「降参・・・・する!だからもう、やめて!」
 
 
プラグスーツに似た、ただし同調するのは己の造ったデータベース完全破砕システム「タイタンなまず」であるが、髪と同じ色の赤紫のそれに身を包み、赤木コナコの名を染め抜いた法被を羽織った少女が半泣きで、ほんとに白旗をあげていた。
 
 
オオオオオオ・・・・・・・ンン・・・・・
 
 
なまずを二足歩行の巨人にしたようなのが、大声で泣いていた。
 
 
「じゃあ、もう勘弁してやるのら!」
 
勝ち誇ったこちらも実は赤木姓。ナオラーコ。言霊使いのレベルを最大限用いて、ぬめぬめボディで物理攻撃の効きが悪いなまずが二足歩行したような巨人を・・・見かけに反してナイーブなハートをギザギザに傷つけて戦闘不能に追い込んだ。早い話が泣かした。
 
言霊使いれべる66スキル「だめであん」・・・まあ、凄まじい威力であった。精神的に。
 
 
「勝ったのら!凄く役にたったのら!わらわがいなかったら全滅してたのら!」
褒めろ、といわんばかりに目を輝かして振り向くので、勇者なつみん以外はササッと目をそらした。(シンジはん・・・アンタな・・・)この所業はあとで兄とヒカリ姉さんにも伝えるとして。
 
 
ここは「風雲!タイタンなまず城」
 
 
なんじゃそりゃ的ネーミングであるが、雪吹山への最短コースに立ち塞がる、つまり「選べる中ボス戦域」。この情報を得るのにこなしたクエストがなかなかキツかった。ユトというメイン戦力が抜けて、なおかつナオラーコの特異な職業はその穴を埋めきれない。ザコ敵はあまり言葉をしゃべらない、というのはある。呪文を唱える魔法使いも街だの迷宮だの以外には会わないというのもある。フォローはなかなか大変だったが・・「仲間になると弱くなる問題」はゲームあるあるなので仕方ない。まあ、もともと強かったイメージも・・・いやいや今は仲間だから。苦労して得るとやはり価値も。選ばない理由がないので、直行すると案の定、敵っぽいナマズ巨人と赤木コナコがいたが、「あ、もう終わっていいんだ!」と、こちらににこやかに手を振ってきたので、「なんかおかしいな」「たぶんワナだろう」と同時に思った。そこは碇シンジもタキローも思ったようだが、思わなかったパーティメンバーもいる。ナオラーコである。
 
ダメ元でナマズ巨人をエネミー指定すると、己のレベルが66まで最大解放されたので大喜びで攻撃を開始した。止める間もない。ナマズがしゃべるとは思わなかったし。
 
 
 
 
「こちらの誤解でした。申し訳ございません。おわびいたします」
 
 
謝るのはさすがに碇シンジがやってくれた。ナオラーコちゃんをなだめるのにHPの大半を使ってもうたし。さすが勇者でも疲れた。今のこの光景をもしネルフの人らが見たらどうなるか、とか想像する元気もない。
 
 
「ひ、ひどいよ!こ、こっちは、仕事だからっていうから・・・古いデータベースを全部壊してくれってさらにしてくれって頼まれたから・・・終わったら迎えがくるからって・・・このポイントにいてくれってナオミがいうからあ・・・・!あーん!あーん!」
 
泣き止むまでひたすら「ほんとにごめんなさい!」謝りたおす碇シンジ。これで嘘だったらいい面の皮であるが、最初に殴りかかった野蛮人グループはこっちである。
 
「ほんまにすいません」「話し合いをもつべきだった。謝罪します」
「・・・わ、わらわは悪くないのら」
誠意はみせるべき。「ナオラーコちゃんもあやまろうね?」「う・・う・・・わるかったのら」
 
