スーパーロボット七つ目大戦β
 
 
<ずっと一緒にいられますかルート>
 
 

 
 
「攻撃、開始だ」
 
 
かつてないほどに不機嫌な顔をしたヨミがV号にバベルの塔への攻撃を命じた。
この状況での戦闘開始、とは、まずは塔とその内部にいる仲間たちを守るべく動くだろう空中戦艦と白銀の巨人を相手にして、塔そのものを破壊するということを意味する。
 
 
バベルの塔は、自分たちが放った極悪宇宙生物マギュアによって完全に占拠された。
送り込んだ自前の人間部隊は全滅した。そのようにヨミは判断し、次の段階に移った。
 
 
塔への攻撃自体は過去、何回も行ったが今回のそれはもはや使い物にならなくなった塔をその内部にいる塔の主にして宿敵バビル2世ごと消し去ってしまうのが目的であり。
それは、ヨミが己の城にと求めてやまなかったバベルの塔の制覇を諦めた、ということでもある。
 
かつてないほどに不機嫌な顔をされるのはそのためか、ヨミ様おいたわしや、などとつきあいの長い部下たちはそのように想像して勝手に納得した。
 
 
が、ヨミの心情、不機嫌な理由は別なところにあった。超能力があろうとなかろうと部下どもには永遠に理解することはないだろうが。
 
 
”バビル2世め・・・・”
 
 
宿敵に対する、怒りにも似た苛立ち。バビル2世にしてみれば「ヨミ、お前に怒られる覚えは何ひとつないぞ、というか、仕掛けたのはお前だろう」というところであるが。
その怒りは真摯であり、神聖なものだった。世界の誰一人信じないとしても、その感情は含むところなく透徹したものだった。宿敵、幾度となく死闘を繰り広げ重ねてきた他に比較するものすらないほどの好敵手・・・・近頃はやりのパワーインフレですぐさま忘れ去られるような、力を示し合う踏み台のごとくの手軽な敵対関係ではない、憎いといえばこれほど憎い相手もおらぬが・・・・それでも、いや、ならばこそ
 
 
その相手が我を忘れ、心を折ったことが気にくわぬのだ。
知能もない宇宙生物ごときに。バビル2世ともあろうものが。
 
 
・・・この感情は誰一人として理解されることがないだろう。あれだけえげつない手を使ってぶち殺しにかかってきたくせに今頃なにゆってんの、てなもので、ここは諸手をあげて喜ぶところであろう、と。ヨミの所業を知る大半の人間が指摘するだろう。
 
 
「目障りだ!!」
 
 
こうなればこの気分を晴らすには自らの手で塔を焼き尽くしてやるほかなく、それを邪魔する空中戦艦と巨人など相手にする気にならない。そして。
その怒りはもともと優れた超能力者であるヨミに「精神コマンド」を開眼させた。
 
 
しかも「精神コマンド・魂」・・・ダメージ三倍という敵役悪役が使用するには悪夢以外のなにものでもない上級コマンドである。それはただでさえ強力なV号の攻撃力に上乗せされる。
 
 
どかーん!!
 
 
とそのリアル系かスーパー系かと問われれば当然、前者であろう常識を無視した頑丈さとまたリアル系かスーパー系かと問われればもちろん、前者でしかない攻撃方法「体当たり」でもってヒリュウ改に大ダメージを与える!!初撃としてはあまりに意外、砲撃で始まるものかと読んでいたエヴァ四号機・渚カヲルのATフィールドも間に合わなかった。間に合ったとしても、おそらくそのダメージは4000を越えており突き破られた。
 
 
ゲームをやっていない人にはなんのこっちゃな描写であるが、「そういうものなのである」としてご理解いただきたい。ATフィールドとても精神コマンドがからんでは絶対の無敵防御というわけにもいかないのである。
 
ちなみに、「母艦となる戦艦がやられても”負け”となる」というのも「そういうものなのである」としてご理解いただきたい。
 
 
「各部署の被害を報告してください!」経験不足といわれればそれまでだが、悔やんでいるヒマもないレフィーナ艦長。出会い頭の一撃で沈んでしまうなどシャレにならない。
 
こんな戦闘は予想もしていなかった・・・・相手が高度なテレパスでこちらの機動を読まれても読まれてもいけるように裏の裏、何手先も細々考えていたのが完全に裏目にでた。
しかも、ヨミが相手であるなら、元来ならかなり頼りになるはずのポセイドンとロプロスが使えないときている。ここでこの2体が操られて敵にまわったらどうにもならない。
いきなり戦艦体力の半分をごっそり失ってしまったヒリュウ改。かなりまずい。
 
