そう、君は綾波レイからもらった紫色の栞を、差し込んだ。
 
 
 
「碇シンイチ(仮)は、世を忍ぶ仮の名前・・・だから、こちらの名前をお借りしましょう!偉大なる大魔道師J・H・ブレナンの名において、我は求めうったえたり!この期に及んで「キミハダレダ?」とか言わないよね?」
 
 
ギロ
雷の双眼ひらかれて・・・紫電の戦鬼、現る。エヴァ初号機が召喚された。
 
 
「えー!?なんなのらそれ!非常識というか反則なのら!持ち込み禁止なのら!」
 
 
赤木ナオラーコは抗議したが、初号機が聞くわけがない。ちなみにこの初号機は「綾波レイの考えた初号機」であり、素人設定によくありがちであるが、強さに天井というものがない。「わたしのかんがえた、てきせいれべるのしょごうき」ではあるのだが・・・
 
オオオオオオ・・・!
咆吼と同時に、明らかに実戦慣れしていないユダドクロンに飛びかかるとボコボコにした。
つまり、撃滅した。
 
怖そうな見かけに反して、そもそも使用用途が「学術用」「超大容量超長期情報保管用」ということで、ケンカは苦手だったそうだ。
 
 
それにしても「シンジはやばい」・・・・改めて兄の言葉の真意が分かった気がする鈴原ナツミ。なんというか容赦ないというか、ナオラーコが泣いてやめてと頼んでもまったく動揺せずボコりきったのだから、人の心がないのか・・・いや、女の子を殴ったわけやないけど・・・この速度というか・・・まあ、ここまでの低姿勢でストレスがたまっていたのかもしれないけど。平然とこれまで従ってきたルールをひっくり返してみせるとことか。
 
どういう神経をしているのか・・・並外れて強靱らしいのはタキローの態度でも分かるが。これも命長らえたからこそ言えることだが・・・・・
 
 
 
「僕の名前、戻してくれるよね?」
 
ここで断ろうものなら、何をするか分からない。半泣きで何回も頷き、碇シンジの名前を戻した赤木ナオラーコ。ユダロンシュロスの主に選ばれることなく、その異権能を奪う。
この発想も常人のものではないが、ユダロンの異能を得るのは得たようだ。ただ、どのように得たのか”覚えていない”、というのだから、それは与えられただけかもしれず。
面白半分に。人外の存在はそうしたことを稀にする。おそらくは綾波レイに対しても。
 
 
「女の子だからって甘くない?・・・・まあ、いいんだけどさ」
誰に対しての文句なのか、とにかく、碇シンイチ(仮)は碇シンジに戻った。
これで自分のカードで買い物も出来て、ネルフ総本部に戻っても門前払いを喰らわずにすむはず。それから、赤木ナオラーコから得られる情報をぜんぶゲットする。
 
 
赤木ナオミはユダロンに巧妙に痕跡だけ残して早々に離脱して、別の場所へ向かったこと。
 
向かいながら「密林大帝式」を発動させてネルフ総本部のマギをハッキングしていること。
 
肉体寿命的に隠匿中に死亡していたと思われていた赤木ナオミの舞台復帰に他の赤木シリーズが黙っておらず我先に開発中の「式」を用いて、マギに襲撃をかけていること。
 
その中で、別格に賢いわらわ(ナオラーコ)は、「式」など使わず「自分ユダロン(ネーミングセンス・・・!と碇シンジたちは内心思ったがまたブチキレられても困るので黙っていた)」で、マギの障壁を無くすことを目論んだが、なぜかユダロン内の牢に閉じ込められて動きが取れず、ここまで来れそうなトンデモ人材に呪いをかけることで救出させよという天才アイデアにより、牢から出ることはできた(別の方面で捕まっているが)こと。
 
中にはバチカンで保管されていたエヴァ4444BC型をコソコソ盗み出して陽電子砲を搭載する改造を施して日本に向かっているバカなやつもいて・・・無事に上陸したかは分からないこと。
 
