スーパーロボット七つ目大戦β
 
 
<まもりたいものはありますかルート>
 
 

 
 
 
「バベルの塔は・・・・」
 
 
バビル2世がこれから向かう己の本宅であるところのバベルの塔について語る。
もちろん、砂漠のど真ん中での暮らし方などではなく、そこに資格もなく侵入しようとした者たちがどのような目にあわされるか、塔の防御システムについての話だ。
 
 
まずは人工砂嵐。これがあるため、五千年のあいだ、塔は所在を明らかにされなかった。
バベルの塔の元気な証拠。
 
 
ウサギ型のモルモットロボット、砂漠を60キロ以上の速度で走行し塔の周辺に降下した者にちょっかいを出して様子をさぐる。
 
 
記憶喪失用電撃、バベルの塔の発する特殊電波を受信しバビルの後継者の素質はあるが資格に足りぬ招かれ者を記憶喪失にさせ塔の位置や能力を忘却させる。
 
 
通路のあちこちに仕掛けてある死角が少ない可動首のレーザー光線銃。その殺傷力は人間など一撃。塔の壁にもあり、外敵にくらわす。ちなみにその命中率はコンピューターいわく「計算に狂いはなく、正確に命中させます」、100%。いうだけのことはあり、飛行するV号の爆弾投下口に集束させて命中させるほど。担当はFコンピューター。
 
 
電光の点滅による人間や動物を催眠状態にする装置。その催眠力は凄まじく、映像ごしに見たとしても影響をうけるほど。ただ眠るだけでは済まさずデタラメな行動をとらせて的組織を内部崩壊に陥れる。特に、外部に向けてのナイター照明にも似たライトの林は三0(サンマル)装置と呼ばれて航空機等に効果を発揮する。
 
 
落とし穴。バビル2世の寝所にも仕掛けてあり、さまざまな苦境を越え刺客がやれやれやっとか、と感無量になって仕事を完遂しようとする間合いを見計らって作動する。
 
 
強磁力発生装置。襲撃者の銃やナイフを無理矢理とりあげてしまう。レーザー光線などが使えない設備が密集している部屋などに設置されている。殺してしまうだけが能ではない。
 
 
ホワイトミサイル。着弾すると砂をコンクリートのように固めてしまう、二段構えの効果をもったミサイル。少々ねらいがはずれようと相手は足止めくらうわけである。黒塗りのふつうのミサイルも当然ある。
 
 
通路遮断・石壁で押しつぶすコンボ装置。単純だが効果的、罠の見本のような仕掛けである。レーザー光線にも耐えられるビールス人間にもこれにはひとたまりもない。別パターンで通路を強化ガラスで遮断し捕らえた人間を細菌漬けにして腐らせて殺す、というえげつないものもある。天上が落ちてくる、という古典パターンもあり、走り抜けるとその先に落とし穴、というこれまたお約束な結末が待っている。
 
 
エトセトラ
エトセトラ・・・・・
 
 
「それはまるで血管の中に異質物がはいったとき、白血球がそれをふせぐように」
 
 
手抜かりなどあるはずもない、考えに考え抜かれて、塔の防御システムは侵入者を阻んできた。確かにこの塔の設備さえ手にいれてしまえば、たとえそれが五千年前の宇宙人の遺産であっても、その者こそがこの星の主であろうことを思えば、それくらい厳重にしてもらっていた方がいいだろう。まさに人道的にも納得のシステムであるが・・・・・
 
 
これから、そこにいく者たち・・・大十字九朗、アル・アジフ、つばさ、ヒカル、DD、オルディナ、渚カヲル・・・にしてみれば。あまり楽しい話ではない。
もちろん、バベルの塔の主、バビル2世と同行しているわけであるから、敵などでは、侵入者などではない、主に招かれた客人としての扱いを期待してもいい・・・・のだが、状況がそもそもまともではない。マギュアなどに侵入されどういうことに現状が転がっているのか分からない、ときている。それら防御システムが乗っ取られて自分たちに牙をむかない保証など、ないのだ。逆に言えば、それだけのシステムをもつ塔が、自分の力では及ばないから、というので主を呼んでいるのだ。これを安楽に受け入れられる者はない。
 