「しかしヒリュウ改にこれほどのダメージとは・・・・もしや精神コマンドですかな?」
百戦錬磨のショーン副長は気づいたが、それで状況が好転するわけではない。
 
出来れば距離をとって仕切り直ししたいところだが、塔の出来事が片付いていない以上、ここから艦が退けるわけもない。ここは・・・ちら、と艦長席を見る。さすがに彼女では荷が重く酷であるか・・・と思ったところで
 
「ヒリュウ改、地表スレスレまで降下!!渚君!正面防御、お願いします!!」
レフィーナ艦長の声が響く。そう、それしかない。非道な手段であるが、エヴァ四号機のATフィールドを盾としてこちらの主砲をぶちかます時間を稼いでもらうしかない。
あの白銀の巨人の機動性をすれば、目くらましに使いたくなるがおそらく通じない。
 
「分かりました」
V号の後ろに回りかけた四号機がその飛翔を母艦の前に戻す。
 
唇を噛み締めている艦長にしてもかなりの我慢を要しただろう。そして、迷いが。
上策としては、あきらかに宇宙戦用ではないV号が追ってこれない高度まで上昇してそこから下方を大出力砲撃での狙い撃ち、だが、この手はとれない。勝てばいいならそうすればいいが。あちらさんも決戦の気合いを込めて来ている。怖じ気づけば、負ける。
なんとしても排撃する気力で当たらねば、今度こそ粉々にされる。
 
向こうの目的は別に超能力などなくても分かる。バベルの塔。内部にバビル2世をはじめとしたドロン・ベルのメンバーを宿したままのそれが破壊されれば終わる。なんのためにここまできたのか。この艦は所属はちょっとアレだがあくまで軍艦である。任務を果たすためにある。その真正面に陣取っていればこちらの射程内に必ず入ってくる。あのV号、旋回性能は体格としてはなかなかだが、それでも戦闘機ほどではなく、自分とこの艦長となら・・・必ず命中させる自信がある。
 
 
ただ、まあ・・・・難点なのが、あの巨大な機械鳥相手にしてエヴァ四号機が単機で食い止めることが出来るかどうか・・・・・あの一撃を換算するにかなり危ない、というところだ。デモンベインがいてくれればかなり状況も前向きになれるのだが・・・。
 
 

 
 
「今の一撃で墜ちないとは・・・・なかなかにやる・・・」
V号の中でヨミが先ほどの不機嫌を少し直したように笑いを浮かべた。墜ちるか、もしくはダメージの大きさに恐れをなして逃げにかかると思ったのだが、まだやる気らしい。
落ちた痛みに耐え地に立つ鳳のごとく。しかし飛ばない臥竜を恐れる道理はない。
 
が、そこに
 
「ヨミ様、体当たりは勘弁してください。といいますか、やるならやるで前もって周知の方をお願いいたします!いきなりの衝撃で脳しんとうを起こした者が多数出ております!」伝声管から部下の泣き言がしてまた不機嫌が元に戻るヨミ。
 
「うーむ、せっかくいいところを・・・・」
とはいえ、帝王の貫禄で逆ギレなど起こさないヨミである。「ああ、分かった」
 
行動の際には、つい自分を基準にしてしまうところがある。自分ならふいの衝撃も当然かわせるが。V号内をテレパス走査してみると、うーむ、かなりやってしまっている。運がよほど悪いのか、ヘンな角度に首が曲がってしまっている者も。日頃の行いは・・・まあ、悪いだろうなそれは、このヨミの部下なのだから。敵はともかく、部下にあまりダメージを負わせるわけにもいかない。よく考えるとちと頭に血が昇っていたやもしれぬ。
これもバビル2世、奴が悪いのだ。おのれ・・・・とこれでなぜか落ち着くから悪人は。
 
 
「もう少し楽してやつらを倒す手を考えねば・・・・・いや、待て・・・この手があるな」
悪の帝王はバカではつとまらない。すぐに楽して相手を倒す悪人の方法を考えつくヨミ。
V号には長距離主砲のようなものはない。大砲発射は軍人の乗る戦艦の得意分野の十八番であり、そんなものの撃ち合いになれば、おそらくやられる。最近のロボット軍団の中にはマップ兵器なるものを所有しているものもいるという。連中がもっていない保証はない。
 
 
「ポセイドンとロプロスが主危急のこの場に来ていないということはあるまい・・・どこぞに潜ませてでもあるのか・・・・・・ならば・・・・!」
 
操って、あの連中にけしかけてやろう、という。
 
帝王だけあって考えることも一応、奇をてらわず王道である。いかにも主人公たちを泣かせてやろうという、悪の王道であった。
 
 

 
 
「アル無事かっ!!無事じゃないなんてありえねえ!」
「九朗!!・・汝も・・い、いや遅い!一体何を・・」
「つばさちゃん!!大丈夫だった!?」
「ヒカルちゃん!!・・・ロデムくんも!」
 