 
「赤木シリーズって何人いるの?」碇シンジが顔に青い線を何本も走らせながら聞く。
 
・・・・・この話ってうちが聞いてもええんかな・・?と思いつつ仲間はずれにされるのもなんか寂しい鈴原ナツミ。外してくれ、と言われないのも少し嬉しい少しやばみ。
 
 
「現時点で生きてるのは・・・・11人いるら!」
 
 
「オー!!ビッグ!!ファミリー!ビッグ、オー!!」
碇シンジが急に叫んだ。なんの意図か、さっぱり分からんが叫んでみたかったのか。
 
 
「・・・あ、言ってみたかっただけなのら」
 
それが怖かったのか、すぐに訂正してきたナオラーコ。「ほんとは、もっと少ないら・・」
 
「ナオミが眠っていた者もぜんぶ起こしてまわったのら。何カ所か秘密施設が破壊されてるけど気づかなかったのら?」
 
「聞いてないけど・・・・起こしただけ?連れて行こうとはしなかったの?」
 
「ナオミと一緒に行くなんて絶対にごめんら!!・・・赤木シリーズの面汚しら!!」
 
怒りより軽蔑より、何か底に根深い感情があるが、そこは掘り起こさない碇シンジ。
 
まあ、碇シンジがうまく掘り起こせるとはユトらも思っていない。むしろ触るな。
 
ただ、第三新東京市もえらいことになっている。しかも赤木ナオミは真っ黒で。
完全にネルフの敵。大敵。ビッグエネミー。見敵必殺、サーチアンドデストロイヤー部隊、1号、2号、3号、4号となってしまうのか。
 
 
 
「シンジさん、この子、どうします〜?」
ユトがのんびりたずねた。声色だけ聞けば、まさか「絶対無力化」が選択項目に入っているとは思えない。上役にはその判断も任せてしまえ、と言われてはいる。タキローと鈴原ナツミに分からぬように消してしまうこともたやすいけれど。
 
 
「連れて行きますよ。頭は良さそうですし、戦闘はむりそうでも謎解き役とか囮役とか小さな女の子が大好きなおじさまおばさま方への交渉役とか。やってもらえそうなことはいろいろありそうですから・・・・タキロー君、いいかな?」
 
こっちが聞いてぎょっとするような判断でも、あっさり早い。普段から熟考しているのか、背骨の真ん中あたりで反射しているだけなのか、ただ迷っている時間も惜しい状況。
なんというか、自転車にナナハンエンジンつけたよーなおひとやで。シンジはんは。
こら、置いて行かれんようにせな・・・・勇者なつみんは兄と似たような覚悟を決めて。
 
 
「僕に許可を求める必要はありませんよ。(この旅に関しましてはあなたが主なのですから)こちらが完了しましたから負荷も減少しましたし・・・(命を奪わない程度に無力化してネルフその他の組織に預けるのが正道とは思いますけど・・・それも不安定な現状ですから・・・まあ、監視くらいは請け負いますよ)」
「さすがタキロー君」
 
アイコンタクトを交えながら進路調整。鈴原ナツミからすると不思議なほどに慣れた呼吸。
兄たちとも違う関係性ではあるのだろうが・・・若殿と優秀な若手家臣?・・むう・・
もしタキローに聞けば、二夜連続ほどでしんこうべでのナイトメア道中のことを語ってくれたであろうが、なにせ時間がない。
 
 
「シンイチ・・いやさ、シンジさんのご希望の場所、確保しました〜。これより皆さんをお連れしますから、そちら集中してわたしは離脱になります〜、でも、ナオラーコさんがその分働いてくれますから〜乞うご期待ですよう」
 
冒険もしながら、碇シンジ(旧・碇シンイチ(仮)が頼んだ場所探しや確保をこなしていたらしい。まったくそんなそぶりを見せなかったが・・・プロってこういうことなんかなあ・・・感心するのはいいが、絶対にそっちに行ってはいけないこと、使ってはいけない手段のオンパレードデスマーチだったことをまだ知らない鈴原ナツミ。知る必要もない。
 
