スーパーロボット七つ目大戦β
 
 
<海王神婚合体ルート>
 
 

 
 
「塔のこともありますが・・・・こちらの心配もしてもらわねばなりなくなりましたな」
 
とぼけてはいるが百戦錬磨のショーン副長が冷や汗を禁じ得ない。
 
ブリッジ内の機器のほとんどはアラート表示で真っ赤っかであり、各種の警報と飛び交うスタッフたちの声でその呟きはかき消される。ダメージ率はすでに赤字ゾーンにあり、母艦がやられれば全てが終わりであるのだから、ここは撤退すべきであった。引き時を見極められねばいくら戦上手であろうとも艦の長は務まらない。・・・・・のだが、「ポセイドンとロプロスは渚くんに任せて!こちらはV号に火力を集中してください!・・・渚くん、まだお願いできますか」「・・・なんとか、がんばらせてもらいます・・・よ」実際、下手な逃げなど打とうものなら即座にそこで撃沈させられる。ここは、耐えるしかない。辛いが・・・・ここは
 
 
ヒリュウ改はボコボコにやられていた。ヨミの乗るV号の強力さはもちろん、それに加えて味方であるはずのポセイドンとロプロスが突如、こちらに襲いかかってきたのだ。
渚カヲルのエヴァ四号機がなんとか抑えているが、さきのV号のぶちかまし攻撃のダメージが残り息も絶え絶え、白銀のその姿が噴き出す体液でマダラに染まっている・・・・。
 
引き時の見極め、という観点でいえば四号機ももう限界であり、回収して休息させるべきなのだが、レフィーナ艦長は無理を強いる。強いた。強いるしかない。母艦がやられれば彼も終わりなのだから。無理からぬ判断である。出来れば、同じ人間同士、ヨミと話合いでどうにかしたいとも思うが・・・・このような手を使う相手に通じるはずもない!
 
可憐な唇を噛み締め、艦長帽子の庇に隠れた片眼が血走っている・・・・もう片方でバベルの塔を見据えている。
 
 
あの塔の中で何がどうなっているのか・・・・・彼らからの連絡は途絶え、今やそれどころではなくこちらが救援を要請したい有様だ。ドロン・ベルの本陣に応援を求めても間に合うはずもなく。V号とポセイドンとロプロスの猛攻に耐えながら・・・自分たちでどうにかするしかない。謎の第三勢力が助けにきてくれても、まあおかしくない局面ではあるが、それはない。絶対無い。なぜなら、自分たちがその謎の正義の第三勢力なのだから。
 
 
彼らが塔内部の救助任務を終了し、・・・デモンベイン、大十字九朗とアル・アジフの手がすけば戦況はかなり変わってくるはず・・・・できるならバビル二世本人にもしもべたちをどうにかしてほしい!。痛切に思う。
 
 
ずがん!!
 
ブリッジが強く揺れた。これまでにない揺れ方だった。「ポセイドンが!」クルーの報告は悲鳴に近い。いよいよエヴァ四号機がしもべ二体を同時に相手しきれなくなったのだ。
ポセイドンによるヒリュウ改への直接強烈海神パンチ。ものすごく効いた。うわなにこの強さ。さすがに個人で世界規模の組織を相手にしてきた主のしもべということか。
だが、感心している場合ではない。かなりまずい。いったんこうなると疲弊しきったエヴァ四号機が二体同時に相手、という体勢には戻らない。ずがん!ずがん!ポセイドンの嵐のようなパンチ攻撃で、本当に嵐のように揺れるブリッジ。さすがに若大将どころではない海の神様。砲や銃とはひと味もふた味も異なる、しゃれにならんヘヴィ攻撃力だ。
V号の中ではヨミが高笑いしていることだろう。
 
 
 
実際、していた。
 
 
フハハハハハハハ・・・・・・・・
 
親玉クラスの悪にしか出来ない重厚にして余裕の高笑い。しかし・・・
 
・・・ハア・・・
 
なぜか途中で止めてしまったが。そしてムッツリと不機嫌な顔に変わる。予知能力など無くてももはや詰んだことは分かる。あの白銀のロボットはなかなか大したものだが限界だろう。あとはもう部下どもに任せて見物しているだけで勝利を収めることができる・・・・・しかし、それが勝利といえるのか・・・・
 
バベルの塔を睨み据えるヨミ。もともと、あの塔を我がモノにして世界に号令をかける、というのが長年の念願であり、今回の計画だったはず。それがこのような周りをうろつく正義の新米どもを相手にこのヨミが八つ当たりに近いことをやっている・・・・ポセイドンとロプロスを操作して相手にぶつける、という悪のアイデアがモロにはまったのは愉快痛快であったがそれも一時のことで。しもべのその支配があまりに容易であったことが長きにわたる宿敵、バビル二世の死亡を確信させた。
 