 
「確かにこの可愛さのカケラもないナマズのデカブツ・・・規模こそケタはずれてるらが基本は新規データベース改築用ら。不要なジャンクデータを綺麗に粉砕してのけるら・・・情報規模が星を渡るほどになれば・・・デブリが世界の記憶層を汚染せぬようにこれも必須なのら・・・赤木の仕事に相応しいのら」
 
どんなものでもその気になれば攻撃用に転化できるが、それ専用に設計構築した方がいいのにそれをせぬのは。ナオラーコがそう検証するのであるから、単純に悪役ではなかった、ということで。
 
 
ここまでの旅でゲットした宝物、レアアイテムを「掴み放題、袋入れ放題でどやっ!? 」「いいの!?」ということでなんとか勘弁してもらった。トレーディングゲームのカードでも一億円越えのモノとかあるし。何に価値を見いだすかは人それぞれ。さすがにこのゲームを再びやるとは思えないし。自分ちに持って帰るのは思い出で十分だ。勇者なつみん・・・く、黒歴史じゃない。じゃないから!シンジはんには口止めさせてもらうけど!
あ、もちろんまだ油断したらいけんけど。まだクリアしとらんわけやし。
 
 
ただ、赤木ナオミの指示でここにいた、という情報はでかい。
 
そして、「迎えが来る」というのは・・・・自分たちのことか。それともカンプラーアァたちのことだったのか。演技でなければ、他者への攻撃性も感じられない。単純に自分の作ったものが動かせて他人の役に立つのが嬉しい、といったような。ライトサイダー科学、みたいな。もっと複雑精緻に判断してるんだろうけど、タキローはんとユトはん(さすがに車を停止して休憩兼情報交換に入っている)も大まかに同意してくれとるし。
 
 
ともかく、ネルフ本部に「攻撃」を仕掛けていた「タイタンなまず」は停止してもらい。
頼んでもいない解体工事を勝手に開始されて、事情の問い合わせも不能だったネルフ本部はさぞ恐怖だっただろう・・・って、他にもあったんかい!?とんでもないことになっていたようだ・・・こっちもへんじがないのだから、心配もされていただろう。
 
 
 
「うーん・・・・・どうしようかな・・・」
 
 
 
ここで碇シンジが長考に入った。ユトからネルフ総本部の現時点情報を入手して判断し直しているのだろう。「・・・・長くなりそうだ・・・タキロー君、ちょっと降りてナツミちゃんと休憩してきてくれる?身体伸ばして息抜きしないと保たないかもだから」
 
 
タキローにはそんな必要はないから、自分のためだろう。どのへんか全くわからんけど海はまだ遠そう・・・・とか考えていたら、男二人がまたしてもアイコンタクトをとったのが妙に気にかかった。
 
「では、あの郵便局まで。ネルフの北欧支部関連なので安全です」
 
年季の入った外国の郵便局はなぜかほっとさせる。手洗いとかも助かるなあ・・・
 
 
ふと、ユトと目があった。なんでそれで分かってしまうのか。野郎どもが小癪なことをこの期に及んで考えてるよ、いーの?とか。ここで自分を、タキローごと置いていく気だ!
 
 
ぐいっ。
手を伸ばして碇シンジの腕を掴んだ。この世で発生するだいたいの事象の色を反射せぬ夜雲の瞳がぎょっと見開かれた。「え?ナツミちゃん?」よほど意外だったのだろう。
 
なめくさって・・・・兄のダチ公のくせに・・・
 
所詮は、思考が兄やんと同レベルなのだから、うちがしてやられるわけがないやろ!
 
