スーパーロボット七つ目大戦β
<最終・それは安寧、それは切望ルート>
「いかねえと・・・・・・オレなんかでもいないよりは・・・・」
ミーゼフォンに修理してもらい、葛城ミサトにはもう回収するまで休んでおけとは言われたがそれでもヨタヨタと逃走する敵にむけて追いすがる、百式に一本足りない九十九式、アラド・バランガである。
あまり良くない状況である。ヒリュウ改とデモンベイン、エヴァ四号機といった主軸を欠いたドロン・ベルは一軍としての戦闘経験がやはり足りないのか、あしゅら男爵率いる新兵器強奪部隊を包囲しきることも足を止めることも出来ず逃走を許しかけた。作戦直前の突発事件で大幅に戦力が減ったことを考慮すると、奮戦の部類に入ろうが作戦目的を達することができない、できなかった、というのはパイロット達の自身を打ち砕く。それに、
新兵器を悪の敵に渡す、というのはなんとも非常に気分が悪い。逆王道やんけと思う。
なんとなく、悔しい以上に悲しくなってくるのだ。帝王ささきいさおの真っ赤なスカーフを熱唱されたように切なくなってくるのだ。
そして乱戦の末、こちらの最後の封鎖ラインが、あの鉄人ときている。
もともと、伏兵という名目で待機させていた戦力で、その実力はまったくあてにならない。自分のような新人パイロットがいうのもなんだが・・・・・・ありゃあだめだろう。
奇声を上げる変な博士とちょっとかわいいがかなり暴力的でもあるロボットが同行しているあたりもなんかさらにだめだめっぽい。いや、自分のような新人パイロットがいうのは確かになんなんだが!
いかねばなるまい。
自分のような未熟者でも、百式に一本足りない九十九式でも、まだあれよりはいい。
ミーゼフォンによる修理は全快ではない、自分で動けるほどの半快ほど。自分にかける時間があるなら他の人たちを直してもらった方がいい・・・・・というか、ミーゼフォン自体もけっこう傷まみれでせっかくの女体・・いやさ!女神様のボディーがだいなしだ。
ああ、リペアキットがあれば渡して使ってもらうのに。いかんせん、小所帯のドロン・ベルではその手のパーツ類も揃えが悪い。その点、ティターンズは・・・・まあ、それはいうまい。とにかく、今は駆けるときだ。若い自分が軽い怪我で生き延びて年寄りががんばって死にましたってんじゃあまりに悲しすぎる・・・・。
そうやって必死に走るアラドの額からは本人も気づかぬうちに、つーと血がひとすじ。
逃げようともせずに機械獣に立ち塞がる鉄人28号の救援に他の先行している機体も大急ぎに急いでいるらしいが敵もさるもので一番頼りになりそうなビッグオーが足下を狙われて手間取っている。ダイ・ガードもダメージが大きくあまり無理な走りはできない。
エヴァはやはり電力問題がネックになる。バッテリー交換で時間を食った。
こうなると空飛んで直線コースでいけるラーゼフォンが一番早いが、敵もそれは分かっている。パイロットは神名綾人これまた新人で、一対一ならまだしも、地上から妨害のためのフォーメーション波状攻撃などやられるとカトンボのごとく攻撃を受けて弱し。
あしゅら男爵はすでに逃げてしまっているから、機械獣たちに指揮効果はないわけだが、それでもドロン・ベルもまあ、似たようなものであった。現場で指揮をとれるデモベと四号機とバビル2世がいないのだからさもありなんだが・・・・・
「今後の課題がたくさん見つかったわねえ・・・・・」
「・・・・・なんだか、嬉しそうねえミサト」
どうもバラバラな手下連中を見て血管浮かすこともなく、声が浮いている指揮官を意外に思って紫東遙が声をかける。こちらは神名綾人がボコボコにやられてハラハラし通しなのだ。ちなみに、他に人がいなければこの二人、タメ口をきく。
「嬉しいわけないじゃないの・・・演技よ演技、ガラスの仮面ですよ」
だが、演技とはいえこのような軽口をのんきに叩いていられるのは、ほぼ大勢が決したからだ。というか、作戦的にはほぼ狙い通りであるのだが。十全な勝機もないのに危ない橋など渡れるか。パイロット達は突然の戦力減に対応するのに手一杯であまり覚えていなかったが、事前に確かに言われていたのだ。テーマは”スピード・あんど・すみずみ”だと。それが一体どういう意味であったのか、それを知るのは、アラドの目を借りるのがこの場合、分かりやすい。足止めの機械獣の相手をしなくて良かった分、彼が一番早く、そこへ着いてしまったのだ。ちなみに、ラーゼフォンは一歩手前で再びクリティカルを喰らって墜落してまたもミーゼと美島怜香の世話になっていた。
で、鉄人封鎖ライン・・・・・・・そこで、アラドが見たものとは・・・・・
紙芝居であればここでヒキとするのだが、そこらへんがおまけの強みであり、まだ続く。
パーツの山
であった。タイあたりのお金が山になっているのではない、パーツである。戦闘機械の部品である。それが、綺麗な山とそろえられて、今、九十九式の目の前にある。
その隣に、新兵器のコンテナを担いだ鉄人、そして頂上にはサイドカー付きバイクが。
「え・・・・・・・・・・・?」
アラドの目が丸くなる。敵がいない。どこにいったのか、敵がいない。逃げたのか?いや、じゃああの鉄人が担いでいるコンテナは?まさか、置いていったわけじゃないだろう、倒して奪ったのだろうが・・・・・・・・それにしては・・・・・敵の残骸が、ない。
代わりにあるのが、このパーツの山。
「その機体の傷でよくもここまで駆け抜けてきたものですかな。いやはや、日本男児、いやさ宇宙男児ここにあり!、といったところですな。小生達もなんとか敵を片付け、新兵器を取り返したところですぞ」
