スーパーロボット七つ目大戦β
 
 
<優しさをおぼえていますかルート>
 

 
 
バベルの塔最中枢・メインコンピュータールーム
 
 
ロデムという先導とKOS-MOSという心強い応援を失っても、ここまで来た。
大十字九朗、アル・アジフ、つばさ、ヒカル・・・四つの心、二つの体、ひとつの思い。
 
 
「まあ、なんだかんだあったが・・・・・・ここまで、来れた」
アル・アジフが代表して思いを口にした。フィギュア状態のつばさとヒカルがしゃべれないこともあるが。
 
 
巨大な扉を開ければ、目的の場所があり、そこにはもう残る三人が到着しているはずだ。
最悪、していなければ、自分たちでどうにかするしかない。
ここに巣くっているマギュアの親玉を、倒す。倒して、塔の機能を司るメインコンピューターを解放する。塔を、主たるバビル二世のもとに。
 
 
「そうだな・・・早く、行こうぜ・・・・・と言いたいが、ここで足を止めさせたってことはなんかあるんだろ、アル」
伊達に長年パートナーとして戦っていない大十字九朗。フィギュア状態のつばさとヒカルがしゃべれないこともあるが。
 
「・・・・まあな。急いで突入したいが・・・失敗の許されることでもない。今回はあまりに術策にはまってばかりだったからの・・・・」
 
「当然、一番賢そうな親玉エリアとくれば、罠も小難しそうなのが張ってある、とアル先生は考えている、と。こういうことか・・・・あー・・・」
暗く硬い口調のパートナーを補完するようにほぐした口調の大十字九朗。しかし、それも補完しきれなかった。つばさとヒカルが今、口がきけたら何を言っただろうか。
 
 
 
扉の向こうが、静かすぎる。
 
 
 
ここにくるまで、あれほど激しく、ほとんど狂戦士のような強引さで突き進んできた先行の戦闘の様子から察するに・・・・・ここで静かに戦う、という可能性はどれほどあるか。
戦闘の音が聞こえぬほど広大な空間、というわけでもあるまい。だとしても魔術師の耳とフィギュアの耳がとらえぬわけもない。向こうは、全くの、無音。機械の作動音もない。
生命活動・・・・鼓動音すら。この向こうに何があるのか・・・全くの無の空間であるような・・・
 
ここが本当に目的の場所なのか・・・・・・ロデムの地図が違っていたのではないか。
そんな風にも思えてくる。
 
 
「・・・・・どういう原理か知らぬが、罠、じゃろうな。こうまで感覚を遮断されるとは」
 
もともと塔が備えていた機能なのか、それともマギュア側でそういった能力をもつものがいるのか・・・魔導書の知識もてなるたけ安全に戦いたいところだが、それもかなわぬ。ロデムの地図を信ずるならば、この扉の向こう、罠のど真ん中にはまりにいかねばならぬ。
 
 
「危険、と言うのも今更だが、厄介なことになるやもしれぬ。力押しでどうにかなるとは限らぬ・・・・正直、デモンベインを召還してこの部屋ごと吹き飛ばしてやりたい気分じゃ、が・・・・」
 
「そうもいかねえだろ。塔を落としにきたんじゃねえんだ・・・・通信機も回復しねえってことは、まだ片付いてないってことだろうしな。こんなところで立ち往生してるオレたちを塔内放送で呼んでくれてもいいとこだ」
 
 
これから罠にはまりにいくから気をつけろ、とはどうも言いにくい。アル・アジフにしても大十字九朗にしても。ニュアンス的に微妙であるし・・・・もし、心理的な罠であった場合、彼女たちに突破できるとは・・・・。この塔、催眠装置やら人間の精神もついてくるような陰湿なところがあるからな・・・肉体的な罠を越えてきた相手だからこそ、最後に心理的なそれで迎える・・・実にありそうだ。主の趣味ではない、と思うけど。ここは自分たちで先行して内部を探るかどうするか・・・たとえ戦力的に一時減となっても、その方がいいか・・・と百戦錬磨の魔術師コンビが結論を出そうとしたところで
 
