スーパーロボット七つ目大戦β
 
 
<生まれる前から愛してましたルート>
 

 
「す、すいません・・・・・あの・・・」
 
ちせ、と呼ばれた女の子は、走ってきたのかどうか、顔を真っ赤にしている。
 
かわいい。
 
少し息をきらせて、言葉が緊張しているところなど、まるで登校待ち合わせの彼氏の気分になってしまう。思わず、いーよいーよ、そんなに走るなよ、いつまでも待っててやるから、などと言いたくなる葛城ミサトである。メラメラと世話を焼きたくなる風情である。
 
まあ、緊急事態ではないのだろうが、なんか困りごとというか、はっきりと会議中である、近寄るべからず、なんて野暮なことはいっていないが、わざわざ宴会場からくるくらいだ。
なんか、あるのだろう。なんか、大事な用事が。「ん?そんなあわてなくていいから」
そのおかげで救われたせいもあるが、鷹揚な葛城ミサト。
 
「コホン・・」
座敷の中は多少といわず酒くさく、こういう少女にのぞかれてしまうにはちと恥ずかしいもんがあり、浴衣の襟をなおしたりするその他の首脳陣。
 
 
「あの・・・・し、失礼して、あがっても・・・いやでも・・・やっぱりいいです・・・でも、あの・・・・・あ・・・・か、葛城さん・・・・か、肩をもんでも、も、もませてもらっても・・・い、いいでしょうか・・・・・・」
たどたどしい、というか、だんだんとうつむくにつれ、声は小さくなり、顔はますます赤になり、さらに内容も不明瞭になっていく、ちせの用事。
 
 
「は?」
 
 
一瞬、なんのことだか分からなかったが、ちせの人となりを考慮にいれて「肩もみ」というパスワードから解析していくと、それは「慰労」というところにまずは行き着く。
 
頭脳労働で疲れて肩がさんざんこっているだろう人たちの疲れをとってあげよう、というやさしい彼女の心遣い・・・・・・・というか、もしやロジャーさんがそのように仕込んでいるのか・・・ちろ、と横目でみるが、小さな彼女の大きな鉄盾、保護者たるロジャー・スミスもあっけにとられている。レフィーナ艦長も似たような結論に届いたか「まあまあ」と感心したような笑顔を浮かべているし、ショーン副長は「うらやましいですなあ」などとひやかしてくるし。城田氏は微妙。現代の女子高生でこんなにできた心根をもっていることは喜ばしいのだろうが、信じられないような気もするのだろう。つるが恩返しにやってきたような目でみている。「女の子って・・・・」R・ドロシーもつぶやいた。
 
 
「い、いいでしょうか・・・・・」もう一度、たずねられる。
 
 
「は、はあ・・・・じゃ、じゃあ・・・お願いしようかしら・・・・・」
真っ赤な顔でうつむき加減のちせちゃんにこう聞かれて、断れるやつは人間ではない。
別に、あなたの首をください、って話じゃない。肩をもんでくれる、というのだ。
 
「べつに、かまいません・・・よね?」他の皆に許可をもらうことでもないが。
「ま、まあ・・・本人が希望しているなら・・・」ロジャー・スミスも釈然とはしないものの、悪行どころかほめられてもいいことなので、うなづくしかない。
 
 
座敷に上がったちせは、「じゃあ、失礼します・・・・」と小さな手でもみはじめた。
 
もみもみ・・・・・・・・・もみもみ・・・・・・・・だまって、一生懸命に。
 
「お客さん、こってますねえ」などと軽口のひとつもあればいいが、反応に困る。
29歳葛城ミサトの年齢不相応なそこらへんのオヤジを軽く凌駕するコリコリどころかもはやゴリゴリの凝りにはちせの小さな手と体ではパワーが足りなかった。
端で見ている者にもそれが分かる。肩もみを見守る・・・・・・・妙な空気であった。
 
 
それは、逆さにすれば、ドロン・ベルと”ちせ”というこの最終兵器な少女の関係のようでもあった。
 
 
 
「うん、もういいわ。あー、気持ちよかった!ありがとう」
適当に息がついたところで終わらせる。多分に足りないが、それではきりがない。
周りをみても、まさか、自分もやってくれ、という者はいない。もちろんロジャーさんも。
 