はっはっは、と金田正太翁はおおらかに笑った。ドクター・ウエストもエルザも笑っているが、アラドは笑えない。それどころか、震えが来た。恐怖に近いが、それは畏怖。
パーツの山、それは間違いなく、機械獣たちのなれの果て。
ヤザン隊長から聞いたことがある。GCCとかいう相手を倒すのみならず、パーツへと分解してしまう特殊な戦闘技法があることを。「え?それってCQC、クローズクォーターコンバットのことじゃないんすか?」と尋ねたら下半身をモゾモゾやられて「ウム、縮こまってはおらんな」とか言われてそれっきりになったが・・・・・ほんとにあったのか。
しかも、どこをどうすりゃこういうことができるのか、あの恐ろしげな機械獣たちが、リッチなティターンズで見慣れたパーツ、リペアキットやプロペラトタンク、カートリッジ、チョバムアーマー、バイオセンサーなどになってしまっている・・・・
それにしても・・・・
敵を強化パーツにしてしまうなど・・・・・・確かに、味方につければこれほど頼もしい者はいない。もちろん、敵も黙ってパーツにされるわけではないから、その攻撃を避けながら・・・鉄人にはかすり傷ひとつついていない・・・・それを成したわけであるから・・・・・・
「この人のレベルって・・・・どんくらいなんだよ・・・・・」
まさに至高の領域。究極のパイロットかもしれない。いやでも、パイロットって反射神経とか大事だし、車の免許も定年制が導入されかけている昨今だし、こんな年寄りで腕利きっていいのかよ?これはティターンズのエースでも赤ん坊扱いだろう・・・
「ちなみにレベルは99で、ヒマにあかせて・・・って失礼、隠居後の趣味として勉強されていた使用可能な精神コマンドは・・・全種類・・・・”復活”とか、レアものも含めて、ね」
独り言でおののくアラドに葛城ミサトから、千尋の谷へ突き落とすような説明が。
「基本技能は<社長>の上位スキル、<会長>で、倒した相手から普段の三倍の資金がゲットできるわ。・・・・まー、そんなわけで、たくさんお金を持っているような相手は、正太翁に倒してもらいたい、わけなのよ・・・・・お金って大事だしね」
それを紫東遙が谷縁に油を流すがごとくの追加説明。これはなかなか這い上がってこれないかもしれない。その通信を聞いているその他のパイロットも、「うげ」 という顔をしている。あらかた足止めの敵を倒し、よし待っていろ、という時にこれである。
確かに、こんな人材がいれば、デモベも四号機もヒリュウ改も出すわけだ。
それは安寧、それは切望
資金もパーツも稼いでくれる、この年老いた味方は、まさしく、それだった。
たとえ機体が最弱であろうとも、葛城ミサトが即決で入れるわけである。
ちなみに、もともと少年探偵であった金田正太郎翁が財を成したのはまさしく、このおかげであり、鉄人とともに世界中をリサイクルしまくっていつの間にか財産ができあがっていたのであった。通常の財務手段ではいまひとつ読み切れなかった金田の資金力の謎もこれ。
「いやー、人生とは金利との戦いだって浅田次郎先生のお父様もいっておられたし」
「かけ算じゃないとお金はたまらない、とも」
葛城ミサトも紫東遙もそういって笑っているのだが、パイロット達はもちろん面白くない。
それならそうと先に言ってくれれば・・・・・こうも慌てて無様をさらさなくてすんだのに・・・と思ったが、それは言い訳であるのも分かっている。ゆえに、さらに面白くない。
額から血を流しながら駆けたアラドなど道化ではないか。確かに、休め、とは言われたが。
「ああ・・・・・・・・・・」
気合いがぬけて、しおしおになっていくアラド。
だが。
ぐわし、と。
コンテナを下ろして、こっちにやってきた鉄人に頭をなでられ、「さあ、まだ敵は残ってますぞ。ここで取り逃がせばそれだけ泣く者も増える。ここでパーツに変えてやればこの者達も正義のために戦える。ある時は悪魔のパーツ、あるときは正義の部品、いいも悪いも人間次第、さあ、ゆきますぞ!アラド君!」
「はい!!」
正太翁にこう誘われると一挙に血が燃えるのが若いところである。落ち込んだを谷ひとっ飛び。空を飛ぶ鉄人28号と戦場を縦横無尽に駆けるハンティングホラー。こうして新兵器を取り返されてそれをさらに取り戻そうと躍起になる機械獣を、返り討ち。それを追うビッグオーやエヴァとの挟み撃ちであるから、たやすかった。そして・・・・
もうひとつパーツの山ができた。
「・・・うわー・・・・・・」なんかもう、任務成功に喜ぶよりも言葉がない。
その山を見ながらぼーっと惣流アスカが呆れとも感心ともつかぬため息をつく。
そして、インターミッションでは戦闘で得たパーツを博士に渡すことで新たな強化パーツやロボットが造ってもらえるβ搭載の新システム、”博士システム”の発動となるのだが、あいにくドロン・ベルにはいまのところ”博士”は1人しかいない。ドクター・ウエストである。
選択の余地もない。
「今回の戦闘で得たパーツは全て我が輩が使う!なに心配はご無用!我が輩に預けさえしておけばちょいちょいの一週間ほどでデモンベインも足下にも及ばぬ最強ロボを造り上げてごらんにいれ・・・・・・」
というところで皆にフクロにされるのはいつものこととして。
新兵器はもちろん、猫ばばすることなく、正当な持ち主に返還した。
面子が保てて泣いて喜ぶ・・・ようなことはなかったが、相当にアピール度は高かった。