 
小学生のつばさ、ヒカルはいうまでもなく、百戦錬磨のデモベのふたり、渚カヲルでさえ「それはそれは・・・」「これはこれは・・・」な顔をしていた。DDとオルディナは「ともかく参考になった」という感じで顔を見合わせ、マッピングを終了させた。
 
 
「今の話からすると、ここから入るのがいいみたいね」
物事は最悪を想定して進めるべき、というオルディナはバビルの塔がマギュアにすでに乗っ取られた、という状況で侵入経路を決めた。もちろんバビル2世がいるのだ。正門からはいって「今、かえったぞ」とでもいえば開けてもらえるはず・・・・だが。
 
 
塔の正門より西に200メートル、二段目の割れ目・・・・
 
 
塔の勝手口ともいうべき、あれだけぬかりのないコンピューターが何度入り込まれても修理しようとしない、割れ目。そこからメインコンピューターの鎮座するバベルの塔の司令室ともいえるコンピュータールームにいける。マギュアの駆逐は当然のことだが、まずは救援信号を出して以来、バビル2世の問いかけにも応じないメインコンピューターになんとか会う必要がある。中枢がやられたのとそうではないのとは動き方が全く異なってくる。
 
 
「ご主人様・・・・」心配げにバビル2世に声をかけるのは眼鏡のメイド・・・などではなく、黒豹、三つのしもべのひとつ、ロデムである。ポセイドンは泳いでいたらとても間に合わないのでヒリュウ改の格納庫に、ロプロスはヒリュウ改を先行している。出来ればロプロスの首にまたがり、一秒でも早く塔に戻りたかった。しもべたちとはまた違う、コンピューター、機械とはいえバビル2世にとって無二の軍師であり、劉備元徳と諸葛孔明のような間柄であった。ここでバビルの塔のウルミルダルを出してくるのは野暮というもの。長い戦いをともに切り抜けてきた、涙も汗も血も流さないが、忠告者であり激励者であり・・・まもりまもられ・・敵と戦ってきた・・・・それを失うのは・・・耐え難かった。
 
 
「・・・巻き込まれるのを恐れたのかな・・・・ヨミさんの部下は塔の周辺には待機していないようだね。改造マギュアを投下して、そのまま基地にもどったみたいだ。それほど自信があるのか・・・」
渚カヲルが艦橋のショーン副長からの偵察結果を聞いて皆に伝える。
 
 
「コントロールしきれていない可能性も高いな。なにせマギュアはもとが極悪生物であるうえに地球の環境にどう適応したのかより獰猛に強力になったうえに・・・改造などと」
その変異マギュアにコテンパにやられたのがつばさを巻き込んだ発端であるから表情を厳しくしてDD。ただ、コントロールしきれていなら基地からここまで運べていないだろう。
・・・相手の情報が分からない、というのは肉体で戦う者にとっては肌にピリピリくる恐怖だ。どれほどの力をもっているのか・・・
 
 
「侵入工作用に小型化、もしくは知能付与、の方面でしょうね。戦闘力を大幅にあげて外壁から壊していくタイプならかえって与しやすいわ・・・このメンバーなら」
 
DDのあとを続けるオルディナ。腹の底では、増殖化の可能性が強い、という考えを残す。
さほどに力が強くないが、その生物的特性を生かして爆発的に増殖したマギュアが塔の内部を埋め尽くし塗り替えて塔をひとつのコロニーにしてしまう・・・地球人の地球を征服したい、とかいう我欲はいまひとつ理解しがたいが、テクノロジーはけっこうなものを持っているうえに禁忌がない。欲望のまま、どんな方向にもマギュアを誘導していくだろう。
だが、口には出さない。同僚でもお人好しのDDにさえ言わない。ましてや、この短い関係の彼らにこんなことを言えばただでさえ未熟なチームワークがさらに乱れるだろう。
未熟というか若さというか・・・・・なんか、自分が一番年寄りなんじゃない?このチーム。さらなる最悪、などには耐えられまい。沈黙は宇宙共通の知恵なり。
 
