輝く星の世界から落とされて、惣流アスカが直面するは使徒に侵されたとはいえ人の造り出した機械の破壊という、やみくろな現実。
 
 
それでなくとも対ロボット戦は惣流アスカにとっては鬼門であり、出来ることなら葛城ミサトはこんなことを頼みたくはなかった。左手の完治、という不思議な体験を越えてきたにしても碇シンジも未だ戻らず、時刻も深夜、目つきは真剣でも記憶が飛んでいるという全体的に寝ぼけているような少女に好調など期待できようはずもない。
 
 
エヴァ参号機にマッドダイアモンド、先攻者、人影のない戦場、地底の鉄管より朝は手をあげる、が破壊され、残るは、SPAWNロボ、殺人光線、あやかし、オリビア、大学天則、それぞれが異なるコースをとって第三新東京市に迫っている。
 
 
現状の第三新東京市は実のところ、うたい文句通りの武装要塞都市とはいえたものではない。頭上にばかでかい、ひとつの島にも等しい物体を浮かばせているのだ。いやさ、常識さえ否定して己の目だけでものがいってしまえるなら、それは、おとぎ話の浮遊城、伝説のラピュタといってもよかった。しかもその原理も不明なまま、たった一つの武器、エヴァ初号機の鉾がなんらかの力を放射して皿回しよろしく浮かせているのではないかなあ、と状況から推論するだけの、非常にあやうい、不安な状況で、いってみれば都市全域で非常にデリケートな作業を行っている最中で、何者も立ち入り禁止当然使徒お断り、とてもドンパチなどやらかせる状況ではない。魔術魔法都市・・・その言い回しが恥ずかしければ止揚して手品奇術都市とでもいおうか。種明かしも済んでない状況。何か武装をちょいと動かして何がどう間違って頭上の第二支部がずどーんと落下してくるか分かったものではない。
 
 
まったくもって、絶対に来て欲しくない状況下で、やってきたわけだ。使徒は。
どのような経緯で使徒化、乗っ取り汚染されたのかは分からない。だがパターンは青。
今まで戦い殲滅してきた相手と同じく、それは人類の敵、自分たちの敵であった。
 
 
倒さねばならない。おそらく、向こうも同じことを考えているだろう。
よりにもよって、こんなときにきやがったのだ。お友達になりにきたわけじゃ絶対ない。
 
 
第二東京でのことを、もしかしたら使徒は見ていたのかもしれない・・・・・・・
葛城ミサトは思う。それに義憤を感じたのだとしたら、連中こそは正義。けれど、
邪魔されるわけにはいかない。あの天上に浮かぶでっかい大荷物を、逆絶景のアレを、なんとかして無事におろさねばならない。適当なところへ。そのために全力を尽くす。
決して、邪魔はさせない。使徒だろうがなんだろうが。
 
 
参号機が消失してしまい、撃沈しかけた発令所をなんとかもたせてくれたのがアスカの出撃であり、このタイミングがもう少し遅ければどうにもならなかった。碇シンジ、同行した彼のことを問いただしたかったがそんな余裕はない。すぐさま弐号機を地上にあげておかねば士気が瓦解する。使徒戦とはまた違う重圧に、自分もふくめて皆まいりかけている。
碇の親子もおらず、副指令すら発令所に来ずになにやら「説得工作」をしている。
補佐役の野散須カンタローも謎のリタイヤ。N2沼でいったい何があったのか。
初めから疲労も重圧の色もみせずにまるきり変わらぬのは、赤木リツコ博士くらいなもので秒刻みでスタミナを奪われていくスタッフからすれば異様ですらあった。相対的にだんだんとメートルをあげていっているようにも見える。
 
 
意気はともかくとして、実際問題、このタイミングでの使徒来襲はかなりやばかった。
葛城ミサトは考える。勝利条件が今回は非常に曖昧な上に、厳しい。明快さを欠いているが事実そうなのだから仕方がない。きりつめて単純に言うなら、使徒殲滅だけではすまない、ということだ。いつものように、使徒攻めてきた、やっつけました、勝ち、というわけにはいかない。N2沼でじっとしててくれればまだしも、くそたれ、こっちに向かってきている・・・・気のせいかもしれないが、鉾を押し倒しにきているような気がする・・・・・いや、使徒に回覧板制度でもあれば、あの鉾が古今無双の無敵放電兵器であると知っていたらただでおくわけがない。優先的に叩きつぶすであろうしなんせ目立ちすぎておりどんな知恵なしでも興味をひかれること間違いなし。触って叩いてぶん殴ることくらいはするだろう。それに対抗するに。懐に、都市部に入られたらやりにくい、なんてもんじゃない。その攻撃が鉾に当たったら・・・なんてことまで考えて迎撃をせねばならんとしたら・・・・・しかも、戦闘ロボットというのはこういった都市破壊のエキスパートだ。使徒を倒すエヴァとはまた全然異なる破壊の様をみせてくれる・・・・なんつうことになった日には・・・敗色濃厚
 
