スーパーロボット七つ目大戦β
 
 
<終わりの塔と少女のルート>
 
 

 
 
 
アト三十秒
 
で自爆する
 
 
とか言われてもどうすることも出来ない。すべてを完全に諦めて投げ出して逃げることすら出来ない短時間とあっては、なんのためのアナウンスか、「神にでも祈れ」的な上から目線の意味無し猶予であるか・・・もしくは
 
 
己の「死」を、それも即座の秒殺を、望んでいるかのどちらかだろう。
 
 
主を含む、己を救出に来た者たちを巻き添えにしてしまうくらいならば、その時間が来る前に、自分を殺してくれと。コンピューターはいちいち言葉の裏まで説明してはくれないが、そういった意味でもなければその言葉はあまりに愚かであり、似つかわしくない。マザーマギュアもくたばり、ヨミも撤退した今、そりゃーあまりに無茶苦茶でござりますがな!と昔懐かしいつっこみをする時間も惜しい。そもそもバビル二世以下そんな体力もなく、動けるのは大十字九朗たちだけだが・・・・こんな時に活躍するのは今まで目立たなかったメカオタクとかであると相場が決まっており、今さっき間一髪で皆の危機を救って敵のボスをたたっ斬った純正アクション魔道ヒーロー・ヒロインであるふたりには荷が重かった。重すぎた。単純に「どうにかせよ」、という話であれば、修羅場をくぐり抜けてきているふたりならば、「どうするべきか」即座に判断できる。・・・この状況でも、ただどうにかするだけならば・・・・・三十秒でも十分すぎるほど。
 
 
 
デモンベインを召還すればいい。
 
 
それでもって塔を根こそぎ破壊・・・・消滅させてしまうしか、ない。
一体何しに来たのか分からなくなるが・・・・塔のマギュア支配を防いだという地球防衛的、正義観点では意味があろうが・・・・それは、塔の主、バビル二世にとっては。
 
 
今ドロン・ベルが根城にしている鳥取砂丘の第二バベルの塔があるにはある、そこにはメインコンピューターのバックアップにあたるウルミルダルもあるには、ある、が・・・
 
 
それでも、彼、バビル二世にとっては、ここバビルの塔のメインコンピューターは特別なのだ。人間味はまったくなし、現の主よりも創造者たるバビル一世の言いつけの方を優先している節もありありであるし、擬人化も色気も芸もなし、ただひたすら優秀なだけでおもしろみの欠片もないが、それは主も同じであるからそこがいいのだろう。
 
 
それを、この手で息の根を止める・・・・・・
 
 
彼にとってはただの計算機械でも軍師でもない、ほかに代えるものはない、かけがえのない大事な存在なのだ。自分にとっては九朗のような、それとともに抜き放つ無垢なる刃のような。他の者たちも立ち上がる体力もないだろうに、なんとかどうにかしようと這いあがろうと傷ついた体を無様なほどに震わせているのはそれが分かっているからだろう。
 
 
「なにか方法はないのか!!」
 
アル・アジフが吼えた。悔しいが、幾万の魔道の知識にもその解決法は記されていない。
口で吼えて心で術式を開始する。バビル二世に恨まれようと嘆かれようと、悪いが、他に方法はない。無力を詫びたいが、今はその時間すらない。任務は、失敗した。失敗した以上、おめおめと留まっているわけにはいかない。こうも分かりやすく限界を告げられているのだから。
 
 
召還するしかない・・・・・デモンベインを・・・
こんなことのために我らの剣はあるわけではないが・・・・・・
 
 
「こうっ・・・・なんかっ・・・緊急停止スイッチとかなんかねえのかよ!!コードとか千切れってんなら千切ってやる!どこかねえのかよ!!大昔の機械のくせに!!」
アル・アジフの決心が誰よりも理解できる大十字九朗も焦るが、ヒーローらしく一発逆転のアイデアも湧いてこない。だが、決断せねばつばさもヒカルもDDもオルディナも・・・バビル二世も、死ぬ。自分たちが、どうにかせねば、どうにもならぬ。怪しいキノコじゃあるまいし、なにもないところから奇跡など、生えてこない。
 
