スーパーロボット七つ目大戦β
 
 
<秩序に従属する戦略的多目的制御体系ルート>
 
 

 
 
「KOS-MOSーーーーーーーーー!!」
 
 
その命かかった切実な叫びに応じてやってきたのは当のKOS-MOSではなく、いよいよ追いついてきたマギュアであった。
 
 
「うわ、なんでやねん!!」
おもわず、じゃりん子のように叫んだヒカルであるが、もちろんマギュアは答えない。
 
 
その邪悪な姿はいってみれば巨大な球根イカといったところであり、擬人化はまず無理そうであった。かわいげなど微塵も。意思の疎通はまあ無理そうな感じであり、極悪宇宙生物の枕詞がつくことだけのことはある。見えないインクで表面に「絶体絶命」と大書きされているようでもある。
 
 
たとえ戦闘力を失ってはいても、場数をくぐっているだけあって大十字九朗もヒカルもこうやって対峙しただけで戦闘レベルの違いがわかる。こりゃどうあがいても勝てないぞ、と。これだけ力に差があれば逃げるしか方法はなく、今こうして逃げ場もなく追い込められてしまったならばもう打つ手はない。大十字九朗はアル・アジフを、ヒカルはつばさを欠いている現状、どうにもならぬ。ロデムが多少がんばっても時間稼ぎもできまい。
 
 
「このタイプ・・・・・・DDも返り討ちにあったくらいだから・・・・」
生半可な助っ人ではどうにもなるまいし、このピンチにDDだけが駆けつけてくれたとしても怪我人が増えるだけ、という追いつめられぶりにさすがに冷や汗のヒカル。
 
 
「・・・あの触手だ。ヘタにかわせるなんて思わないことだ。人間の反射神経でどうにかなるスピードじゃねえ・・・・・お嬢ちゃんは伏せてな」
一度半殺しにされてるだけあってよく分かっているロビンソンが自分は壁になるようにヒカルの前に立つ。ほんとにこの年頃の娘がいるのかもしれない。せめて先立たせたくはないのだろう。少女があのパワー触手に叩きつぶされるところなど見たくはないだけかもしれない。もはや逃げても逃げ切れぬ。自分たちはまあ、罰があたったというか、自業自得というかちょっと恨みますよヨミ様、てなもんだが。こんな娘がこんな宇宙生物にやられるところだけはどうにも見たくはなかった。ロビンソンの名を継ぐだけに。
 
 
じりじり・・・・・じりじり・・・・・・
 
 
ここまではかなりの速度で一生懸命追ってきたであろうに獲物を前にして楽しむつもりなのか、なかなか襲いかかってこないマギュア。もうとっくに長い触手で一方的にぶちのめし放題の攻撃レンジにはいっているというのに。
 
 
「くそ・・・・・・なぶるつもりか・・・・・・この怪物野郎・・・!」
傷一つつけられぬことはわかっている己の武器を構えながら人類の勇気を見せるべく気を張るロビンソン2世。だが
 
 
「待たせるタイプなのかな、KOS-MOSさんは・・・それとも低血圧気味とか・・・なあ、ロデム君」
「さて・・・・起きてもらったことがありませんので。しかし、ポセイドンが想うくらいなので真面目な方であることを期待していますが」
 
悲壮な覚悟を決めているロビンソンがぎょっとするほど緊張感のない会話がすぐ目の前で。
 
 
「そういえば、さっき大声で呼んだのがまずかったのかな?寝起きに知らない人間の大声で起こされるのもあまり気分のいいもんじゃないよなー・・・・・反省だ」
「出来ればその役はポセイドンにあてたかったのですが、この非常時ですから。
・・・大声で彼女を呼んだのも、この場に限っては正解でしょう。応援がくるのかとあの敵が警戒してくれています。・・・なかなか知能があるのか、本能のなせる業か」
 
 
ぎょろぎょろと周囲を見渡し、増援を警戒していたらしい巨大なマギュア単眼の動きが止まる。仲間を呼んでいたようだが、それらしい生命体が接近してくる様子はない。
そうなれば、問題も遠慮もいらぬ。マギュアは本能で判断した。
最優先で狙うのは、幼生体の雌。なにか危険な匂いがする。自分たちを狩ってきた狩人の匂いがする。これの生活活動を停止させねばどうにも落ち着かないのだ。
 
 
(マギュアがまず狙うとしたら、わたしだろうなー・・・・・)
ヒカルもそのてん承知している。まずは自分の本来の敵を本能的に狙うだろう事を。
自分の体を盾にしようとがんばってくれているロビンソンのおじさんには悪いけど、相手がマギュアであるなら、そうしてもらうわけにはいかない。
つばさちゃんさえいてくれたなら・・・・・・心通じることを祈るが、自分たちがこの有様ならつばさちゃんもそれ以上のピンチである可能性もある。少なくとも自分には九朗さんやロデム君やロビンソンのおじさんがいる。なんとかはやいところ切り抜けなくちゃ・・・・。
 
 
 