 
「葛城さん!SPAWNロボのデータ収集、根こそぎ終了しました!!」日向マコトがよこしてくるSPAWNロボのデータを鬼婆のような目で睨みつけながら頭に流し込む。SUPER時のみならず、モード変換後の機能は北米大陸の星条旗軍団の機密中の機密であったのだろうが、そこらへんは激越な情報戦があったのだろうが、第二支部の関係者たちが勝利したらしい。このあたり、スタッフの重圧と引き替えにした情報公開による協力態勢の構築が功を奏した。使徒ならともかく、人が造ったもので未知との遭遇、なんてやらせられるわけがない。たかがロボットと侮ればどう足を掬われるか・・・・・おまけに使徒に乗っ取られているとすればなおさら。上っ面だけではない、本気の根こそぎ、丸裸にされた巨大ロボたちが葛城ミサトのあたまの中に並べられて料理される。記憶にあるSUPERの時でも兵器のデパートのような有様であったが、それがモード変換、まさしく地獄から蘇った海兵隊になると毒ガスだの細菌兵器だの対人メインのえげつない、機械仕掛けの悪魔、闇機となる。幸いといえるかどうか、パイロットは乗っていない。もともとこのロボどもがどういった経緯で使徒に侵されこんなところに出現するはめになったのか・・・・。
収集された機能データの正確さと、それを収集した者たちの目を信じるのならば
 
 
第二東京から恐れをなして自国へ逃げ出し、いったんは格納された後
ロボットどもは、”呼ばれたように”勝手に動き出し、周囲の人間たちもそれを”異常とおもわず”に、なんのアクションもおこさずに黙って見送ったのだと。
 
 
どこかへ消えて、行方不明・・・・・・あれだけの巨体が見逃されるわけがないのだが・・・・それ以前に、ロボットを管理する者たちがそも、探そうとも追おうともしなかった。
それがひどく当然、自然のことであるように。自然であることは人の眼には映らない。ただ、感じるだけであるから。
 
 
それはロボットを運び終えててめえの陣地に錨を下ろしたクトゥルーフも同じだ。
さすがにヨッドメロンのことまではわからないが・・・・・おそらくは。
 
 
第三新東京市に出現したことを知らされ知ったところで、ようやくその異常を覚えて慌てふためいているというのだから。何を異常というべきか。これも使徒の手管か。
 
それなら、時田氏の真・JAなどもやられているはずだが、ぬけぬけこちらへ身の程知らずにも応援にやってくるてんだから、彼らは大丈夫なのだろう・・・・・ただJA連合で大学天則とオリビアがやられている。この2体に共通項は・・・使徒に侵されねばならぬ共通項は・・・・ないように思える。帝都財団と小型化研究所を洗ってもそれらしいデータはでてこなかった。微妙なところで戦自のあやかしにもどういった経緯で使徒化したのかさっぱりこんだ。あの第二東京での事件が絡んでいるのはまちがいなかろう・・・・
 
おそらくは、彼らは、”選ばれた”、・・・・そんなにいいもんじゃないから、目をつけられた、といったほうがいいか。何か使徒の気に入る点があったのだろう。ガードの堅さ、実力、そういったことではない目の付け所・・・・・なにかあるのか・・・いずれにせよ、ただのカン。しかも第二東京でのことは「そもそもなかった」ことにされている。リセットされてしまっている。腹立たしいがこの場では口に出来たことではない。
 
 
現状最優先で考えなければならないのは、接近する使徒ロボットの撃破。自分の不始末
のカタをつけてもらうために戦自にねじこんで航空戦力でどうにかしてもらいたいところであるが、消えたあやかしがこんな形で現れたことに泡食うだけで使い物にならない。どちらにせよ間に合わないし期待はしていなかったが、エヴァ弐号機でどうにかするしかない。近くに潜ませてあったとかいう油断のならない後弐号機はほんとに油断がならないのでどう使うか非常に悩む。
 
 
第三新東京市・・・エリア内、懐に入られれば、敗ける・・・・・・有利不利ではない。正確に状況が読めているわけではない。ただ、分かるのだ。
 
、というと、えらそーな感じがするが、こんなことは発令所の人間なら誰でも理解できるだろうし、極端なことをいえば小学生にだって分かる。ただ、苦悩の度合いが違うだけで。
 
 
それが可能か、それをどうやって可能にするか、それが問題なのだ。
 
彼我の戦力・・・・・敵を知り己を知れば百戦危うからず・・・・・とはいうものの。
 
敵のスペックを知れば知るほど、エヴァ弐号機一体では、どうも堰き止められそうにない。
 
アスカ、であるなら当然あるはずの苦手意識を差し引いても・・・・大学天則、オリビア、SPAWNロボ、殺人光線、あやかし、これらすべてを第三新東京市到着までに片付けられそうにない。特にSPWANの厄介なこと、絶対の絶対にエリア内に入れるところか可能な限り離れた場所で倒してもらいたい。モード変換したことで遠距離砲撃はなくなったようだが、その分、対人兵器をごちゃまんと装備している。ヘタに近場で破壊などした日には当分、人が住めなくなる。・・・・・エヴァがロボットに負けることは・・・ない、とは思うが、やはり掃敵速度を考慮すると・・・・・・ダメだ。間に合わない。おそらく、棒は、鉾は倒される。それがどういう結果を招くかなどと・・・・考えたくないが、どんなに楽天的に考えてもそれがいい方向に転ぶとはとてもとても思えない。
 