 
「・・・・・・・・−−−−−−・・・−−−!!!!」
銀河を渡る鳥のようにつばさとヒカルのフィギュアが絶唱した。フィギュアは人型で唇もあるが、発声することはない。美形であるがひたすら無言でパンチやキックを繰り出す姿はなんともストイックというか、冷厳な戦女神のようであったのだが、今は撃たれて墜ちた仲間を呼ぶ鳥のように。つばさとヒカルの心をそのまま表に出している。
だが、泣いたってだめである。主の声にも反応しないのに、コンピューターが聞き入れるはずもない。エンディングまで、泣くんじゃない。である。
 
 
「この唐突なカウントダウンは、やはりマザーマギュアの融合部分が停止妨害コマンドを打ち込んで介入していたせいか・・・・」
「それが無くなったから、自爆命令の即時発動?・・・・・優秀すぎる機械も考え物ね」
「だが、どうする!?なにか手はないのかオルディナ?」
「・・・時間が、なさすぎる・・・・・それに、体力も・・・立ても、しないのに・・」
 
分析は確かに正解であったが、当たったところで景品がもらえるわけでもない。今更ながらマギュアと地球の適合率の高さに改めて脅威を覚えるDD。下手をするとここはマギュアのホームになってしまうのではないか、ここを基地として繁殖増殖強大化したマギュアどもが宇宙に散らばり、いずれは自分たちの母星にも・・・・と考えると、ここで完全に消滅させられる・・・・というのも安堵と・・多少の福音では、あった。まあ、自分たちはとにかく、ヒカルと・・つばさは・・・なんとしても助かってほしかったが。
 
 
”どうか、介錯を”
 
 
と自分は彼らに告げるべきだ、とバビル二世は思っていた。大十字九朗、アル・アジフのふたりに。テレパスなど使わなくとも、なぜか、彼らの気持ちが分かった。心から血の涙を流すように懊悩しながら・・・・・・ここでとるべき唯一の選択を、デモンベインの召還を選ぼうとしている彼らに、自分がそう言葉をかけるべき、そうしなければならない、と理解しているのに・・・・・その言葉が出てこない。先に出たのは女々しい懇願。
彼らは十分以上によくやってくれた。彼らがいなければ、この塔はヨミのものですらない、おぞましい宇宙生物の巣窟になってしまっていた。そうして罪のない人々を苦しめていたとしたら・・・・自分は自分を許さない、このバビルの塔も、コンピューターも落胆するだろう・・・・だから、言うべきなのだ。彼らの心を少しでも軽くするために。
 
 
それは、塔の主たる自分の最終判断であるのだと。
 
 
それができないというのなら、主の資格はあるまい。
 
 
・・・・・・・告げよう
 
 
告げるべき、言葉を
 
 
 
涙が、流れた。
 
 
 
「・」
 
 
喉の奥から言葉が生まれ出る、その瞬間。自爆発動残り時間6,66秒。
 
 
ドッオオオオオオオオオオ・・・・・
かつて経験したことのない衝撃が、塔の中にいるすべてのものどもを突き上げた。
ダメージの形態だけでいうのならそれは激震であるが、身を震わすだけですまされなかった。魂の底の底まで凍りつくような絶対の無尽蔵の殺意・・・・種も名も姿も形も生まれも過去も未来も正邪もなんの区別もなくどこまでもひたすらに殺しにかかってくる・・・・
 
 
 
