スーパーロボット七つ目大戦γ
 
 
<黄雷のガクトゥーンルート7>
 
 

 
 
「体力は回復している。気遣いは無用」
 
 
ということで、情報交換の場となった。安全は確保されたとはいえ、シュバルツバルトは逃げ去り、時間を無駄にはできない。このまま大人しく引き下がるとは思えない。こちらがのんびり隙を見せれば、別種のより厄介な罠を仕掛けてくる可能性が高い。体勢を整えるためにも、相互の情報は必要だった。ニコラ・テスラとしても確認したい事項があった。屋敷の主にそう告げられれば、逆転イッパツマンこと豪 速九もその名の通り、剛速球で話を進めていく。
 
 
タイムリース社ご利用のお客様であったシュバルツバルト氏が反社会組織の一員であったことが判明したことにより、 利用契約を破棄、指定時代に届けられた物品も回収し、しかるべき公的機関に届け出る・・・あたりまでは決まったものの、実際にやれるかどうかは別の話であり、公表したらしたで悪党軍団に総攻撃されるに決まっている。
 
物品の回収は極秘裏に行い、最もタイムリース社に理解を示してくれそうな組織に渡す。
 
これが社長判断であり、それを指名で任されたのが逆転イッパツマンこと自分なのだと。
 
そのための特命チームも結成された。イッパツマンこと豪 速九をリーダーに、星ハルカ(イッパツウーマン)を副リーダーに、その他の実働メンバーとして、放夢ラン、ハル坊、2−3がいる。成人男性が一人しかいない陣容ではあるが、スピードを最優先にした必ずこのミッションをやり遂げるメンバー構成だ、と熱く語ったりもしたが、この場にいないのでニコラ・テスラもそのようなものかと信用した。男女に拘るのも愚かなことでもある。
 
 
その最速チームが「絵画モデル」という建前でシュバルツバルトが送り込んだ「精神コマンダーゼロ」の一つ、正義のロボット軍団を悪がコテンパンにできた原因、もちろんその隠匿に関わったなどと世間に知れてしまえば会社のイメージは地に落ちるだけではすまないアルティメットリスキー、”ミーア休息区司令”を配達直後の時間で回収してしまえばいいのだが、不確定要素があった。自らを人形だとして、この1900年代のマルセイユに送り込ませたドロシーである。ただの観光ではありえず、その目的が同じく回収であるなら・・・タイム的に困ったことが発生する可能性があった。すでに回収し終えたモノをえんえんと探し続ける・・・のも悲劇であるが、その程度ですまない場合もある。
 
 
何より、人のスジの問題として、我が社の不始末のために困難な遠い旅を選択した勇気ある者に、ひととおりの説明と心よりのお詫びをせねばならない・・・・
 
精神コマンダーゼロ回収と並行してドロシー捜索も行っており、100%ワルモノと判明したシュバルツバルトの行動予測が星ハルカによって行われ、ネゴシエイター・ロジャー・スミスとの因縁から、ご利用のお客様ドロシー様に危険が迫っておりその保護のため、現場に向かったところで、シュバルツバルトの罠にまんまとはまったニコラ・テスラがおり、その企みを防いだ、という・・・・
 
 
「・・・待ちに待っていた、というから・・・どこかに潜んで・・・出番を計っていた・・・のかとも思っていたが・・・」
プライドの問題があるから、口にはしないが、いたなら早めに助けてくれてもなあ、と雷電魔人だって思わなくもないのだ。いや、それは、助けてくれたのはあくまでドロシー嬢のついで、というか幸運だっただけで感謝しかないが。ないわけだが。
 
 
「あ。それは申し訳ない!実のところはギリギリセーフ、といった駆け込み具合だったのですが、つい、いつもの口上を使ってしまったのです」
イッパツマンにそう謝られてしまえば、納得するしかない。確かに、いつもの口上は大事だ。危機の時こそ、普段の口上でやることで、安定したパワーを出す。ヒーローはそうであらねば。分かる。超分かる。ニコラ・テスラの瞳が輝いた。蟠りは全て、晴れた。
 
 
戦闘面では、仲間に頼れず個人で解決するしかない、戦隊系ではない個人系ヒーローとして。ただ、悲観することはない。仕事とは、戦闘のみにあらず。役割分担というものがある。逆転イッパツマンが間に合ってくれたのも、情報の収集分析が適格かつ高速であったからであろうし、ドロシー嬢が求めていたという「精神コマンダーゼロ」も、彼らのチームがすでに回収して返送もしていた。なるほど仕事が早い。シュバルツバルトが消えたのもそれを察知してのことだったかもしれぬ。ここでのたのた回収しそこねていれば、逃げる駄賃にシュバルツバルトが持ち去っていたかもしれぬ。それはそれで皆の努力が水の泡。
 