 
「つ、つばさ・・・ヒカル・・・に、にげろ・・・来てはだめだ・・・」
 
扉の向こうからDDの瀕死声が。嘘風味100%の怪しさ満点ボイスであったが、子供はまんまとひっかかった。
 
「「DD!!」
頭脳はこどもでも肉体は超人のそれであるから大十字九朗たちが止める間もなく、扉を開けて飛び込むつばさとヒカルのフィギュア17。
 
 
広がるのは、闇。それに呑まれてまんまとひっかかった未熟者の姿が見えなくなる。
 
 
「くっ・・・!追え九朗!見失うな!」
「応よ!!」
 
泣きたくなるほど最悪の罠への突入であるが、やもうえない。有能な魔術師ならばそんな未熟者など見捨てるのだろうが、そうもいかない。ただ、怒りがこみ上げてくる。
もちろん、マギュアへのだ。ついでにいうならこんなもんを放ってきたヨミ軍団に。
拾ってきたもんは最後までてめえらで責任みろよ!!胸の内で咆哮する。
 
 

 
 
 
闇の先に足を踏み入れると、あっさりと視界が開けた。
 
 
そこは、花畑だった。床と言わず壁天井、全てが奇怪な花に埋め尽くされている。
 
中央に目玉のついた奇怪な花どもは脈動しつつそれ自体が血のような赤色と地球との交わりを拒絶するような蒼色の発光を繰り返していた。アル・アジフも知らぬ、明らかに地球産ではありえない、魔道の産物ですらない、そのオーラ、極悪宇宙生物・・・マギュア、その親玉に間違いあるまい。芸術家が見ればあるいは百年の画想、閃きを得られるかも知れぬ異界の光景であるが、大十字九朗の知ったことではない。油断無く周囲に目をやる。
つい先に足を踏み入れたはずのつばさ・ヒカルのフィギュアがいない。
バビル2世もDD,オルディナの姿も。大量に咲き狂った花どもに埋まっている可能性もあるが・・・
 
 
「つばさちゃん!!ヒカルちゃん!!バビル二世!DD!オルディナさん!!」
呼びかけてみるが、返答はない。花どもから何か攻撃があるかと身構えていたが、キモい発光を繰り返すだけで、ざわ、とも動かない。これまでのマギュアのように大バトルを想定はしていたので肩透かしではある。
 
 
「これは・・・・陥落させられたと考えて、いいのか・・・・・」
 
アル・アジフの呟きは苦い。
 
宇宙製のコンピューターのことなど詳しく知りようもないが、この光景から考えるに、メインコンピュータールーム・・・ここに鎮座するはずの機械の頭脳、塔付きの軍師の姿も見えない。全てが花に埋め尽くされている。花まみれになっていないのは自分たちくらいなものだ。・・・・・今すぐに、この不快な花どもを炎で焼き尽くしてしまいたいが・・・・「間に合わなかったか・・・・・」このような経験はいくらいくども繰り返しても、慣れない。慣れはしない。エメラルドの瞳から濡れるものが溢れることはないけれど。
 
 
「だとしても・・・・やることがある。みんなを捜すぞ・・・・」
「ああ・・・」
 
これが幻術の類であるかどうか、魔術師として出来る限りの覚醒手段を行ってみたが、悪夢は覚めない。ただ、あれほどの時間でつばさとヒカルの姿がかき消えるというのは・・・・ぱっくりと花に呑まれたわけであるまい。ともあれ・・・・罠にはまったのは間違いない。少しでも気を抜けば、対応を誤れば・・・・自分たちもここで消えることになるだろう。
 
「こんな花飾ってる悪趣味な墓場なんて冗談じゃねえからな。すぐ見つけてやらないと、な」
「うむ・・・」
 
こんな最低最悪の事態にまでなれば励まし気合いを入れる役は逆転し大十字九朗がその役を担うことになる。それゆえのマスター、最強の魔導書の主、それゆえのゴスロリ幼女の永遠の伴侶、大十字九朗であった。
 