 
「え・・・?そうですか・・・まだ・・・」
「いやいや。あんまりやりすぎると胸が垂れてくるとか言うし」
「え?そうなんですか?う、うわー・・・・どうしよう」
 
 
もちろん冗談だ。そんなの本気にしてどうする。しかし、かわいいからゆるそう。
思わず、おこづかいをあげたくなっちゃうなあ。「冗談冗談、でもありがと。気持ちは十分うけとってヒーリングで癒されたから十分よ。さあ、これから忙しくなるか今日のうちに思う存分遊んでおきなさい!まだまだ宴会場ではいろいろ元気してるんでしょ」
 
怪奇温泉みたいな都合のいい場所はそうはないのだ。これにて全員の忠誠度が初期値まで回復、とか。シュミレーションRPGならあるんでしょうねえ。てはは。大将の自分が気を遣われてどうすんのかねえ・・・・・と、反省しつつも、どうもちょっち涙腺のあたりが。
「いやー。ちょっと酔ったかなあ・・・・お酒くさかったかもしれない、ごめんね」
 
 
「そんなこと・・・・・ほんのちょっとだけです!そ、それじゃあ、失礼しますっ!ごめんなさい、すみませんでした!」
そして、ちせはまた走っていってしまった。パタパタとスリッパの音が。
 
「いい子ですなあ・・・・・・」ショーン副長がしみじみと。
 
 
 
・・・・・・・ここで終われば「休暇におけるちょっといい話」で片付いたのだが。
 
未だしつこく残る肩こりと同じで、常に物事の裏面をみようとする、多くの可能性を探ろうとする作戦家の性が、それをゆるしてくれない。だが、あえて、口には出さない。
ちせちゃんがかわいいからである。
 
 
「それじゃあ、気を取り直して」また懐から紙を取り出す葛城ミサト。
「・・・・・・・続き、いきましょうか」
 
 
皆、うなづく。
 
 
技名:未定
機体:ダイガード・ビッグオー
説明:
1)ノットバスターで従来よりも大型のパイルを打ち込む。
2)打ち込んだパイルを食い込ませたまま残してダイガード後退
3)パイル底部にダイガードが鉄拳を打ち込む。
ダイガードの正確無比に急所を打抜く攻撃をビッグオーの威力でパワーアップ!
ダイガード単体で打抜けないようなぶ厚い装甲も貫通して急所に一撃です。
より大型のパイル製造と、それを打ち出すノットバスターの改造が要りそうです
が。問題は技名。思いつきません。メガトンノットバスター。メガノットバスター。
ノットパイル・メガシュート。
 
 
「インパクトバスターという名前はどうでしょうかな」
「ふふむ・・・・・・なるほどなるほど・・・・・・」
城田氏とロジャー・スミスの機嫌がよくなる。とたんに。今まで大人として不機嫌だったわけでは”決して”ないが。
 
 
「ヒリュウ改のはないんでしょうか・・・・・・」
「ザブングルにでてきたICBM投げをまねした戦艦投げ、なんていうのが出てきたら困るでしょう・・・艦長」
「はあ・・・ちょっと残念です・・・」
「近年は戦艦でもカットインがありますから」
レフィーナ艦長とショーン副長がこそこそと。
 
 
「歓喜の歌、の発展系として、こういうのもありますよ」
あなたにはちょっと微妙かもしれないけど、と紫東遙のほうを見ながら。
 
 
指揮:
カヲル/エヴァ四号機
 
歌い手:
神名綾人・美嶋玲香
ラーゼフォン・ミーゼフォン
 
ヴィオラ:リィ・アマーティ
綾波レイ/エヴァ零号機
 
コーラス:ロプロス
 
 
「ラーゼフォンの弓に少々手を入れて竪琴として使用するとか。・・・・・あれ」
 
 
言いかけて、また座敷の外ふすまの向こうに誰か立っている気配を感じる葛城ミサト。
「誰?」
これまた仲居さんではない。
 
 
「すみません、会議中に」答えた声はバビル2世だった。
 
 
相変わらず、腹の中が読めないというか不思議な少年だが、なんせ真面目なことは間違いない。もしかして。鳥取入りしながらこんなところで宴会などしているのが頭にきたのかもしれない・・・・なんせヨミを倒すことしか頭になさそうだし。バビルの塔の使用許可を取り消されたらえらいことだ。
 
 
「ああ、ちょっと待ってね」急いでふすまをあける葛城ミサト。へたなごまかしが通用する相手ではないので正直に本音を即答した方がいい・・・そう思っていたところに。
 
 
「生まれる前から愛してました」
 
 
バビル2世から真顔で告白された。