ぬしゃら
 
 
殺意は呼びかける。何の意図もなく、ただそれがつくられた目的のままに、呼びかける。
 
 
しねば いいべや
 
 
声は語る。ただそれだけを。なんの理由もなく。ただそれがつくられた目的のままに。
 
戦闘のダメージで弱り切ったつばさやヒカル、DDたちなど心臓が止まりかけた。これはコンピューターのやれる芸当ではない・・・・もっと混沌とした原初の何かだ。知能があるなし肉体構造の違いなど、関係がなかった、塔にまだ残るマギュアも弱い個体はその殺意が通り抜けていっただけで、生命活動を強制停止させられた。地球圏の死神も邪神も関係ない極悪宇宙生物が、炭坑のカナリアのようにバタバタと・・・・実際激震に踊らされながらそれを感知するのだから、あまりに特異な衝撃だった。これは自然現象、偶然の大地震でも・・・予告カウントを信用するなら自爆でもない・・・・誰かの、何者かの意思による「無差別攻撃」だった。過去、バベルの塔は何度も爆撃やヨミの攻撃を受けてきたが、それとは比較にならないレベルの衝撃。どういう攻撃をすればこの塔にこんなダメージを走らせることができるのか・・・・・想像も出来ない。塔を砂あそびの城くらいしか思わないほどの超巨大な巨人が現れてフライングボディプレスを決行しようとしたが目測をあやまって外した・・・・ような、それではあまりにもマンガであるが。いくらなんでも。一瞬、大十字九朗などは早まったアルの召還でタイミング外したデモンベインが転けたのかと思ったが・・・それでは、あの邪悪極まるオーラ疾走の説明がつかない。
 
 
オオオオオオオオオオオオオ・・・・・・・
 
 
濃縮された殺意込みの衝撃は渦を巻き塔を螺旋に駆け上っているらしい。どういった攻撃をすればこういうことになるのか・・・・攻撃した奴の顔を見てみたいが・・・ミキサーに放り込まれた野菜果物のように一方的にグタグタにされる一同。大十字九朗が慌てて身を挺してかばわなければその程度ですまなかった。あまりに殺意高すぎた。
バビル二世から言葉を奪い、アル・アジフと大十字九朗からデモンベイン召還のタイミングを奪い、そして、バベルの塔メインコンピューターを
 
 
「自爆・・・完了・・」
「自爆・・・完了?・・・」「自爆・・完了・・・」
「自爆・・・完了?・・・」「ダメージ計測レベル超級・・」
「計測不能ダメージが発生中」「計測不能レベルの衝撃発生観測」「計算上、塔機能の生存不可能」「自爆完了・・・」
 
 
「自爆完了」と「自爆完了・・・?」の結論と再確認を求める声が延々と続くループ状態にした。不気味なことこの上ないが・・・・・・一応、自爆を止めてはくれたらしい。
 
 
「どういうことだ・・・」全員をかばいきったのはいいが、その代わり自分もズタボロになった大十字九朗が痛みも忘れてあっけにとられて。
 
「よくわからんが・・・・・あの衝撃で配線がどこか切れた、などというなまやさしいことではなさそうだな・・・・・あの殺意を考えると・・・・さらに厄介な敵が近づいてきておるのかも・・・・・しれん」
塔殺しとは別の用途、本来の任のために己達の存在証明たる無垢なる刃を呼ぶ構えのアル・アジフ。外見こそ幼女であるが、このあたり戦慣れしすぎている。
 
「塔機能が混乱中であるなら、外部へ通信を・・・・・よし!、通じるぞ!」
戦闘力はともかく、あまり浮かれない性格はこういう場合役に立つDDである。
「・・・助かったの・・・わたしたち・・・そうじゃないの?」
かぼそい声で言うのはオルディナ。さすがにもう戦う気力などない。
 
「まだ・・変身といたらあぶないよね・・・」「・・・・だね」
コンピューターが何言っているのか分からないが、気を抜いていいかどうかくらいは読めるつばさとヒカル。子供の頭で判断するにはむつかしい状況であるが。
 
 
「コンピューター!!」
よたよた、と、駆け寄る、にはほど遠いスピードだが、心情的には空を飛ぶほどの気持ちでコンピュータのもとへゆくバビル二世。塔の主としては、さきほど塔に加えられた謎の強烈衝撃の調査をするべきなのだが・・・・・今の彼にはそれも酷だろうか。
実際、これ以上の戦闘はもう無理であっただろう。今のうちにコンピューターを完全に落ち着かせる必要もあった。これは彼にしかできないことだ。
 