「ヒカルさん、無茶はしないようにしてください」
 
 
マギュアの目を少しでも引きつけようと皆から離れてダッシュしようとしたヒカルをロデムが制した。「でも、マギュアが狙うのはわたしだよ。・・・わかるの」
 
 
「ば、バカいってんじゃねえ!!お嬢ちゃんみたいな子供を囮になんぞできるか!!」
ロビンソンが怒鳴る。悪は悪でも敵役、としてのプライドをもっているのである。「順序でいえば、この怪物を利用した俺たちが狙われるところじゃねえか。おいこら、宇宙怪物!仕返しの順序を間違えてんじゃねえぞ!」しかしそんな言説が極悪宇宙怪物に通じるはずもなく。単眼はじっとヒカルにむけたまま不気味に燃えている。触手の力を溜め、攻撃態勢に入った。
 
 
 
「・・・・名前が、ちょっと違ってたそうなんだ」
大十字九朗が悪党のロビンソンに熱血のお株を奪われて、ちょっと寂しそうな笑顔で。
 
 
「「え?」」ヒートアップしていたヒカルとロビンソンがハモる。
 
 
「KOS-MOSさんの。正しい名前は・・・・・・」
「とにかく長いですから。略称を教えてしまいました。すみません」
 
 
ぶん!!
 
 
のんきに謝ったり説明したりしている場合ではなかった。高速重圧のマギュア触手攻撃がヒカルとその前に立ち塞がるロビンソン2世まとめてしばき殺すべく振るわれてしまった。
 
 
その攻撃力はさすがに宇宙怪物の名に恥じぬ、サイズを考慮しなくともナチュラルにスーパー系の重装甲ならともかく、リアル系のモビルスーツの紙ぺら装甲ではガッツリ削られそうな一撃であった。変身もしていない、東方不敗でも十傑衆でもないヒカルとロビンソンではかわすことも防ぐこともできない、これでおさらば的アバヨな一撃であった。
 
どうせ変身してないから使えないのだが、精神コマンドを使うヒマもなかった!!
 
 
「うわーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」
絶叫するロビンソン2世。見事な悪役散り際のテノールであった。声の伸びなど本職の声楽家をも越えていたであろう。悪人でもやはり死ねば千の風になるのか。それとも戦の風になって吹き続けるのか。が、一瞬でぺちゃんこにされたにしては長すぎる。なぜか。
 
 
 
Kosmos
Obey
Strategical
Mulitipule
Operation
Systems
 
 
 
boot・・・・・
 
 
マギュアの攻撃をブースト排除で割り込む(!)謎のコマンドがあったからである。
 
 
R・CANNON R・BLADE 
 
R・SPAINE R・DRAGON
 
R・DRILL X・BUSTER
 
 
地球言語で表現すると、砲撃、斬撃、打撃、竜撃、ドリル撃、それから、どてっ腹からの大出量ビーム攻撃であった。どれこれもが半端なく、よくもまあここまで情け容赦なく攻撃できるものだと感心するほどのもので、マギュアの生命活動停止に追い込まれるまで三分かからなかった。完全に焼き尽くされて欠片も残っていない。なかでも最後のどてっ腹からのビーム攻撃にはかなりびびった。邪神相手の戦闘に慣れている大十字九朗でも一瞬、ヒいてしまったくらいだ。
 
 
その無慈悲にして圧倒的な戦闘者は、幸いなことに味方であった。
 
 
「この方が・・・・KOS-MOSさん・・・・・・」
猛者化け物を見慣れている大十字九朗やヒカルもしばし、あっけにとられている。
その力はまあ、凄いがそこまで呆けたりはしない。素直に賞賛して感謝すればいい。
ロビンソンなどは第四のしもべ(つまりは本来的に敵)の力のあまりの凄まじさに完全に血の気が失せて青くなっている。ヘタをすればこんな化け物と戦うハメになっていたわけだ。・・・・・というか、その危険性は去っていないわけだが。
 
 
「そうです。・・・・どうしました?ふたりとも、意外な顔を・・・・・ああ」
問いかけたロデムも途中で気付く。女性型アンドロイド、KOS-MOS、その姿は彼らの知り合いに”似てなくもない”のだ。むろん、そのまんまの姿ではなく、ちょっと連想を働かせたところの・・・・
 
 
その姿が
 
 
「「宇宙女戦士のコスプレした
 
・・・・・アダルト綾波レイちゃんっていうか」
・・・大人になったレイおねえさんっていうか」
 
 
まあ、大十字九朗とヒカルの言うような感じなのである。アンドロイドといわれていなければ強化サイボーグになった綾波レイの姉貴かと思うくらいに似ている。
 
 
「・・・・なに言ってんだ、おまえら・・・・・」
ロビンソン2世が完全に理解の外、絶対領域のむこうがわの住人を見るような目で見た。
 
 
「・・・ルックス5%損傷、シオン、洗浄してください」
さらに、KOS-MOSがロデムにも理解できないことを言い出したから、マギュアの危機は去ったものの、ちょっと場がグダグダになる。