「シンジはんも外で考えましょ?外の空気吸った方がええ考えが浮かぶと思いますよ?ほら、郵便局の前のあのベンチで。ほらほらほら!」引きずり出したった。
 
 
 
ここが運命の分岐点、とか。あとになれば分かるのかもしれんけど。
ここで大人しく帰らしてもらっとけばよかった、と後で泣くかもしれへんけど。
 
 
 
自分が見届け・・いや、こっち側から「見て」おかんと、この野郎「もどって」こないんじゃないか・・・非力な自分がここにいる意味は。ここまで来させてもらった意義は。
鈴原ナツミ、鈴原トウジの妹として、力は無くとも、ふんばって示すくらいは。むふー。
 
 
「鼻息が水木センセイの漫画みたい」
 
女子に真正面から言うことか、と思ったが、素直にベンチに座ってくれたからよしとする。タキローとユトが何事か話し合っていたけれど、厄介な重荷女ですんません、仕舞いまでよろしゅうです。
 
 
「最後まで、おつきあいしますから」宣言もしてやった。
 
 
「そうなると僕はゲゲゲのダンナさんってことになるのか・・・って、あれ?なんでメモをとってるのかな?」
「いえ。気にせんといてください。別にあとで兄やヒカリ姉さんや惣流先輩や綾波先輩に教えるつもりとか全然ありませんから」
「いやいやいや!!絶対に言うつもりだよね!?せめてトウジで止めといて?特に綾波さんには絶対言わないで!この世界の平和と平安のために!」
「なんでシンジはんみたいなお人がガチでおびえとんですか・・・そこまで言うなら黙っておきますよ」
「ありがとう!ありがとう!さすがトウジの妹!ベスト・オブ・妹!小野妹子もびっくり!僕もこんな妹がほしかったなあ!」
「ふたりほど立候補しとるのがおるやないですか。一人は立場めあてと見せかけて本気で、一人は単に「おにいさま」呼びがしたいだけっぽいですが」
 
 
この人には戻らなアカン場所がいろいろある。ダブりとはいえ、中学もきちんと卒業した方がいい、と思う。「とてもとても。僕にはお兄さんオーラとかないよ」「オーラでやるもんでもないですけどね」とか、そんな無駄話をしている間に、赤木コナコの参戦準備が整った。雪吹山までさらに敵が強くなることが予想されるし、「タイタンなまずを使わなくてよくなったのなら、ひまだからつきあってもいい。上位アイテムもほしいし」と本人がその気のため、碇シンジがスカウトしたのだ。報酬はアイテム指名権3回。せこいと思うか、丁度いいと思うか、財宝の振り分けでパーティが崩壊したりするのはあるある。
ひとつの願い事で「何度も願いが叶うようにしてください」という口の持ち主を仲間に迎えたいかどうか。そもそも実力は。
 
 
壊し屋こなこ レベル88 ぶき「たいたんなまずはんまー」ぼうぐ「こなごなのはっぴ」
 
 
強い。命中率は低くてもそれをおぎなってあまりあるパワー職。前衛を任せて安心っぽい。
誘拐犯ゆとが抜けて、中・前衛を一人で勇者なつみんが支えてきた状況もきつくなってきた頃合いでこれは助かる。婚約者しんじが、そろそろ転職してまともな職についてくれればいいのに・・と思わなくもなかった。装備のせいか、戦闘となるとひたすら切りまくるしかしないので危なっかしくてしょうがない。カゲキヨの面はあかんかったかなー。
「ハタモト」とはいわんけど。顔立ちからして西洋ファンタジーはどうかと思ったけど、狼を模したワイルド系とか意外と映えるんとちゃうやろか・・・迷宮をいくつか踏破して金を貯めたいところだが。いやいや遊びではないのだ。ゲームだけれど。
 
 
大神官を蘇生させる。クリア目標についての情報はまだ入手できていない。
雪吹山。そこに、赤木ナオミがいるのなら。碇シンジの目的は果たしたことになる。
 
 
そして、この身体が向かう先、ゴッドスモウランド島。そこに赤木ナオミがやってくる、
 
 
「はず」。
 
 
そこに赤木ナオミ望むこと、やりたいことを用意したから、と碇シンジは言った。
 
フィールド・オブ・ナオミドリームスだね、とかなんかかっこつけてほざいていたが。
追いながら誘いながら。どんな色恋の手管だ。これは早めになんか堅い職につけとかんと(リアルの方で)とんでもないことになるのではないか。大義名分がありゃいいってもんでもないけど。なんか、そのうち情の深うて迷う系の女に鉄砲で撃たれたりするのではなかろうか・・・心配だ。うちは除外やけど。そんなことせえへんけど。
 