「そう・・・そうだな・・・まだ、生きているなら」
「それになんといっても、つばさちゃんたちはマギュア退治の専門家だろ?うまいこと隠れてるだけかもしれないしな。・・・・単純に隠し部屋があって追撃にかかってるだけ・・って可能性もある」
それならば、つばさとヒカルが自分たちを待たない、というのもおかしいが言わずにおれなかった。儚すぎる希望であろうと。
 
 
 
「大十字さん」
 
 
ふいに、後ろから声がかかった。知った声であるが、気配をまったく感じなかった。
 
マギウススタイルの自分がこうもあっさり背後をとられるとは・・・・振り返りざまの両手には二丁拳銃が握られている。瞬時に合わせた照準は・・・・・・バビル二世。
この塔の主である、主であった少年が、そこにいた。底が読めない暗い目で。
 
 
「・・おっと、驚かさないでくれよ・・・・・みんなは?」
二丁拳銃、イタクァ、クトゥグアを外さずに問いかける。アル・アジフもそれに異を唱えずいきなり現れたバビル二世を見つめている。学生服は綺麗なまま、表情は涼しげで戦闘の負傷の様子もない。
 
 
「片付けました。隠し部屋でまだ生きてはいますが。マギュアの女王が栄養にしたいそうなので・・・リベルス、・・・フィギュアといった方がいいですか、狩人たる彼女たちを取り込むことでマギュアはさらなる力を得る、と」
 
 
「そんなこと聞いちゃいねえ・・・・・・・・てめえは誰だ?」
照準を変更。逃がさぬ為に足と腹をそれぞれ狙う。
 
 
「見ての通りの・・・・・バビルの後継者ですよ」
学生服の少年は答えた。臆した様子もない。
 
 
「まんざら嘘つきでもないらしいので聞いてやるが・・・・・その隠し部屋とやらはどこにある?どうやって行くのじゃ」
 
 
「ぼくが案内しますよ。あの子たちと一緒に入ってきてくれるものかと思っていたのですが、最後の最後で気後れしたのかと・・・・魔を断つ剣の勇敢さも無垢な少女のそれに劣るとは大したことはない、と思ったのですが・・・・おかげで二度手間ですよ」
 
 
「本物と違ってよくしゃべるなあ・・・・・本物はもうちょっと話してほしいくらいだったが・・・・てめえはもうちっと黙ってた方がいいぜ?」
 
 
「もう本物ですよ。長年の影武者暮らしもいい加減飽き飽きしていたんです。今回の宇宙生物騒ぎは格好の機会だった。メインコンピューターを侵した女王マギュアとテレパシーで交渉してみると・・・・彼らはなかなか知能が高いのですよ・・・あの捜査官たちよりよほどね・・・・生け贄を捧げれば協力してくれる、ということで。利害が一致したのです」
 
 
「愚か者め。それほど賢いのであれば、最後にはお主も宇宙怪物に喰われてしまうであろうよ。お主も怪物以下のアタマであるよな」
 
 
「その前にこんな塔からは脱出しますよ・・・・・そして、ヨミのように生きていく。
もうこんな砂漠の塔でときどき起きて眠るだけの生活はまっぴらなんですよ。ぼくにも力がある・・・本物のようにエネルギー吸収能力はさすがにありませんが、ヨミのような連中と戦うのでなければさほどに必要ありませんしね」
 
 
「骨の髄まで影武者キャラだな、こいつ・・・・・・どうするよ、アル」
「もう少し語らせてやりたいところだが、時間がない。価値的に月とすっぽんほどに違うからのう・・・・さらにいうなら、妾と覇道の小娘ほどに違う!」
 