見事なチームプレイといえた。
 
 
 
それに比べて・・・・雷電魔人たる自分は・・・・・・・・・・
 
 
顔には出さないが、落ち込んでしまうニコラ・テスラ。笑ってしまうほどいいところがひとつもなかった。間に合ったとはいえ、ドロシー嬢を大いなる危険にさらし、なによりネオンを泣かせてしまった・・・・・
 
 
 
「ごめんなさい、ミスター・テスラ」
 
 
その声の調子があまりにも感情の色がなさすぎるため、理解が追いつかない。それは謝罪だったのか、ならば、なんのための謝罪なのか・・・自分に告げられたそれは理解に遠く。
 
唐突なアンドロイドの真意が分かる者は・・・双眸黄金瞳を輝かせたネオン・・・それから・・・え?この場にいる全員?分からないのは自分だけ?どういうことだ?
同類項だと信じていた逆転イッパツマンでさえ神妙な顔して理解を示している。
謝るようなことは彼女は何もしていないはず・・・「どういう・・・ことだろうか?」
 
 
「わたしの行動は意味がないものだったのね・・・あなたに依頼したこともまた同じ。・・・この行為に後悔はないけれど・・・無意味にあなたを危険に巻き込んでしまった・・・」
 
 
ドロシーが、全く表情が変わらぬままに、言った。大人しく、黙って、人形のように、元の時代で待っていれば、なんの危険もなく、事態は改善されていたのだ。
その不完全な稼働。不安定なメモリー。ロジャーのリカバリーなんて・・・やる資格も。
もし、彼女が人間のように、表情を出すことが出来たなら、今はどういう顔をしていたのだろうか・・・・察して下さい、というある種の小狡さとも無縁のその白い面に
 
 
「「そんなことはない!」」
 
孤軍奮闘が定石であるところのヒーロー二人が、綺麗にハモった。
 
雷電魔人、ニコラ・テスラと逆転イッパツマンこと豪 速九。いかなる強悪にも叩きつけてきた、歪むことも曲がることもない、正義の否。歪ませ曲がらせぬための、直声。
 
 
「謝罪の必要は全くない!どころか、謝罪せねばならぬのはこちらだ!助手の不手際で保護されねばならぬ依頼人を危地に向かわせたのは、こちらの手抜かり!シュバルツバルトなる怪人にはこの雷電の身を捉える意図もあったことも確認されている!むしろ!我が身の捕獲を優先させたことで、ドロシー嬢への危機襲来が遅延されたのであれば、本望としかいいようがない!」
「R・ドロシー・ウェインライト様・・・いや!あえて、ここは呼び捨てにさせてもらおうドロシー君と!ドロシー君、その行為こそ、我が社が誤りから目覚めて混乱から早急に是正行動をとれる契機であったんだ!正直、君の勇気ある行動がなければ、恥ずかしながら我が社は未だ会議で行動を決めかねていただろう。精神コマンダーゼロを回収して君の部隊に届けてそれで終わりにするつもりは全くない!僕たちも参戦させてもらおう!勇気ある君の仲間として!」
 
 
ただ、同時に長セリフを気合いを込めまくって言うので、聞き取りにくかった。
 
 
「どっちかゆずりなさいよ・・・」と、ネオン、ジョー、エミリーが内心で突っ込んだ。
まあ、ドロシーはアンドロイドなのできっちり聞き取ってはいたが。
呼び捨て、といいつつ、ドロシー君づけなのは、豪の性格であろう。天然かもだが。
 
 
だが、天然だろうがなんだろうが、はっきりドロン・ベル、ロボ・クラナド入りを明言した以上、きっちりやりとげるであろう。ドロシーがここまでやらなければ、さすがのイッパツマンでも企業の力学的に現在豊作のフィーバー状態の悪党軍団にそこまでやれたかどうか・・・・あまり口が達者ではないアンドロイドだって人の心は動かせる。
 
ドロシーが特別なだけかもしれないけれど。ネゴシエイターであるはずのロジャー・スミスの動揺というか醜態があまりにひどすぎて、心配した惣流アスカやつばさ、ヒカルなどドロン・ベル年少組のピュアな懇願のまなざしにヒゲノ部長がやられた、という見方もあるが。とにかく、逆転イッパツマンチームが入ったのは戦力的にでかい。所属する大企業のバックアップはもちろんのこと、逆転王、三冠王、という巨大ロボットが嬉しい。
誰が喜ぶのかは言うまでもない。三冠王にはイッパツマンが乗り、逆転王には星ハルカが乗る、という、まあ、通常ありえんシフトも、嬉しい。誰が嬉しいのかは言うまでもない!
 