 
ロボットを三体も積んでジェットモクラー、飛行船で第二東京からきやがる時田一行も間に合わないだろう。せいぜい後詰めにはなるが、絶対的に遅すぎる。
 
 
後弐号機、後期制式型エヴァンゲリオン、ギルチルドレンA・V・Thの駆るそれがどれほど使えるか・・・・・・リツコ先生には黙っていたが、実のところ、この青騎士が第三新東京市近くに潜んでいたのは、「ラングレー退治」が目的であったのだという。セカンドチルドレンのゆえん、約束された第二人格、もうひとりの、エヴァ弐号機パイロット、惣流アスカ”ラングレー”・・・マイスター・カウフマンの秘術をもって封印された猛々しく強い念炎能力をもつ、悪魔憑きともよばれたほどの困ったちゃんが表層に発現したことを知ったギルの長はネルフでどうにか対応できぬ場合、ギルの責任にて処理対応するべく同じくセカンドチルドレンを送っていた・・・などと。よくもまあ誤魔化しもせずに。
それだけに、リツコ先生にはああはいったものの、安易に投入できる戦力ではない。
 
参号機が消えたことについても、ほとんど驚きもせずに・・・・・その点もあやしいといえばあやしいが、あの岩人間が驚くところも想像できない。
 
戦闘力の方はすでに使徒を倒したこともあるし、双方向ATフィールド・・・その手際も申し分なし。黒羅羅・明暗と並んでマイスター・カウフマンの秘蔵とされるのもうなずける。ラングレー退治と使徒殲滅、どちらを優先させるか・・・・申し入れてきたのは向こうからであるからその点、心配はなかろうが。
 
それでも、強襲型の悲しさ、特製電池を背負っても都市に入ろうとする使徒をすべて平らげる前に、おそらく電気が切れる。潜伏位置から見ても一番遅いあやかしを屠ってぎりぎり・・・・ただ使徒を殲滅するだけならば、おそらく弐号機が2体あればことたりる。
 
 
だが、今夜は使徒を殲滅するよりも、もっと重要で大切なことがある。
 
 
なんとしても、お邪魔虫な使徒ロボットを都市部にいれることなく、倒す・・・・・
 
 
葛城ミサトはこうしたことを一秒にも満たない時間で思考し、結論を出す。
 
マギをはじめとするコンピュータと違うのは、平面上での分析に終わらず多次元で考えることだ・・・・と云うとなんかかっこよい感じだが、要は欲深。八方塞がりの状況を一気に打開出来る方法を同時に模索していた。
 
 
 
「アスカ、ATバビロン単独バージョン、いくわよ」
 
 
そして、出した命令がこれである。それを聞いた発令所ほぼ全員がぎょっとした。
いくわよ、といわれても。あまりに明瞭簡潔すぎる。もっと複雑に重々しくお願いしたく候であった。
 
例外は赤木博士と・・・・・命令された当人、惣流アスカくらいなもの。即座にツーカー、意図が読める者はいいが読めない者は困る。とうとう重圧に耐えかねて指揮者がおかしくなったかと顔色を変える者も多い。トップがプッツンきてはもはや勝負にならない。
 
 
「分かった。鉾には触れた方がいい?」しかし、惣流アスカはそう言いながら弐号機を鉾の方へ寄せる。迫り来る使徒ロボを排除に駆け出すよりも、葛城ミサトの奇怪命令に平然と従う様には、明暗の参号機が圧倒的に感じさせたあの頼り甲斐はない。
 
 
「そうね・・・・・・どう?リツコ先生、接触した方が読み取りやすい?」
神懸かり、なにかが降りてきたような興奮は葛城ミサトにはない。そこにあるのは機械の型番を尋ねるような確固とした冷静。閃きというやつには平地を疾走する勢いがあるがえてして坂道をのぼりあげるような力がないものだが。その言葉には派手さはないが力感に満ちている。
 
 
「・・・・・そういうことは事前に相談してから命令するものよ・・・・・・けれど、そうね。そちらの方が読み取りやすくはなるだろうけどバランスが崩れるかもしれない・・・・・ギリギリ触れないところ・・・フィールド越しに調整しながら行うことをおすすめするわ・・・・・・でも、出力が・・・あれは初号機を想定して設定されている・・・弐号機単独ではおそらく足りないわよ」
云いながらもう相手の方など見ていない。専用端末を超技巧超高速ピアニストのようにぶっ叩きながら答える赤木リツコ博士。
 
 
「後弐号機を待つ時間はないの・・・つうか、他の仕事をやってもらわないといけない。それに、軌道上の敵を貫くわけでもない。というか今回、真上を狙ってもらっちゃあ困るわけだし。あんまり時間もないから納得しといて。・・・・出力の方は、本式のバビロンの半分でも十分すぎる。葛城から発令所スタッフ各員へ」
ここでさりげなく弐号機への無線を切ってしまう葛城ミサト。そして続ける。
 