「あの、アルさん?そのたとえビミョ〜なんですけど。いろんな意味で」
「うるさい!いくぞ九朗!」
「応よ」
そのまま影武者バビル二世に背を向けてスタスタ歩き出す大十字九朗とアル・アジフ。
 
 
「あなたたちも女王マギュアの生け贄にするということで話がついているのですが」
 
バジン!!と打ち鳴らした拳から弾ける雷に似た音は、エネルギーを込めているためか。
どてっ腹なんぞにまともに食らえば痛いですまない、はらわたがブチ抜かれるであろう。
 
 
「知るかよ。相手にしてる時間がない」
 
「ならば!!」
影武者バビル二世が飛びかかって攻撃してきた。
 
 
 
が、その拳は届かない。
 
 
何回か拳を打ち込むが、大十字九朗の背まで無限の距離があるように、かすりもしない。
 
そして、諦めたのか、影は消えてしまった。
 
 
魔術様式ではないが、心理に投影される「罠」。原理は知らぬが、踏破した。
 
 
 
「よく分かったな・・・・・」アル・アジフが隣の主の顔を見ず、ぽつりと言った。
 
罠であろうかとも思ったが、半分はその可能性もありやと思い、真贋つかなかった。
 
バビル二世とは長年の付き合い、というわけでもない。塔の存続を代償に、怪物に屈する可能性も・・・としたこちらの内心を見透かされたのか。今の影は。だが、九朗は。
なんの躊躇もなかった。あっさりと真贋を見極めた。一心同体のこととはいえ・・・自分はただ目で告げる九朗を信じただけだが・・・九朗は何を信じていたのか・・・・
 
 
「この塔の中ではロデム君と一緒だったからな・・・・しもべがあのレベルなのに、影武者があの程度、ってことはありえねーだろ?絶対。ま、経験値の差、ってやつか」
 
 
あっさり言ってのけた。
 
 
「しかも、影武者ならそれこそロデム君がやればいい・・・語るに落ちてんだよな」
「ま、まあ・・・・本人がここで寝返るというのも噴飯ものであるしのう・・・・」
「だろ?ご本人も日が西から昇ってもオレたちを裏切ったり売ったりするような性格じゃないしな。まー、こんなチョロイ罠で助かったぜ。だからつばさちゃんたちは先に行ってんだな。ある意味、安心したぜ」
「そ、そうじゃな」
 
 
「あんなに優しいやつのことを間違うはずがねえじゃねえか、なあ」
 
 
歩を進めるごとに、音が聞こえる。戦闘の音が。歩を進めるごとに、大きく。
聞き覚えのある声が。和やかに談笑しとるそれではもちろんないが、全員そろっている。
 
 
「罠」をそろそろ抜ける。なんと用心深い塔なのか、それともマギュアの能力であったのか。面子次第ではあそこで同士討ちなどをはじめたりするのだろう。陰険な・・・。
なにはともあれ離れたり合流したりまた離れたり、とかなりストレスたまっているんですけど。もともとデモンベインの操縦者・・・いや、もとは探偵だからいいのか?
 
 
「いくぜ、アル!」
「応!!」
 
 
ここでふたりの脳内にBGMがかかる。しかもフルボリュームで。
 
聞けば全身の血潮が沸騰すること間違い無しの魂の名曲、<神の摂理に挑む者達〜魔を断つ剣は未だ折れず>である。難解なメロディーと歌詞に熱い思いがこもっている、と歌い手も語っているくらいであるから間違いない、ほんとうに。ガチである。
 
 

 
 
 
「ジバクプログラム作動中・・・バビル二世ト招待客ノ皆様ハ至急、塔外へ避難シテクダサイ・・・」
 
 
つばさとヒカルが「罠」をあっさりと回避というか無視して突破し、ド修羅場まっただ中のメインコンピュータールームに到着した時点でもう事態は最終ターンを迎えていた。
 
 
「やめろ!やめろ!命令だ、やめてくれ、コンピューター!!自爆などゆるさない!」
 
バビル二世の悲痛な叫びと、同時に繰り出されるエネルギー衝撃波の白熱した輝きがマギュアの触手を灼く。それにも怯まず触手はその口を塞ごうと攻撃を止めない、そして対抗する新星にも似た生命エネルギーがぶつかり合い・・・・・壮絶な、互いの存在を消去しおうと徹底的にやり抜くしかない、殺し合い。扉の前の沈黙など嘘であった。
 