 
「働いたら負けなのら・・・け、けど・・・「ゲ■ン■ケ■ン」には興味があるからつきあってやってもいいら・・・・・そこで・・ナオミに会えたら・・・」
 
 
言霊使い なおらーこ れべる66〜1 
 
ぶき「もうひらかれないほん」 ぼうぐ「ちょうてんさいのはくい」
 
 
言い終わる前にステータスが公表された。「レベル変動?もしかして、言葉が通じない相手には弱体化するのか?」同じパーティとなるなら、そこは知っておきたいところ。
ナイス陰陽師たきろー。「こ、言葉が通じる相手にはものすごく強くなるってことじゃない?魔法使いとかを相手にするときは頼りになりそうだなー」ただ、もう少し言葉を相対的に選択していただきたい。勇者なつみんはお願いしたい。なおらーこ自身がいきなりゲームキャラ扱いに戸惑っているのに、「弱体化」の追い打ちはちょっと・・・さっきまで敵だったけど、童女が不安がって涙ぐんでいるのを見るとちょっと。
 
 
「そ、そうなのら!その通りなのら!勇者なつみんはさすがめのつけどころが違うのら!」
なかまのモチベーションを上げることも、いやさ、ことこそ勇者のメイン業務。
サブジョブも「仲良士」あたりで!最強武具と最強防具に頼っている自分では。
 
 
誘拐犯ゆと は、もうチートとしかいいようがない強さだったけど・・・
 
もちろん陰陽師たきろーも有能だったけど、メイン戦力だったのは間違いなく。
それが抜けてしまうと・・・れべるもけっこう上がったけど・・・不安は、ある。
 
というか、まだ攻略せんといけんのかなー?雪吹山の位置はわかったけど、そこに至る手段と大神官を蘇らせる方法とやらの情報もまだ掴めていない。ほんま終わるんかこれ?
 
 
まあ、戦闘面では婚約者しんいち→しんじ、にチェンジした!もちろんパワーアップスキル追加等、とくになし、も、特筆すべき点はない。(なかよしマイルド表現)ま、まあ、装備が「むらびとのふく」だったし、そもそも本を読みながら、つまりユダロン攻略を専任でやっていたわけだし。そうなると、もう読まなくていい「ぼうけんのほん」はどうなるのか?いや、するっと受け入れとったけど、本がナオラーコ(実体)を解放して
 
 
婚約者しんじ れべる30 ぶき 「てぶら」 ぼうぐ「むらびとのふく」
 
 
消失していた。「次の街でなんか買おう。・・・なにげにみんな最強装備だったから買い物しなかったけど・・・言い出せなかったけど・・・いいよね?」
「あ、そりゃもちろん!お金もだいぶたまっとりますし!好きなの買うてください!」
 
若干、嫉妬が混じっているのを感じながら・・・初号機とか召喚する人にされてもな・・・とか思いながらも急いでフォローする勇者なつみん。「日本刀とか、いいんちゃいます?西洋ファンタジーを背にギラリと輝く和の魂!シンジさんに似合うと思うなあ」惣流アスカや綾波レイが口が裂けても百年待ってもいいそうにないことを。
 
「防具はそうですねえ・・あえて戦わず逃げる選択も重要ですから、この「落ち延びきった武者鎧」とかどうです?源平討魔伝テイストがなんともええでしょ!?コレにしましょ!値段もてごろですし!」
 
碇シンジの目は他の棚をさまよっているにも関わらず、秒で決めて購入してしまうとこもだいぶ違う。
 
「今なら”カゲキヨの面”もサービスしますて!よかったですね、シンジはん!」
 
「・・・・・・うん・・・・・」
面に隠された碇シンジの目に涙。
 
もちろん源平討魔伝は名作なので、うれし涙に決まっていた。怨霊が乗り移ったごとく戦闘力もアップしていた。もちろんこれは関西名物のいじりでもかわいがりでもない。鈴原ナツミの純粋な好意であり、勇者なつみんの報復でもない。
 
 
「ここから、実体の長距離移動になりますから〜」と、ユトがいつの間にか用意させていた食事を取りながら一旦、休憩。サウナではない湯船にも入るが、鈴原ナツミと赤木ナオラーコなど瞬時にとろけるように眠ってしまったから女三人でないとまずいところだった。傍から見るとゲームして遊んでるようにしか見えなかっただろうが、実は疲労がはんぱない。「仮眠もとってもらった方がよさそうですね〜」「・・・素人さんにしては・・・がんばってるけど・・・ふぁ・・!!と、い、今のはあくびじゃない!じゃないからね!」「タキロー君も神経使ってて疲れるのは当たり前だよ・・・おつかれさま」「zzz」「じゃ、タキロー君をベッドに運んでもらえますかシンジさん」「了解です。ナツミちゃんたちはお願いしても?」「お断りしたいところですけどねえ・・わたしもかよわい乙女なのでえ。くく、冗談です。承りです・・でも、シンジさんは体力ありますねえ。お風呂でもタキローちゃんを引き上げたとか」「ユトさんとタキロー君がいるから、気疲れしないんですよ。それ、大きいです」
「また嬉しいことを。わたしが攻略対象だったら危ないところでしたねえ・・・シンジさんもお休みくださいませ。2時間ほどですが、どうぞごゆっくり」「ユトさんは・・・」
「このお役目が終わりましたら、霧の山街でまとめて半年くらい寝させて頂きますよ」
 