 
「これよりエヴァ弐号機によるATバビロンの砲撃を開始します。目標は使徒ロボ全て。
平行して、鉾内部の狙撃システム<天眼>への強制解析を断行します。赤木博士にも賛同してもらいましたから、どう転ぶかわかりませんがやってみましょう。根幹としてあれは鉾といいつつ砲撃兵器としての性質が強い。放電兵器としても、またバビロンとしても、狙撃システムが基幹に繋がっているのは間違いない。エヴァ初号機に操縦者が搭乗せず、鉾の使用意志を示しておらぬにも関わらず、作動している現状、謎を解く鍵はそこにある・・・・そこにアクセスすることさえ出来れば状況をこっちでコントロールできるようにもなる。バビロン砲撃は期待効果はせいぜい、2体。出力と命中率を考えると、これはかなり楽観的な数字です。ひとえに、<天眼>が自分のそばで発動するATバビロンを”黙ってみていられるか”、それにかかっています。しぶとい防壁が緩むとしたらその時だけ。世界のどこにでも絶対領域の矢を打ち込める神の眼、まさしく天眼の優秀さにつけ込みます。鉾の制作者の設計理念からするに・・・・・・おそらく、初号機でなくても、仲間の機体が乾坤一擲の勝負にかかることを、そんな状況に陥った時を見通して、助けないはずが、助けてくれないはずがありませんから」
 
正味の話、渚カヲルがそんな都合のいいフォロー機能をつけていてくれることを期待しているゆえのバクチ。
 
 
「そんなことできるのか・・・・・・」
上司がやるというのだからやるしかないのだが。それにしてもこんな突発的になんの準備もなく、復帰したばかりのアスカ君にこんなこと・・・・・・ほんとうにできるのか?。
ロボどもの驚くような凶悪データを承知しているだけに、日向マコトも懐に入られたら負け、という条件は理解している。上司が弾きだした命令はその条件をクリアしている。
ハードルの高さを見誤ればその時点で飛び越すことはできない。
 
 
「後弐号機は、N2沼の現地調査へ向かってもらいます。まだ次があったとしたらたまったもんじゃないからね。転送されるゲートみたいなもんがあるなら潰してもらわないと」
 
その点は思いもよらなかった。そんなことは考えたくなかったが。葛城ミサトはごく当然のように云う。皆がのどを一斉に鳴らすので「ごくり」という異様音が発令所に響く。
つまりは背水の陣。命令された後弐号機は疑問を唱えることもなくN2沼、参号機らが消失した現場へ急行する。考えようによっちゃあとんでもなくひどい話であるが、危険性は・・・あまり変わらないのが今の現状だ。
 
 
弐号機による単独ATバビロン、というのはかなり無茶な話である。もともとエヴァ四体による合体技であるところのバビロンは、根本的には面を線に変えて遠距離の敵を倒す、という代物だが、その当たりの過程で葛城ミサトにもよく分からないレベルの超高等数学だか物理だか計算能力が必要とされる、らしい!当然、そんな高速演算能力など制式タイプやプロトタイプのエヴァには搭載されていない。管理用の四号機、第三新東京市の全データをまるごと記憶できる底なしの容量をもつに至った初号機ならばともかく。
さらにその上、正確無比の見敵能力とくれば、マギ経由で観測データを転送されたとしても追いつくまい。移動する敵を線でぶち抜く・・・言葉で言うなら簡単なことだが、現実化するにはどれほどのハードルを越える必要があるか。それを処理する能力が弐号機側にないのだから。
 
ゆえに、命中で2体、というのはかなり”しょっている”、と日向マコトは思う。
 
バビロンのまねごと、偽バビロン・・・・・「いわばバビル2世か・・・」それを感知した鉾内部の天眼プログラムが同調なり警戒なりして、解析班が突入する隙を作る、というのがメインなのだろう・・・・・と発令所の人間のほとんどが今の葛城さんの与太で思ったんだろうなあ・・・・上司の腹を承知している直属の部下は、そのあまりのうそつきぶりに小便ちびりそうになる。身の毛がよだつ。
 
そりゃそうだろう、誰だってそう思う。もともと合体技であるのを単機でやらせて、おまけに試したこともないのに、全弾命中など。二重に無理。できるはずがない。
それでも、鉾内部の解析を集中優先させる判断には文句は出ない。
これは、懐に入られたら負け、というハードルの高さを理解していないからだろう。もはや崖道を疾駆する覆面馬状態、そこまで見通せる余裕をもつ者はすでに発令所には数えるほどしかいない。
 
 
だが・・・・・・・・・
 
 
葛城ミサトは、我らがネルフ作戦部長は、大真面目で、バビロンで倒す気でいる。
技術的なフォローを赤木博士に求めるわけでもなく、ただ惣流アスカの才覚によって。
バビロンを発動させ、お邪魔虫の使徒ロボを貫くことを、信じ切っている。
 
平行する二つの事柄は同等であり、同価。両方とも叶えられると。疑いなく。
 
各部署に指示を出しながら、檄を飛ばしながら、その目はシグナル、びかびかと。
ゆえの、おおうそつき。自分の上司は、はっきりいって怪物であると思う。大口をあけて世界をのみこむレヴィアサン・・・。
 
 
そこまで見抜いたはいいが、野散須カンタローならもともかく日向マコトには口出しできない。赤木博士は「ミサトもそこまで世の中なめてないでしょ・・・」と逆ベクトルの信用があるゆえに見抜けない。至上目的があくまで第二支部の救出にあるのだから多少は眼も曇る。
 
