スーパーロボット七つ目大戦γ
 
 
<黄雷のガクトゥーンルート6>
 
 

 
 
 
問題:雷電魔人・ニコラ・テスラの最大の弱点とは?
 
 
解答:「本物」の、雷電魔人であること。
 
 
その異能を表した呼び名などではなく、そのまま、まさにそのままの人の形をとった「雷電」・・・その有り様は、科学であるより魔術に近く、しかしてその真実は、その二つよりも遠い「幻想」・・・現実の「世界」とは、元来、相性が悪い。強いが、儚い。
無敵だが、いずれ味方にも、守ってきた者たちにも忘れ去られる。
 
いないはずの、おとぎ話のような、ヒーロー。
 
強い輝きで悪を切り裂くが、ふと目を離せば、もうその姿は
 
 
その存在をこの世界につなぎ止める方法は、彼のことを覚えていること。
記憶することが、錨となって彼をつなぎ止める。
そして、人の貴い証である「輝き」を得ることで、彼は無尽の力を発揮する。
 
 
「輝き」イコール「愛」なのか、はニコラ・テスラも明言していないが、まあ、ニアイコールであろう。「輝き」ことネオン・スカラがいるのといないのとでは出力が違いすぎることから考えるに。愛戦士・ニコルならぬ、愛戦士・ニコラ。
 
 
 
「偽物であれば良かったのだがな・・・クククク」
 
シュバルツバルトが嘲笑った。正義を罠にハメて無力化して下に眺めるのは、悪役として最高の時間であった。ここで高笑いするようなら、負けフラグであるから安心できるが。
 
 
だが、今回の罠はもうちょっと直接的であり、この蒸気機関の発達した1900年代のマルセイユには、というより、現代の一般流通にも流れることはない悪党宇宙コネクションから購入してきた超大容量バッテリーにニコラ・テスラは縛り付けられていた。
 
正確には、自ら張り付いていた。
 
なんせ電気だからである。バッテリーの方にイヤでも流れていってしまうのであった。愛も輝きも関係なかった。さすがにそこらのスーパーで売っている乾電池程度ではこんなことにはならないが、宇宙の科学力はひと味違った。
もしかすると、広い宇宙には、ニコラ・テスラのような生態の生命体もいるのかもしれぬ。
 
 
「くっ・・・・」
だが、そんな仲間がいるかもしれぬ期待に心躍らせる状況ではない!明らかにない!
シュバルツバルトをにらみつけるニコラ・テスラ。吸い取られてあまり力がないが。
 
 
「虚偽、というものは、便利なようでいて・・・一度しか使えぬ所が不便だ・・・
そう思わないか?」
「・・・・・・・」何か言い返してやりたい所であるが沈黙を守るニコラ・テスラ。
今は反撃の時のために、力は温存の一手。
 
 
予想外の、準備の良さだった。これが巨大ロボ同士のガチンコであれば、絶対に負けぬ自信があったのだが・・・・。己が、本物真実の雷電魔人でなければ・・・こんな罠にひっかかることもなかった。いかにも悪巧みしてきそうなビジュアルだったのに・・・・一旦退いて相手の弱点を調べて再アタック、という選択を選ばなかったのが悔やまれる。
 
最大の弱点であるネオンの保護を完璧にしたゆえの気の緩み、油断があった。
 
ランプの魔神の気持ちがよく分かった。この屈辱状態から無関係の第三者が解放してくれたなら、多少のサーヴィスはしてやろうという気にもなる。だが、こんな学園スラムの廃屋に無関係のしかも善意の第三者など寄りつくはずもない。しかもそれなりの実力というか異能を備えていないと、被害者が増えるだけの話であり。それも望むところではない。
 
 
「虚偽のない、真実の存在であるお前には、これからいくつか役割を果たしてもらうとしよう・・・・」
 
悪党の出してくる情報は貴重なのだが・・・・・だめだ・・・電気を吸い取られすぎて朦朧としてきた・・・それでも、歯を食いしばって耐えて聞き逃しがないようにした所、
 
 
1,人質役として、ドロシーを呼び出す
 
2,その後も、限界ギリギリまで電気を吸い上げ完全無力化した所で、「忘却」のシステムを解析し、「精神コマンダーゼロ」なる兵器の器として再利用すること
 
3、電気騎士もついでに奪い、正義のロボット軍団襲撃に使用する・・・などと!!
 