 
「じゃあ、おやすみなさい」
輝く赤い瞳に、あいさつして仮眠に入る碇シンジ。ここからは彼女のターン。
赤い靴が打ち鳴らされる音を聞いた。何が起きたのかは、しるよしもない。
 
 
言うまでもないが、
 
ネルフのマギ障壁に仕掛けた「<災>アルカナ・言語乱し」は中止させてある。
ナオラーコが造ったユダロン現象再現機、赤木リツコ博士が評したところの疑似ユダロン、
正式名は「バビノン」。
なんか急に集合したくなってしまう名前だが、ナオラーコ的にはそれらしい神話からとっているから「わかりやすいのら?」ということらしい。「8時?なんのことら?渋谷で5時ならわかるら?」
 
 
 
そして、起きて身支度して肉体的に向かうのは
 
 
 
「ゴッドスモウランド島」
 
 
です、とユトが告げた。「大一番を決めるにはふさわしい地理条件かと。もちろん、一般の方の巻き添えは心配ありません。それ以外の方々はまあ〜、自己責任ということで」
 
 
飛行機でも船でもなく、そう見せかける工作は山としながら、車で。どこかから借りてきたという海陸両用の。途中で乗り捨てても怒られない代わりに、途中で海の藻屑になっても知らないよ系の。全員、ライフジャケット兼防寒着を着せられる。雰囲気的に携帯ゲームなど禁止っぽいが、そちらも必須であるのでやり続ける。ドライバーはユト。
 
 
「島につくのと、ゲームをクリアするのと、どっちが先ですかねえ」
 
目的はそのどちらでもない。赤木ナオミがどこにいるのか。会うことはできるのか。
ネルフ総本部、第三新東京市に、あのようなカタチでケンカを売った以上、関係組織関連部署全てに手配がまわっている。それ専門のスタッフたちも追っているだろう。
そちらに捕獲されたら、もうそこで終了。諦めるしかない。時田氏にも。
 
 
「最終確認ですけど、僕も雇い主とかに報告しなけれななりませんから念の為」
タキローがたずねてきた。
「帰国はしなくていいんですか?ここで戻らなくていいんですか?切り上げ時じゃないんですか?」
 
それは普通だ。正常にして正当。「ゲ■ン■ケ■ン」に至る携帯ゲーム機などスイッチを切って第三新東京市に向かうのが、まともな判断というものではないか。冒険がすぎる。
鈴原ナツミもこれで自分の家に戻れるわけだが、その家が内側から崩壊させられる前に。
おもいきり首を絞められている都市が、マギが、窒息死する前に。
 
 
 
「うーん・・・・」
珍しく碇シンジが熟考した。それでも長考ではない。3分ほどだろうか。
 
 
「・・・・あ、そういう・・・」途中で、見えない誰かに囁かれでもしたかのように表情が明るくなる。「それは・・・お邪魔かも・・・だね」なんか不穏な一言。
 
 
何言ってんだこのボケ・・・てめえが主人公だろう、主役機任されてんじゃろうがい・・・反射的につっこんでしまいそうになる鈴原ナツミだったがなぜか言葉が出てこない。
なぜか放出されとる”尊みオーラ”に圧倒されてしまって・・・すぐに消えたけどあれは
 
 
「向こうは大丈夫!・・・だと思うので、僕らは僕らの道をいきます!」
 
 
僕らってわたしも含んでくれとるのかやはり。けれど、カッチリ決めたのならグダグダ言うておったらあとで兄に叱られる。そこで止めんかい!とは言われないだろうたぶん。