スーパーロボット七つ目大戦β
 
 
<思い出はのこりますかルート>
 
 

 
 
ロデムを先頭にメインコンピュータールームに向けて駆けに駆けるアル・アジフ、大十字九朗、つばさ、ヒカル、KOS-MOS、それから気絶したままで数に入れなくてもいいかもしれぬロビンソン2世。四人二組が合体しているため頭数で言えば一匹と四人、ということになるが戦闘力はバラバラでいた時に比べて跳ね上がっている。アル・アジフと大十字九朗がマギウス・スタイルに、つばさとヒカルがフィギュアに。本来であればその姿で任にあたるはずが救出にきたはずの塔そのものにはめられて無力の姿のまま塔内をさまようことになったが、互いの半身を取り戻し心細かったその精神も満たされいよいよ危急の刻に燃え上がる。逃げに逃げて逃げ回ったおかげで、ダメージがない。無駄な戦闘を避けられた。あくまでポジティヴに思考するなら切り札を温存してこれた、ということになろうか。その代わり、時間を浪費してしまったことは否めないが。逃げたからこそ追いつめられKOS-MOS、という戦力が加わったことを差し引いても・・・・このマギュアに侵食されたバベルの塔の救出、という任務を考えれば・・・・その残された時間はあまりに厳しい。塔をうろつきまわるマギュアを一匹一匹駆逐するよりも塔の中枢たるメインコンピューターをまず救わねばならない・・・・そうでなければ、塔はこちらの敵にまわる。
 
 
塔の敵対度は加速度的に上昇している。今や分断などという生やさしい手段は用いずにビーム砲や動く壁などで直接に侵入者抹殺にかかってきている。先行するバビル2世たちにやられたのか通路に屍をさらすマギュアも多いが、まだ生き残っているのが襲いかかってくる。
 
 
「邪魔だというて・・おろうがっっ!!」
「邪魔だってめえら・・・・消えろ!!」
合体して最強の魔術師となったアル・アジフと大十字九朗が大型の二丁拳銃、イタクァとクトゥグアで撃ちまくりなぎ払っていく。KOS-MOSですらサポート無用にして不要の凄まじい戦闘力。極悪宇宙生物マギュアが当たれば倒れるほとんど標的の空き缶であった。
逃げ回っていた先ほどが嘘のようなパワーエサ食べたあとのパックマン状態。
もはや一秒たりとて足止めすることなく、ロデムの先導に従い最短距離をいく。
 
 
「R・CANNON R・BLADE
R・SPAINE R・DRAGON
R・DRILL X・BUSTER」
 
 
少々動く壁に進路を塞がれてもそこはKOS-MOSのブースト連撃で壁自体をぶち壊してしまう。某悪魔の塔的遊戯でいえば、「マトック」ということになろうか。かなり大人しめの表現であるが。なにはともあれ、先を急いだ。背負われたままそんなことをやられたロビンソンの腰はもう駄目であろうが。かまっている場合ではない。
 
 
”ご主人様、ご主人様、もうコンピューターの前に辿り着かれたのですか。わたくしたちも急いで駆けつけております・・・・・・ご主人様、ご主人様・・・・!”
ロデムがしもべテレパシーで主であるバビル二世に連絡を入れるが返答はない。確実に距離は近くなっているというのに、そのはずであるのに、こちらを呼びかける声すらも。
ここまでくるまでのマギュアどもの黒こげ骸。エネルギー衝撃波を何回使用したのか。
文字通り、命を削った主の進撃に戦慄する。これは完全に冷静な判断を失い逆上しきっている・・・・ほぼ個人の、単一戦闘でこれまで戦ってきた主の生命線であるはずの。
それが意味する最悪の予想を必死に己の黒色で塗りつぶして、耐えるロデム。
 
 
こちらを・・・・
 
 
こちらを・・・・
 
 
ご主人様・・・・ご主人様・・・・ご主人さ・・・・
 
 
ふいに己の血が、正確に血液というものがあるわけではない、それに匹敵した重要な何かが、逆流するような苦痛に襲われる。これまでも何度か経験したことはあるがこれはそれにもまして強力な・・・・・・・人でいう血の流れよりも重要な、あえていうなら魂、といってよい己の内の何かが、逆流して反転していく・・・この黒豹のからだが裏返しにされていくような・・・・・こんな時に・・・・
 
 
アギャウアアアアアアアア!!!
 
ロデムが咆哮する。ハンターの銃で撃ち抜かれた獣のように。悶え苦しむ。その姿にふさわしく、その心に似つかわしくなく。あまりに浅ましく。この豹変に、戦う魔術儀式と化していたアル・アジフ、大十字九朗、つばさ、ヒカル、KOS-MOSでさえも足を止めてそちらを見た。マギュアの不意打ちなどではない、その程度ではロデムはこんな痛々しい悲鳴をあげない。
 
「ロデム!!どうした!」
”ロデムくん!!”
 