 
まさか、たかが宇宙怪物ごときに討ち果たされるとは・・・・・・・
罠にはめた張本人は確かに自分であるが、それはそういった形ではなく、あくまで塔を手中に入れた上でバビル二世を塔の内部から見下し・・・・バビル二世がこれまで己を見てきた視点を手に入れるということだ・・・・・そして勝利を宣言するつもりだったのだ。
だが、塔は完全に宇宙生物に汚染され尽くした。とても己の城に使えたものではない。
これもまたアイデアがハマリすぎた。塔を過大評価していた、とは思わない。
口惜しいが、宇宙生物を過小評価しすぎた、というべきだろう。
 
 
それにしても・・・・・
 
 
塔が手に入らないというのは・・・・・・
 
 
長きにわたって戦い続けてきた敵が、つまらない罠にかかって死ぬというのは・・・・
 
 
ビキビキ・・・
 
 
ヨミの額に青筋が浮く。いわゆる思い出しムカツキである。目の前の戦闘にとらわれず、それを過去のことにしてしまえるのは帝王の余裕というものであるが、それだけに。
 
 
精神コマンド「魂」(攻撃力三倍)発動!!
 
 
やはり、このやりきれぬ怒りをどこかにぶつけねばどうにも気が済まないヨミ。
なんせ筋金入りの悪党である。正義の新米を見逃してやろうとかかんべんしてやろう、という発想は生まれようもない。ここでダメージ三倍・魂攻撃など、トドメどころか、十分以上のオーバーキルである。敵の母艦は普通、こんなことをしたりしないのだが、今のヨミの精神状態がまともではなかった。
 
 
「さらばだ、バビル二世!!」
 
ちなみにヒリュウ改にはバビル二世はいない。そんな台詞で突撃されるレフィーナ艦長たちこそいい面の皮であるが、悪の帝王は大真面目であった。これまでの苦難の思い出が蘇ったりしているのか、目尻に涙が浮かんでいたりする。この怒濤の帝王攻撃はATフィールドをもってしても、ロプロスにつつかれ中の渚カヲルに受け止められぬことは明らか。
間に合わない!「皆さん!」渚カヲルの必死の叫びも。
 
 
「これは、ヒリュウ改です!!」
ヨミの強い思念がテレパスでないレフィーナ艦長に届いたものか、毅然として言い返す!。
この期に及んで何を、とショーン副長もクルーたちも思わない。迫りくるV号の凶悪な面を前にして小揺るぎもしないその度胸。軍の艦ならば敵に敗れ沈むことも覚悟の上。ただ、屈しては欲しくなかった。八つ当たりでやられたということにはしてほしくなかった。
 
 
どがーん
 
 
しかし、攻撃力の差はいかんともしがたく、V号にぶっつけられたヒリュウ改は真っ二つに・・・そして、大爆発・・・・・・・するはずだった。
 
 
 
だが、しなかった。
 
 
なんと、受け止められていた。
 
 
悪とはいえ魂の籠もった鋼の巨鳥を、紺碧の巨体がそのたくましい両腕で、受け止めて、
いた。神話のような、その光景にヒリュウ改のクルーたちは言葉が出ない。
 
 
「・・・・ポセイドン・・・・?」
奇跡を祈りはしなかったレフィーナ艦長も目を丸くする。先ほどまで海底神殿でも建立するようなパワーでこちらのボディをドコドコ殴っていたくせに。ヨミをたばかる演技にしてはちと強力すぎですし。不思議に謎すぎる。理解が追いつかない・・・
 
「・・・・と、あれは・・・肩の上にいるのは・・・」
ショーン副長の指摘に従い、そちらに視点を合わせてみると・・・ポセイドンの左肩には人の姿がある。バビル二世、ではない。シルエットが違いすぎた。そして女性。
 
 
「未来系の・・・・綾波レイ嬢・・・・のような」
思わずしばいてしまいそうになる副長の見立てに、それでもうなづいてしまうレフィーナ艦長。いわれてみれば髪は長いがそんな感じである。人形のような、美女だ。
 
 
「あの・・・ポセイドンさんの・・・顔、赤くなって・・・ないですか。かわいい・・・
いつの間に戦闘態勢のブリッジに戻ってきたのか、ちせが。自分の頬も赤くして。
 
そりゃなんか、天然ちせちゃんフィルター通しすぎだろう、と皆思ったが、よく見てみるとポセイドンその通り。普通、敵にまわったときにそれっぽいサインがでるものだが。
味方に戻った時に出なくとも。まあ、いいけど!ほんとうに味方にもどってくれたなら!
 
 
「あ、あなたは・・・・”通信できる?一応、うちとロンドの両方のコードでやってみて。この状況で敵でもないでしょう”・・・あなたは」
「君は・・・・・綾波レイ、じゃないよね・・・」
レフィーナ艦長と渚カヲルが同時にポセイドンの肩にいる謎の美女に問いかけるが。
 
 
「説明はあとにしましょう・・・今は、こちらの殲滅を」
返信のコードは、ドロン・ベルのもの。そう簡単に手に入るものではない。味方、か・・・しかし、振り向きもしない。ポセイドンとともに敵を、V号を、ヨミを、見ている。
戦士の、というよりは兵器のまなざしで。「ポセイドン」未だ顔が赤い巨神に声をかける。
 
 
ま”
 
 
そのようにジャイアントの声をあげたわけではない、だがそんな感じの無造作で
ポセイドンは受け止めたV号の横っ面を叩き飛ばした!!
 