外の状況も分からずしびれを切らしに切らしても待ち続けた書庫にてようやく己の半身と再会し取り戻したアル・アジフとつばさ。待ち続ける恐怖と重圧に耐えながら、そのことから解放された喜び、そして何より自分たちのパートナーの無事に心よりの安堵の表情をうかべて・・・・
 
 
それから
 
 
疑問の表情を対で移行するふたり。往年のアイドルユニットも顔負けの滑らかさ。この短期間の組み合わせで見事なシンクロであった。
 
 
「・・・そやつらは?」
「迷った人、ですか?」
内包する感情その全てが異なりながら。ともあれ塔に入る前はいなかった二人に目がいくのは当然であろう。一人は人間の男。鋭い目つきも激しい戦闘をこなしたらしいズタボロなナリといい明らかに堅気ではなく、どこぞの情報員、もしくはこれがヨミの部下・・・つばさはともかくアル・アジフは即座に警戒するところだったが、その男はスルー、ほぼいないものとして無視、その男もただ者ではなかったが、それ以上に・・・青い長髪の美しい女の方が「タダモノ」ではなかったからだ。オーラにすると三ケタほど違う。なんだこの・・・宇宙女戦士みたいなコスプレした・・・そうだ、育ちきった綾波レイ、といったような・・・無機質神秘系は。人間ではないが精霊の類でもない。
 
 
「時間が押しているので私が説明を」
おそらく大十字九朗とヒカルに任せるといらん時間をくうのでロデムが説明を買って出た。もはや一刻の猶予もない。主の悲壮の気配、声にならぬ叫びが塔の全域を満たしている。しもべ以外に説明しがたい感覚であるが、この時間になってもまだ主が塔のコントロールを取り戻していない、というのは・・・・最悪の事態が到来したとしか考えられず。KOS MOSはともかくロビンソンなどに構っている時間はない。
 
 
 
「・・・というわけで、もはや皆さんは自力での脱出を願います。わたしはメインコンピュータールームまで一騎駆けいたします。おそらく直前まで主が到達しているでしょうから・・・ここまでのご協力を主に代わって感謝いたします・・・再会できるかどうか微妙なところですので今申し上げておきます・・・では」
早口で必要最低限の説明だけして皆に背を向け書庫から駆け出そうとするロデム。
パートナーが戻り、合体さえすれば彼らだけでも脱出は十分なはず。マギュアどももどんどん塔の中枢に集まってしまっている。ならば保護は必要とすまい・・・何より、命令とはいえもう耐えられず、主の元に駆けてゆきたいのだ。
 
 
主の生体反応がどんどん微弱になっていく・・・・・超能力を使いすぎたせいか、それとも・・・塔の中にはかつてないほどの、ぬぐいきれないほどの重たい絶望が満ちている・・・・数々の戦いをくぐり抜けてきた塔ではあるが・・・・これは・・・邪悪な者の手に利用されぬよう、塔が主以外の者に支配された時、塔は、メインコンピューターは「ある選択」をする可能性が高い。つまり、自爆。最も、主がいなくなれば塔の存在意義もなくなるのだからそれは殉死、ということになるか・・・そうなれば、自分たちも・・・残されてヨミのしもべになるくらいならば・・・
 
 
 
「ふざけんじゃねえ!!」
 
怒号を持って去りかける黒豹を呼び止めたのは意外にもロビンソンだった。
正確には、同じ事を叫ぼうとした他の者たちに魁けて、だ。
いくらなんでも敵であるお前の面倒など見られない、勝手にしろと無視しようとした所
 
 
「そうだよ!ロデムくん、待ってよ」
この中で最も戦闘力がない(手をつないでいるヒカルもどっこいであろうが)弱いはずのつばさがそれに続いたのでそうもいかなくなった。あなたは早く変身してください、と言いたいロデム。この場で必要なのは呼び止める言葉などではなく。危難を除く、力である。
変身すれば、言葉が出ない。無力である苛立ちに耐えてまで、ヒカルがつばさに語らせようとする魂胆が、よく分からない・・・・いや、分かってはいけないのだ。リベルス、同じく不定形の器同士。そんな、一番星を見つけた子供のような顔をされても。
 
 
「ロデムよ、妾らも共に行くぞ。なあ、九朗?」
「応よ!!じゃなきゃ何しに来たのか分かったもんじゃねえ、このままじゃ単にスリルを味わいにきたお化け屋敷のお客さん、ってところだぜ!魔を断つ剣の本領発揮、こっからが本番だぜ!」
いや、そんな頭に血を滾らせてないであなたたちもさっさと変身してください、と言いたいロデム。
 