 
「・・・・はい、そうです、・・・・そちらも大変なことでしたね・・・・ええ、そうです・・・こちらも全員無事です・・・・・で、塔周辺に敵は・・・・はい・・ええ・・・・では、回収をお願いします」
DDの通信連絡が終わった。全員を振り返り、「なんとか終わったようだ。ヒリュウ改もヨミの攻撃を受けたようだがKOS-MOSの支援もあり、なんとかこれを撃退したそうだ」安心させるよう笑顔をつくって言った。ふだん堅い表情の彼の笑顔にようやく一同一息つける。皆、限界だった。心意気は無限だとしても、やはり体力的に、それはある。
 
 
「先の・・・あの攻撃は、ヨミのものじゃったのか?」
それでも最年長者としてか、はいそうですか、と他の者のように気を抜かないアル・アジフ。戦闘経験が豊富なだけに、先の攻撃の異常性には敏感になっていた。邪神よりさらに禍々しいあの殺意・・・・。あのようなものを宿す者とはどうあっても、いかな事情があれ、共に天を戴くことなどできまい・・・・しかし、とても人のものとは思えない・・・ヨミとはそれほどの怪物であるのか・・・それをヒリュウ改の者たちはよくぞ撃退したものだが・・・・
 
 
「いや、それに関しての説明は長くなるからあとにさせてもらおう。皆、消耗もひどい」
DDの表情に裏を感じ取ったアル・アジフと大十字九朗は追求をひとまず止めておいた。
 
「あ、ああ・・・まあ、長くなるならばいたしかたない」
「そうだな」
敵の再攻撃があるかどうかはこの場合、死命を分ける重大事であるが、そんなことはDDも承知の上であろう。
 
「ここから艦に戻るのも・・・実際、今の自分たちにはかなり苦労な話だ。塔内の掃除もまだ残ってはいる・・・ヒリュウ改に回収を頼んでおいたから、ここで待機させてもらおう・・・・バビル二世、よろしいだろうか?」
 
「え?ええ・・・それで構いません。すべて、皆さんのおかげです・・・・お礼を言わせてください・・・・・ありがとうございました・・・」
無心でコンピューターと無言の対話をしていたバビル二世であるが、DDに声をかけられ少し己を取り戻した様子で深々と頭をさげた。
 
 
「あ・・・それは、いいんですけど・・・・あの・・・」
「ロデム君も早くどうにかしてあげてよ!ロデム君もがんばったんだから!」
変身を解いたつばさとヒカルが、やはり直接に会話もしてけなげにがんばったあの黒豹のことをもう少し気にかけるように要求する。大人にはちょっと遠慮して口にしにくいが、彼女たちの言うことは、正しい。
 
 
「それは・・・もちろん。ありがとう・・・ロデムのことを気にしてくれて」
バビル二世が、珍しい、ほんとうに珍しい、レア中のレアであろう、オルディナなどもハッとして思わずカメラを探ったほどの、「王子様スマイル」をみせた。
そのキュン死にさせられかねない笑顔が答え。ヒカルとつばさは満足した。自分たちにはまだ理解の至らない事柄であるかもしれないが、なんとなく、分かった。
 
 
 
「ご主人様!ご無事ですか!」
そこにあまりにも的確なタイミングで、登場するロデム。塔の機能がまともに戻りつつあるのとヨミが逃げたおかげで復帰したのだ。バビル二世がそれが分からぬはずがない。
 
そして、ロプロスに乗ったKOS-MOS、ポセイドンも到着すればしもべ勢揃い。
 
少々マギュアが残っていても、駆逐は時間の問題であった。実際、これまでの苦闘が冗談のようにサックリ解決した。塔中枢が味方になるのと敵になるのとでこうも違うものかと大十字九朗たちは内心微妙であった。塔の外にマギュアどもを追い出して巨大ロボたちで踏みつぶす、というのはもう・・・まあ、楽だからいいけど。スペランカー気分を満喫できたと思えば。
 
 
 

 
 