 
ばきん!!
そのパワー!今までも最悪なほどに凄かったが、今の一撃はおそらくそれ以上、今までの攻撃をまとめて束にしたほどの
 
 
「・・・・信じられない」
「なんと・・・・・・!」
艦長副長そろって驚く。V号が横ロールした。ラジコン飛行機じゃあるまいし。
 
ポセイドンのスペックを正確に知っているわけではないが、今まで手抜きをしていた、というよりは(手抜きで殺されかけたんじゃたまらない)・・・他の要因を考えた方が正解に近いと思われる。つまりは・・・・あの、肩にある謎の美女、彼女が。
ポセイドンにその力を与えた、と考えるのが自然、ではあるまいか。よく分かんないけど。
ポセイドンはロボットだし、見かけでいえば硬派武骨な感じで、まさか・・・・
 
 
美人にいい格好みせたいから、張り切っちゃうぜい!!・・・・・なーんてことは
 
 
「何者だ、お前は・・・いや、そんなことより」
V号のヨミはいきなり現れた謎の女を睨みつける。その眼力は即座に女が人間ではないことを見抜く。人間を模した何かだ。機械と言い切ってしまうにはそのあまりに滑らかな姿に疑問が残るが、ともあれ。いきなり支配力から脱したあげくにこちらを攻撃してきたポセイドンの第二撃を中止させるべく、
 
 
「やめよ!ポセイドン!」
急いで命令する。女の正体を詮索するのはあとだ。思いも寄らぬポセイドンの一撃で無理な回転を強いられたV号の内部ではやはり日頃の行いが悪い部下どもが何人もやられていた。一番悲惨な奴は、そろそろ片付きそうだというのでトイレにいっている最中に大揺れがきて便器に顔をつっこんで頭の骨が折れた。
 
 
ばきん!!
そのまま来た。ポセイドンは止めなかった。ヨミのいうことを無視して聞かなかった。
今度は逆方向にロール。再び運と日頃の行いの悪い部下たちがやられていく。
 
 
「ぐお!!」
今度はその日頃の行いの悪い被害者たちの中にヨミも入っていた。舌を思い切り噛んだ。
さすがにそのまま窒息死してしまう悪の帝王ではないが、かなりのダメージであった。
舌も痛いが、何より精神的ダメージが。ポセイドンが自分の命令を聞かなかった、ということは・・・・・まさか・・・・と思ったのだが、「ロプロス!」・・・ロプロスはまだ素直に従う。原因はやはりあの女か・・妨害でもしているのか・・・しかし、そもそもバビル2世からの命令がなければこちらに攻撃など、できるはずがない。
 
 
「どういうことだ・・・・・」
不審がるヨミであったが、もともとそういう観点がないせいか、ポセイドンの顔が赤くなっている、ということに気づけなかった。鈍い、というよりは時代のせいであろう。
頭の善し悪しというより、そういう発想はないのだ。
 
 
一目惚れのKOS-MOSに一発張られて目が覚めて、主とロデムの苦境を聞かされ海の男の中の男、というか海の王様であるポセイドンの気力秘めて熱い油潮のグングン上がるまいか。
 
 
けっして
 
 
美人にいい格好みせたいから、張り切っちゃうぜい!!・・・・・なーんてことは
 
 
ない!!断じて!!
 
 
というわけで、トリプルパンチ。ヨミの命令は、まったく聞かないポセイドン。
たぶん命令しているのはKOS-MOSであり、そこには情け容赦は微塵もない。
途中で未だ目が覚めないあわれなロプロスがヨミの命令で邪魔しにきたりしたが。
 
 
「うわ・・・・・・ロプロス・・・・・やっちゃったよ・・・・・いいのかい」
今までさんざん突かれてきた渚カヲルが呆れるほどの、豪快アッパーカットをくらわす。首が思い切り振られたせいか、その一撃でロプロスはダウン。仰向けにひっくり返った。
 
 
これというのも・・・・・
 
 
長年の友情よりもつい先頃おぼえはじめたラブリーな恋をとった・・・・・わけでは
 
 
断じて!!ない!!
 
 
頭の方にチリチリとどこかのおっさんからの「ワシに従え電波」がきているような気もするが無視。うちはバビル放送しか見てないし〜、みたいな。完全に目が据わっている。
顔で無表情、心は泣いて。海より深い何かが、ヨミにも読み切れぬ混沌な何かが、今のポセイドンの目の中にあった。いかに強い力をもとうが、本質的には主に従うしか能のないしもべ、と見下ろしていた存在に対して・・・・・気後れした。それは恐怖に近い。
 
 
「くっ・・・・・覚えていろ!!」
王道の捨て台詞とともにV号急上昇、ポセイドンの手が届かぬ上空へ逃げるヨミ。
追撃する力はヒリュウ改にもエヴァ四号機にも残っていない。そりゃこちらの台詞だよ、という疲れ切ったつっこみを呟くだけだ。残っているとしても、追うべきではなく。
 
 
 
バベルの塔
 
 
その奥で起きている事象のために使うべきだった。
 
まだ、間に合うのならば。