大十字九朗やつばさたちの声が届くまえにロデムはもう黒豹の姿を失っていた。アギュアアアアアアアア・・・・・苦痛の声をあげながらスライムパンサーとでもいうのか本来の不定形に戻りつつあった。
 
 
「ロデム、どうしたのですか」
この場においても冷静というか変わる分の態度をもたないKOS-MOSが崩れゆくその姿に問う。
 
 
「ヨミが・・・・・ヨミの・・・・・ご主人様の・・・・ご主人様が・・・・」
 
ぶくぶくと泡を吹きながらも単語はなんとか聞き取れるが、その意味が分からない。
 
なにかこの緊急時において、非常に大事な、同時にとてもヤバイことを必死でロデムが告げようとしているのは分かるのだが、どうやって聞き出せばいいのか・・・・「ロデム、しっかりせい!いったい何がどうしたというじゃ!!」この面子で一番修羅場をくぐっているアル・アジフにも分からない。つばさ、ヒカルはいうまでもなく。気絶中のロビンソンにも。時間は無駄にできないが、この状況で先にも進めない。なんせ先導役がこれなのだ。その中・・・フッと
 
 
KOS-MOSが顔色一つ変えずにロデムに近づき・・・・・それを抱きしめる。
 
 
「お、おいKOS-MOSさん・・・・」
一瞬、この限りなくモンスターっぽくなったロデムを敵と誤認識したKOS-MOSがもしや殺敵にかかったのか、と心配した大十字九朗だが・・・あの腹に吸い込むとか・・・・
 
 
「緊急時ですのでこまかい説明は省きますが」
さして時間はかからずKOS-MOSはロデムを抱いたまま、他の者に顔を向け
 
「ロデムの支配権がバビル二世から”ヨミ”という次席者に委譲されようとしています・・・それと同時に”ヨミ”側から支配権を奪おうと・・・適当な単語を検索・・・・ハッキング、が行われている・・・・その苦痛は、そういうことですね、ロデム?」
説明と、ロデムに向けた確認はKOS-MOSにしか分からなかったが、応だった。
 
 
「なんだと!?ロデムがバビル二世の使い魔のようなものだとすれば・・・・そんなことをされてはとても身が持たんぞ!!アタマの内側から引き裂かれる!何より・・・・・次席に委譲ということは・・・・当然、主本人の望んだことではあるまい・・・それは」
 
 
アギュアアアアアアアア!!
 
その先はロデムの咆哮が、もう黒豹の姿はほとんど留めていない粘性の何かだ、消した。あの誇り高い、皮肉ではあるが優秀な執事にも似た面影もない、苦痛に耐えきれぬ獣。
泣き叫ぶけもの。いやだ、いやだ、死んではイヤだ、と泣き叫ぶか弱い子供のように。
 
 
それは、嘆きの沼。
 
 
もう足はない。あれほど素早かった黒の豹足はない。立ち上がる足もなく。そこから這い上がることは、もう出来ない。ヨミの支配力に呑み込まれ溺れるほかない。彼は、彼らしもべはそのように造られている。そのように初代バビル一世が造った。
そも足掻くことすら。
 
 
「ロデム・・・・・」
魔術的な道義に照らし合わせてもさほど差異はないだろう、とアル・アジフも思う。
あれらはああいうもので、主が死ねば契約から解き放たれることはなく、次の契約が発動してあれらを縛り、そして生かす。あれらは、そのようにしか、生きられぬ。
バビル二世が死んだか、支配権を保持することすら出来ぬほどの瀕死状態で、どこぞで次席とはいえ支配権をもつヨミが行使した影響力にロデムが抗しきれない・・・・そもそも主にその気力がないのに、抵抗する、という選択肢すらないのが、あれら、「しもべ」だ。
ヨミの元へ馳せ参じるか、こちらへ襲いくるか・・・・そういう「造りもの」だ。
そうであっても、仕方がない。あれは、そういうものなのだから。
 
 
ゆえに・・・
 
 
”ロデムくん・・・”
 
 
嘆きの沼が、主のもとへ這い進む、などと・・・・・・
 
 
「ロデム・・・・」
 
 
あるはずもない。ありえない。だが、ロデムは、一メートルほど、這って見せた。
主のもとへは届かない、あまりに短い前進ではあるが、意味はあった。
這った跡は図形になり、ロデムはその後、己を縛するように、鉄になった。
 
 
そこには地図が残された。ロデムの無念が凝り固まったくろがねの地図が。
もう言葉はいらない。メインコンピュータールームへのラストスパート。
 
 
駆け出すアル・アジフ、大十字九朗、つばさ、ヒカル、の二つの影、二陣の風。
 
 
反対方向に、ロビンソンを背負ったKOS-MOS。
 
 
ロデムの意思が読めても空気が読めなかったわけではない。ロデムがこの有様なら、外にいるはずのロプロスとポセイドン、戦闘力なら桁外れのこの危険なふたつのしもべがどうなるか・・・・・どうなっているか。なにをやっているか。
 
ちょっと想像力があれば、いわなくても分かる。それを抑えられるのは誰なのかも。
 
第四のしもべ、としての務めである、とはいわない。単なる実力。単なる計算。
 
 
そして、ひそかなるロデムの願い。主の名を堕とさしめぬための苦労性の黒豹の。