「それにしても、ロビンソン。あんたがまさかここでそんなことを言うとは・・・・これ幸いにコソコソ逃げるところじゃないのか普通。あんたら悪の組織だし」
百戦錬磨のこの二人が引き時を見極められないわけもなく、人にあらざる時を経た魔導書たるアル・アジフ様が塔内に満ちるこの滅亡の気配と匂いを読み取れないわけもなく。とはいえ、ヤケになっているわけでも自分に酔っているわけでもないらしい証拠にまさにどうでもいい重箱の隅をつつくかのような突っこみが。どうでもいいロビンソンに。
 
 
「ハア?当然、ここでお前らとはお別れだ。勝手にヤバイ所に突っ込んでいって自滅でもなんでもしろ。オレはここで塔の外に脱出させてもらうぜ。危険のど真ん中と安全領域、行く先は正反対ってわけだ。しかし、組織うんぬんは関係ねえぞ、お前らがバカなんだ・・・・」
言いながらつばさとヒカルたちからは目をそらしていくのも、まあこの時間のない危機状況ではどうでもいい。もとより同行するはずも、して欲しくもなかったわけだが、ならばなぜここで自分を呼び止めるようなことを怒鳴ったのか・・・・ちんけな疑問であるがそれだけに喉に魚の骨が刺さったような違和感が気になるロデム。これから最後の戦いであろうというのに・・・作戦ならば見事な妨害だ。やはりヨミの部下、後腐れの無いように絞め殺しておいてやろうか、と思ったりもする。
 
 
「ならばなぜ、ロデムを呼び止めた?捨ておけばよいであろうに」
外見はゴスロリ幼女であろうとも、戦う者の心を知る猛者中の猛者でもあるアル・アジフの気遣い。当然、初対面でロビンソンのことをよく知らぬから、同行こそありえない、というのもある。九朗も物好きな拾いもの・・・・と思うだけでほとんど興味など無い。
 
 
「・・・その目だ」
ロビンソンは意外な反応を返した。
 
 
「何がだ?」
今度は大十字九朗とアル・アジフのシンクロ。さすがにこれは慣れている。
 
 
「オレの紹介がなんでねえんだよ!!敵が同行してたなんざふつー、驚くもんだろが!!ちょっと見た目がいいロボ女と一緒だからってなんで完全スルーなんだそこ!!オレは!バビル2世を追いつめたロビンソ・・・」
 
 
げし!!
 
 
自分でクドクドな自己紹介モードに入ろうとしたロビンソンを背後からKOS-MOSがブーストで割り込み、一撃して強制中断させた。
 
 
「誰もきいてないにゃ」
 
 
なぜか猫語尾で。何らかの言語システムにトラブルがあったのか、「・・テネリタージュ・・・お眠りなさい甘美な闇の中で・・・」とかあとでそれらしい台詞を付け加えてはいたが。
「うお!ここで気絶させちまったらこいつ逃げられないじゃん!KOS-MOSさん!」
「別にかまうまい、ここで別れるとこやつが告げたのじゃから」
「おら、起きろ!ロビンソン・・・だめだ、完全に白目むいてやがる・・・復活アイテムがいるぞこれは・・・」「置いていきましょう、自業自得です・・・・というか、あなたたちも本当にくるんですか・・・」「当たり前だよ、ロデムくん!・・・心配性のロデム君のために、そろそろ変身しよっか?つばさちゃん」「うん!ヒカルちゃん・・・でも、このおじさんは・・・」「・・・・私が背負っていきます」「KOS-MOSさん?いいんですか」「かまいません・・・・ルックスが36%減少しますが、あとで洗浄をお願いできれば」「いやそれはもうロビンソンが喜んで泣きながらやるだろうさ!さ、行こうぜロデム君!!」
 
 
「・・・本当に、いいんですか?」
ロビンソンなどは盾に使ってやっても全く悔いはないが、この善良な魂をもつこの人たちが戻れなくなる、などということは・・・・断じて許されるものではない。この面子を使わした、ドロン・ベル兼ロボ・クラナド首領、葛城ミサト、あなたを恨みますよ・・・
 
 
絶望の闇の中にあってなお、輝く瞳を持つ者たちを使わしたこと・・・・ほんとうに
 
 
ロデムは駆けだした。
 
不定形であっても、いや不定形である我が身であるからこそ、一瞬、己の意思以外で崩れたこの顔を見られたくはなかった。器に中身が従うものなら今の自分は誇りある黒豹なのだから。全力の疾走。それに遅れなく躊躇なく追走する者たち。
 
 
心を共にし、一丸となって主の元に駆けつける。なんかやばい方向に岐路していきそうな未来を修正し、まっとうかつ熱血な状況突破の旗を手にするべく。
 
 
そして。
 
 
ずっと一緒にいるために