 
・・・最悪だった。己を頼ってきた依頼人に己の油断で危害が加えられる状況になるやも、ということだけでも耐えられぬほどであるのに・・・悪の走狗に成り下がれ、だと・・・!!「・・・解析がうまくいけば・・・男も器になれる可能性が出てくる・・・」とか言っていたような・・・「そうなれば・・・どういうことが起きるか・・・クククク・・・正義も悪もどうでもいい・・・私が知りたいのは真実だ・・・虚偽を剥がすには・・」
 
最後の力を振り絞ってここに電気騎士を召喚したいが・・・・・それをやればやったで、ここいら一帯がどうなるか・・・そして、対抗策を用意せぬほど甘くもなかろう。
 
せめてもの救いは・・・・あのアンドロイド、人ならぬ人、ドロシーにとって己の存在が人質の役を果たすとは思えぬ事。彼女は依頼した側で、こちらはされた側であり、脅迫されたところで、応じる義務はない。それこそ、合理的判断というものだ・・・・。
 
悪党め、そこを見誤ったな、と言いたいが・・・なんか悪い予感がしていた。
 
シュバルツバルトのようなこれだけ下調べを欠かさない系の悪が、そこで計算違いをするのも・・・・考えにくく・・・・は、あった。来るな!来るなよ!来てはいけない!
脅迫の王道、「じぶんひとりでこい」などという文言に従う必要など一切ないぞ!
 
 
「・・・あのアンドロイドの娘は来るぞ。必ずな。そして、アレも精神コマンダーゼロの器とする・・・・クククク・・・・そうなれば、ロジャー・スミスは・・・カカカカ!」
因縁があるらしい。その笑いだけがこれまでと違っていた。ニコラ・テスラの立場的にはあまり変わりはないが。自分のやりたいことはやりつつ、属する陣営の利益も一見、押さえつつ、最終損益がどうなろうと知ったことではないという・・・・なかなかのタチの悪さ。悪党だから嫌われる勇気凜々で生きているのかもしれないが・・・・
 
 
だが、自力でどうにかできる状態ではない。悔しいが、シンプルなだけにどうしようもない。さまざまな苦難苦闘を乗り越えてもきたが・・・結局、こういうシンプルな罠が一番怖い。弱点をピンポイントで突かれている以上、逆転は非常に困難。基本的に単体で活動するニコラ・テスラであり、こんな時、救助に来てくれる頼れる仲間は・・・
 
 
おねがい、ひとりで いかないで
ひとりで すべてを かかえこないで もう
わたしは ひとりで ひとりきりで
そらのはて きえてゆく
 
 
「quaerere」(黄雷のガクトゥーンED)が聞こえるにはまだ早い。探し、尋ね、努力し、不足しても、望む。
 
 
ドドドド・・・・・
 
石畳を踏み軋ませる音が聞こえた。ガーニーでもない、単体でかなり重量のある疾走する”何か”が、高速でこちらに接近してきている。五体満足であれば、もう少し正確な感知ができるのだが・・・もう機械籠手もはめられぬようになっていた。人間ではありえない速度だが、それでいて、人間でしかありえない意思を、強く感じる。本能による逃走ではなく、目的を完遂させる強固な意志。ああ、これは・・・己を救いに来た・・・足音。
 
 
「く・・・くるな・・・・!来ては・・・・」声を振り絞っても掠れるそれが、届くより早く。ドロシーはその姿に反比例してかなりパワフルらしかったが、それも折り込み済みのシュバルツバルトは、こうも賑やかに来られたら100%楽勝で捕獲するだろう。
 
なんかこう、もう少し・・・意外な方向で相手の意表を突くところから攻めねば・・・
あ、いや、ダメだしなど出来る立場でないのは重々承知なのだが・・・・それでも・・・
 
 
「なかなか早かったな・・・・迷うことがないのも素晴らしい・・・その分だけ、ロジャー・スミスの苦悩に歪む顔を拝むZeit!!
 
