スーパーロボット七つ目大戦β
<継続・それは安寧、それは切望ルート>
「・・・名付けて、”第一話作戦”よ!これにはヒリュウ改の長期使用権がかかってます。みんな、がんばって!」
ブリーフィングの締めに葛城ミサトは確かに分かりやすすぎる作戦名を告げて、皆のやる気をスパイラル状に引き出した。ヒリュウ改の長期使用〜、は確かにその通りでいうことはないが、その作戦名はストライクゾーンど真ん中のつっこみどころであったが、できない。見送ることしかできなかった。小学生の純真なつばさでさえ、なんとなく云おうとしているところがわかるのだから、他のいい年の面子はいうまでもない。アル・アジフや大十字九朗などは顔を赤くしている。神名綾人もうつむいている。
あのなあ・・・・・・と葛城ミサトに云ってやりたいのだが、確かにそのとおりなのだ。
実に単純明瞭にこれからやることを表現しきっている。そのシンプル・イズ・ベストさに天才であるドクター・ウエストも感銘を受けていたくらいだ。
これからやるべきことは、極秘といいつつ、悪の軍団にはモロバレである軍の新兵器運搬の・・・・・・「奪還」である。護衛では、ない。いったん悪の軍団に襲撃されて奪われた新兵器を取り返して「あげる」のである。護衛は別にもともと軍の方で警護部隊がつくのであるから、横からしゃしゃりでてバイトなどすることはない。向こうにもプライドがあろうし官の仕事を奪うことはない。税金分働いてもらえばいいのだが、おそらく、悪の軍団には太刀打ちできずにやられてしまうだろう・・・・・・悲しいが、これって現実なのよね。
かといって、もともとの所有者でもなく訓練も受けていないそこらへんを歩いていた素人が奪われかけた新兵器に乗り込んでいきなり初陣、そしてかろうじて勝利・・・・・なんてことも”まず”ない。そんなことはあるわきゃありませんよ・・・・・・そのはずでしょう、皆さん。ロボットアニメの第一話じゃないんだから。落とし物は所有者に返さないといけませんよ。強盗はもちろん犯罪だし。・・・・と、まあ、葛城ミサトもこんな世知辛いことをわざわざ口に出したりしない。それはもう、お互い様というやつである。
我が身を振り返るとやりにくかったり、逆に肩に力が入りすぎたりするかもしれませんが、それはそれ、これはこれ、ロンド・ベルの代役たるドロン・ベルとして本領を発揮、というところでプロフェッショナルとしてがんばりましょう!、というあたりがスパイラル〜ロボットの絆〜である。この一戦が重要であることは間違いないのだから。
重要ではあるが、絶対に負けられない、とか、失敗できない、というわけでもない。
相手が予想外に強かったり、多すぎたり、とんでもないところから増援がやってきたりすれば、さっさと逃げてしまえばいいのだ。ぶっちゃけるが、どうせ自分たちの機体ではないのだ。調整もならしもしていないその新兵器の力を借りてどうこう、ということはいくら葛城ミサトが無茶でも考えないし、そんなデタラメは城田氏と紫東遙が許さない。
とにかく、奪還に成功すれば、軍に返還することで、大きな恩が売れる。
つばさやヒカル、DD、オルディナたちがいるのでそんな露骨なことは言わないが。
云う必要もないことだ。やること自体は間違いなく正義なのだから。悪の軍団が強大な力を手に入れれば苦労が大きくなり被害もでかくなる。それの予防措置なのだ。胸をはれ。
じゃあ?警護部隊のがんばりで、襲撃してきた悪軍団を返り討ちにした場合は?
それに、やられそうになるまで、手出しも応援もせずに、見ているだけなのか?