 
「ところで、そのマギュアという輩の詳しい話も聞かせてくれぬか」
えらそうにアル・アジフ。ちなみに、相手はつばさとヒカル。宇宙生物という地球外のルールに従って生きているであろう相手を「魔」と断じてしまってよいのか、考えるところでもあったのか。
 
「え?あ、はい。ま、まぎゅあは・・・・あの、グネグネして大きくて速くて力がつよくて・・・こわくて・・」
「あ、写真があったっけ。これ見てもらった方が早いよ。一口にマギュアっていっても形はみんな違うんだから」
つばさとヒカルにこれまで戦ったマギュアの写真を見せてもらい、「うお!グロ!なんつーかいかにも宇宙生物って感じだぜ!ティベリウスも真っ青だ。こんなのと戦ってきたのかよ・・・・勇気あるなあ・・・なあ、アル」
「・・・・うむ」
大十字九朗に同意を求められて、満足げに頷くアル・アジフ。それから、ちら、とオルディナの方に横目で
 
 
「基本的に対人用である防御システムがマギュアに有効か、かなり疑問ありだわ・・・。いっそ、塔に入る前に爆撃でもした方がよさそうね・・・・・という顔じゃな」
 
オルディナの声まねをして、にやりと笑いかける。幼女でありながらその獰猛さは。
バビル2世がはっと顔をあげて、アル・アジフとオルディナ、両者の顔を見る。
 
「まだ到着には時間があろう。腹蔵なく語り尽くした方がなにがあろうが悔いも少ない。
だが、妾たちは塔を守り通すぞ。そのために向かうのだからな。マギュアとの戦いもこれで終わりではない。始まりだ。そのような目先のことで思い詰めておると弱くなるぞ、汝」
 
そのエメラルドの瞳は遙か彼方よりやってきた異人の心も見通している。伊達に最強の魔導書などと呼ばれていない。こと戦いに関するならアル・アジフは古老以上に練れている。
 
 
「守ることは狩るより難しい・・・とはいわぬ。遠方よりの苦労があるのだからな。だが、マギュアの狩人よ、ここで我らの心、束ねておかねば何事も成せぬであろうよ。如何」
 
重なる共通の目的がありながら、それを果たす直前で分かれ双方瓦解してきた例をいくらでも見てきた。協力するのは難しい。契約したとしてもそれが守られるとは限られぬのだから口先だけの約定など、なにかあれば豚の藁小屋のごとく一吹きだろう。それがイヤだというのなら、それはそれでしょうがない。最初から明らかになっていた方がやりやすい。
 
 
 
「時には、苦いことをいう者が必要となる・・・・・わけですな」
艦橋でちせの運んでくれたコーヒーを飲みながらショーン副長がつぶやく。
 
「は、はあ・・・」
いつもふざけた「砲撃を命中させたひとには艦長の秘密をおしえてあげます」とかセクハラ直前なことしかいわないこの白髪おさげ副長が渋い顔でよくわからんことをいうのでちせもなんとなくうなづくしかない。ちなみにエプロン姿。バビルの塔で留守番をしているはずの非戦闘員のはずのちせがスクランブルのヒリュウ改の中にいるのは、コーヒー豆を届けにいく途中でヒリュウ改が飛び立ってしまったからである。一応、保護者であるロジャー・スミスはかなり心配したがまさか戻るわけにもいかなかった。”あまり長時間彼女から目を離さないように”というのが首脳部の”彼女”に関しての暗黙の了解であったのでこのような雑用をしてもらったり。趣味にしかみえないが。
 
 
「さて、そろそろ到着ですな」
「そうですね。まさか、伝説のバベルの塔にいけるなんて・・・・」
小樽でくすぶっていたのとは段違いの飛躍状態であり、少し感激のレフィーナ艦長。
まあ、その塔はそれどころじゃないのだが。副長の言う、そろそろ、の意味とは違う。
宇宙人達が直前で、自分たちは単独行動をとる、とか言い出すかもしれない、恐怖の混じったそろそろ、である。陰性の思考だが、プロの行動とはえてして陰性である。
 
 
が、
 
 
「一応、わたしたちは・・・この星で言う、警察官のような職にある者だから」
オルディナはアル・アジフの目をみて答える。
「まもりたいものがある、というのは理解できるわ。十分に、ね」
 
 
問題は、なかったようだ。