 
大学天則、オリビア、SPAWNロボ、殺人光線、あやかしが第三新東京市に向けて進撃を続ける。「大学天則、同位置オリビア!観測範囲から突如ロスト!!見失いました!」オペレータが報告の悲鳴をあげるが、機能データと第二東京決闘事件の記憶を持つ葛城ミサトは慌てない。「それは大学天則の結界。慌てることはないわ。消えたわけじゃない、姿を隠したままそのまま来てる。・・・・速度は殺さないはずだから・・・レプレツェンじゃあるまいしあのサイズの振動が抑えきれるわけじゃない。そっち方向で捕捉かけて。必ず再検出できる」「はい!」敵側の陣地に堂々といながら気づかれない、明暗にして違和感のみしか感じなかったほどの完璧な隠形、アレをこの目でみてなかったらかなりビビッただろう。それでもいっぺん見ている者の強みだ。これが経験の甘み、リセットされた心地よさ、か・・・・・葛城ミサトは面白くなさそうに表情を隠した。そして思考を続行する。
 
オリビアの位置はロストしちゃったかな、と。あの人型サイズが分離したとて分かりっこない。このタイミングの結界作動がどういった考えによるものか、オリビアを放すためか、それとも、分かりやすく、こちらのATバビロンの狙撃を恐れたものか・・・・・・・
もちろん、口には出さない。自分の心が何を決めていることと、周囲への影響を考慮するのはまた別の話であるからだ。別の話を同じ口でやれば人は信を失う。
 
 
そして、肝心要の、エヴァ弐号機、惣流アスカはこの命令に対してどう思っているか。
 
 
できないはずがない
 
 
そう思っていた。正確には、
 
 
”自分たちには”できないはずがない、と。
 
 
たち、って他の誰のことだと発令所のスタッフたちはそう聞けば一瞬、思っただろう。
 
当然、碇シンジのことである。射出もされず地下でエヴァ初号機という電池をギコヒコ回している”はず”のサードチルドレンである。何やらたいそう神経を集中しているようで、というか電圧高すぎるため、通信がつながらずブラック画面の向こうでひたすらがんばっている”はず”の同学年の同居人のことである。今現在、公式には行方不明の。
 
 
いないのに。
 
 
そう信じ込んでいる。信じ込まされていた。ラングレーは全てを覚えているから、これが「すげえ茶番」であることを承知している。人手の足りない貧乏劇団の芝居じゃあるまいし。人類の命運をかけているんじゃなかったか?ここ。あまりのおおうそつきぶりに呆れた。自分でそうせよと言っておいてなんだが、そんなせこいうそをあっさり信じるアスカの幼さにもあきれがかえる。ケロットフロッグだ。ちなみに、日本語と英語による造語だぞこれは。ドイツ語じゃないぞ。・・・それはいいとして。奴の不在を感じ取れないのか・・・・アスカは。アスカが奴の存在を感知すればこそ契約は発動する・・・・
 
 
いるものと。
 
 
それゆえに、こんな無茶をやろうと、可能だと簡単に信じ切っているのだろうが・・・・
 
 
できるものか
 
 
一応、自分の生命もかかっているのでラングレーも傍観者然としていられない。葛城ミサトの命令をアスカの耳で聞いてから大急ぎで実現実行可能かどうか検証してみたが・・・・いかんせん、鉾についての情報が少なすぎる。そもそも合体技、ということ自体が我一人の最強を求めるラングレーのお気に召さない。
 
だが、それゆえに、このやばい局面に己が出張るのではなく、アスカに任せたのだ。
 
最強を、ひたすらに力求める己では、この都市周囲に張り巡らされたねっとりとした力の糸に絡め取られる。曰く、籠絡というやつだ。
 
ベルトコンベアの罠。乗ったが最後、死ぬまで勝手に運ばれる。その道のみ歩かされる。
俺の強さを越えてゆけロードだ。冗談じゃない、そんな手に乗るか、と。
 
これは生存のためには動物的にカンが働く葛城ミサトにも分かるまい。戦を呼ぶ戦の匂い、血を呼ぶ血の臭い、破壊を招く火薬の香り、災厄には鼻が効く己だからこそ分かる。
 
その凶悪な概念をなんと呼ぶべきか・・・・それは肉も骨も通過して魂と存在を喰らう。
分かっていても、選ばれた者は抗うこともなくその拘束道路に乗ってしまうのだろう。
闇の道を、ぞろぞろと目につく相手に襲いかかり喰らい尽くせば、また歩くだけ。
 
なんの光も灯りもない、そのやみくろな道を。
 
おそらく、碇シンジとの約定、あの一件さえなければ、己も・・・疑いなくアスカの期間を取り上げてその道を駆けていたはず。
 
天地の土は、大地はとっくのとうにネバ糸に汚染されていた。
 
 
とにかく、好みではない合体技を単独でやらせるセンスも気に食わないが・・・それがかなりの高等技であることだけは認めざるをえない。現時点の弐号機でやれ、といわれても不可能だ、としか答えようがない。エヴァが四体揃おうと指揮管理用の頭脳をもつ機体がその中にいなければ・・・・また、フィールド出力の問題もある。アスカはセカンドの基本的技能である双方向フィールドもまだ使いこなせていない。ATフレイムなんぞといい気になっていても攻撃、防御、ただ一役にしか使えないようでは、弱い。
 
