるのだ!。あしゅら男爵は言い返してやろうと思ったが、
 
 
「うるさい!だまれ!!・・・・いくぞ甲児くん!」
「あいよ、・・・・ダブルブレストファイヤー!!」
 
味方の云うことも聞かないというもっぱらの評判の剣鉄也がよりによって敵の弁解など聞くはずがなかった。
続いて闇天を赤い翼ジェットスクランダーで切り裂いて登場した兜甲児のマジンガーZとの同時攻撃で真っ赤に焼けただれるグール。
 
「(女)あちちちちちちい・・・・・・よくもやったな・・・マジンガーども!」
「あしゅらさま。撤退しましょう!いまの奇襲で磁力光線もショックビームも使用不可能になったと機関部から報告が!」
「(男)・・・・くっ・・・・・この場はいったん退くがおぼえておれよ」
マジンガーが二体現れた、ということはロンド・ベル・・・・小癪なあの連中の戦艦が雲上高度にいるはずだ。お得意のミノフスキー粒子を散布しまくりの強烈な広範囲電波障害もそれを教えている。当然、他のスーパーロボットも控えていることだろう。武器も使えず勝てる相手ではない。ここは逃げるしかない。伊達に連中と何度も戦ってはいない。
 
 
「待て!逃げるか、あしゅら男爵!」
情け容赦なく追撃しようとする剣鉄也を兜甲児が制止した。
「それより鉄也さん、勇気あるあいつを助ける方が先だぜ!」
いい加減なところがあるが、剣鉄也よりは視野が広い兜甲児はいちおう優先順位というものが分かっている。「機体もそうとうやられてるみてえだ。さやかさんやジュンさんに看てもらわねえと・・・・オレはいったんアーガマに戻って二人を連れてくるよ」
 
「そうか。ではこっちは後かたづけをしておこう・・・・いくぜ!!」
 
指揮をとるあしゅら男爵がいなくなり、取り残された機械獣にはすでに戦意はなかっただろうが、まさに情け容赦血も涙もなく、ブレードで斬首しまくり殲滅するグレートマジンガー。さすがにグレートである。
 
 
いきなり現れて敵を一人で全部やっつけてくれる、というそのグレートぶりに、あっけにとられていたエヴァ初号機とベルゼイン・リヒカイト。一言で云えば、正義の味方・・・・であるのだろうが・・・・しょうがないから、その間に顎部装甲をはめ直したり。
 
「ほんとにいるとは・・・・思わなかったなあ」
軽く痛む左目をおさえながら、碇シンジが。
「・・・グレートですの・・・・・・」
マップ兵器「ヨミジ」で一気に片づけようとしていたのに、ちょっと残念そうな少女。
正義が実行されている光景をじっと見守るしかない。ちょっと口も手も出せそうにないし。
 
 

 
 
「大丈夫か?」
一段落して、生き残ったロボットのパイロットたちが直接、顔を合わせることに。
村は悲惨な有様で、お茶ひとつでないわけだが、それなりに穏やかな雰囲気。
戦闘が終われば空も都合良く、やれやれ終わったかとばかりに晴れていた。
 
エヴァ初号機パイロット、碇シンジ、
グレートマジンガーパイロット、剣鉄也、
ベルゼイン・リヒカイトの操縦者、青い髪の少女
 
微妙な組み合わせである。ファンタジー小説ならばいいが、あまりに属性が違いすぎる。
これを一枚の写真におさめたら、フラッシュ機能が故障しそうな組み合わせである。
 
「あ、あの、助けてくださってありがとうございました・・・僕は碇シンジといいます」
「礼には及ばないぜ。ミケーネ帝国はオレの宿敵だ・・・・だが、キミの戦いぶりはなかなか大したものだったようだな」
自分の名を告げる前にそんなことを言い出すのだから、剣鉄也の戦闘のプロぶりも筋金入りだった。
結局、自己紹介をしたのは碇シンジだけで、その前に状況の説明をすることになった。
 
 
「・・・・ふむ、なるほどな。・・・・・ということは、キミはオレたちと共に戦う仲間だということだな」
ロンド・ベルに参戦を申し込んだんですけど・・・・というあたりで剣鉄也は戦闘のプロらしい納得の仕方でうなづいた。まだ若いのにアゴが割れている。
とにかく、グレートマジンガーのパイロット、剣鉄也は碇シンジを気に入った。
その人格うんぬんはどうでもいい、ミケーネ帝国と一人で戦った、その一点において全ては決められる。でなければ、柔和そうなその外見はどう考えても剣鉄也の受け容れるものはなかった。ミケーネ帝国と戦いさえすればアヒルでも人参でも仲間と認めかねない割り切りの良さであった。さすがはグレート。
 
 
「で、ところでキミは、どうしたんだ。機体の調子が悪かったのか?」
剣鉄也が青い髪の少女にたずねる。
この面談の主導権を握っているのは云うまでもなく、剣鉄也であり、彼のモノの見方で話は進んでいく。戦闘のプロが見れば、機械獣を倒したのはエヴァ初号機一機であるのが分かる。移動するアーガマが機械獣の動きをキャッチしたので、先を急ぐので渋るブライト艦長をその先割れアゴでゴリゴリと説得して緊急出動してきたので、最後の十から、途中の五くらいまでしか状況は知れていない。とうぜん、碇シンジもこの少女のことは分からない。
巨大ロボットをもっていたことも驚きであった。(妖怪がねえ・・・・・)
この人、剣さんは真面目そうだから、ふざけたことを云うな!パンチ!とかいって怒られそうなので、自分の目でみたほんとのことは言っていない。名前も聞いてないし。
剣鉄也にしてみれば、この二人は(ロボットも同系統のデザインだし)組なのだと当然のように思っていたのだが。今まで面識もない三体のロボットが偶然出会うとは・・・・奇遇というかなんというか。運命的なものを感じるではないか。そんなことは普通ないぞ。
 
 
「わたしも・・・・・ねるふの、一員ですの」
 
 
青い髪の少女は剣鉄也を前にして大嘘をついた。碇シンジはぎょっと、した。
 
 
「でも、ふたりが会ったのははじめてですの。えう゛ぁの、最新型をてすとしていたら、敵にみつかってしまったですの。でも、新型だから、急にはうごかなかったですの・・・
だから、しんじさんには、とても苦労をかけてしまったのですの・・・・・」
 
「?そうなのか?・・・・・微妙に話の食い違いを感じるが・・・」
じろ、と威圧的な目で碇シンジを見る剣鉄也。無意識なのだろうが、かなり怖い。
 
「機密ですの、秘密ですの・・・・・あまりほかのひとに教えてしまうと、かえってごめいわくがかかりますの・・・・でも、つるぎさんは信用できると思いますの・・・」
とつとつと、少女の口で語らえると、信憑性がある。おまけに、”最新型”だの”テスト”だのいう単語は剣鉄也の脳みそに非常になじみやすかった。
 
 
「ねえ?・・・・・しんじさん」
 
ねえ?・・・・・・というのがどういう意味なのか・・・・・碇シンジは瞬時に判断せねばならなかった。