 
そして、塔の難題も片付き、ドロン・ベル本陣に帰ろうかというところで
 
 
「あれは、誰がやったんじゃ?」
 
 
大十字九朗を連れたアル・アジフがDDを呼び止めて問うた。あとで説明する、とはいったきりマギュア駆逐の仕事にかまけて何も言わぬ彼にさすがにシビレを切らせて用をかたして帰陣するこのタイミングで聞きにかかったわけだった。つばさやヒカルのいないところを選ぶ気遣いくらいはするが、このままごまかされてやるつもりはなかった。
よほど言いたくない話なのだろうが・・・・・
 
 
DDは苦虫を噛み潰した顔をする。「・・・言わねば、ならんか?」
忘れていた、わけではむろんなく、意識的に避けていたらしい。
 
 
「当たり前じゃ」
「出来ればな・・・・そうしてもらいてえ、な」
 
忘れられるはずもない。
塔から一歩外に出てみれば、砂漠は黒いガラス状の何かで出来た異形の庭園のようになっていた。悪夢のような絵画のような。あえてタイトルをつけるなら「万障の奇夜」といったところか。延々と、えんえんと続く。塔があのまま自爆したとてこうはなるまい。百回自爆したとてここまでの惨状にはなるまい。あまりの惨状を感知したコンピューターが既に己が地獄に落ちたのかと誤認識したとて不思議ではない。機械がそのように死に方を選んでみせるかどうかはまた別問題だが。とにかく、もとが砂漠であったとはいえ、こうもまるごと環境激変されると空恐ろしくなってくる・・・・あの時の衝撃はあくまで余波であり、塔周辺に神の災い・・・いわゆる天罰というやつだが、それが再び下ったものかと思わず邪推してしまうくらいだった。大破壊はブラックロッジとの戦闘で慣れてはいるが、それにしてもこれは・・・・不快で不安な想像ばかりが膨らんで非常に落ち着かない。あの威力を持ってすれば塔を制圧することなどたやすい・・・というか必要もなかろう。DDがその正体を知っているというのなら、是非口を割ってもらいたい。
だが、この男の気性からして秘密にするのは、相応以上の理由があるのだろう。
知らねばよかった、ということも世の中にはある。知ればかえって重荷になることも。
 
 
塔のまわりはすでに砂嵐に隠され、そのまま異形の庭園も砂に埋もれてしまうのだろう。
ここで何があったのか、遙か未来の考古学者が読み解くことにでもなろうか。
 
 
多分、今、自分たちも知らねばなるまい。
 
あの殺意・・・狂気ではない、本質的本能的な呟きにのせられた、ある意味、無垢な<ころさずにはいられない>・・・・兵器のこころ「人をころさない兵器なんてないんだよ?」・・・・剥き出しの真理を体現する者は誰であるのかを。直視すれば魂も干涸らびるに違いない眩しい光を放つ、間違いをなさない者。迷わぬ者、惑わぬ者、幻惑されぬ者。
おそらく、力を持つ者ほど、恐怖を禁じ得ない。それは、人の世の終わりに立つ者。
 
 
その姿を知る者は、長く生きない。
 
 
その姿を語る者も、長く生きない。
 
 
その姿を聞いた者も、おそらく同様。
 
 
なんの根拠もなく、子供が夜の幽霊を恐れるように、そんな恐れに背筋が冷えた。
 
が、それを二人は振り払う。それゆえに、知らねばなるまい。魔を断つ剣の使い手として。
 
 
「いいんだな・・・?」
DDはふたりの瞳を見て念を押した。重荷を分け合うことの喜びなどはない。背中を預けて戦うに値するほど勇敢な彼らにこんなことを言わねばならぬ、嘘のつけぬ己が恨めしい。あの通信で震える声のレフィーナ艦長にその事実を告げられて・・・まるで後悔しなかったといえば、嘘になる。嘘になるのだ。
 
 
アル・アジフ、大十字九朗、二人は力強く頷いた。全て、承知の上だと。
仕方がない・・・・・
 
 
 
 
そして、DDは”少女”の名を告げた。
 
 
「ちせ、だ」