だが、怯むことなく名乗りもせずに、そこに飛び込み戦鬼として混じるフィギュア17。
 
ここでやらねばなんのためにこの塔に来たのか、分からない。怯えている場合ではない。
石になったロデムのためにも・・・・そして、元来、マギュアは自分たちの獲物だった。
やはりここまで到達していたDD、オルディナとは再会を喜ぶ間もなくアイコンタクトでハントラインを構築する。最後の狩りのはじまりだ。
 
 
「自爆プログラム作動中・・・・バビル二世ト招待客ノ皆様ハ至急、塔外へ避難シテクダサイ・・・」
 
 
マザーマギュアに半融合されたバベルの塔のメインコンピューターは完全に支配される前に己と塔の自爆を選択してしまっていた。こうなるとバビル二世でももう止められないし、だいいちコンピューター当人が止める気がないときている。その生物の本能に反した狂気の覚悟に恐れおののいたのか、マザーマギュアもその自爆プログラムも必死こいて停止させようとしているが、発動時間を遅くさせる程度の効果しかない。主たるバビル二世の命令とマザーマギュアの融合ハッキングがかち合って相殺しあっているのだが、それは分かっていても互いに互いを殺しきれない・・・・狂戦士状態のバビル二世の攻撃力も凄まじいが、半融合してしまいもはやこの塔と運命をともにするしかないマザーマギュアも死にものぐるいでかかってくる・・・・獣同士の喉笛の噛み千切り合い、とでもいうか。
 
一進一退、であるが、体力に限りがある人型よりもやはりマギュアが有利か。狂ったように、とはいえ、ここは塔の主機能中枢であり、あまり出鱈目な攻撃が出来ない。マザーマギュアだけを綺麗に攻撃、出来ればいいのだが・・・・この乱戦でそこまでは。
 
塔を修理する中枢の最重要機能、メインコンピューターのブラックボックス、せめてそこだけでも取り外すことができれば・・・・・・また、塔は再生できる。これまでそうしてきたように。逆に言えば、そこだけは傷つけられるわけにはいかなかった。
バビル二世とつばさたちはそういったハンデをも負っていた。ただのマギュア狩りでは、なかった。塔の命がかかっている。そして、バビル二世も・・・・
 
 
「く・・・このままでは・・・」
「時間がないわ、DD」
DDとオルディナは苦渋の判断を迫られていた。このまま塔を脱出してもマギュアは死ぬ。
自爆がどれほどの規模か不明だが、塔内のマギュアを滅ぼすに十分な威力であろう。急いでここから脱出して距離をとらねば自分たちも危ない。もう安全領域を切っている。
 
だが、バビル二世と・・・・フィギュア17、つばさとヒカルは退きそうにない。
 
ふたりの阿修羅がそこにいる。戦いにおける全ての感情がそこに渦を巻いているように。
マザーマギュアを倒すより、この聞き分けのない・・・しかし主思いの電子頭脳を止める方が先決なのだろうが、近寄れもしない現状ではどうしようもない。
 
 
「自爆プログラム作動中・・・・バビル二世ト招待客ノ皆様ハ至急、塔外へ避難シテクダサイ・・・」
 
機械音声の調子が変わることなどありえないのだが、泣いているような、気がした。
 
自分たちも相当カッカきている・・・・こんな時こそ冷静にならねばならない、と思うDDだが・・いいアイデアが浮かぶことはない。くそ・・・・これほどマギュアが憎いと思ったことはない。邪魔なんだ!キサマ!!いいかげんにくたばれ!!
隣のオルディナも同じ気持ち・・・いやそれ以上の深紅の般若顔していることに少し驚く。このまま戦っていても・・・・・ここは自分が・・・・DDが決断する、その直前
 
 
ギュルルル・・・!!
 