微妙な問題だが、葛城ミサトはその点、悩まない。そんな心配は要らないと。
なぜなら、警備部隊にそんな実力があれば悪党軍団はここまでのさばっていないからだ。
襲撃されれば面白いようにあっさりやられることだろう。警備の陣容は自分たちにすら知れている。悪党の手にも入っているだろう。それを上回る陣容でくるに決まっている。
下調べをしないようなずぼら系の悪党はだいたい、一応極秘であるこの運搬のこと自体掴んではおるまい。それに、今更、地球の新兵器などいらん、とする大勢力もあろうし。
裏をかえせば、新兵器が欲しい、奪いに来るということは、自分たちが絶対無敵だと誇り、それがあながち間違いでもないほどの巨大勢力はやってこない、ということで、自分たちドロン・ベルが手を出して大やけど、ということもなかろう、という計算もある。
あくまで計算は計算、予測にすぎないもので、いざ現場に立って見ればどう転がるか、分かったものではないが。どこの悪党軍団が来るか分からない以上、でたとこ勝負ではある。
どのくらいのリスクで、どれくらいのリターンか・・・・・
その見極めが葛城ミサトの仕事であり、首領がゴーサインを出した以上やる価値があり、実行、やるのだ。いつまでも、というわけにもいくまいが、当分、ヒリュウ改には自分たちの足になってもらわないと困る。いまさら別の艦に乗りたくもない。リターン分をなるたけ大きくするのがロジャー・スミスの仕事である。
新兵器に傷をつけないで奪還、というのが戦闘のリスクをあげることになろうが、その点はどうしても戦い慣れた者に現場指揮をとらせるほかない。そうなるとやはりデモンベインは欠かせない。柔軟にして縦横無尽に駆け抜けられるエヴァ四号機、渚カヲルの存在も。
「まあ、それくらいでないとやり甲斐がないわ、のう九朗よ」
「・・・・ん。ああ、そうだな、アル。厄介な仕事ではあるが・・・・燃えるぜ」
まだ新人も多いこのドロン・ベルでデリケートな条件をつけられて喜べるはずもないが、魔を断つ剣の二人は、堅くなりがちの場の雰囲気を斬った。
「やろうぜ、皆。まあ、確かにいかにも”第一話”のはじまりって状況だけど、こうも山の中じゃ歩いてるのは山菜狩りのじいさんくらいなもんだろう・・・・・って、すいません」
意気をあげるつもりで云うたのだが、途中で金田正太翁の存在に気づいて謝る大十字九朗。
使用機体の差は天と地ほどとはいえ、やはり大先輩に失礼だったか・・・となんとなく気まずくなりかける室内を
「いやいや、気になされんでくださいよ。確かに、こう山も深ければ地域の住民の皆様にご迷惑をかけることもない、いいことです」
ビルの街で夜のハイウェイでガオガオ戦ってきた老人は鷹揚に云い、ほっと、ほぐした。
「ね、年齢で云えば妾の方が上なのだが・・・・・・・まあ、そういうことだな」
人間の老人はいつも頑固で怒りっぽいものだが・・・フォローに入ろうとしたアル・アジフが正太翁の物わかりの良さに少し肩すかしをくったように目をぱちぱちさせている。
今も戦う意志があるから、別にこんなところでガミガミする必要がないのだろう。
それとも、すっかり気迫が失せてただの好々爺になり、戦士の魂を忘れてしまったのか。
かといってガミガミじいさん、カミナリじいさんがいいっちゅうわけでもないが・・
正太翁の参戦は葛城ミサトの一存で決めたことで、いまひとつパイロット達は戸惑うが
その力、伝説の実力のほどを、この作戦で知ることになるだろうか・・・
「あのー、ところで!」赤木俊介が手をあげた。葛城ミサトに質問である。皆の注目もそちらに集まる。
「一つ、聞いてもいいでしょうか?」
「どうぞ、赤木君・・・・・って、ちょっと変な感じだけど。いや、こっちの話、どうぞ」第三新東京市にいる、今の自分を見たらなんと称してくださるか怖い感じの金髪の親友を思い返して葛城ミサト。