 
いきなりドイツ語になりながら、シュバルツバルトがぶっ飛んだ。
 
 
これには百戦錬磨のニコラ・テスラの目も丸くなった。「だ、誰だ・・・・?」
 
目も霞んでいるので、白黒の・・鳥のように見えた。それでいて、サイズは人並み。
 
つまりは、白黒っぽい鳥人間、ということになるが・・・痩せすぎのパンダでもあるまい問答無用というか、侵入即一撃をかましたわけで・・・やってることは怪学生というか明らかに犯罪だったが・・・緊急案件でもあるので、もし罪に問われてもいくらでも弁護するつもりでいた。いや、パンダであったらそれは野生の仕業なのでしょうがないが
 
 
「待ちに待ってた出番が来たぜ!ここはお任せ、逆転イッパツマン!!」
 
自己紹介してくれたので非常によく分かった。よく分からない部分もあったが、その声は明らかに正義の味方のソレ。悪党をぶっとばすのを日常業務にしている者のシンパシー。
信じるしかない。見栄をきってる間に、こっちも救出してくれたらなあ、と思っても。
 
 
ドガン!!
と、これまたでかい音がして入り口のドアが破壊され、黒い影が突入してきた。
 
 
「ニコラさん、御無事ですか」
 
これだけのことをしておきながら、声はまったく変化はない。表情も、あらゆる事柄に興味の針など振れることがないかのような零位置そのもの。だが、彼女の黒服が教える。
 
どれほど急いでここまで来たのか。急がねば、どうなるか全て解析理解し、責任を負うことを果たすことを知る細い肩は震えることもないけれど・・・・もはや灰に近く、破れ、毛羽立った面積の方が多くなってしまった彼女の黒い服が。
 
R・ドロシー・ウェインライト。構造としては人間ではないらしいが・・・その内には、まぎれもない・・・輝きを、感じた。
 
 
「・・・・これは、張りついていなければ、なんらかのペナルティが加えられる、ということでいいのかしら」
 
・・・これは、配慮されたのかもしれない。事情を知らなければ、好きでやっているように見えなくもない。鎖に繋がれてるわけでも牢に入れられているわけでもない。なぜその足で逃げないのかと問われると・・・辛いものがあった。
 
いろいろと感謝を込めて、無言で頷いたニコラ・テスラ。
 
「では・・・」罠の解除をするべきか、誘拐犯を制圧すべきか、とドロシーが判断を下す前に、「もう大丈夫だ。罠のスイッチは切った」白黒鳥男、ではない、逆転イッパツマン・・・「逆転」までが名前なのかどうなのか・・が、安心宣言。
 
 
シュバルツバルトは逃げたようだ。壁をぶち抜くようなぶっ飛ばされようであったから、普通の悪党はそれで終わりだが、あの三角頭はそうはいくまい。逆転イッパツマンがトドメにいかなかったのは、こちらのガード救出を優先したためだろう。やはり正義の関係者で間違いなさそうだ。
 
 
「感謝する・・・逆転イッパツマン・・・・それに、ドロシー、貴方にはお詫びのしようもない・・・」
 
吸電の罠から解放されてしまえば、口がきける程度には自然回復するニコラ・テスラ。
 
黒成分が多めのヒーロー、ヒロインに感謝と謝罪の意を伝える。滅多にないことであるから多少ぎこちなかったかもしれないが、ヒーローは好青年の見本のような笑顔で、ヒロインは変わらぬ平静さで、受け取ってくれた。なにせ、こんなことは慣れていないのだ。
助けることはあっても、助けられることなど。そのため超常の雷を宿している我が身。
まったくいいところなしに、ただ助けられた、など・・・ネオンたちに知られれば・・・
 
落胆、されるのだろうな・・・輝く涙の落ちる音が聞こえた気もしたが、それでも力は吸い取られるばかりで、なにも出来ず・・・「イッパツマン・・・・貴方はなぜここに・・・?」「説明はしますが・・・出来ましたら、そちらのテスラ氏の健康状態が心配ですので安全な場所に搬送した後でもよろしいでしょうか」「・・・そうね。彼、落ち込んでいるのね」
 