どうしても使用するというなら後弐号機を呼ぶ必要があろうが、絶対にそれは許せない。
 
・・・・どちらにせよ、間に合うはずがないが。日本国内にいただけでも大したもんだが、それでも現状では遠すぎる。相性は最悪、あまり近ければ気づいていたはずだし先手を打って焼きにいっていただろう。なにはともあれ・・・・・あのA・V・Thなみに最悪な碇シンジの奴はまだ戻ってはいないのだ。自分たちには、じゃあない。自分一人しかいないのだ。それを分かっていないアスカは愚かだ。だまされて、憐れな、幼い自分。
 
 
魔弾があれば・・・・・・なんとかできるかもしれない・・・が
 
 
守るべき都市は、あまりにも広い。攻め寄せる相手、蹂躙する者たちにはほんのささいな焼き場にすぎないのだろうが・・・・・ラングレーはため息をつく。らしくもない。
なんて、広いんだろう・・・・・・
攻守を変えて物を見たときに感じる距離と変容と、それを受け取る己の愕然。
 
 
アスカはやる気だ。弐号機にそのとおりに動くよう、自分の意思を、イメージを伝える。
そんな無理をA10神経経由で伝達された弐号機もたまったもんじゃなかろう・・・
 
 
え?
 
 
が、そのイメージに驚いた。予想もしていない、その力の現し方にあっけにとられた。
そのしなやかで鮮やかな・・・夜闇の中の宝石赤雨(ルビーレイン)。砲撃の武骨さなど微塵もなく、鈴を振るような、小さな声で歌さえ伴ってそれは。「銀のしらせ」ラングレー自身は全く興味がないが、洞木ヒカリに仕込まれてアスカがたまに歌うZABADAKとかいうバンドの歌だ。正気か!?戦闘中に・・・その神経を疑うが、弐号機はそれを静かに受け入れる。
 
 
 
最後の 夢の後で
目覚めて 君はいない
かわいた 砂のように
僕が残る
 
 
ヨアケニアイニクル
ヨアケニアメガフル
 
 
ちぎれた 地図の中に 船を見た
ふたりの 胸をぬけて 風に舞いつづけた 
 
 
弐心同体、約束された第二人格、過ぎゆくはずの幼年期、セカンドチルドレン、惣流アスカラングレーは、このとき、エヴァ弐号機というかたちをもった精神の淵にて、今まで一方通行で見ていたアスカの方から、視線を合わせてきたのを感じた。明確にはアスカはラングレーを認識していないはずなのに。・・・・・こいつ、分かっているのか・・・・
初めての対峙に、気圧されたのは・・・・自分だった。つまらない、単純な外郭の防御人格にすぎないと思っていたアスカが歌っている。エヴァ弐号機は呼応している。イメージを共鳴共有させて。それは百年経ても自分には使えないだろう操作法。力の発露。
 
 
鉾に触れるか触れぬか、ギリギリのところでフィールドを発現させながら二つの手のひらを向ける弐号機。シンクロ率は・・・・ふん、発令所の人間がたまげている。驚きたいのはこっちだ。アスカはあれ以来、模擬戦すらやっていないというのに。・・・・くそ、むかつく。碇シンジにやられた記憶が蘇って毒づくラングレーである。それに伴うフィールド出力の高さも云うまでもない。固定平均安定値など振り切ったフレイムメーター突入。
 
 
ヨアケニアイニクル
ヨアケニアメガフル
 
 
なおかつ、それを完全に支配下において炎のように揺らぎも乱れもさせぬ。この距離でフレイムの威力を発動させた日には鉾なんぞぶっ倒れるであろうし、解析どころではない。
なぜ、葛城ミサトにはアスカがここまでこなせるのだと知っていたのか。信じられるのか。
ただのヤケクソか。信用材料などなかったはずだ。技法について指示したわけでもない。
ただ、やれ、と云っただけで、アスカはそれに対して歌を歌いながら応えている。
 
 
最後の 夜の鳥が
短い 声をあげる
なくした 波の色が
空をぬらす
 
 
歌うといってもエントリープラグ、LCLの中のこと、他の誰に聞こえるわけでもない。
だが、その表情を、二重人格ゆえに、誰よりも正確にその意図を見抜くことができる。
誰のための歌なのか。自分のためか、弐号機のためか、いや。
 
碇シンジ。
 
あいつのためだ。あいつに聞かせるために歌っているから、こんな顔をしている。・・・・・・どこにいるかも覚えてないくせに・・・・・・エヴァ初号機の中になんかあのバカはいないんだ。わかってるのか・・・・全く。文字通り、身の置き所がないラングレーである。朝になるまえに帰ってこないとしらないからな・・・・
今頃、本性をむき出しにした四類、五類に八つ裂きにされているかもしれないが。
エヴァ初号機がなけりゃ、ただの小僧だからな・・・ひとたまりもないだろうな。
 
それでも。
あの星の道行きの中。
 
明日香、なんて日本人にしか意味がないくだらん語呂合わせの気障ったらしい名前をつけてみた責任くらいはとるべきだろう・・・・?たとえ戯れ言にしても。
 
 
 