「なかなか説明にでてこないと思ったら、なんかそのまま終わっちゃったもんですから、聞いといた方がいいかと思ったんでおたずねします!」
作戦説明の不備の指摘を赤木がやるとは・・・・・・皆、意外の顔をして彼を見る。青山圭一郎と桃井いぶきなど目を丸くしている。
「あら、何か伝え忘れていたかしら」新人女教師のようなしなをつくる葛城ミサト。
「いやー、まー、なんつうか・・・・・・気になって気になって任務に集中できないくらい気になることです。」なぜか、男子学生のように赤くなる赤木。若い。
「それは?」それが面白いのか、赤木の目をのぞき込みながら歩き出す葛城ミサト。
「それは・・・・ですね。って、なんで近づいてくるんすか?!」
スクリーンから自分の目の前までやってきた女首領にびびる赤木。
「なんだか・・・赤木君が”危険なこと”を聞いてきそうだから・・・・・」
と、そっちのほうがなんか危ない色気など振りかけられた日にはたまったものでは
「き、危険なことっってそんな!その!オレはべつに!こんな真面目で真剣な席にでですね、そんなふざけたことを云うようなオレじゃあ!!ああっ!なんで青山、いぶきさん、これみよがしに席を離すんだよ!!信用ないのかよ!!」
わめく赤木俊介に耳元でそっと囁く。
「とりあえず、他の子には聞かれないように、先生にだけ、・・・教えて」
しょうがないから、こっちも小声で話す赤木俊介。
「いったいどうしたんですか、葛城さん・・・先生ってなんですか・・・・城田さんたちもよくだまってやがるな・・・・・・で、聞きたいことは別にふつうですよ。なんで他の皆が聞かないのが不思議なくらいなんすけど・・・・聞き逃したわけでもないですし・・・・・・」
「・・・・・・まさか、”新兵器はなんなのか?”なんて、聞いたりしないわよね?」
先ほどとはうってかわってドスの利いた声が囁かれて、縮み上がる赤木俊介。
「え・・・・、その通りっすけど・・・・モロ任務に関係あるし、気になりますよ」
縮あがりつつも、云うことは云う。べつに変なことは聞いていない。断じて。
「・・・・あ〜、ダイ・ガードチームとかはいいんだけどね・・・・もともと、ダイ・ガードは会社の所有物だしそこの社員である君たちは正式な使用者でもあるわけだから・・・・・・」葛城ミサトのささやき声がいつもの調子に戻る。
「そうでない人たちもいるわけよ・・・・この中に。誰と誰とはいわないけど。それに、新兵器が何か分かっちゃったら最後、乗りたくなってしょうがないのがパイロットってもんでしょ?まるで三日飼った迷子犬に飼い主が見つかったとしても離れがたい気持ちになるように!」
「はあ?!・・・いや〜、それはないんじゃないっすか・・・・・?」
「それなら、最初から新兵器が何か分からない方がいいってものよ。情が断ちづらくなるわ。なんとしても欲しくなって持ち主に返したくなくなるじゃないの」
ホントかよ・・・・赤木俊介は内心でつっこんだが、葛城ミサトの声と目はマジだ。
だから、新兵器が何か説明もしなかったし、他の皆も説明を求めなかったのか・・・・。
それにしても、子供がおもちゃを手に入れたんじゃないんだから・・・・・・・
ふと、エヴァチームの方を見る。”それ、ないない”と三人を代表して惣流アスカが手のひらを振る。・・・・・・と、なると、本人、か・・・・・・?欲しくてたまらないのは。
それをがまんしとるのは・・・・・・城田さんと紫東さんを見ると・・・・”こっくり”二人とも頷く。そういうわけだ、赤木、と。城田氏のアイコンタクト。
うーん、本当に大丈夫かこの人・・・・・悩む赤木俊介と
「それじゃ、赤木君への秘密のはちみつ授業は終わりにして・・・」悩ましいだけで悩まない葛城ミサトが離れた時、バビルの塔の頭脳・ウルミルダルからの緊急警報が届けられる。それは・・・・
