スーパーロボット七つ目大戦β
 
 
<鉄爺ルート>
 
 

 
 
ロボットがたった一機で、バビルの塔の前にやってきている。
 
 
最初にこのことを聞いて葛城ミサトが思ったのは、自分に「もしかして願望達成能力があるのでは?」ということであり、腹の底で考えていた、グルンガスト参式、ゼンガー・ゾンボルトがやってきたのではないかということだった。その時は本気でそう思ったのだ。都合がいい、虫がいい、ずーずーしすぎる、といわれてもしょうがないが、今の状況を考えてみるがいい、自分の望むとおりに空中戦艦を手に入れ、募集に応じてロボットもやってきたし、ティターンズという大勢力相手に一機も失わずひどい目にあわせもした。そしてまた本拠地まで手に入れた。・・・・お前さんの所有になったわけじゃなかろうという正当なつっこみはスルーするとして、葛城ミサトが少々頭にのっていたのも人間として無理はなかろう。夢をみたとて責められるものではない。どこぞで自分たちのささやかな活躍を聞きつけたゼンガーが、半分見捨てたような形の艦の奮戦に感じ入り、矢も立てもたまらずに駆けつけることにした・・・・という美しすぎるストーリーを想定したとしても
 
 
それらは、すぐに終わってしまうものなのだから。
バクチでいつも勝ち続けられるわけがないように。
 
 
そして、喜び勇んでウルミルダルのあるバビルの塔司令室に一番乗りで入ったとき、ほかにはバビル2世しかおらず、モニターにうつされた砂塵陽炎の結界の向こうにいる、「そのロボット」の姿を見た瞬間、
 
 
「え?」
 
 
ピンゾロ、ファンブル、なんといってもいいが、ほくほく顔の葛城ミサトが凍りついた。
 
 
”骨董品”がそこにいた。砂の嵐と陽炎と、そして歴史背負った鉄の巨人・・・・・
 
 
重厚なホラ貝の音を聞いたような気がした。
見なかったことにしたかった。まずい!、なんか誤解されてるのじゃなかろうか。
”あれ”はまずすぎる。ウルミルダルからデータを伝えられるまでもなく、この参戦を決めた時のロボット業界をひととおり調べた時に”その名”を一応、知ってはいたのだ。
 
ちろ・・・、とどこか泣きそうな顔でバビル2世を見る葛城ミサト。
 
「よりにもよって元祖だし・・・・せめてFXくらいなら・・・」
ささ・・・、それを超能力で事前に察知していたバビル2世はモニターを見上げることで視線を合わせない。
 
「先方はあなたとの会談を希望しています」
 
「はあ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
 
 
「この時期に入隊希望者ですか!それはうれしい誤算です・・・・・・・・ね」
「おそらく、かなりの実力者に間違いない・・・この混沌とした状況に、あえて立つ・・・・・それが証明して・・・して・・・」
紫東遙と城田氏も駆けつけてきてモニターを見て同じようにあっけにとられる。
スーパーロボット業界では小学生がパイロットをやっても驚くには値しない。宇宙人の力を借りるとはいえ、その肉体でガチンコやるつばさのような例もあるのだから。
それなのに。首領と同じように固まってしまう。
 
 
「まいったなあ・・・・・・・」刑事コロンボよろしく、頭をがりがりやる葛城ミサト。
 
 
 
鉄人28号・・・・・
 
 
確かにものすごく有名ではあるのだ。ものすごく。この業界の最長老といっていい。
ずんぐりとした、ミサイルが帽子をかぶっているようなフォルム。ビルの谷間から夜のハイウェイからガオーと立ち上がるその雄姿に悪党どもはおそれののいて小便をちびったものだ。リモコンでその巨大なパワーは遠隔操作され、そのリモコンを操作する相手のいうことだけを聞くものだから、それを手に入れた悪党の言うこともきいてしまうというノー判断、犬よりも恩知らずな忠義ぶりに正義の側も戦々恐々とさせられたという伝説の機体。
 
 
その伝説の機体の足下でリモコンを操作しているのが、金田正太郎老人。
 
順当に年をとって昔の少年もいまや立派な老人である。もちろん悪党と戦う一線からはとっくのとうに引き上げて、鉄人もろとも引退、瀬戸内海のどこぞの島で隠遁生活を送っていたはずだ。どこでどう手にしたものかネルフも一目置くほども資金を所有しており、正太翁、と呼ばないと怒る・・・とか。子供の頃から悪党と戦ってきたせいか、年を経るごとにかなり気難しい性格になってしまったとか・・・・いろいろと噂がある。
 
「うーん、このツラ構え・・・・・典型的な横山悪人系ですけど・・・・・」
「し、視線が厳しいだけです。それは、偏見というものです」
年取ったらみんな同じ顔じゃん、という葛城ミサトの内心を看破しながらバビル2世が擁護した。
 
 
その伝説の機体と伝説の操縦者が、今、バビルの塔の前に。
 
 
まさか、戦いを挑みにきたわけであるまいが・・・・・・圧倒されてしまうなんとなく。このまま黙殺してもよかったが、ばた、とか倒れられて、「伝説の老人、砂丘で死す」「ロボ・クラナド、訪問老人を見捨てる」、とかなんてことになったらさすがに寝覚めが悪い。
 
 
「いれてあげて・・・・・・わたしがお話しますから」