スーパーロボット七つ目大戦β
<Quartett!ルート>
「なかなか調子よくいってるみたいじゃないの」
砂丘で行われる合体攻撃の練習光景を見ながら、葛城ミサトが満足げにいう。まるで甲子園出場を果たした野球部の練習を見に来た校長先生のようである。ちなみに、ここはベンチでもネット裏でもない、バビルの塔のテラスである。目がいい葛城ミサトであればここは特等席、これで眼下にひれふす民衆でもいれば古代の王様気分にもなれる。
ロボ・クラナドとして、鳥取砂丘は第二バベルの塔、通称、バビルの塔に本拠地をかまえることにした葛城ミサトを首領とするヒリュウ改の一行は、とある温泉で骨休みをとった後、ここに簡単な引っ越しをした。直行せずに、鋭気を養った後で塔入りしたのはおおむね正解だった。各自スタッフの働きのいいこと。葛城ミサトが鳥取市長に表敬訪問しにいったらもう引っ越しが全部済んでいたくらいである。
ドロン・ベル首領、ロボ・クラナド代表、二つの顔を持つ、天下無双のうそつきおんな、葛城ミサトが皆を集めていうことは・・・・「国民よ、立て!」といったたぐいのことではない。全く、今更、こんな”正義の砦”、たてこもるのは変わり者に決まっており、戦闘意欲と意志の強さはいうまでもない。悪党の豊作の年、これほど分かりやすく反抗の意欲に燃えた戦闘集団はない。改めて言うことは単純でいい。やるべきことを優先順位をつけて、簡単に、はっきりと。かといって、悪と戦う!とだけ言われてもそれは単なるバカだといえ先行き不安となる。そんなわけで、当面やるべきことは・・・・・
その1,そろそろヒリュウ改にはっきりと世間様に分かるような手柄をたててもらう。かといって、こんなところで軍にもっていたかれた日には足に困るので、ロボ・クラナドとの協力態勢をアピールしながら。もちろん、軍との正式交渉はロジャー・スミス氏が行う。
その2,居候させてもらう大きな借りができたので、ヨミのいぶりだし。これはもちろん、ドロン・ベルにしかできないので、裏街道でがんばる。ヨミのほうでもバビル2世をライバル視しており、実はバベルの塔にも住みたかったらしく、自分たちが店子になった情報をつかめば、プライドも高いらしいので黙っておらぬだろう。
その3,パイロットたちには「合体攻撃」を習得してもらう。もちろん、戦力アップのためである。単なる趣味などではない。
・・・・だいたい、こんなもんであり、その3も、あっさり了承された。
引き続き、新ロボットの加入の件もつけてはあったが、皆、その点はあまり期待していなかった。こんな状況であれば、義を見てせざるは!という者はロンド・ベルに駆けつけるだろうからだ。あんまり増えすぎてもなあ・・・・という贅沢なことは考えているわけではない。
そして。
バビルの塔暮らしが始まり。ほとんどの者が塔暮らしなんぞやったことがないので、なかなかにハプニング続出であったが、戦艦暮らしに比べると地に足がついているだけ、なじむのは早い。しばらくは状況分析、情報収集がメインで、大きな戦闘行動はない。
どこぞの街に悪党軍団が散発的に暴れていると、小隊ごとに駆けつけて追い払うくらいのことはやる。
・・・・・ぶっちゃけていうと、「経験値稼ぎ」「レベル上げ」のようなことをやっていた。・・・・・・重要なことである。
ラーとミーの、ゼフォンデュオ、神名綾人と美嶋怜香のふたりはそのものズバリ、卵から殻をつけた雛から、ようやく羽ばたくことを覚え始めたレベルであり、文明保全財団からのレンタルロボット、ヴァヴェルたちなど、そもそも自分のもんではないロボットを操るフィギュア組にしてもほめ殺しでもベテラン、などといえたもんではない。多少はレベルの格差を埋めておかないと大変なことになる。
渚カヲルが捕獲、いやさ戦場で説得、つまりはスカウトしてきた九十九式のアラド・バランガも新人であるから、それもまた鍛えておかないといけない。さらにいうなら、へテロダイン退治のプロである、ダイ・ガードも、それほど戦慣れしているわけではない。
・・・・あらためて、「これからがんばりましょう」的メンツであるのがわかる。
ドロン・ベルがでしゃばらないのは非常に正解である。
パイロットの教官役になれそうなのは、渚カヲル、バビル2世、大十字九朗、アル・アジフ、といったところ。ロジャー・スミスは交渉が忙しいので除外される。綾波レイも惣流アスカも好んで人に教えようという口ではないし、やはり若すぎる。
「ここらで百戦錬磨の渋系のオッサンパイロットとか加入しないかしらね・・・」葛城ミサトはため息つくが、そんな人材が自分とこにくるわけがないのもまた承知している。
エヴァ四号機、デモンベイン、この二機に負担強すぎ、偏重するのはどうもこの先、やばいなーと思う首領様であった。誰にもいえぬことである。決定力不足・・・・なんかサッカーの監督のようなことだが、実際そうなのである。圧倒的な破壊力に欠ける。
悪党軍団のボスくらいになれば信じられぬほどの体力があり、取り囲んでたこ殴りにしようとしたところをことごとく、反撃で沈められることも考えらえる・・・・・・
手数で判定勝ち、なんてことはありえない。必ず倒す、必殺の威力が、必要になる!