 
「それは・・・・いいの・・?」
 
珍しい疑問形には、こんな展開は夢にも思わない、と顔に。ほんの少し、目も丸いような。アンドロイドは、逆転王や三冠王が参戦してくれて悪党軍団に今こそ逆転満塁ホームランを打つ夢など見ない。見ないけれど、現実がそれを超越した。やらかした企業がてめえの不始末をごまかそうとしているだけ、などという醒めたこともいわない。始めはロジャーがやらかしたせいで完全決裂状態になっていたタイムリース陣営と手を組めた、そこから最強チームも参戦してくれることになれば・・・・黒いネゴシエイターのやらかしを帳消しにしてお釣りが出る。人間の少女であれば、鼻歌ルンルン状態であるが、ドロシーにはさすがにそれはない。ないのだが・・・・「じゃあ・・・早くロジャーたちに知らせて」
行動にマッハかかりそうになるのは、どうしようもなく乙女であり。
 
 
「待て」
 
ニコラ・テスラが制止しなければ、おそらく音速で屋敷を出ていたことだろう。
 
 
「?・・・・報酬なら・・・ロジャーに振り込ませるわ」
「いや。ここは我が社に任せてくれ。必要経費ということで・・・ネオンさん、では手続きはこのような形でさせて頂いてよろしいでしょうか?」
 
星ハルカや放夢ラン、ハル坊、2−3がいたら、そういうことではない!!と止めてくれたのだろうが。いかんせん、ドロシーとイッパツマン、とにかくど真ん中直球であった。
 
ニコラ・テスラのことをよく知るネオン、ジョー、エミリーの三人娘も、あのマスター・テスラに対して、雷電魔人を魔人扱いしないあまりの言い方に、ひい、と喉元が凍りついていた。
ちなみに、ネオン・スカラは銀貨三十枚でニコラ・テスラに買い取られた経歴をもつ。
 
 
が、もちろん、金銭のことなどではない。報酬惜しさに呼び止めるなどと雷電魔人がすることはではない。ドロシーとイッパツマンが、こちらを小物だと侮っているわけではない。
 
 
生きる時代も、世界も、違うのだ。これ以上、面倒をかけるわけにはいかない、という善なる心からの発想であろう。遠い星からやってきた悪党どもと世界を渡ってまで戦うのは己の本業ではない・・・己が守るのは、この世界・・・ネオンたちがいるこの世界であり・・・しかも彼らには十分な力がある・・・自分を救ってしまうほどの力が
 
・・・ゆえに、
 
積極的に助太刀を求められているわけでもないのに・・・・出しゃばってもいいものか?
 
そのまま、早急に仲間たちが待っているだろう元の世界へ戻らせてやるべきで・・・
 
 
なにゆえ、呼び止めたのか・・・?「報酬など、無用だ。ただ・・・」困惑させて時間を浪費させるべきではない。そんなことは分かっている。だが・・・・
 
 
 
問題:全くいいところがないまま、このままおさらばしてしまってもいいのか・・・?
 
 
 
解答:いいわけがない。特にシュバルツバルトは・・・・絶対に許さん!
 
 
 
わかりきっていた。答えなど!いつのまにか周囲に出現する輝く電界の針剣は決意の証。
戦闘シーンではないが、ここは自分の屋敷の居間だが、機械籠手と機械帯がフルパワーでビカビカ神秘の雷を閃かせていれば、誰が彼を、無敵の雷電魔人を止められよう!
 
 
「私も同行しよう。諸君らの戦いに・・・・!」
 
メンツをぶっつぶされた復讐などではない!これは正義のため!そんなわけで、電気騎士とニコラ・テスラの参戦決定。バッテリー役としてネオン・スカラがついていくのも言うまでもなく、不安なのでジョーとエミリーも「アルテミス」と「ヘパイトス」で同行することになった。「ま、留守はヴァルターとベルタでなんとかしてもらおっか」
 
BGMに「希望の道〜きみと」が高らかに鳴り響いていた。