ヨアケニアイニクル
ヨアケニアメガフル
 
 
naninani・・・・・・・
 
<天眼>は己の搭載される物体、つまりゼルエルの鉾の周りに特殊なATフィールドの発現を感知して、しばらくそれを解析していた。出力こそ大したものではないが、確かにそのフィールドの相はバビロン形式の変容圧縮で、面から線分へ組み替える有様もエレガントともいえず、己が誘導をとった場合に比べれば稚拙ですらあったが、指揮管理用コードをもたぬ機体の仕事としては合格点を与えてもよかった。
 
 
uzuuzu・・・・・・・・
 
しかし、勿体なかった。おそらく落下予定地点から進撃してくる移動物体<angel>を狙撃するのであろう。だが、その組み替え速度ではどのように正確な狙撃測定を成したとしても、命中はすまい。目標が動くことのない固定物であれば問題はなかっただろうが。
 
uzuuzu・・・・・・・
 
その機体はエヴァ弐号機、前期制式型、パイロットはセカンドチルドレン、惣流アスカラングレー。製作コードをもつエヴァ四号機でも所有コードをもつ初号機でもない。が、興味を覚えてマギへ情報開示を要求する天眼。さきほど情報を頂戴したことについて東方の三賢者は怒っていないらしい。簡単に許可してくれた。さすがに心が広い。
 
fumufumu・・・・・・
 
なかなか興味深い履歴であった。自分たちを攻撃兵器としてではなくバリケードとして用いたこともあれば、機体強度的に不可能であるはずのエヴァ初号機以外の機体が格闘戦用に振り回してみたり、となかなか浅からぬ縁があるようで。
 
 
・・・・・・・arehare
 
 
世界最高の誇り高い狙撃兵器にこのような扱い・・・履歴を見るに、怒りこそしないが、味方などしたくなるはずがないはずがないのだが・・・・どういうわけか、天眼は沸々とエヴァ弐号機のサポートがしたくなってきた。こう胸の奥から・・・キュンッと、実に不思議なことだが、胸と云っても胸なんかないのだが、とにかくバビロンがまともに構築できるように補助を、やたらにしたくなってきたのだ。・・・・まさか・・・・これが・・・
 
 
koikoi?
 
 
もちろん、違う。実際は、弐号機のバビロン形成に興味を覚えて油断こいた天眼がようやくほどいたガードの隙間から入り込んだ攻略解析班が、全知全能全力全速をもってそのようにし向けたのだ。どれくらいの影響力があったのかは不明だが、結果オーライ。
その時の苦闘の様子を換算すると、ざっとゲームブック十冊分くらいに相当するだろう!。
しかも創元推理文庫刊のやつである。この換算方法にいまいちピン、とこない人は、広辞苑くらいある推理小説を読んで犯人を絶対に作中名探偵より先に発見せねばならないようなもんだと考えてください。しかも全シリーズ。
 
「メスロンー!」「タウラスー!」「NAZLE!」「MIRRA!!」「ギルギルギルギルー!「カイカイカイカイー!」「レッドポーション!」「スライムを三匹倒して宝箱出す!」「氷はGの位置にある!」「270度、すなわち真西へ進むなら!」「これでとどめだ!くらえ!クロムの妖剣!!」
鉾内部を、悪魔の塔を金色の鎧の勇者のごとく探索しながら駆け上る攻略班プラス赤木博士プラス時田氏(ジェットモクラー内)。セリフだけだとゲームやってるようにしか聞こえないが、もちろん真剣極まる解析作業である仕事である任務であるちょっと趣味である。
 
それらがもたらす情報の成果。まずは有り難いのが隠形結界でこっちの観測視界から消えていた大学天則とオリビアの姿を天眼はしっかりと捉えていること。それからそれでようやくことの事情と成り行きが見えてきたネルフ発令所。もちろん全容ではないが、天眼、つまりは鉾自体も空に浮かぶ第二支部をN2沼に緩やかに着地させようと計っていたと知れたことは、葛城ミサトをはじめとするネルフ一同を狂喜乱舞させた。重圧の一つが、枷が一つだけでも外されたことは望外の喜びだったのだ。その中でも冷静さをやはり保つ赤木リツコ博士からエヴァ弐号機惣流アスカに暴走暴発の危険性なし、と当初求めていた鉾への接触許可が下りた。
 
 
弐号機が鉾に触れた途端。
 
やはり、単独でのATバビロンなど不可能だったことを思い知らされる葛城ミサト。
固定物ならともかく、移動物に命中させることは無理だという最終結論を赤木博士から氷水をぶっかけるようにもらった。やはり、渚カヲルが作り上げた天眼は、伊達にバンドルされているわけではないのだと。ちゃんと理由があるその高機能。なんか新作家電の宣伝コピーみたいだが、その通り。
 
 
On makaaragiya basara
usyunisya basara sataba
jiyaunbanko
 
 
裏を返せば、弐号機による単独ATバビロンがバラバラに移動する標的に命中するように、するような狙撃プログラムを天眼が組み上げた、ということだ。それも即座に。弐号機が触れた手のひらを介して転送してきた狙撃補助プログラムは、一瞬怒濤のように、ウォオーターハンマーを食らった水道管か新米の消防士よろしくガクリと弐号機の腰を落とさせ、最終的に発令所、マギのところまで流れ込んで攻略班に心筋梗塞一歩手前の衝撃を与える。プログラムの名称は<Aizen>、何のことか物知りの赤木博士にも分からなかったが、この場にいない霧島教授、野散須カンタローの解説を待つまでもなく、プログラムの随所に組み込まれているパスコードに愛染明王の真言が用いられていることに何人かの技術者が気づいた。その中にはなぜか年若い伊吹マヤもおり「よく分かったわね・・・」と意外な教養を赤木リツコ博士に感心されたりもした。「いやー」などと本人は照れているが、ほんとうはそれが「縁結びのおまじない」だから知っていただけなのだ。言えないが。
 