口調や切り出し方がどうも冗談めいているが、作戦家、葛城ミサトとして自軍戦力がどこらへんでつまづくことになるか、察しがついている。将来の不安に先んじて気づくことは総量として不安、ストレスの量が増大することでもある。ハルシオンデイズ。解消できなければそれは。
合体攻撃はそのためである。その練習がうまくいっている光景を見ることは、葛城ミサトにとって、何十錠のお薬よりも精神に効く。逆に、もし、うまくいっていなければ・・・
その精神的ダメージは甚大なものとなる。決して、顔には出さないとしても。
「綾人くんと怜香ちゃんもがんばってる。ロジャーさんの代わりにドロシーちゃんが乗ってビッグオー相手にダイ・ガードチームもがんばってる。一人でイメージトレーニングしながらアラドくんもがんばってる。フィギュア組もがんばってる。・・・・バビル2世の監督がやっぱりうまいのかね。宇宙人相手でもツボというかチャンネルがあってるっていうか・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・で」
傍らの望遠鏡を手に取る葛城ミサト。一番破壊力があって危険な技なので遠くでやっているのだ。技の名前は「キュボラプリズン」。エヴァ三体とデモンベインが放つ、特殊な・・・マップ兵器に認定してもいいくらいの絶大威力の技。これには期待してるんだが。
「いいかげんにしろ、アルっっ!!」
遠くから、魔力で拡大されたものか、珍しく大十字九朗が怒った声が塔まで届く。
「まじめにやれよっ!なんで”ここ一番”でレムリアインパクトの出力が萎え萎えになるんだよ!いくら姫さんのコードがいらねえからって・・・・俺たちだけでやってることじゃないんだぞ!!」
「き、気分がのらぬのだ!!手をぬいておるわけではない!ま、魔術は精神の波が」
「昨日もそんなこと言ってたじゃねえか!今日はかんべんしねえ!!」
「あーあ・・・・・・・・・」
うめく葛城ミサト。民衆の反乱にショックを受けた古代の女王のごとくテラスにへたりこむ。ああ、脱毛しそう・・・。
この調子では必殺の四重奏にはまだ遠い・・・みたいだ。
宴会の時の、王様ゲーム。つばさと大十字九朗編。”あれ”がまずかったのかもしれない。お遊びといえばお遊びなのだが、まー、アルちゃんにはかんべんならなかったのだろう。あの外見と態度でものすごい、となりのやきもちでくびでもつろうかってくらいの、焼き餅やきなのだ。魔術でも抗議でもゲームの妨害をやらなかったのはその時はくらった大酒がまわって寝ていたらしい、・・・・・酔いが覚めたそのあとだ。猛烈に機嫌が悪くなったのは。寝ていた間のゲームの内容を聞いて。つばさちゃんにあたるほど子供じゃないようだけど・・・・ちなみに、バカ正直に聞かれてそのまま答えたのはレイだ。「・・・まあ、ウエスト博士とエルザも黙ってりゃ教えただろうけど・・・」よりにもよって、だ。妙なことにアルちゃんとレイが仲がいい、というのもこの場合、裏目にでたわけだ。
アスカとのケンカはまだ予想できたけど、こんな障害が起こるとは・・・・・
おそるべし、王様ゲーム!”聖域”はすべて制覇されとんのに、仕組みはなし、という。
九朗君は、”やれやれ、アルが寝てる間のことで助かったぜ、セーフ”、などと思っており、そんなことは過去のメモリーであるからパートナーの不調の見当がつかないので、まあ、話はややこしくなる。
傍観するのはさぞ楽しいのだろうが、人ごとではない、自分たちの身に降りかかってくるので頭がいたい。