ぐさっっ。気を使われてしまった。なんだか一気におじいちゃんになった気分だ・・・
 
どうも彼らにもいろいろ話し合いたいことがあるようだが、自分を優先された。いや、まあ・・・まだ戦闘が出来るほどの回復状況ではないが・・・確かにかなり不甲斐ない有様だったわけで・・・・弱点を突かれることなど、百も承知だったはずで・・・・
 
 
「ニコラ!!」
 
その声とともに、輝きに包まれた。大きな、大きな輝き。つい先ほどまで、包まれていた重苦しいグレーの雲など、刹那で霧消した。人ならぬ我が身にこのようなこと・・・これもまた超常現象、いや、それすらも越える、奇跡。それをこんなことでたやすく起こす輝き・・・特別に貴い・・と認めざるを得ない・・・少しばかり会いたくもあり会いたくもなし知られたくなし、などと迷ってもいたが、それもなんと無意味。抱かれている。
「消えてないよね!?消えないですよね!?あなたの雷が・・・どんどん遠くなって・・」
激しく抱きついている赤桃色の髪が揺れて。双眸黄金瞳も涙に濡れているのか。虚ろだった身のうちにぐんぐん輝きが満たされていく・・・
 
 
「ネオン・・・・」
 
これで、こちらから抱きしめてしまったらどうなるのだろうか・・・などと思って我にかえる。なぜここに!?なぜネオンがここにいる?完璧な護衛を頼んだはず・・・
 
「あー、そちらのゴー?さん・・・・から連絡もらって・・・待ちきれないって言うし、エネルギー切れってんなら、誰よりもこの娘が急ぎで必要だろうしね」
「も、もちろん、これも罠の一環である可能性も計算に計算を重ねた結果、ドロシーさんの保護もありますしもはや同行した方が早い、ということになりまして・・・」
 
完璧なはずの護衛役、ジョセフィン・マーチとエミリー・デュ・シャトレが、ネオンを止められなかった、というあたりか。ドロシーのことを加算すれば、責めることなど。
 
ただ、二人とも「逆転イッパツマン」の姿を見て、顔に出すかどうか反応に困っていた。
 
「ゴー」というのが、彼のもうひとつの名前なのか。いずれにせよ、頼りになるが不思議な響き。「し、心配したんだから!しちゃったんだから!し、しなくていいって言われるかもしれないけど!心配だったんだから!!・・・・・・よ、よかったああ・・・・・・ニコラ・・・ほんとに・・・・あなたは・・・・」こちらもまた不可思議な、響き。
 
我が身の全てに響き渡っていく・・・・そして、湧き出す電力は・・・・どこから、などと野暮なことは・・・・いや、ちょっと待て?ニコラ?マスターではなく?こんな場所で?しかも、まだここは事件現場でもあり、逆転イッパツマンと依頼人のドロシー嬢が見ているド真ん前であり。ジョーとエミリーも微妙な顔でこちらを見ており。
 
ごほん。
 
引き剥がした。ネオンを。
もう十分すぎるほど充電できた。・・・・・そんな不満げな目で見るな。
TPOを弁えることは、大事だ。紳士として。淑女として。頬も膨らませるな。
 
 
「ば、場所を変えた方がいい・・だろう・・・我が屋敷に戻ることを提案したい」
 
エネルギーを充填され取り戻した全能にて感知するが、シュバルツバルトはもう学園都市にはいない。計画外の要素が加われば即時の撤退を辞さない・・・厄介な敵だ。
 
だが、二度の敗北はない。むしろ、すぐさま追撃にかかりたいほどの充電レベルであるが・・・そうもいくまい。落ち着いて、一旦話をする必要がある。だからネオン?なぜ皆に隠れてつねってくるのだ?・・・それすらなぜかエネルギーに変換されてしまう我も不思議と言えば不思議だが・・・ともあれ、提案は受け入れられて、ジョー達が運転してきたガーニーで屋敷に戻った。