 
狙撃補助のプログラムになんで密教の仏像の名前がついているのか・・・・・
 
「どゆこと?」葛城ミサトも分からないので赤木博士に聞いてみるが、赤木博士だってそんなことは分からない。ただ偶然に機械的に配列されたものではないことは分かる。そんな芸のないことをあの少年が作ったプログラムがやるわけがないから。ゆえに「マヤ」伊吹マヤに投げてしまったり。「え?そ、そこまでは・・・・・だって、葛城さん、こうなることを予想して命令したんじゃないんですか?だったら・・・」見当がつくはずだと。
ふりだしにもどる。
もちろん、プログラムを読んで解析すれば意味も自ずと分かってはくるのだろうが、そんな余裕ははっきりいって、ない!それに、実際に砲撃するのはエヴァ弐号機を駆る惣流アスカであるのだから、発令所でそんな小さいことを気にしてもしょうがない!。女三人、見合わせてそんな顔同じ顔。
 
 
おいおい、それでいいんかい・・・・・・
一応、負担強すぎのかわいそうな少女のために心の中で女傑三人(先頃、めでたく伊吹マヤもふたりの仲間入りをはたした、ともっぱらの評判)につっこんでおく日向マコト。
せめてはなっから都合よくいくことを信じ切っていた葛城さんはそれを解明しとく義務があると思いますが・・・・と。しかし、よく考えてみると、司令も副司令もいないし、発令所はいつの間にか女性の天下になっていますよ。これもこれでいいんでしょうか
 
 
On makaaragiya basara
usyunisya basara sataba
jiyaunbanko
 
 
パイロットである惣流アスカはそんなこと知りはしない。はじめからやれるもんだと確信しきって行動しているのだから。そして、その心がある限り、魂のない人形などではないエヴァ弐号機としては応えるしかない。子供の思いこみを頭から否定しない、巨人の度量をもっている。それがロボットとは完全に隔絶した点。ネルフのエヴァンゲリオンだった。
 
 
実際の実際に、作業を行うのは惣流アスカではなく、エヴァ弐号機である。己のなすことを知悉しておかねばつとまらぬ。幸いなことに、パイロットの織るイメージと、鉾内部から転送されてきた狙撃のための補助プログラムは実にうまく重なっている。意図することが同じで両者の狭間にたつ弐号機としては非常に助かる。逆立ちしてもやれっこないことを命令されても困るわけだが、これならばなんとかやれそうだ。
 
 
天に弓をかまえるイメージ。それも機械式の連射可能なボウガン。それが唯一の解答。
高出力ATフィールド、フレイムなどとあだ名される激しく揺らぐ猛き面積を、線分に転化する。基本的には紙縒を作るようなものだが、なんせモノが絶対領域であるのでその際に魔王のごとく厄介な計算を解く必要がある。のだが、それは大卒とはいえ人間の少女の頭脳と都市を守護するのが本分であるいわば騎士であり学者とはいえぬ己の兜の中身だけではいかんせん全く足りない。
 
 
パイロットはバビロンの無限の線分から、直上でいけば第二支部にぶち当たるわけであるからそれは当然標的狙う曲線である、系統樹のごとく”枝”を伸ばすことで命中率を補おうとしたようだが、それはさながら宝石の雨のよう、敵を撃ち貫きつつも夢幻のごとく美しい、黄金に輝く鉾は大樹の幹、夜闇に輝く炎の枝に実成る正義の林檎の紅き・・・・敵は酔うように地に伏し倒れたであろう・・・・ただ、命中すれば、の話だ。
もとより無限塔バビロンを構築する力場の量には遙かに足らないことをパイロットは承知している。そのゆえの、数。敵フィールドを貫けるかは賭けになろうが、貫通数を増すことで威力の総計増幅を狙い、侵攻速度の低下、足止めを目的としたのだろう。
・・・・だが、それでも移動物を正確に貫くには足らぬ。
鷹の目鷲の目コンドルハゲタカハゲワシツバメフクロウスワン、白鳥はいらないかもしれないが、それらを超越する、まさに天の眼を必要としたのだ。それを折良く手に入れられたから良かったが・・・・・
 
 
単独では、ムリッ!あんまり我が愛すべき搭乗者をいじめてくれるな、指揮官殿
 
 
と、もしエヴァ弐号機に感情まであれば、こんなことを思ったであろう。
 
 
ちなみに、愛染明王というのは天に向けて弓を構えるポーズをとっていたりする。憤怒の表情をあらわし、なおかつ体色は赤。ネーミングとしては実に的をえているわけだ。なぜ仏教系かというと、今後の研究を待たねばならないが鉾内部にさまざまな宗教イメージが内包されているのだろうことは間違いない。この天眼の助力が、ほんとうに攻略班によるものであったのか、予め隠しコマンドでも埋め込まれていなかったかなど、謎は多い。
 
「じゃあ、いってみましょうか!」指揮官の砲撃命令とともに、操縦者がトリガーを引く。
そして、ATバビロンオルタにして弐号機単独補助付きver、「星天弓」が解放される。