大量の触手が戦い続けてもはや限界すら超えて己を磨り減らして消耗したバビル二世とフィギュア17を巻き取った。何せサイズが違えば対抗するのは機動力をもってするしかなく、それが封じられた二人はあっさりと持ち上げられて・・・・ギリギリギリ・・・・締め上げられ・・・・あっさり内臓器官をつぶされても悲鳴もあげられず哀れな贄となるしかない。塔の主はその座を奪われ、マギュアの狩人は逆に狩られた。
 
 
「つばさ!ヒカル!」
「バビル二世!!」
これでは撤退すらできない。自分たちが彼らを見捨てて逃げるなどと・・・・そんな選択肢が、あるはずがない。自分たちが犠牲になるならまだしも・・・・あの子達を・・・
 
不用意に飛び出したDDとオルディナを狙っていたかのように、触手が絡みとる。
 
「うわ!!」
「きゃあっ」
ギリギリギリギリ・・・・・・・・・!
マザーマギュアの作戦勝ちであった。戦いは最後まで冷静なものが勝つのだ。どっちが生き残るか・・・結果が出た。生存競争に勝ち残った生物としての本能から湧き出す誇らしさで、つい隙を見せてしまった。まあいい、どうせ動けるものはもういない。我は天敵を制したのだ。あとは、このとち狂った電子知性体を沈黙させるだけ・・作業に集中できればさして時間はかからない・・・・
 
 
そこに。
 
 
「おっとお待たせえ!!ただいま到着、あーらよデモベ一丁!!」
「乾き餓えた宇宙の魔物よ、代はいらぬぞ喰ってゆけ!!」
 
 
魔を、
 
 
魔ギュアを断つ剣が
 
 
 
振り下ろされた。
 
 
 
まさかあんなにモロに食らってくれるとは、やった当人達も思っていなかったほどのクリティカルヒット。登場時にトリッキーな一撃で意表を突き、それからもっと本腰を入れたシリアスなやつをブチかまそうと思っていたのだが・・・バビル二世たちの与えた蓄積ダメージも相当なものであったが、その一撃でくたばるとは・・・・「あ、あれ・・・・?ほんとに死んだのか、こいつ・・・どうせ、死んだふりだろ・・・・・なあ、アル」「たぶんな・・・」「・・・念のためだ」二丁拳銃でトドメ撃っておこうとする大十字九朗。
そういうことは戦いにおいてはたまにあることだが、念を入れることも大事なことだと。
 
 
「それより・・・・コンピューターを、止めてください!」
バビル二世の必死な声が。倒れたまま立ち上がる力もなく、潰れてかすれてしまっているが。緊急非常事態であるのは十分に伝わった。
 
 
「自爆プログラム作動中・・・・バビル二世ト招待客ノ皆様ハ至急、塔外へ避難シテクダサイ・・・」
 
そして、放送される機械音声を聞いて、完全に事情を悟る大十字九朗とアル・アジフ。
 
「自爆だとおう!!?」
「自爆じゃとう?!!・・・何を考えておるんじゃ、っと、そんな場合ではない!九朗、電源スイッチを切るのじゃ、切ってしまえ!」
「いいのか?コンピューターのスイッチなんか切って?バビル二世?いいんだよな!?データとかいろいろ大丈夫なんだよね?どっちかというとオレたち文系だからっ!!というかスイッチってどこ!?」
 
 
「アト三十秒」
 
 
いきなり最後通告になった。マザーマギュアを倒したんだから停止してもいいじゃん!!、とこの場にいる誰しも思ったが、コンピューターはそれほど融通のきくものではないのだ。
やるとなったらなんとしてもやりぬくのだ。そのスタイルは貫くのだ。スタイルだけの場合もあるが。