 
 
「じゃ、行こうか。勇者なつみん」
 
真剣この上なく碇シンジが見つめて言った。普通、そんなの嫌み以外の何者でもない。
勇気でも度胸でもない。力尽くで置き去りにされたら追える脚力も無い。そもそも人間のステータスはそんなすぐに変化したりしない。年齢的に伸び盛りだとしても、しれとる。
 
 
「ラスボスでも・・・・退治はせんのですよね?」
それでも、この問いかけには勇気を振り絞った。人の底、本性なんて見抜けはしない。
 
赤木ナオミ・・・・ただの迷い子でも、誘拐されたわけでもない。その意思で、ネルフに、第三新東京市に、攻撃を仕掛けた・・・・これを敵というのか、犯罪者と呼べばいいのか。
 
こっちも警察じゃないから正確になんというのか知らんが、赤木コナコの件などは犯罪教唆となるのかある種の詐欺なのか、実年齢は不明だけど見た目だけならどう見ても未成年であるし・・・かといって、ネルフの専門家軍団相手に単独でやれるものなのか、所属組織ごと利用されていたのなら、どうなのか・・・一応、同じパーティメンバーがあとで捕まりますよ、というのもテンションがダダダ下がりすぎる。もし、自分もユトたちに助けられていなかったら今頃、どうなっていたか。兄が血眼で探してくれていただろうか。
 
自分の他にも、もしかして。しかも、同じようには運がよくなかったら。その子やその人は。それを思うと。狂犬、いやさモンスターに食べられただけ、なんてとても納得できない。
 
そして、張本人は。もし、それと対峙したら。ただの家出人捜査とはワケが違いすぎている。
 
 
悪い魔女はやっつける、と断言されたら。これは報復。これは正義。それが仕事。
 
 
碇シンジの口からそんな言葉が出ることを期待したのか、恐れたのか。よく分からない。
そこに自分を同行させる判断に、真意に、胸の中で大きな渦がグルグルする。
「ぜったいにゆるすもんか。初号機で踏み潰してやる」とか言い出したら。
 
 
「しないよ?そんなこと依頼されてないし」
 
 
ぼかした表現でも言葉の意味は通じている。まあこの局面で通じない、ゲーム寄り脳でも困るが。ただ、碇シンイチ(仮)であったようにイケボを前面に出さないのでプロフェッショナルの掟的にそうなのだ、とは聞こえない。「それに」まだなんかあるのか。
 
 
 
「ラストバトルの武器は・・・・「感動」だよ」
 
 
 
「は?」
聞いてはいけない禁断の言霊が。え?ネタバレ?仲間だからそうじゃない?でもでも!ここまで旅路をいっしょにしてきたのに、このひとがなにいってんのかさっぱりなんですけどーーーーー!!教えて兄やん!!このシンジはん、なんなんっっっ!?あんさん何者!?どこの何様視点!?明らかにダメなプロデューサーがディレクターを地獄に落としまくっておるような百年の尊敬も冷めるしかないフワフワ発言!こっちが恥ずか死ぬ!
聞くんじゃなかった!聞くんじゃなかった!けど、聞いたからもう戻れないあの頃に!
 
 
タキローは目が点になっているし、ユトはケタケタ笑っている。ど、どう反応すれば
 
 
「だから、そもそも戦う必要がないんだ・・・ぶわっ!!?
「だ、だまれーーーー!だまってええーーーー!おねがいーーーー!」
 
 
しょうこりもなくさらにバルーン発言を打ち上げようとする口を、泣きながらアイアンクローで塞ぐ鈴原ナツミ。これは勇者も避くレベル666難易度であった。
 
「な、んで・・・ナツっ
「シンジはんのためなんです!シンジはんのためなんです!しゃべったらあきまへん!」