なんと、本家バベルの塔がDDたちの追っている宇宙の極悪生物マギュアに侵入されたというとんでもない知らせであり、90%以上でヨミの改良が加えられた生物兵器マギュアにはバビルの塔の迎撃兵器も今ひとつ勝手が違うために大いにてこずっているらしく、主であるバビル2世に緊急で戻ってくるように要請があったというのだ。滅多なことではそんな弱音を吐かないバビルの塔のコンピューターがそこまでするからには相当にやばい状況なのであろう。それを聞き、その場にいる者たち全ての顔色が変わる。
葛城ミサトをのぞいて。
バビル2世でさえ(自分の城のことであるし)冷や汗を流しているというのに。
「そいじゃ、バビル2世、ヒリュウ改で行ってください。つばさちゃんたちもホシが現れたからにはいかないとね。それから・・・・つらいとこだけど、九朗君とアルちゃんも行って。塔内での戦闘となれば、二人がサポートしてくれるのとそうでないんじゃ全然違ってくるでしょうから。・・・渚君、あなたも。今後に備えてヨミさんのやり口をじっくり見といて。第一話作戦は残った面子でどうにかするから。あ、ドクターとエルザも・・・・こっちに残ってくださいね。やってもらいたいことあるから」
ぱっ、ぱっ、ぱとパーマン音頭のごとく戦力を割り振ってしまう。しかもデモベ、エヴァ四号機の二大頼りをバベルの塔行きにするとは・・・・口にはしないものの皆、「これは・・・」ちょっと偏りじゃないかと思った。今の今までその口で話していた作戦から大幅に軸になる機体を外すとは・・・・ゆえに、あえてバビル2世が、そこまでしていただくなくとも・・・と言いかけ先制される。
「さっさと行く!!」
葛城ミサトの一喝。それで綺麗に命じられた通りに戦力が分かれて動き出す。
これが首領の貫禄である。赤木相手に遊んだりもするが、これが首領というものだ。
ヒリュウ改組は飛びだってから「とはいえ・・・・ほんとに大丈夫かいな」と首をかしげ心配する。もとはといえば、ヒリュウ改のための今作戦であるのに、ヒリュウ改を別件で使うとは・・・・・お前んとこの大将は頭が悪い、バカじゃないか?でべそだと云われてもしょうがないところだ。
「言われたら・・・そいつをぶん殴るけどな」大十字九朗が鉛を飲み込んだようなバビル2世に笑いかける。バベルの塔が心配なこともあろうが、百戦錬磨のこの少年はいつも単独で戦い続けて、このような助力の経験がないのでどんな顔をしていいのか、分からないのだろう。
「うつけとは言わぬが・・・・利口でもない。残りの者どもでうまくいくか?」この判断が正しいのか、最強の魔道書にも分からない。「おまけにウエスト達は残して何をやらせるつもりなのか・・・・・心配じゃ」そのため、そんなことも言ってしまう。
「勝算がなく、こんなことをする人じゃありませんよ。ネルフの作戦部長はそれほど甘くはありません」渚カヲルが笑みのまま言い添えた。
「それより、こっちの方が大変かもしれないわ。・・・・・・後悔してない?」いささか挑発的にオルディナが。マギュアの専門家だけに後手にまわっている現在状況を危惧しているのだろう。意識を切り替えさせないと大怪我につながる。そうは言うてもクール美人がそれやるとかえって角がたったりするので「マギュアは獰猛で、地球の環境に適応し本来のものより遙かに強力になっている・・・こちらも万全の協力態勢で油断なくいかねば苦しいかも知れん・・・・」DDが真面目にフォローにいく。潜入では一度チームを組んでいるが、マギュア退治も込みとなると・・・・・確かに集中してかからねば。
「バベルの塔内部のレクチャーも受けておかねばな・・・本家ともなればまた勝手が違うのだろうし」
「ええ、そうですね。あちらの方がサイズが大きく、侵入者を排除する仕掛けなども・・・・」
宇宙人に請われて実務レベルの話をしはじめると、表情の迷いは消えていつものバビル2世に戻る。もう艦が飛び立ったのに同行について迷われてもしょうがない、と読まなくても彼らの心が分かる。ヨミの予想より早い手出しに頭に血が昇りかけていたが・・・・冷静になれた。